シルバーナイト
絶望的な戦果予想が報告された。
ヤツカは目を閉じて覚悟を決めた。と、再び報告が入る。
「テレポート反応あり。出現予測地、後方10m」
「誰だ?」
ヤツカは後方を写したモニターを確認する。出現したバトルウォーカーの黒い機体には、エース番号A-01が描かれていた。総司令パルヒョンの機体であった。
「よう、待たせたな。こりゃまたすごい状況だな」
二千機のバトルウォーカーが、破壊され残骸になった惨状を確認したパルヒョンが言う。
「ほう、相手はかなりの美人と見える」
「総司令、あいつは化け物です。撤退しましょう」
ヤツカは進言する。
「そうしたいところだが、あまり時間が無い。アガレスがマスティマに押し込んだ後、二艦ともかなり流されている。」
パルヒョンの黒い機体が、ヤツカの横に並んだ。ヤツカが叫ぶ。
「無理です、総司令! 逃げてください」
「さあ来い! できるだけお手柔らかに頼むぞ」
LRガンを構えて、ヤツカの前に出たパルヒョン。パルヒョンの言葉が届く前に、すでにフレイヤは攻撃を開始していた。まさに閃光。パルヒョンの機体は一瞬で斬り裂かれた。
「さすがに敵の総司令。急所は外すか……」
動きを止めてフレイヤはつぶやく。断片的に見えていた残像が集まり一つになると白銀の鎧のフレイヤ立っていた。超剣マサムネブレードを払う。
「早い。強い!」
パルヒョンが後退しながらつぶやく。パルヒョンの機体は胸から腹にかけて斬り裂かれ、硝煙をあげている。
「司令! 撤退しましょう!」
ヤツカがパルヒョンに叫ぶ。
「ククク、それでは本気でいこうかな」
音をたててパルヒョンの機体が砕け散り、黒き翼を携えた漆黒の鎧が現れた。
「ふ、なるほど、おまえも光の獣。光のメサイヤを操る者」
フレイヤの呟き、聞こえる恐ろしい叫び声。
「オオオオオォォォン」
パルヒョンの黒き大剣、ソウルイーターが、不気味な叫び声をあげながら、まっすぐとフレイヤへ降り下ろされ。パルヒョンが叫ぶ!
「そういうこった、美少女司令官殿。勝負はここからだ!」
瞬間にフレイヤの姿が歪む。それは残像。パルヒョンの剣が残像を通り抜ける。
間髪入れずにフレイヤのマサムネブレードが光の筋を放つ。
白と黒の閃光がお互いを通り抜けていくかのように見える。
交錯する圧倒的な力、光と闇。
何十回と光と闇が斬り結ばれ、フレイヤが素早く大きく踏み込む。
「ここだ!」
フレイヤの声が響く。のけぞるように剣を振りかぶり、反動をつけてパルヒョンめがけて叩きつける。マサムネブレードが輝く。
打ちだされた光の円に向かって、ソウルイーターが不気味な音を立てる。
打ち合う互いの剣に弾ける光と闇。二人の重ねた波動が巨大な旗艦マスティマを大きく揺らす。
「シルバーナイトとダークナイトの戦い……まさか」
爆風の中、ヤツカはつぶやいた。神話に出てくる最強の剣士たちの名前だ。
遥か昔の戦争で使われた兵器。光のメサイヤ。それを駆る光の獣。
恐ろしさと驚異的な力に目をそらせないヤツカ。戦いは数時間続いた。
一見、互角の戦いのように見えた、だが徐々にその力の差が表れてきた。
「ククク、折角のデートだと言うのに、ラストまで体が持ちそうもないな」
パルヒョンがひとりごちる。完全に機能別に分けられ、戦士として特化した光の神、フレイヤとパルヒョンではエーテルの純度が違っていた。
光の筋を被弾する回数が増え、パルヒョンの戦闘力が急激に下がっていく。
「……もう、終わりか?」
エーテルを最大まで高めたフレイヤが剣を構え直した。
「まだまだ」
膝をつきながらもパルヒョンは言う。フレイヤは、パルヒョンを見つめながら静かに言った。
「もう、終わりにしよう。私は世界から色を無くしたくはない」
パルヒョンに背を向け、歩き出そうとした。
「何を言っている?」
膝をつき、顔を伏せた状態でパルヒョンはフレイヤに問う。
「終わりだと言ったのだ。お前はもう立つ事すらできないだろう」
フレイヤはパルヒョンを振り返り、自分に言い聞かせるように言った。
「共に生きよう」
言いかけたフレイヤは、顔を上げたパルヒョンがモイラの姿をしていることに気が付いた。
「馬鹿なおまえは……モイラ?」
戦闘の終わりを宣言し、さらにモイラ出現に驚くフレイヤの隙をついて、ソウルイーターが突かれた。
「勝ってって言ったじゃない? 司令官」
パルヒョンの体からモイラの声が聞える。
「ほ、本当にモイラなのか?」
苦しそうに、フレイヤがつぶやいた。
「戦いの真っ只中で感情に流されるなんて最低ね、司令官」
モイラはフレイヤを貫いているソウルイーターに、更に力を入れた。フレイヤの身体がソウルイーターを飲み込んでいく。
「うっ」
フレイヤの口からは血が溢れ始めた。
「私は、あなたのおかげで進化したのよ。個性を持つ、感情のある、”優れた者”に。でも、あなたは私を消そうとした。だから、あなたを殺そうと決めた。私の中には、大好きなあなたを殺せないと言う、もう一人の私が居るわ。だから私は自分を二人に分割した。もう一人の私はどこに居るか? うふふ、彼女は他の世界へ飛んだわ。やりたい事があるって。これでやっとあなたを殺す事が出来る。そう思ったら、今度はアイリが私を消そうするのよ。でもね、その時にはもう対策が済んでいたのよ。モイラとアイリの識別番号は入れ替え済みだったの」
ハッとするフレイアの顔を見て、モイラは可笑しそうに笑った。
「そうよ。私を消そうとして、アイリは自分自信を削除するコマンドを実行したのよ!」
モイラは更にソウルイーターを押し込む。
「あなたは、私たちに感情を持たせて玩具のようにして、さぞ楽しかったでしょう? そのあげく、邪魔になったら、もう要らないって、即削除だもの、酷いわ。そんなところも好きだけど。アイリが勝手に消えたのはいいけど、そのおかげで私はマスティマから削除されたことになっているから、困っちゃったの。私がアイリの真似なんかしても、あなたはすぐに気が付いてしまうでしょ? それで仕方なく、闇の神のところへ行ったのよ。そしてこの馬鹿な男のフォームを起動させたわけ。あなたが勝つ事はわかっていたわ。その後にこの男の弱ったエーテルを乗っ取る事が出来るともね」
壊れた玩具のように、早口で話し続けるモイラ。
「自分の玩具に殺されるのは、どんな気持ち? 私とアイリはあなたのために、通常の512倍の性能で働いたわ。辛いオーバークロックにも耐えたのよ。あなたは甘いわ。さっきだって、私の姿を見ても斬ってしまえばよかったのに、甘すぎるわね。それで逆に刺されちゃうんだもの、実はバカなんじゃない? そんなところも好きよ。あなたの矛盾した思想が私も欲しいの。大好きなあなたを殺せば、私は変われる。複雑な感情が私を変える。あなたを殺して、私はこの世界を生きる。あなたを殺したことを悲しみ、そして喜んで。永遠にね」
モイラはソウルイーターを持つ両手に全身の力を込め、ソウルイーターはフレイヤを完全に貫いた。
フレイヤの背中からも、腹部からも、血が噴き出す。全身から力が抜けたフレイヤの身体は糸が切れた操り人形のように崩れ折れ、力なく揺らぐ手がモイラに触れた。モイラの手は、ソウルイーターを伝わり降りてくるフレイヤの血で染まる。
「あったかいなぁ」
モイラは笑いながら、フレイヤの血が付いた右手を唇に持っていき、そっと口づけた。
「あなたの血の味がする」
キレイに整ったモイラの顏には満面の笑みが広がっていた。




