狩人と受付嬢の邂逅 後半
アサカとの待ち合わせ場所は、街の入り口の直ぐ側で人通りの多い場所だったが、銀色の長い髪と受付嬢の服をきたその少女はすぐに見つかった。
あの容姿はやはり目立つ。
おまけに今日は武装もしている模様。
腰につけた黒銀に輝く上等そうな剣。
彼女は剣士のようだ。
「ちゃんときてたんだな」
「当前です、仕事はきっちりこなしてこその受付嬢です。あなた様こそよく来ましたね。てっきり怖じけずいて逃げるものだと」
「大はずれだ。勘が悪いようだな、受付嬢さんは」
昨日の仕返しとばかりにリュカは嫌味を言う。
「むっ……」
不機嫌そうに頬膨らませるアサカ。
その姿をみて少し胸の内が晴れたリュカだった。
「ふん、まあ何とでも言って下さい。それより早く行きましょう」
「言われなくとも」
「コボルト5匹の討伐なんて、私にかかればあっという間です。こんな罰ゲームささっとおわらせましょう。まったく、どうして私がこんな初心者冒険者のおもりなんか……」
「あのな、少しは本音をーー」
「あ、出店がありますよ? 私が奢りますので何か食べてからいきましょう」
アサカは出店を見つけるなり、まぶしい笑顔でかけていく。
普通の人が見たら可憐なギルドの受付嬢が、これから出かけるのを楽しんでいるようにしか見えなのだろう。
だが、リュカにとっては「これ奢ってやるから、これ以上うだうだ言うな」そう言っているようにしか見えなかった……自由すぎる。
さっさと依頼をこなして終わりにしよう。
そして、このパーティを速やかに解散し、一刻も早くこのいけ好かない女のことは忘れよう。アサカから手渡された口止め料のパンケーキを頬ばりながら、リュカは誓った。
特に会話も何もなく、二人は目的地に着いてしまった。
少し小高い丘の上に打ち捨てられた古びた砦。
石を積み上げただけの簡素の砦で、塔などの家屋は既に倒潰しており、石の壁が残されているのみと寂しい場所だ。人が住むのはさすがに無理だろうが、野生の動物が風をしのぐにはちょうどいい場所だ。
そんな場所にコボルトの一団が住み着いたのは2週間ほど前のこと。
今は10匹ほどの小さな群れらしいが、繁殖期に入り数を増やされると厄介になる。
その前に追い払うのが今回の目的だ。
全滅させる必要は無い。群れの数を半数ほど減らせば彼れらはここを危険な場所と判断し逃げていく。それがコボルトという生き物の習性だ。
ギルマスのオジサンが親切にも教えてくれたのだ。
リュカは狩りを知っていても冒険者の戦いという物を知らない。モンスターと動物では勝手が違うはずだ。それを知ってもらうために今回、経験者であるアサカが同伴しているのだろう。
「砦の石壁の上に見張り役が3匹、塀の中に4匹。あとは姿がみえないが、狩りに出払ってるか砦の奥深くに隠れているんだろうな」
とはいえアサカは剣士だ。斥候は狩人であるリュカの仕事だ。
狩りで鍛えた目があれば、数百メートル程度の距離など気にならない程度に見通せる。
「双眼鏡もなしによく見えますね、関心しました」
意外だったのかアサカは目を丸くした。
狩りの腕前はいまひとつだが、リュカが狩人として生活できていたのはこの目お陰だ。
「どうだ、少しは見なおしたか?」
「そうですね。あなたの評価を上方修正しなければなりません。あなたは目がいいから、ずばり……鳥ですね。いつ羽が生えるんですか」
「生えねえし、飛びもしねえよ!」
鳥以前はいったい何に思われていたのだろう。
気になると同時に、知りたくもないと思った。
「それで、作戦はどうする。お前の方が戦闘経験ありそうだし冒険者の戦いというものを教えてくれ」
「あら、意外にも素直なんですね」
リュカの素直な態度にアサカは目を丸くしているようだが、おかしなこと言っただろうか?
「そんなに不思議がることでもないだろう。俺は初心者で、あんたは既に冒険者だ。実力差は明白。実際投げ飛ばされている分けだし」
「そうですか。まあ、分かっているなら良いです」
いけ好かない女だが、腕はそこそこ立つというギルマスのおじさんの意見だ。
「さ、手本を存分に見せてくれ」
「まあ、そういうことでしたらやぶさかでもないですね。ふふ、いいでしょ。そこで私の活躍をしかと目に焼き付けて下さい! コボルト5匹程度ものの数ではありませんよ!」
アサカはそういうなり砦めがけて一気に突き進みだした。
「おい! 確かに手本を見せてくれと言ったが、作戦はどうする!」
「作戦なんて、先手必勝ですよ! 一気果敢に攻め込むのみです!」
なんて勇猛果敢もち猪突猛進なんだ。
でも、その勇んだようすとは対照的に剣を何故か抜こうとしていない。
どちらにしろ無策すぎて危なっかし過ぎるだろう。
それともこれが冒険者の戦いなのだろうか。
狩人としての習性ではないが、警戒心の強い野生動物を仕留めるには十分な準備と知識が必要だ。魔物だとこうも勝手が違うのか……
リュカが考えを巡らしている内にアサカはどんどん砦に近づいていく。
こうなれば、破れかぶれだ。
リュカは自分に出来ることだけを考え、アサカのフォローに回るべく弓をつがえて駆け出すのだが、その異様な光景に気づき足を止めてしまった。
コボルト達は隠れることを知らないアサカを容易に見つけると、遠吠えを挙げて敵の接近を知らせ、すぐさま迎撃を始めた。砦の石壁の上にいた3匹のコボルトが、木の先端に尖った石をくくりつけた投擲槍を、アサカめがけて投げ飛ばす。
だが、異変はそこで起こった。
3本の内、2本の投擲槍がコボルトの手を離れたところで唐突に制止すると反転。コボルトめがけて投げ返されたかのように、コボルト2匹を指し貫いたのだ。
アサカが両の手を槍にかざしたのは見えた、だが、たったそれだけで何故止まる。
何が起こったのかリュカが理解するよりも先に、残り一つの槍がアサカに接近するが、その槍も当たる手前でアサカが手を翳すだけで止まる。
アサカが静かに槍を投げるような動きをすると、槍もその動きに合わせて投げ返される。
より早く正確に。
あれはまさしく、念動力の魔法だ。
では、アサカは剣士ではなく魔法使いだというのか。
リュカが呆然としている間に石壁上の3匹のコボルトが倒れた。
「ふふ、後2匹! 楽勝ですね!」
アサカは砦の中へ入っていく。
「ま、待て!」
リュカも慌ててそれを追って砦の中へと入る。
壁の中は円形の広場となっていた。その広場ではすでにアサカが二匹のコボルトと交戦したいた。だが、それはもう決着の瞬間だった。
跳躍したコボルトは手にした棍棒を跳躍しながら振り下ろそうとしたが、アサカはまたしても今度はその棍棒めがけて手を翳す。するとその棍棒が突然空中で止まる。
飛びかかったコボルトも空中でとまり、何事かと取り乱す。
その隙をアサカが逃すはずも無く、腰につけていた剣を触れることなく鞘から抜くと同時になぎ払った。一刀両断され絶命するコボルト。
今まで見たこともない戦い方に唖然とする、魔法と剣を組み合わせた、変幻自在の剣技。
これが冒険者か。
リュカが驚いている間にコボルトの目標数討伐数まで、残り一匹。
「これでラスト!」
アサカは背後で様子をうかがっていた残りの一匹に標的を定め、念動力の魔法で剣を高速回転させると大きく剣を後ろに引いた。
投げる気出いるのは間違いないが、リュカはこの時、違和感を憶えた。
そうだ! 砦の中には4匹いたはずだ。残りの2匹はどこにいった。
リュカが慌てて砦内を見渡すと、二匹が石の壁の上を陣取ってまさに槍を投げる瞬間だった。槍は放たれたが、アサカなら例の魔法で止めるだろう。
リュカはそのまま、壁の上に居る2匹の片割れめがけて矢を射る。
一匹の肩に命中、だが傷は浅い。間髪入れずもう一発の矢を射るが、リュカの存在に気がついたもう一匹がかばうように矢を腕でうけるが、それは得策じゃない。
狩りに生きる物の鏃が、普通の鏃であるはずはない。
やじりに塗っていた神経毒により一時的だが動けなくなる。2匹は案の定地べたにへたり込み動かなくなる。
毒の効果はそう長くはないが、今のうちに最後のコボルをトアサカが倒している。
そう思ったリュカだったが。
「あああっ!!」
聞こえたきたのはコボルトの断末魔では無く、アサカの苦痛の叫びと剣が地面に落ちた音だった。振り向いけばそこには、槍が突き刺さった太ももを押さえ、膝をつくアサカの姿。
「アサカ!」
アサカは苦悶しながらも慌てて槍を抜くが、コボルトがアサカに飛びかかる。
とっ組み合うアサカとコボルトが激しく地面を何度も転がる。
リュカがコボルトに狙いを定めようとしても、狙えない。
コボルトの方がアサカより力は強く、何度も爪を建てられ、その度にアサカは悲痛な声を上げる。リュカはとっさにアサカが落とした剣を拾い上げ、コボルトの後背を取るとその背中めがけて剣を振り下ろした。
コボルトはそのままアサカにのしかかるような形で絶命した。
5匹目のコボルトが絶命するやいなや、砦のがれきの裏に隠れていたコボルト達が一斉に砦を捨てて逃走を始めた。
初めての依頼は終わった。だが、それどころではない。
感傷に浸るまもなくリュカは、コボルトの死体を払いのけ横たわるアサカを寄り抱き起こした。
「アサカ!」
腕や足を中心に至るところに傷があり痛々しい。
特に槍に貫かれた太ももはかなり抉れており酷い状態だ。
命に関わるような傷ではないようだがが、放っておく訳にはいかない。
「……ぐっ、ポーションを……」
息も絶え絶えにアサカは呟いた。
リュカはアサカの鞄に入っていたエクストラポーション・お試し版を取り出した。
患部に直接たらし込むように、塗る。
「んっーー」
妙に艶っぽい声で身もだえするアサカ。
「変な声出すな」
「ううっ……だって……」
完全に涙目になっているアサカ
ポーションは傷口を瞬時に応急処置程度には直してくれる便利な物だ。
最安値のポーションは止血が関の山だが、エクストラポーションクラスになると致命傷以外の傷なら直せると言うからおどろきだ。
だが、効果はある分傷口に染みるという弊害がある。
エクストラポーションは痛みを全く感じないらしいが、お試し版はそうでもないらしい。
幹部に塗りつける度にアサカは身もだえと共に喘ぎ、最終的に泣き出した。
強気で傲慢な彼女はどこに行ったのやら。
なんだか可哀想にも思えたが、そもそも自業自得だ。
「よし、治療はこんなところだな」
程度の軽い傷は放置し、酷い傷の治療は終わった。
アサカの顔色もよくなっている。まあ、涙目は変わらないが。
「それで、傷がよくなったアサカさんよぉ。俺の言いたいことは分かるよな?」
「……」
悔しそうに唇を噛みながら、俯くアサカ。
「どこの誰だったかな。俺が冒険者に相応しくないとか言ってたやつは」
「……私はいってません」
「言おうとしただろう! まったくこれじゃどっちが新人か分かったもんじゃない」
「だって……私も……初めてだったから……」
「えっ? 今なんて」
ぼそぼそと囁かれたせいか最後の言葉が聞き取れなかった。
「私も初めてだったんですよ!」
「はあ? じゃあなんであんたのおじさんは」
「私に言われても知りませんよ……コボルトがあんなにおっかないなんて知らなかたんですよ! うわああああっ!」
「えっ? マジ泣き?」
突然の幼児退行ぶりに困惑するリュカを尻目に、アサカはひたすら泣きじゃくる。
「どうして私がこんなめにあわないといけなんですか!」
「分かった、分かったから。泣くな」
「だって……凄く、痛くて……こわかったんですよ……こわかったんですよ……」
涙で顔をしわくちゃにさせているアサカをみて、リュカは自分が初めて狩りに同行したときのことを思い出した。
あの時も大きな獣にビビって泣いてしまった。8歳の頃の話しだ。
「アサカ……」
リュカはアサカの頭を自分の胸に抱き寄せただ優しく撫でた。
かつて自分が父親にそうしてもらったように……
てっきり拒否されるのかと思っていたが、いやがる気配がないどころかなぜかアサカ自ら進んで抱き返す。凍えるようなアサカの震えは怯えのせいか、それともまた別のなにかか。
それをリュカが知るすべはないが、彼女の気の済むまでリュカはアサカに胸を貸した。
帰り道、砦から馬車の通る街道までは少し歩かねばならない。
エクストラポーション・お試し版ではアサカの太ももの傷までは完治できなかった。
止血は終わっているが、歩くには無理がある。よってリュカが担ぐことになる。
アサカをおんぶしながらの帰り道、なんだって俺がこんな目に。
愚痴りたくなるリュカだったが、捨て置くわけにも行かない。今日限りのパーティだろうが、仲間は仲間。命をかけてこの依頼をこなした仲間なのだ。
それに、悪いことばかりでもない。背中に当たるアサカの胸の感触を楽しんでも文句は言われまい。もっともアサカのそれはこの平原と同じで盛り上がりに欠けるが。
「……なんだかとても悔しいです」
少し冷静になったのかアサカはいつもの調子で小言を漏らす。
「ああ、俺もだ」
「どうしてリュカが悔しがるのです?」
「もっとボリュームを期待していた」
「はい? 何の話です?」
「こっちの話しだよ。それより、お前がそんなに悔しがることはないだろう。実力は存分に見せて貰った。そもそも俺に実力があればお前は無茶をしなかっただろう?」
「そんなことはないです……上手くやれると思い上がっていました。きっとあなたが凄腕でも同じことをしたと思います。うぬぼれです、大馬鹿です。あなたがいなければ私は今頃……」
「そうだな、死んでいたかもな。でもお前は今生きてるだろ。そして死の恐怖ってやつを学んだ。命の危機に対して無知であることは、死よりも恐ろしいことなんだ」
「……深い言葉ですね。肝に銘じておきます」
「まあ、オヤジの受け売れだけどな」
「もう、なんですかそれ。感動して損しました」
アサカはようやくクスリと笑った。
なんだかこうしていると妹が出来たみたいで、少し嬉しくなってしまった。
リュカの実家は男兄弟ばかりで、華にかける。おまけにリュカは末っ子だ。誰かに世話になることはあっても、誰かを世話することはあまりない。いつか弟や妹が欲しいと思ったことがあったが、きっとこんな感じなんだろう。
リュカが少し感慨に浸っていると、ほどなくして街道に戻ってきた。
街道沿いの岩場にアサカを座らせ、リュカは帰りの馬車を呼ぶべく狼煙を上げた。
「あの……へんなお願いなんですが。今日泣いていたことは内緒にして下さい」
「……さて、受付嬢さんの可愛い泣き顔なんて、滅多に見れるもんじゃないからな。うっかり誰かに口走ってしまうかも」
「もう! リュカは意地悪です!」
立ち上る狼煙と元気そうなアサカをみて、リュカはようやく安堵の息をついた。
「私はあなたに謝らないといけません。あなたのことをよく知りもしないくせに酷いことをごめんなさい」
不意にアサカは囁くように言った。
なんだ、可愛いところもあるじゃないか。
素直に彼女を許そうと思えた。
「もういいんだよ。でも、結構やるもんだろう?」
「はい、私の見立てが間違っていました。人は見かけやステータスで決まらないことを改めて思い知らされました。ごめんなさい」
「改めて? 以前もあったのか?」
「……他ならない私が低ステータスなんです」
信じられないことだった。
念道力の魔法をあれほど巧み使っていたアサカが低ステータスとは。
「何かの間違いだろう? お前は魔法と剣を使った戦いを十分俺に見せただろう? 無論他の魔法もーー」
「……できないんです、私は念動力の魔法以外を使えないのです」
それは意外な言葉だった。
あれだけ念動力を巧みに使う魔法使いが他の魔法が使えないとは……
アサカは少し悲しげに昔のことを話してくれた。
「私は本当は冒険者になりたかった。そこで低いステータスをごまかすために色々研究し努力しました。でも一番簡単な魔法、念動力しか身につきませんでした」
「……そうか、あんたも苦労したんだな。俺もこの目以外は並以下だったから、その気持ちは分かる」
「私はその魔法を伸ばすことに専念しましたが、念動力の魔法だけでは冒険者、とりわけ魔法職はつとまりません。以前に一度、他の方とご一緒したことがあります。5人組のパーティでした。そのパーティには年の頃を同じとする魔法使いがいました。高いステータスに恵まれ、多彩な魔法を使いこなし、パーティの火力として重宝されていました。それに比べて私は、魔法職に求められる素養を何も持っていません。努力だけではどうしようもない壁と、埋めようのない力の差を感じました」
初心者のアサカに上級職の冒険者がついて一緒に冒険することはおかしいことではない。だが、それはアサカにとって挫折を思い知らされただけに過ぎなかった。
初めて冒険で辛酸をなめることになるとは、酷な話しだ。
「その後、私は冒険者を諦めて父の手伝いを始めました。あなたに酷いことを言ったのは私はこのステータスのせいで夢を諦めたのに、あなたが冒険者になることが許せなかったんです、本当にごめんなさい」
そんな単純な理由であの言われようとは、いい迷惑だし逆恨みも甚だしい。
そう思ったし、そう言ってしまうのは簡単だ。
でも、今にも泣きそうな顔でいる彼女を前に、それを言う気にはなれなかった。
他人を認めるのはそう簡単なことではない。
でも、アサカは俺を認めた上でこうやって謝罪してくれている、そんな彼女を誰が咎められようか。
「随分と可愛らしい理由があったんだな。もっと深刻な理由でもあるのかと思ったぜ」
リュカは彼女の気持ちを受け取ったうえで笑い飛ばした。
「か、可愛いって! 私は本当に悔しかった。逆恨みなのは分かってますけど……でも」
「悔しい結構、逆恨み結構。俺も兄貴達をいつもうらやましがっているからな、今でもうらやましいと思う」
狩りの腕なら右に出る者はないリュカの兄達。
彼等の狩りをみて、何度心が挫けたことか。
それでも諦めたくなかった、狩りの腕で彼等に勝つのは無理だろう。
でも、他での道ならまだ可能性はある。その為に冒険者を選んだ。
「だけど、力の証明っていうのかな。アサカも俺もまだ道中半、諦めるには早すぎるだろう」
「……そうかもしれません、肝に銘じておきます」
「まあ、これも親父の受け売りだけどな」
「もう、リュカは一言多いのです」
「はは、よく言われる」
「なんだか、可笑しいですね」
ようやく二人して笑うことが出来た。
低ステータスで恵まれない環境を過ごしてきた似た者同士のパーティーなのだ。
初めのようなギスギスとした空気はもう、二人の間には存在しなかった。
――そして現在。
あれから2年という歳月が流れているが。
「もう、リュカは分からず屋です!」
「それはこっちのセリフだ!」
「絶対にこっちの方が良いに決まっています!」
「いや、こればかりは譲れないな」
とある街の飲食店の前で人目も憚らずに言い争う二人組。
看板に書かれたメニューでどれを食べるか考えている内に口論が始まったのだ。
「絶対にポークフィッシュのあんかけがおすすめです!」
「そんなことはない! コダイカのげそ焼きのほうが旨いに決まっている! 悪いことは言わないから、黙ってくってみろ」
「ほお、言いますね。なら、勝負しましょ。ポークフィッシュのあんかけとコダイカのげそ焼き。どちらが美味しいか勝負です!」
「望むところだ! 勝負方法は?」
「自分のおすすめを相手に食べさせて、旨いと言わせた方が勝ちです」
と息巻いて店に入った二人だが……小一時間経過するころには。
「いやあ、あんなに美味しいげそ焼きが存在するとは思いもしませんでした」
「ポークフィッシュのあんかけには参ったな。旨すぎる!」
満足そうにしてる二人だった。
その光景を見ていた店員いわく。
「互いの注文した品を仲良く分け合うとかもう、うらやまけしからん!」
と嫉妬するほどだったそうな。
次回、新たな受付嬢が登場!