図書館
StarsLogBookのお話は佳境だけど、私のほうも大変なことに。
昨日の夜中に送られてきたメールの話を愛莉にする。
「あなたは、死ぬわ」とだけ書かれた、差出人にモイラの名前。
そのメールに私はただただショックを受けていた。
「ふーん、やっぱりきたか。ストーカーか変質者かな。これは時輪の出番ね」
愛莉は顔色も変えずにシラッと言ってのける。
「いや、それだけじゃなくて、図書館の小説と私がリンクしているのよ。とにかく変なの。不思議な事なのよ。愛莉、聞いてる?」
私の話が終わらないうちに愛莉が話を続ける。
「夢見る少女は、置いておいて、その変質者の名前は何ていうの? どうせ本名じゃないだろうけど」
夢見る少女か。当たっているかもしれない。のんきな顔をしてしまったのだろうか。愛莉が呆れた顔で私の返事を待っている。
「名前ね、それが”モイラ”なの。ギリシア神話の運命の女神らしいんだけど……」
名前を聞いた瞬間、愛莉がピックっと反応した。
「モイラ。そう、そうなの……」
何となく愛莉の様子がおかしく見えた。
「何か思いあたる事があるの?」
愛莉は俯いたまま何かを考えている様子で、私の問いには答えなかった。
こんな愛莉の姿は今まで見た事がない気がする。
なぜだからわからないけれど、ゾクっとした。
突然、立ち上がった愛莉が大きな声で言った。
「八束と時輪を連れて四人で図書館へ行くよ! いいわね? 悠里絵!」
いつもの愛莉らしくない、何かに憑かれたような特別な圧力を持つ言葉に、私は黙って頷くことしかできなかった。
「ふぅ、そろそろ来る頃ね。なんか緊張しちゃうわ」
腕時計で時間を確認してから、栞を挟んで”Star Logbook”を閉じた。愛莉の提案で、今日はストーカー対策を考えることになっている。
愛莉、時輪、八束と私で、図書館に集まり、私にメールを送ってきたモイラと名乗る人物について相談する。
誰も信じてくれないと思うけど、私は、ここのところ、時間と空間の感覚がおかしいような気がしていた。まるで小説の世界と現実がリンクしているようだった。
(そんなバカな……)
「どうしたのかな、みんな遅い……」
少し怯えた私の声に答える聞き覚えのある声。
「お待たせ、フレイヤ」
ビックリして振り返ると、時輪と八束を従えた愛莉が不思議な笑みを浮かべていた。
「よう! 来てやったぞ」
いつもの調子で八束が手を上げて挨拶をしてきた。
私は愛莉のさっき愛莉が口にした名前が気になったけれど、ひとまず、来てくれた二人にお礼を言った。
「覚悟は出来ている。武士道とは死ぬことと見つけたり」
時輪は柄にもなく、武士道がどうだとか、語り始めている。
なんだか様子がおかしい愛莉は、”Stars Logbook”を見つめている。
「つまらないお話ね。こんなんで大騒ぎ? 悠里絵おかしいんじゃないの?」
(愛莉はこの本を知っている? そして”フレイヤ”って、私を呼んだ……。この小説の内容は全く話していないのに……。)
「まあ、でも暇つぶしには、いいかもな。悠里絵のためだし」
八束の言葉に、時輪と八束本人までが頷いている。
愛莉の様子が気になったけれど、私はこれまでの経緯を男子二人にも理解できるように、夢や物語と現実がリンクしていると思われる部分は省いて、モイラからメールが来た事だけを話した。
「うーん。結構危ない相手かもな。”あなたは死ぬ”なんてさ」
勇者然とした時輪が、両手を組みながら話す。
「それか、イタズラかもよ。だいたいさ、なんでメアドを公開しているわけ? こんな場所で?」
八束が不思議そうに言った。
「人には色々事情があるのよ」
私は苦しい言い訳をしながら愛莉の方に目をやると、愛莉はあれからずっと”Stars Logbook”を読み続けているようだった。何かを思い出すように数秒おきにページをめくっている。なんという早さ。活字を見ると脳が過熱するって言っていた愛莉が?
「愛莉、それ面白いのか?」
黙々と本を読む愛莉を見て、八束が聞いた。
それでも、しばらく無言で読み続けてから、愛莉は突然、本をパタリと閉じると八束に向かって首を振った。
「全然! 面白くなんかない。少し思い出しただけだし。とりあえず、この本があった場所、銀髪の人が立っていた所へ行ってみるか」
スッと席を立つ愛莉に、八束と時輪が続いた。
すぐに私も立ち上がった。愛莉は男子二人を先に行かせると、私が横に来るのを待ってから歩き始めた。
横に並んでみると、何だか気まずい。今までこんなことは無かったのに。
「悠里絵……」
愛莉が囁くような小さな声でつぶやいた。
「あなたは仲間に裏切られて……そして、殺されたことはある?」
何の話をしているのか分からず、ビックリして言葉の出ない私を見て、愛莉は笑った。
(”Stars Logbook”の中の話をしているのかな?)
やっぱりいつもと違う愛莉の行動に、私はどう反応していいのか分からなくなっていた。
すぐに図書館の一番奥、薄暗い、”Stars Logbook”が置かれていた場所に着いた。
「ここよ。ここに本が置いてあって、ちょうどこの辺りに銀色の髪に人が立っていたの」
私は銀髪の人が立っていた場所に立ち、時輪、八束、そして、いつもと様子が違う愛莉を順番に見つめながら説明した。
「ふーん。別に変った感じはしないけどなぁ」
時輪が周りを見回してから、つぶやいた。辺りには全く人影はなく、静寂に包まれている。
「てか、こんな所に来る奴いるのかよ」
八束が私を見ながら言った。
「悠里絵、だれかにストーカーされたか? そうじゃないと、ここの本に挟まれた栞なんて、普通は気づかないだろう?」
(誰かに見られた? ううん、そんな事はない。恥ずかしかったから、周りをよく見てから本を戻した)
「ないよ、たぶん。いや、まずないと思う」
「うーん」
八束と時輪が考えながら唸り声をあげると、愛莉がおかしなことを言った。
「悠里絵、メール……。携帯をもう一回見てみて」
「携帯? なんで……?」
私が不思議そうに聞くと、愛莉が強い口調で言った。
「悠里絵早く! サッサと携帯を見なさい!」
驚いて反射的に携帯を取りだした。マナーモードにしていたので気付かなかったけれど、着信ランプが点灯している。
その時だ。奇妙な空気が広がり始めた。
まるでこの場所だけ世界から切り離されたような心もとない感じがする。
空気そのものが孤独感でいっぱいだ。
ただでさえ薄暗い部屋の明りまでもが薄くなってきた。
他の三人が側にいるはずなのに、気配がどんどん薄くなって行くように思える。自分の心臓の音だけが大きくなった。
ドクンドクン。まるで部屋中に響き渡っているかのように。
私は携帯を開けてメールを見た。
「あなたは、死ぬわ」
またもモイラからのメールだった。
この前と同じ内容……違った、続きがある!
「あなたは、死ぬわ……、私が殺すもの」
顔をあげた私のすぐ側で、さっきまで薄くなっていた三人の気配がした。
三人はジッと私を見つめたかと思うと、ニヤリと笑った。




