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8/12

メグル「称号ってこんな簡単に取れていいの?」

更新8個目です。

残り4つです。

 誉められたのかけなされたのか理解出来ていないシグルスさんを、ブリュンヒルデと呼ばれたカフェオレ美女さんが愛おしげに見ている。

 何故私はゲームを始めてからさほど時間が経っていないのに、Sの人にばかり会うのだろう。


 あ、いや、別にMの人に会いたいわけでは断じてない。


 高度なプレイをしている北欧神話婦々(ふうふ)から目をそらし、まだ普通の範疇にいそうなアサヒさんとアンツさんを見やる。

 二人は腰を曲げてつむじをこちらへ向けていた。最敬礼だ。


「いやいやいや。だから頭上げてってば」

「感謝と謝罪の気持ちっす。白のおねーさんは『秘の鳥』とドS女神から守ってくれたっす。あたしにとっては、神様よりも神様っす」

「コイツの面倒を見切れなかったのは事実だからな。それでアンタに迷惑かけちまった。すまねぇ。

 そんで、温情かけてくれてありがとな」


 でこぼこコンビは一気に謝ると顔を上げて、にっと笑う。顔は全く似ていないが行動が同じで兄妹みたいだ。

 私よりも見た目が年下だからか、非常に癒される。騒がしいけど、貴重なまとも寄りの人だし。


 あ、北欧神話婦々も高度なプレイを止めて頭を下げてきた。

 だから、頭下げなくていいのになぁ。


「ありがとう、メグルさん。色々と失礼なことをしてしまったと言うのに、優しい対応をしてくれて大変感謝している。

 もし、何か困ったことがあれば遠慮なくこの『戦乙女(ワルキューレ)の騎士』と呼ばれるシグルスを! トップクランである『百合園の戦乙女達(ワルキューレリリィズ)』のリーダーであるシグルスを呼ぶがふぅッ!?」


 あ、ブリュンヒルデさんの貫手が喉に入った。あれは痛い。

 ブリュンヒルデさんはがふがふ咳込むシグルスさんを無視して私へたおやかな笑みを向ける。


 にゅっと私の横から親指が真っ直ぐ立った右手が現れる。

 言わずもがな、キーユちゃんだ。ブリュンヒルデさんも「分かってる」とばかりにゆっくり頷く。あ、ガンマさんも小さく拍手してる。

 どうしよう、Sに囲まれてるよぅ。


「メグル様」

「ひゃ、ひゃい!」

「……何を怯えているのですか?」


 あなたが先ほど起こした必殺の仕置きにですけど!?

 何でそんな無垢な顔で首を傾げられるの?


「な、何でもないです」

「そうですか……わたくしからも謝罪と感謝をお伝えします。

 主人の過失はメイドであるわたくしの過失でございます。この度は寛大な態度、痛み入ります。

 先ほど主人がうざったらしく言っていたことですが、わたくしだけでなく他のクラン員も同じ気持ちですので心に留め置いてください。

 ほら、お嬢様も頭を下げてください。それと謝罪の時に自分の自慢を入れるのは行儀が悪いのでお止めくださいね。

 わたくしの躾不足を疑われてしまうので」

「す、すまない」


 ブリュンヒルデさんは優雅な礼をしてみせる。

 あ、体をくの字に曲げたシグルスさんの頭を押さえて無理矢理下げさせてる。

 主人とメイドの設定で逆転主従SMプレイなの? 一般人には敷居が高すぎるんですが。


 あ、キーユちゃんが他のみんなに聞こえないように小さな声で「違う。ブリュンヒルデはリアルでシグルスのメイド」って私の考えを否定した。

 へ、へぇー……リアル主従ならそれはそれで複雑な世界だから、うん、聞こえなかったことにしよう。


 気を取り直す為に一つ咳払い。反省している四人へ再度笑顔を向ける。


「わかった。それじゃあ、ありがとうとごめんなさいは受け取ります。

 はい、これで今回の件は終了ね。今後は気には留めても気にしないように。

 ヴィータさん、ガンマさん。これで一件落着ですかね」


 黙ってやり取りを見ていたヴィータさんとガンマさんへ顔を向けると二人は鷹揚に頷いた。

 ガンマさんは目の温度が生温いから「甘い」と思っているのかもしれないけど。


「うむ。これで落着としていいだろう。皆、ご苦労であった」

「申し訳ありません、ヴィータ様。お一つよろしいでしょうか」


 締めに入りかけたヴィータさんをリーアさんが止める。

 私達のやり取りを壁に同化したかのように黙って聞いていたのに、急にどうしたんだろう。


「ああ、構わぬ。何だ、リーア」

「これはわたくし個人ではなく教会全体の質問としてください。

 先ほどからヴィータ様がメグルさんのことを『姉上のお気に入り』とお呼びになっておられますが……『そういうこと』で、よろしいのですよね?」


 リーアさんの質問に、私とヴィータさんは同時に「あ」と声を出した。

 肯定したようなものだ。リーアさんが私達のリアクションを見て花が綻んだような笑顔を見せた。

 わぁ、ガンマさんがとっても楽しそう。ヴィータさんが青ざめてガクブルしているからだろうか。


「ん? ドラロリ神の姉ってもしかして」

「案内人のことっすよね。ハコニワのどこにも情報がないから、名前(αβγ)から予想して言われてるだけっすけど」


 アンツさんとアサヒさん、解説ありがとう。

 ああ、ヴィータさんがビンッと尻尾を立てた。図星まるわかりだ。


「し、ししし、知らぬなぁ? この者が姉上より称号を頂いたことなど、欠片も知らぬぞ?」

「おい、ポンコツロリ」


 あら、やだ。思わず汚い言葉が出ちゃったよ。

 でも仕方ないよね。アサヒさんとアンツさんが、水晶がはまったマイクみたいな道具と写真機みたいな道具を向けてくるんだもん。

 また波紋を作りやがって!


「大スクープっすよ! 案内人から称号が貰えるなんて前代未聞っすよ! きゃん!?」

「おおお! 明日の『パパラチ屋ニュースレター』の一面だぜぇ! これでフミハルのクソ野郎に嫌み言われなくて済むぞ! ぐふぅっ!?」


 ずずいっとこっちに寄ってきたアサヒさんとアンツさんはすぐにブーツの跡をつけて壁に貼り付いた。

 あ、あのキーユちゃん……もうちょっと穏便に……。


「メグルちゃんと同じ空気吸わないで」


 なんて過激!


「あ、あわわわわ……が、がんま……わしはとんでもないことを……メグル殿に迷惑をかけてしまっては、姉上が……ひぃいっ!」


 え、ヴィータさんが凄い怯えてるけど、アルファさんってそんなに怖いの?

 優しかったけどなぁ。身内には厳しいのかな。

 あ、ガンマさんがぶるぶるして尻尾を巻いているヴィータさんの肩を優しげに叩いた。


「いい表情をありがとうございます、ヴィー姉様。姉様が失言を繰り返すのをおもしろ……気づかず見ていた私も同罪です。

 うふふ、今からどんなお仕置きが頂けるか楽しみにしていましょう?」

「い、嫌だぁぁあああ! 痛いのやだよぅぅううう!」


 ぴゃーっと泣き出したヴィータさんは見た目相応に幼く見えた。ガンマさんはその様子をとても楽しそうにムービーで撮っている。

 わかって黙ってたんだろうな、ガンマさん。今も「面白く見ていた」って言いそうになってたし。

 両刀(SでM)なんだろうか。お仕置きを想像してか頬が紅潮してるぞ。

 この(ひと)、廃スペックだなぁ。


「ん?」


 何だろう。ピロリンとメール受信の音が。


「……あー……」

「メグルちゃん?」

「アルファさんからメールが」


 あ、ヴィータさんが声も出ない状態でガンマさんの腰にしがみついている。

 おおぅ、ガンマさんとリーアさんの目が期待で輝いているぞ。


「はじまりの神からのご神託だなんて……どんな内容でしょうか?」

「えーと……」


 リーアさんに問われ、私はメールを読み上げた。


「『メグルさん、お久しぶりです……と言うのもおかしいでしょうか。

 なかなか大変なはじまりなようですが、“箱庭世界”を少しでも楽しいと思って頂けているなら幸いです。

 それでは本題なのですが、この度はうちの愚妹達が迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。

 教会の上層部には先程「メグルさんにいらないちょっかいはかけないように」神託(メール)しておきましたので、これからメグルさんの目的到達に煩わしいことにはならないと思います。

 それとお手数おかけしますが、愚妹達に伝えておいて頂けないでしょうか?

 ヴィータは帰って来たらお説教。ガンマはしばらく帰って来るな、と。

 よろしくお願いします。

 アルファ』

 ……だそうです」


 あ、ヴィータさんとガンマさんが真っ白に燃え尽きた。

 リーアさんは「上に確認することが出来たので失礼致します」と慌てた様子で頭を下げて退室していく。

 とりあえずアルファさんのフォローで教会でゴタゴタすることはなくなったかな?


「め、メグルどのぉぉおおお! どうか慈悲を! わしにも先程のような慈悲をぉぉおおお!」

「そ、そうですメグさん! アル姉様にどうか! どうかお口添えをッ!

 放置プレイだけは苦手なんですッ!」

「無理です、このメール返信不可ですもん」


 私にすがりつく二人へすげなく答える。

 ない袖は振れない。無理なものは無理!


「それで。四人にも是非他言無用をお願いしたいんだけど……ただでさえ“再適応者”で目立っちゃうから、これ以上目立ちたくないんだよね。

 ……どうかな?」


 ぶつぶつ相談し合う女神姉妹を放置し、展開についていけていない夢人四人へお願いをする。

 こらこら。キーユちゃん足首をコキコキ鳴らして威嚇しないの。

 左手でなだめるように膝を撫でると、びくっと震えて足を引っ込めた。くすぐったかったかな。


「もちろんだ。もし称号のことが何かの折りに露呈した時にはクラン全員でフォローするので安心してくれ」

「むぅ、ニュースレターの一面は確実なネタっすけど、白のおねーさんの迷惑には絶対なりたくないんで諦めるっす。

 あ、でも取った経緯とか純粋に夢人(プレイヤー)として気になるっす!

 スイーツおごるんで話聞かせてくれないっすか?」


 きりっと頷くシグルスさんがやっと見た目通りの騎士っぽい発言をした。

 新聞屋? 情報屋かな。とりあえずアサヒさん達も了承してくれて良かった。

 別に仲良くなった人に話すのはいいんだ。ただ大勢に騒がれたくないだけだし。


「じゃあ、私のオススメのお店に行く」

「おお、こっくてーるの店だな! あそこは美味いぞ!」

「あ、俺らも取材したことあるわ。『木のしっぽ』だろ?」

「そう」

「あそこは何でも絶品っすよね!」


 キーユちゃんの提案に同年代っぽい三人がわいわい話を広げる。

 うんうん、キーユちゃんがこうやって同い年の子と話すのなんて見たことないから新鮮でいいなぁ。ちょっと表情が乏しいから普段が心配だったけど、受け答えもちゃんとしてるし、おねーさんは安心しました。

 ブリュンヒルデさんも微笑ましそうに見ている。キーユちゃん達と同い年っぽいけど、顔が完全に母親のそれだ。

 私もきっとあんな顔になってるんだろうなぁ。


「ぬぅ、やはりそれしかないか……メグル殿! 一つ良いだろうか!」

「え、あ、はい」


 相談が終わったらしい女神姉妹がまた私へ近付く。なんか、手がわきわきしてるぞ。

 え、何だろう?


「ん?」


 首を傾げる私の頬をヴィータさんが手で包んだ。

 微笑んだ顔に幼さはなく、慈愛に満ちたそれは純白の百合が咲いたかのようだった。


「お主に大地の愛を。お主の道行きを生きとし生けるもの共の母たる私が慈しもう。

 険しく厳しい道の先に、幸福があるように」


 それはアルファさんとの出来事を彷彿とさせるものだった。

 あの時のように、貧弱で寂しいステータスパネルが自動で開く。

 ピコン、と新たな称号の取得を告げる音が響いた。


《称号『βの慈愛』を入手しました。

 βの慈愛:あなたの進む道に、良縁を。

 幸運値(Luk)に+5補正》


「では次は私ですね」

「ガンマさんもですか!?」


 ヴィータさんの代わりにガンマさんが頬を手で包む。拒否権はないんですね、はい。

 わぁ、とてもステキなドSスマイル。女郎蜘蛛かクロゴケグモ(ブラックウィドウ)って言いたい所だけど、ここは黒薔薇のような妖艶な笑みとしておきましょうか。


「“法と倫理の神”として、あなたに少しの厳しさを。

 上手くいって(幸運)ばかりでは、道行きに落ちた石を気付かず踏んでしまうこともあるでしょう。

 ふふ、そんな心配そうな顔をなさらないで。もしかしたら、あなたをつまずかせた石はとても素敵な原石かもしれないのですから」


 ゆるりとガンマさんの手が離れ、もう三回目になった称号の取得表示。

 開始二時間弱でもう慣れてきたってどうよ?


《称号『γの禍福』を入手しました。

 γの禍福:あなたの進む道が険しいほどに、見える景色は美しくなる。

 幸運値(Luk)が上がるほどにトラブルが起こる。》


「……あの、これは?」


 唐突な称号ラッシュに、私はどういう結論に至ったのか女神姉妹に聞いてみる。

 女神姉妹はそこだけお揃いな貧しい胸を軽くそらして見せた。


「詫びの品だ!」

「有り体に言えば賄賂ですね」


 アルファさーん、お仕置き追加でお願いしまーす!

 プレイヤーネーム《メグル》

《NRシステム利用中》


 種族:夢人・無

 所持金:450ルピス

 SP:0



 ジョブ1《調教師》

 所持スキル一覧

《調教Lv.1》《識別Lv.1》《意志疎通Lv.1》

 空枠:7



 ジョブ2《商人》

 所持スキル

《契約Lv.1》《道具製作Lv.1》

 空枠:3




《ステータス》

 Str:1[3]

 Vit:1[10](7+3)

 Agi:1[2](1+1)

 Int:1[10]

 Min:1[10]

 Dex:1[3]

 Luk:7[15](10+10) 5up


※デスペナルティ発生中


 称号一覧

《αの祈り》《βの慈愛》《γの禍福》



 装備品一覧


 頭《》

 上体《夢人のシャツ・白》

 下肢《夢人のズボン・白》

 靴《夢人の靴・白》


 装飾品一覧

《補助装具・NRS腕用・白》

《補助装具・NRS足用・白》

《杖・前腕固定型・白》

《痛覚50%減少のチョーカー・白》

 空枠:6

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