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隷属の刻印を調べる その1

 湖畔に打ち寄せる波の音と、時おり聞こえる鐘の音が美しい静寂の街、アクアーノ。この街に戻ってきた二人の受付嬢と彼女達に雇われている冒険者達。

 エレノアとその冒険者達は大きく延びをしたり、深呼吸したりと思い思いにくつろいでいるようだ。

 リュカとアサカも街に何事もなく帰ってこれたことに素直に安堵した。

 とくにエレノアが無事なことに。

 アサカは馬車の中である仮説を立てていた。

 

「エレノアは冒険者達との待ち合わせ場所に洞窟を指定していました。冒険者達は、わざと彼女を一人にし洞窟へ来るように仕向け、あらかじめ仕掛けていた檻の罠へと導いたのです」


 ようするに洞窟の罠は初めから一個人を、エレノアを捕える為に用意されたものだった、アサカはそう考えている。

 冒険者達はあの時、罠が作動し掛かってしまった誰かを助けるために来たのではなく、捉えた獲物を確認するためにやってきていたのだ。

 

「只、冒険者達に誤算があるとすれば、エレノアが極度の方向音痴であること、そして一緒に私達がいたことです」


 だからこそ、直ぐにエレノアに手を出せなかった。

 無論こんな話を冒険者達にできるはずもない。

 よってアサカは自分達でエレノアを守ろうとリュカに伝えてきたのだ。


「にしても冒険者たちはどうしてこんな周到な罠を」


 いくら特級受付嬢とはいえ、所詮は只の女の子である。

 4星以上が4人も揃っていれば無理矢理襲うことだってできたはずだ。


「エレノアが特級受付嬢だからですよ。エレノアはあんな感じでどこかポワポワしていますが、あれでも戦闘特化の受付嬢です」


 戦闘特化……アサカ以外の特級受付嬢は何度か見たことはあるが、闘っている場面を見たことがあるのはアサカだけであるリュカにとって、その実力は未知数だ。

 アサカは戦闘特化でこそないが、その戦闘力は5星に相当する。そんなアサカからみて、戦闘特化は7星かそれ以上だという。

 リュカには想像も及ばない次元の戦闘能力。

 冒険者達もそれを知っているからこそ正面から手出しが出来ないのだ。証拠にアクアーノまで何事もなく帰ってこれている。


「では、アサカ、リュカ様、わたくし達はこれで。ギルドに向かって虚偽の依頼について報告をしなければなりませんので」


 エレノアはそう言ってギルドへ向かっていく。

 アサカは離れていく友人の背中をどこか心配そうに見送った。

 街にまでは流石に罠は仕掛けられていないようだし、エレノアが一人になったとしても危険は少ないと思えるが、それでも心配するなと言う方が無理だろう。


「アサカ、大丈夫か?」

「……私は大丈夫ですし、直ぐに何かが起こるとは思えません。ですがこのまま放っておくわけにもいきません。リュカ、私からの依頼を受けていただきたいのですが」

「依頼なんて堅苦しい言い方はしなくていいぞ。俺はお前に雇われている冒険者だ。ただ命令すればいい」

「命令ですか……分かりました。ならばリュカ一つ調べものをお願いします」

「調べもの?」

「今すぐ洞窟に戻って奥を調べてもらいたいのです。私は私でエレノアの受けた依頼について調べてきます」

「そうか、心得た」


 リュカはあまり深くは突っ込まなかった。

アサカにはアサカの思惑がある。自分は自分のできることをやるのみ。

 冒険者達は洞窟の入り口で待たず奥で待っていた。

 しかも結構奥まった所にいた。獣を調べていたというが、本当のところは定かではない。

 調べる価値は十分にある。

 リュカは早速、準備を整え洞窟に戻ろうときびすを返す。


「リュカ、頼んでおいて言うのも可笑しな話ですが、何だか嫌な予感がします。どうか息災で」


 アサカは不意にリュカを呼び止めた。

 不安なのか潤んだ瑠璃色の瞳。今にも泣きそうな面持ちである。できれば彼女にはこんな顔をして欲しくない。

 だから、リュカは。


「お前を守るのが俺の仕事だ。少なくともお前の見えないところで死ぬことはない。そういう契約だろ? それとも俺の腕が信用できないか?」


 そう言いながらはにかんだ。

 

「そうでしたね。私としたことが、弱気になっていました。ではリュカ、一つ命令を加えます。絶対に死なないでください」

「分かっているさ」


 可憐で凛とした表情の受付嬢に見送られながら冒険に出てこその冒険者だ。

 帰りを待つ彼女のためにも、失敗するつもりもなければ死ぬつもりもない。

 リュカはその言葉を励みに洞窟へと急ぎ戻った。

エレノア編 2章の始まりです

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