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流星連打の拳嬢の願いを叶える その2

  

 のんびりな馬車の旅は、行き倒れ寸前の受付嬢によって終わりを迎えることになる。 


「ううっ。な、なにか食べ物を…」


 これは助けないといけない。

 食べ物なら、確かカバンの奥に。

 リュカは自分のカバンからパンの入った袋を取り出すが。


「おっと、手が滑ってしまいました!」


 その袋をリュカから取り上げると自分の口に運ぶ受付嬢が一人。


「おいっ! 何を」

「あれは獣です。人の皮を被った飢餓の化身! 一度食べ物与えると最後、全ての食糧を」


 アサカが慌てながら説明しているときだった。

リュカの横を何かが高速で通り過ぎると。


「わたくしの食料を返すのです!」

「なっ! いつのまに!」


 それはあまりに早すぎる出来事だった。

 倒れて動けない筈の受付嬢は唐突に動きだしたかと思えば、消えたのかと思えるような速度でリュカの横を通り過ぎると、アサカが口に運ぼうとしていたパンを横取りにすると自分の口の中に放りこんだのだ。

 人目もはばからず、猿のような座り方をしながらパンを丸のみにしていく様は、まさに飢えた獣そのもの。飢餓の化身。


「足りないですの…」


 こは~っと口から煙を吐きながら、こちらを血走った目で見てくる特級受付嬢。

 

「もっと食わせるのです!!」

 

 再び猪突猛進に真っすぐ突っ込んでくる飢餓の化身だったが、


「ごふっ!」


 と腹を抑えながら白目をむいて倒れた。

 その腹部にはアサカの黒い剣の握り部分。

 これは、鍛冶屋を気絶させた時と同じ技だ。


「安心してください。鳩尾です」

「いや、それ安心できないから」


 鳩尾を強打すると激痛が走るのはもちろんだが、同時に横隔膜が圧迫され呼吸が止まる恐れもある。

 慌ててリュカは寝かしつけようとするが、倒れていたはずの受付嬢は


「う……わたくしは何を……なんだかおなかの辺りに鈍痛がするのですが……」


 痛そうにおなかを抑えながらも起きあがった。

 アサカのあの技を食らってもう起き上がれるとは、彼女は相当頑丈なようだ。


「あれ? そこにいるのはアサカではありませんか!」


 そして、おもむろにアサカを名指しした。

 知り合いなのか?


「どちら様ですか? 私はあなたなんか知りませんね」

「!! まさかあなた! 記憶喪失に!? なんとおかわいそうに!」

 

 白服の受付嬢は勢いよく駆けだすとアサカに抱き着いた。


「大丈夫ですの! あなたがわたくしのことを忘れていても、わたくしはあなたを覚えていますの!」


 などとと激しい抱擁をする。 


「ええい、暑苦しい! 抱き着かないでもらえますかね!」


 アサカは抵抗しているようだが、その力は物凄いのかして全く振り解けなもよう、それどころか。


「ちょ、ちょっと絞めすぎです……く、苦しい……」


 と激しすぎる抱擁によって今度はアサカの顔が青ざめていき、堕ちそうになっていく……

 アサカが必死で抱きしめもとい、締め付けによる圧殺を回避しようと、彼女の方をバシバシと叩くことによって降参の意を伝えることで、ようやく解放された模様。


「げほ! 少しは加減というものを覚えたらどうですか……エレノア」


 せき込みながら不服を漏らすアサカは、白服の受付嬢をエレノアと呼んだ、


「おや、記憶が戻ったみたいですの。よかった」

「冗談に決まってるじゃないですか! 本気にしすぎです」


 と何やら親しげに? 会話をしている。

 どうやら確認するまでもなく、アサカと白服の受付嬢エレノアは知り合いなようだ。


「水を差すようで悪いんだが、エレノアさんだっけ、アサカとはどういう仲なんだ?」

「ああ、これはこれは、お連れの方、自己紹介がまだでしたね。わたくしはエレノア・ギュレット。特級受付嬢をしておりますの」

「へえ、ギュレットさんね……ん? ギュレット……どこかで聞いたことがあるような」

「エレノアはギュレット卿の娘ですよ。貴族のお嬢様です」


 ああ、なるほど。言われてみればその金髪といい、少しきつめの目つきとい、どこか似通った部分がある。父親同士にき交流があれば、当然年の近いアサカとも親しいわけだ、


「失礼ながら、あなた様のお名前を教えて頂きたいのですの」

「俺はリュカ・レイブン。アサカに雇われている冒険者だ」


 リュカはエレノアに自分の腕の入れ墨を見せた。


「なるほど、リュカ様ですのね。いつもアサカがお世話になっていますの」

「いえいえ、それほどでも」


 と社交辞令的には返したものの、思い返してみればいつも振り回されてばかりだ。

 たまにはこちらの身にもなってほしいものだ。


「ギュレットさんも特級受付嬢なんだな」

「ええ、わたくしもアサカも同じ時期に特級受付嬢になっておりますの。わたくしが流星連打の拳譲という二つ名を賜り、アサカが――」

「あああっと! そういえば皆様お昼は食べられましたか? お腹がすきませんか?」

「当然どうした? てか特級受付嬢の二つ名ってなんだ?」

「そ、そのうちお話しますよ! それよりもお昼にしましょう! ふふふ、腕によりをかけて作ったパンがありますよ」


 アサカは袋に入ったパンをだすのだが、それは馬車に乗り込む前に街で買ったものであって、腕によりをかけて作ったのはパン屋の主人だ。

 あきらかに何かを誤魔化しているようだが、教える気はないらしい。

 

「さ、みんなで食べましょ、御者さんの分もありありますし、エレノアが雇っている冒険者の方の分も……あれ? エレノア、あなたが雇っている冒険者は?」


 特級受付嬢は必ずと言っていいほど、冒険者を数人手元に置いておくのが通例だとアサカはいっていた。

 しかし、エレノアが雇っているはずの冒険者の姿が見えない。


「そうでした! こうしている場合ではありませんの! アサカ、恥を忍んで頼みがあります」

「頼み?」

「わたくしはあなたに依頼を出したいのですの! 助けてください」

「依頼というのであれば、聞かないわけにはいきませんね。それが、受付嬢の務めですから」


 この時のエレノアの話を聞いたアサカは、その依頼内容に愕然としていた。

そして気がつけば、アサカが用意していたパンは、袋だけのこして全てエレノアの胃袋の中に収まっていた。

ギュレット卿の娘であるエレノアの頼みとは?

そして、アサカの二つなとは?


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