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魔法の剣を調査する その4

「なんだ、客がいたのか……ってさっきの受付嬢とその連れじゃねえか」

 

 どうもと軽く会釈だけをするアサカ。

 リュカに至っては挨拶すらしなかった。

 

「こんなところで会うとは驚きだな」

「そうでしょうか? 私はそれほど驚いていませんよ。あなたがここに来る可能性は比較的高いですから、ここで出会っても何ら不思議はありません」

「……どういう意味だ?」

「こういう意味ですよ」


 アサカは鍛冶屋から購入した小瓶をとり出すなり、それを鍛冶屋に向かって、あくまでゆっくりと下手から放り投げた。


「ば、馬鹿! よせ!!」


 小瓶から逃がれようと鍛冶屋が大きく飛び引いたことを、リュカは見逃さなかった。

 これはもはや確信犯だ。


「おや? そんなに慌ててどうかされましたか?」


 アサカに声を掛けられたことによって、鍛冶屋は我に返りその光景を目の当たりにした。

 アサカの手から少し離れたところでピタリと留まっている小瓶と、勝ち誇ったような笑みを浮かべるその受付嬢の姿を。

 念動力の魔法は色々のことに応用が利く。 


「な、なんのつもりだ! てめえ!」

「それはこちらのセリフですよ。あなたはこの液体の危険性を知っていながら、汚い商売をしている。どういうつもりですか」

「な、何の話だ? 意味が分からんな」


 鍛冶屋はとぼけた顔をしてみせるが、もはや言い逃れは出来まい。

 

「白々しいな。小瓶を避けようとしたことが何よりの証拠だ」

「だから、何の話だってんだ。誰だって小瓶を投げられようとしたら避けるだろうが!」

「そうか? アサカはゆっくりとしか投げようとしてなかったぞ? 蓋が開いているならまだしも只の小瓶をそんなに仰々しくよけるか?」

「……お、俺は臆病なんだよ!」


 下手な言い訳だとリュカは呆れた。


「臆病者が人様の家を蹴破るとは到底思えませんね」

「……っち!」


 アサカに正論を返され押し黙る鍛冶屋だったが、


「ああ、バレてるならもういい。詮索が過ぎたな。受付嬢さんよ!」


 鍛冶屋は豹変するなり、懐からナイフを抜き出しこれ見よがしに見せつけてきた。

 アサカも警戒するように腰の剣に手を掛ける。

 リュカも矢を構えようとするが、アサカが前にいる以上、矢は役に立たないどころかアサカを傷つけかねない。

 仕方なく短剣を抜き構えると、鍛冶屋は何故か勝ち誇った顔をした。


「連れの弓は役に立たねえようだし、あんたは腰に立派な剣を付けているようだが、この狭い空間じゃ振り回せねえだろうよ! ここでくたばれや」


 この縦に細長い空間ではアサカの長剣グノーシスは振り回すことはおろか、その鞘から抜くことさえ出来るかどうか怪しい。


「ひゃっつはああ!!」


 寄生と共にアサカに斬りかかる鍛冶屋。

 だが、リュカに焦りはなかった。


「死にさらーーでゅふ!!」


 突如なぞの奇声と共に突進してきた筈の鍛冶屋は、何故か手にしたナイフを落とすと脚を止め、呻き声を上げながら鳩尾を抑え膝をつく。

 鍛冶屋の鳩尾に当たっている漆黒の剣。

 刃ではなく柄が鍛冶屋の鳩尾を強打したのだ。

 

「な、何が起こっーー」

 

 鍛冶屋は何が起こったのか理解する間もなく、泡を吹き白目をむいて気を失ったようだ。

 リュカは、アサカがまるで弓を構えるように静かにグノーシスの柄を鍛冶屋に向けると、念道力の魔法で鞘から打ち出したのを見た。

 

「振り回す必要なんてありません。剣を打ち出せるスペースがあればそれで十分です」


 アサカは放ったグノーシスをまっすぐ引き戻すと鞘に納めた。

 気を失っている鍛冶屋を、今度はリュカが縄を使って縛り上げた。

 

「凄い……一撃で、今のワザは」


 目を丸くしているのはメフィルだった。

 アサカの念動力は、精密かつ正確だ。


「技名は特にありませんが、あえて言うならアンドレア流居合い術ですね」

 

 この時のアサカのしてやったり的な顔に、リュカは技名を一生懸命考えているアサカの姿を思い浮かべて納得した。

 この技名は、いつか誰に聞かれたときに応えようと前もって考えていたに違いない。


「カッコいい名前だな」

 

 リュカはほっこりした気分でアサカを見ていると。


「な、なんですか、その目は! 技名ぐらい好きにつけたって良いじゃないですか!」

 

 と頬を朱に染めて憤慨していた。


「それよりも事件はまだ終わっていませんよ。もうこのあたりで止めませんか? 誰かの犠牲を払ってメフィルバニアを完成させたとして、あなたは何を得るのです? その成果を胸をはって誇れますか」

 

アサカは真剣な眼差しで、メフィルを見た。


「僕は鍛冶屋に脅されて、このメフィルバニアを作らされていた……でも、僕自身もこれを作り研究する内に本物のメフィルバニアが出来ると思うようになっていたのは事実です。僕も立派な犯罪者だ……何処で間違えたんだろう」


 どこか悲しそうに俯くメフィルに対して、アサカとリュカは何も声を掛けなかった。

 何処で間違えたのか、それは本人にしかわからないし、それは自分のちからで見つけなければならないもの。他人が詮索するべきものでもない。

 ただ、罪は裁かれねばならない。


「自主することにします」

「そうですか、では警邏隊の元までご一緒いたします」


 メフィルはそう決意した。

 自分の罪と向き合う覚悟を決めたのだ。

 その決意の行く末を見届けてこそ、この調査は初めて完了を迎える。

 

 警邏隊の詰め所にて事情を説明するメフィルは、その場で逮捕された。

 鍛冶屋のオッサンも一緒に突き出したが、目を覚ましたオッサンは終始よくもやってくれたな、だの、今にもっと恐ろしい奴が来るだの、訳の分からない事をほざいていたが、リュカとアサカは適当に聞き流すだけだった。

 これで調査は完了、後はギュレット卿に報告すればいい。


 しかし、その前にリュカはどうしても気になっていた質問をぶつけてみた。

 

「それにしてもメフィルに対してはやけに優しかったな。アサカはああいうタイプが好みなのか?」


 メフィルとアサカは初対面の筈だが、やけに優しく接していたように見える。

 やせ細った頼りない風貌に母性本能くすぐられるというやつだろうか。

 リュカは冗談交じりで聞いてみたが。


「……そうですね。好きでした」

「好きでした?」

「彼は憶えていないでしょうが私、以前彼にあっているんです」


 アサカは意外な話を切り出した。

 10年ほど前、この街に一週間ほど滞在する機会があり、彼女は大好きなメフィル・アウギュウストスに会おうと彼の店を立ち寄ったのだ。

 そして、偶然にもメフィルと出会ったのだ。

 当時は金髪の髪が綺麗な、活き活きと夢を語る少年だったそうだ。

 

「祖父のような立派な錬金術師になるんだ。彼はキラキラとした目で強く語っていました。そんな彼を見て素敵な人だと思ったのは紛れもない事実です」

「それってまさか……」

「はい、私の初恋の人です」


 ああ、なんてこった。

 だからこそ人一倍メフィルバニアについて詳しいし、この街に彼がいることも知っていて、いの一番にその場所にたどり着けた訳だ。

 リュカはその事実に衝撃が走ったのを憶えた。

 アサカの見てくれは確かに美しいし、声も綺麗だし、香りも良い。

 でも、あの性格だ。

 自分から恋をするようなタイプじゃないとばかり思っていた。

 これは油断ならないな……どこか焦りにもにた感情を憶えたリュカだった。

恋の予感がしてむずかゆい! 

次回はアサカとリュカの邂逅です。

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