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流星連打の拳嬢の願いを叶える その4

「気がつくのが遅すぎましたね」


 天井から降ってきたそれは、リュカ達を瞬く間に閉じ込めた格子状の檻だった。

 怪我人こそ出なかったが、頑丈で鈍重な鉄の檻はちょとやそっとでは動きそうになかった。


「すまない。俺が油断していたばかりに、こんな古典的な檻の罠に掛かったしまうとは」

「リュカのせいではありませんよ」


 アサカはリュカに励ましの言葉をかけてくれたが、その気遣いが逆に心に来る。

 こうならないための自分のなのに…… 


「わたくしがもっと足下に注意を払ってさえいれば、本当にごめんなさい」

「そうですね、もう少し気を配るべきですね」

「事実ですけど、ひどいですの!」  


 アサカはエレノアに非難の言葉をかけたおかげで、彼女は今にも泣きだしそうだ。

 こうなっては隅に座っていじけるより他にない。


「なんて冗談を言っている場合ではありませんね」

「念動力で動かせないのか?」

「重すぎて無理ですよ。私の体重の4倍以上ある物質には効果が及びません」


 アサカが念動力で動かせる物の大きさや重さには当然限度がある。

 いくら普通の魔法使いよりもそれに優れているとはいえ、重すぎる鉄の檻を動かすには無理があったのだ。

 

「ですが、方法がないわけではりません。私の念動力は応用が利きますので」

「まるほど応用か、分かったぞ!」

「ほお、私の考えが分かるのですね」

「逆を言えば鉄の檻の重ささえ分かれば、アサカの体重が分かると言うーーっ!」

「真顔でそういうこと言うのやめて貰って良いですか? はっ倒しますよ?」


 とアサカは冷めた目線をリュカに送る。

 そんなリュカは天地が逆転した状態で、檻の壁に激突していた。

 

「ぐふっ……できればはっ倒す前に言って欲しかったな。俺は只エレノアを慰めようとしてだな」

「分かっていますよ。でも大丈夫です。エレノアにはやって貰いたいことがあるので。エレノア、何時までもいじけてないでこっちに来て手伝って貰えますか?」

「役立たずのわたくしですが、いいのですの?」

「あ、そういうノリは先ほど終わっているので、もういらないですよ」

「少しは励ましてほしいですの!」


 と言いつつもエレノアはアサカの近くに寄った。


「それで、わたくしは何を手伝えば?」

「エレノアは火と氷の魔法を使えますよね?」

「それはできますの。威力は本家の魔法使いに比べれば劣りますけど」

「十分ですよ。この鉄に熱を加えて、急激に冷やすことが重要なのですから」

「ああ、なるほど、そういうことですのね。なら任せてくださいですの!」


 エレノアは急に元気を取り戻すと詠唱を初めた。


「さ、私達は離れましょう」


 アサカとリュカはエレノアから離れ、事の成り行きを見守ることにした。

 

「マナよ、我は命ずる! 炎の吐息を吹き付けろ ファーブレス!」


 エレノアの右手から、赤く燃える炎が勢いよく吹き出し、鉄の檻を熱していく。

 熱せられ赤くなる鉄の檻。

 エレノアはゆっくり円を描くように動かしていく。

 エレノアは今度は反対の手を赤くなった鉄に向けると、氷の魔法の詠唱を始める。

 

「マナよ、我は命ずる! 氷の息吹を吹き付けろ アイスブレス」


 エレノアはそのまま赤くなっている鉄めがけ、今度は冷気の塊をぶつけていく。

 すると、赤くなっていた鉄が面白いように、メキメキと軋めきながら黒ずんでいく。

 

「それにしても両の手で魔法を操るとは」

二重詠唱デュアルキャストはエレノアの得意技です」


 特級受付嬢は伊達ではないと言うことだ。

 そんなエレノアは人が一人通れるほどの半円を、炎と冷気で鉄の上に描いた。

 黒ずんで表面にヒビが入った、鉄の檻。


「さて、ここまで脆くなればこの剣で仕上げです」


 エレノアと入れ替わるように今度はアサカが腰のグノーシスを抜くと、それを空中へと回転させながら投げる。

 念動力で揺るやかな回転をしながら中を浮く漆黒の剣だが、アサカがその指先をくるりと高速で回転させた瞬間、グノーシスも高速で回転を始める。

 風切り音が甲高い音を立てる程の高速回転。

 ここまで見せられるとリュカにもアサカが何をしようとしているのか理解できた。

 アサカは念動力でそのまま高速回転するグノーシスを動かすと、脆くなった鉄に押し当てていく。  

 火花を散らしながら、耳をつんざくような金切り音を奏でるグノーシス。

 脆くなった鉄は容易く両断されていく。

 アサカは気にもとめずグノーシスを動かし続け、ついには脆くなった鉄の檻切断した。

 そして最後の一押しと切断した檻を念動力ではじき飛ばすのだった。


「すげえな」

「はい、特級受付嬢は」

「凄いのですの!」

「もう、私のセリフです!」


 エレノアに言葉を被せられてアサカは少々ご立腹だ。


「にしても、この罠はどう考えても人為的だよな。しかも新しい」

「ですね。入り口の直ぐ側にあった事を考えると、中から獣を出さないというよりは外からの侵入を防ぐ物だと思われます」

「それも檻をわざわざ設置するとなりますと、防衛というよりも捕獲が目的だと思われますの。余程何かを捕らえたかったのですのね……」


 考え込む3人だったが、考える間もなく


「静かに! 誰かが近づいてくる」


 リュカがいち早くその異変に気がつき隠れるように促す。

 近く岩の影に3人で身を寄せていると、洞窟の奥から明かりが近づいてくる。

 ガチャガチャと鎧が擦れる音も近づいてくると見えてくるたいまつの炎と4人の人影。

 やがてその姿が露わになる人影。

 上等な全身鎧を身につけた剣士が一人。

 三角帽子を深くかぶった露出度の高いローブの女は魔法使いだろうか?

 毛皮の軽装と手に巨鎚を持つ背の低い男。

 そして、肩から白い外套を纏った、青いシャツを着た眼鏡の男。 

 アサカとリュカが警戒心を強めるが、エレノアは違った。

 

「皆様! どこいってたんですの!」

「それはこちらのセリフですよ。エレノアさん」


 朗らかに微笑む眼鏡の男と親しげに話すエレノア。

 もしかしたら、彼等が。

 リュカはアサカに目配せを送ると、アサカはこくりと頷いて岩の影から姿を出す。

 リュカもその後ろに続いた。

 

「アサカ、リュカ様、紹介しますの。彼等がわたくしの冒険者ですの」


エレノアが雇う冒険者登場。


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