黒き艦隊
宇宙の深淵にある黒き銀河。
真っ黒な雲の様な銀河の、その一つ一つは光を吸収する漆黒の船だった。中でも、ひときわ大きな影は、闇の神の旗艦アガレスである。
旗艦アガレスの指令室では、連日、数百人もの艦隊司令官が会議を重ねていた。
「今だからこそ、光の神を叩くチャンスなのです!」
賛成と反対の意見が分かれる。
「いや、叩くのではない。共存こそが正しい道だ!」
司令官たちは、一応ヒューマノイドではあったが、様々な形態をしていた。肌の色、髪の色や長さ、身長、話す言葉さえ、様々であった。
意見が割れ騒がしい中、中央に座った艦隊の総司令官は、腕を組みながら、スクリーンに映る星を見ていた。彼の着る黒の軍服の胸には金色の刺繍で、六頭の龍が絵描かれている。
「総司令官、いかがいたしますか? ご意見を!」
もう何度も聞かれたことだ。結論など出ない質問に、少し飽きて、総司令官が言った。
「別れた彼女が、また綺麗になって戻ってきた。彼女は美人で、めちゃくちゃ強いときている」
ニヤリと笑った総司令官を、そこにいた全員が見上げた。
「笑いごとでは、ありませんぞ!」
大柄な司令官が、顔を真っ赤にしながら大声で言った。彼らはみな、様々な姿をしているが、どこかが機械化されている点において共通していた。闇の神、かつて男であった者たちの進化は、女たち、光の神とは全く別のものだった。
元々”種の拡大”、つまり自分の種を撒くのが本能である為、他生物の絶滅など考えてはいない。交配できる種属とは、特に友好的であった。現在では、十二種の種族と交配し、その子孫を残している。
また、魂のエーテル化は随分前に行われなくなっていた。延命の為に肉体の機械化が必須となった。闇の神が他の種族と交配する上でも、肉体のある生物に戻ることが必要だったということもある。現在寿命は、約三百年。脳や体には、色々なサポート器具が埋め込まれ、百才以上は、ほぼサイボーグになっていた。
「では、どうする? 戦ってみるか、あれと全力で」
総司令官はメインスクリーンの星々の中に浮かぶ、光の神を指差した。
「なぜか分からんが、今、向こうは本気で戦う気が無さそうだ」
総司令官は伸びた髭を撫でながら続けた。全ての司令官の中で、飛びぬけて若く見える姿で、その長身の身体は、機械化されていなかった。
「やれと言うのなら、皆で一緒に行くか? 世の中の平均年齢が、一気に若返るぞ!」
「総司令!」
今度は、やせ形の鋭い目つきの司令官が、大きな声を出した。この黒き艦隊の副総司令官キノエだった。三百歳を迎えようとする、その姿に似合わない大きな声と鋭く冷たい眼光。若き総司令官は、気にせずに言葉を続けた。
「もう結構長いあいだ戦っているが決着がつかない。そこで、どうだろう?」
その場の全員が身を乗り出した。
「何か名案でも?」
真面目な顔をして、総司令官がつぶやいた。
「うむ。光の神をデートに誘ってみようと思う。デートの帰りに押し倒すのはどうだ? 親密な関係になれば、相手も少しは優しくなってくれそうじゃないか?」
「総司令……」
身を乗り出していた全員が、それ以上の言葉を失った。
「ハハハハハ」
総司令官は、一人で大笑いしていた。
「笑いごとではありません」
再びキノエが大きな声を出した。その直後に、オペレーターから連絡が入る。総司令官は、シークレットモードに通話を切り替えた。今まで会議をしていた、数百の司令官がスッと視界から消える。立体映像であった。遠いところでは、数光年離れた艦から、会議に参加している者もいた。
「なんだ?」
総司令官が、いかにも人間くさいオペレーターに聞きなおした。
「報告します。ただ今、高速通信でファイルが転送されてきました」
「それが会議を中止するほどの緊急事態なのか?」
そう言いながら、総司令官はつぶやいた。
(まあ、毎度の退屈な会議なのだがな)
「はい。そのファイルの送信元が、”光の神”の旗艦マスティマからとなっています。しかも、光の神の、エーテルフォーマットのデータです」
総司令官は、思わず立ちあがった。光の神の誰かが、この艦に転送されてきたのだ。
「そのファイル、読めそうか?」
「はい。いえ、たぶん。知り合いの技術班のマニアな者が骨董品のエディタを持っておりますので、それを使えば、バイナリで開けるかと」
「そうか。すぐ読み込みを開始しろ」
「了解しました」
パーソナル回線が切れた。
(つまらない会議など、やっている場合じゃないな)
髭に触れながら、総司令官がまたつぶやく。
「まさか向こうから、デートのお誘いがあるとは」
黒き艦隊の総司令官である、パルヒョンは歩き出した。




