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流星連打の拳嬢の願いを叶える その1

「暇ですね」

「暇だな」


 というやり取りを彼女と交わしたのは何度目だろうか。

 歩くよりは早いが、走るより遅い2頭の馬の歩。

 心地良い日差し受けながら、のどかすぎる麦畑の一本道を進む一台の幌馬車。

 冒険者の町から辺境の田舎の村へ続く馬車の定期便はとにかく人がいなかった。

 しかし、もとより人と編むのがそんなに好きじゃないリュカ・レイブンにとっては願ったりかなったりだ。

 人といえば長い銀色の髪をかき上げる仕草が可愛らしい少女が一人。

 深い海を思わせる瑠璃色の瞳と長いまつ毛が似合う、涼しげな面差し。

 目鼻立ちの整った小顔はあどけなさを残しつつもどこか色っぽくもあった。

 それは彼女の服装のせいかもしれない。

 フリルの着いた白いシャツに襟元の青いリボン。紺色のベストの胸元には白い華をもした宝石のブローチ。膝上丈のプリーツスカートは紺色と赤が混じったツートンカラー。

 質素で飾り気が少ないからこそ、落ち着いた雰囲気でありながらも可憐に見えるのだろう。

 しかし、受付嬢アサカの本性は往々にして見た目どうりではない。

 この日も、押し寄せる睡魔に、負けリュカは眠李に落ちようとしていた。


「こうも穏やかだと眠くなってくるな」


 このままゆっくりと寝てしまうのが一番いい。

 目的地まではまだ距離がある。時間はたっぷりある。

 そう思い、馬車の床に寝そべると目を閉じた。

 

「ちょっと、あなたが寝ると私が暇すぎて死んでしまうじゃないですか」


 しかしアサカは、そうはさせまいとリュカに声をかける。

 目を開けると顔を覗き込むようにしている彼女の瑠璃色の瞳と目が合った。

 少し不機嫌なのか頬を膨らませているが。


「暇すぎたら死ぬのか、そいつは難儀な体質だな」


 それでもなお興味なさげにリュカは適当に合図地を打つ。


「そうなんです。ウサギが寂しいと死んでしまうように、受付嬢は暇を持て余すと死んでしまうのです」


 冒険者ギルドにて冒険者の相手をするのが彼女の仕事のはずだが、今は冒険者であるはずのリュカが彼女の相手をしている。


「だとしたら田舎や辺境ギルドの受付嬢は長生きできそうにないな」

「……ああ、そんな田舎や辺境ギルドの受付嬢のように死んでいく私に、何か面白い話を一つ」


 と彼女は大げさにリュカの隣に倒れこんでは、期待の眼差しを向けてくる。

 これはもう何か話を振るまでは延々とこのくだらないやり取りをさせられるに違いない。


「その設定は否定しないのな……だったら、面白いかどうかは分からないが、以前から聞こうと思っていたことがある」

「はい、なんでしょう」

「どうしてギルドの受付には女しかいないんだ?」

「……確かに余り面白い話ではないですが、暇つぶしには丁度いいですね。そうですね、先ずは冒険者ギルドの始まりについて語りましょうか」

「ちょっと待て、そこから始まるのか?」

「はい、何事も始まりが肝心です。冒険者であるあなたも知ってのとおり世界には人類の天敵ともいえる生物が沢山います」

「魔物だな」

「はい、そうですね。魔物も以外にも危険な野生生物などは沢山いますが、魔物ほど分かりやすい脅威はありません」


 魔物と呼ばれるそれは、人間以外の人型生物全般とドラゴンや魔狼等の魔法を使う生物を指す。

 ゴブリン、コボルト、オーク等が代表的だ。

 彼らは人を基本的に恐れない。

 なんなら人を好んで襲う魔物もいるぐらいだ。

 だからこそ彼らは脅威であり、時には戦争へと発展するほどだ。

中でも「アレグモアの乱」と呼ばれる、一匹のゴブリンロードが起こした戦争は、人類対魔物の最大の決戦となった。


「アレグモアの乱を機に魔物に対抗すべく人々は城を築き、その城を守る壁を作り、その壁を守る騎士達が生まれました。ですが騎士の数は少なく人類はその数を減らしていきます。そこで、各地の支配者たちは多大な報酬や税金を免除する代わりに、全ての人々を対象に徴兵を行い軍を形成、人類の反撃の始まりですね」

「それは俺も聞いたことがあるな。軍に所属する人々は自ら進んで各地を周遊、魔物の撃破おこない、各地の支配者はそれに対して報酬を払う。その姿から人々は彼らを冒険者と呼ぶようになり、軍はギルドと呼ばれるようになった。そして長い年月をかけて人々は、アレグモアを討伐し魔物との戦争に勝利した」

「童話にも出てくるほど有名な話ですからね。ですが魔物はその後も健在しています。戦争を起こすほどの兵力や纏まりもなくなりましたが、以前として人々の脅威であることに違いはありません、騎士隊や冒険者を待てない民間人がギルドに助けを求め出したのです。ギルドが初めて依頼を受けた瞬間です。民間人がギルドに依頼を出し、冒険者がその依頼をこなすという流れが出来たのはこの頃からです」

「なるほど、ギルドの歴史はよくわかった。それで受付嬢はいったいどころから?」

「最初の受付嬢と言われた人は今から300年ほど前に確認されています。そのころはまだ男性が主流でした。ですが、おしとやかで気前が良く絶世の美女と呼ばれた彼女は、瞬く間に人気者となりこぞって彼女に依頼を出す人が現れます。彼女は一人で多くの依頼こなすようになりました。それを見ていたギルドの管理人が女性の受付をどんどん雇うようになった……」

「ほお、だからギルドにはいつしか受付嬢しかいなくなったと」


 女性にしか利用者が集まらないのに態々、男性を雇い入れる意味はない。

 だからこそ受付嬢なる言葉が誕生したのだろう。


「しかし、これはあくまで一説にすぎません。ギルドに受付嬢しかいない理由は諸説あります」

「他には?」

「有名どころでは男性の受付が受けた依頼は失敗することが多く、逆に女性が受けた依頼は成功することが多かったので、願掛けを込めてギルドでは女性が受付をするようになったという話ですね」

「もっともらしいが、信憑性に欠けるな」

「他にも昔のギルドの最高権力者が無類の女性好きで回りに女性しか置かなくなったとかがありますが」

「眉唾物だな」

「ですね。私個人の見解としては女性の受けが良くて雇いだしたという説と、男性受付の依頼は失敗するという迷信の両方が合わさって今の体制になったのではと推測しています」

「確かにそういわれると納得できるな」

「受付嬢に関してはこんなところです。質問の答えになりましたか?」

「うん、十分だ」


 リュカは知りたかったような、そうでもないような疑問が一つ解決したことで、再び眠気にかられて大きなあくびを一つ。

 このまま寝てしまおうとするが。


「ところで私からも一つ質問よろしいでしょうか?」


 などと再びアサカによって現実に引き戻される。


「どうぞ」


 アサカに受付嬢についての疑問を答えて貰っている以上、何も答えないというのは筋違いというもの。リュカは割と律儀な性格をしている。


「リュカは昇級試験を受けないのですか? 今は4星ですがその実力はとうに……」

「あんまり興味ないな」


 リュカはきっぱりと答えた。

 冒険者にはその実力を示す星という階級が存在する。

 星の多さがそのまま実力となり、1星~7星までが現存する冒険者の階級である。

 当然階級が上がれば稼ぎの良い高難易度の依頼が受けられるようになる。

 だから冒険者の大半はこの最高階級の7つ星を目指すものだ。

 しかし、リュカにとってはどうでもいいことだった。

 

「そもそも俺は冒険者である前に狩人だ。この弓で獲物を獲れる以上稼ぎには困らない。無理に危険な依頼を受けたいとは思わないからな」


 リュカは体を起こすと自分の背中に担いだ弓を出して見せた。

 木製の握りの周りに薄い鉄の板を張り付けた合成弓は、柄や握りがくすんでいる。

 リュカの父親から譲り受けた年代物だからかなり古い。

 だが、ずっと使い続けている手になじんだものだ。

 この弓で獲物を探し出し仕留める。仕留めた獲物は肉や皮はもちろん骨の隅々だって無駄にしない。それが狩りに生きるものだ。


「いつ見てもいい弓ですね」

「そうか? どこにでもあるコンポジットボウだよ。しかも古いしな」

「でも買い変えないんですよね?」

「この弓を幼少からずっと使っていたんだ。俺にっては手も同然だ。自分の手を新しくしようとは思わないだろう。それにお金がないってのも理由だがな」


 リュカは巾着袋を出すが中に入っている金額は寂しいもので、一日の宿代くらいにしかならない。


「確かに。それでもいい弓だと思います。少し触ってみてもいいですか?」

「ああ、いいぞ」


 アサカは嬉しそうに柄を軽くなぞった。

 本来なら誰にも触らせないが、アサカなら構わないと不思議に思えた。

 そんなアサカの唇が何かを囁こうとしたのか僅かに動いた時だった。


「お、おい! 人が倒れているぞ!」


 御者は叫ぶと、突然馬車を停止しさた。


「人が倒れている?」

「何かあったのでしょうか?」


 アサカとリュカは馬車の荷台から飛び降り、馬車の前に回り込むとそこには一人の女性がうつ伏せに倒れていた。

 緩く波打ったうなじまで伸びた金色の髪。

 白いカッターシャツに白いベスト、白い膝丈のスカートの形状はどこかで見たことのある形状だ。極めつけはその女性が付けている黒地に白い刺繍の入った腕章。

 リュカは自分の記憶を確かめるようにアサカが付ける腕章を見た。

 そこにもやはり黒地と白い刺繍の腕章。

 倒れている女性は即ち――

 再びリュカは女性い目を戻すと。

 

「……お、おなかがすきましたですの」


 とうめきながら泣きそうな目を向けてくる特級受付嬢がいた。

今度こそ本当に新しい特級受付嬢の登場です

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