メグル「お客様の中でツッコミの出来る方はおられませんか!?」
書いててとても楽しかった回です。
これでストック半分消化です。
犬のように首輪で繋がれたアサヒさんとアンツさんの表情は見ていられないほど痛ましいものだった。
「最悪っす。まさかサド神に捕まるなんて思わなかったっす。お散歩プレイとか私は一生知りたくなかった世界っすよー……」
「なあ、オレこれ貰い事故だよな? 連帯責任とかこの世で一番嫌いな言葉なんだがよぉ……テメェ、アサヒ、覚えてろよ」
がっくりうなだれる二人をキラキラした目で見つめるガンマさんが恐ろしい。更に言えば、私の後ろで「なるほど、勉強になる」とか呟いているキーユちゃんの言葉を理解したくない。
勉強って、誰で実地するおつもりですか?
耳にシャッターを下ろしてキーユちゃんの言っていることを脳内デリートする。
今日の営業はもう終了……したいけど、無理だよなぁ。まだ何も解決してないもんなぁ。
まだこのゲーム始めて一時間経ってないんだけどなぁ。ちょっと展開が濃すぎないかなぁ。
「む。役者は揃ったな。では、姉上のお気に入りよ。沙汰を始めようか」
「え、あ、はい」
アサヒさんとアンツさんの後ろからおっとり着いてきたお姉さんが部屋に入ってくると、ピンクロリなヴィータさんが取り仕切る。
最後に入ってきたカフェオレ色の肌をしたお姉さんがドアを閉めると、部屋がぐっと狭くなった。私とキーユちゃんがベッドに座っているとはいえ、九人が八畳間にいるのは明らかに定員オーバーだ。
ちなみにリーアさんはヴィータさんの忠告を受けて彼女の隣に立っている。ヴィータさんが私を「姉上のお気に入り」と呼ぶたびに目を輝かせてるんだが……それとは反対に、キーユちゃんが「姉上のお気に入り」と聞くたびに私を抱き締める力が増している。
あ、痛。痛い。HP減るので緩めてください、お願いします。
「まずは姉上のお気に入りとは初対面だから名乗っておこう。
わしの名はヴィータ。この箱庭世界では“大地母神”の役目を担っておる。夢人へは『ハラスメント防止コードの管理者』と言った方が分かりやすいであろうな。
不埒な輩が絶えぬ故に神の中では一番降臨する回数も多い。これから顔を合わす機会も少なくないであろう。
以後、よしなに頼むぞ」
翼竜のような翼をバサバサさせながら、ヴィータさんは腕を組みふんぞり返って自己紹介する。たしたし床を叩くぶっとい蜥蜴のような尻尾が可愛い。こめかみ辺りから枝のような骨っぽい材質の角が生えてるし、竜神かなんかだろうか。
「おい、ガンマ」
「え? ……ああ、はい。すみません。少し夢中になってしまいました」
眉をしかめ、ヴィータさんは大きなローズレッドの瞳を半眼にしてガンマさんを睨む。
可視化させたスクリーンショットのシャッターを幸せそうな顔で十六連打していたガンマさんは、一度咳払いして表情を取り繕ってから、私へドSスマイルを贈ってくれる。
「“法と倫理の神”をしています、ガンマと申します。夢人の方達へは『閻魔帳』で関わりがありますね。
メグさんは『閻魔帳』はご存じですか? お知りでないならじっくりねっとり、手や足だけでなく全身を使ってご教授致しますが?」
「ご存じですので、必要ありません」
ガンマさんの眼鏡が妖しく光ったので、即座にお断りする。
笑った目が、獲物を狙う肉食獣のようだった。けものこわい。
『閻魔帳』のことは本当に知っているので問題ない。悪質な犯罪者プレイヤーを住人や夢人に周知させる為のシステムだ。
ハコニワでは文明への刺激の為に犯罪を禁止してはいないが、現実での倫理の破壊を防止する為に手厳しく取り締まってはいる。悪いことしたなら、それ相応の報いを受ける覚悟はしましょうってことだ。
「あら、残念ですね。それでは、事実確認を致しましょうか。
Killはしていませんが騒動の発端であり怪我を負わせたアサヒさんとアンツさん、そして過失であろうと致死と猥褻な行為をはたらいたシグルスさんはしっかりメグさんへ媚びを売ってくださいね。
ほらほら、『閻魔帳』に載るか載らないかの瀬戸際ですよ。シグルスさんなんて、今までの悪気のないセクハラが積もりに積もって業値が随分上がっているじゃないですか。
メグさんへひざまずいて靴を舐めながら赦しを乞うくらいの行動は示してくださいね。
さあ、メグさんが止めに入る前にさっさとなさいな」
「ちょっと待って!? 私をガンマさんのプレイに組み込まないでくれませんか!?」
あっぶな! この人、ナチュラルに私をSMプレイに組み込みやがった。
これは私が嫌がることを考慮に入れての一粒で三度美味しい高等プレイだ。恐ろしい人である。
そして、その恐ろしい人に「メグさん」なんて略されて名前を呼ばれている事実を速攻ごみ箱にくしゃぽいしたい。
姉二人を省略して呼んでいたことからも、ガンマさんが気に入った人間を略して呼ぶことなど容易に想像出来る。さっきまで「メグルさん」呼びだったのに、この一瞬でどんな心境の変化があったって言うんだ。
正直言って、お姉さん二人と違いとても関わりたくない。いじられる未来しか見えてこないし。
「ふふっ、私好みの反応ありがとうございます。
それでメグさんはどう致しますか。今回は三人とも悪気はないのでメグさんの裁量にお任せします。
悪気はないとはいえ、Killしたのは事実ですから被害者に判決を委ねるのが一番だと思いますので」
ガンマさんが頬に手を添え話す。空いた手は肘を支えるように組まれているが、悲しいかな、断崖絶壁は少しの変化も見せてくれていない。天保山もびっくりである。
あ、ガンマさんの私を見る目にSっ気が増えた。もう考えるのは止めよう。
「詳しい事情はあなたが死に戻りした後、キーユくんから聞かせて貰った。
状況が分からない人間がでしゃばって被害を広げたことを申し訳なく思う。
償えることならば何でもしよう。足を舐めろと言うならばその通りにする。
だが、一つワガママを言わせて貰えれば、靴ではなく素足を舐めさせて貰えないだろうか」
きりっとした顔で石造りの床に正座をして謝罪するシグルスさん。
私はそれに、笑顔で答える。
「ガンマさん、業値もっと上げてください」
「何故だッ!」
「私は足を舐めさせる趣味なんてございません!」
カッと目を見開いて問うシグルスさんへ、私はベッドを叩いて抗議する。SやMは服のサイズだけで充分だ!
「まあ、それじゃあメグさん、舐める趣味は」
「断じてないッ!」
そこのでこぼこコンビ、「はぁ、安心したっすー」「ハコニワやってるのにまともな人で助かったぜ」とか言ってんじゃないっ。
夢人はみんな奇人変人なんですか。そうですか。
確かにカフェオレ色のお姉さんがスクリーンショットを撮る準備をしたまま残念そうな顔でこっちを見てるしな。
と言うかお姉さん、誰?
「とにかく! 私は別に怒ってません。そこのアサヒさんがぶつかったのも、シグルスさんの諸々も、全部事故ですよ。
今後こういった事故がないようにみんな気をつけて貰えればそれでいいです。心苦しいって言うなら、そうですね……“ホワイト”の美味しいお店を教えてください。
だからガンマさん、『閻魔帳』も業値アップも必要ありませんよ」
一気に話す。みんなぽかんとした顔でこっちを見てきたので、笑顔を作ってみる。
え、こわい。なんかガンマさんがスクショのシャッターを連打してる。
「……キーユくんッ! デスペナを受けたと言うのに、メグルさんはなんていい人なんだッ!
流石、君のッ、すギュッ!?」
すぎゅ?
「ちょ、ちょぉおおお!?
キーユちゃん、何やってんの!?」
感極まって私の手を握ろうとしたシグルスさんは、キーユちゃんのブーツの底とキスをして壁にめり込んだ。
私を後ろから抱き締めながら蹴り付けるという器用な真似をしたキーユちゃんは、ぷらぷらとシグルスさんを仕留めた右足を軽く振っている。
「大丈夫。今のは峰打ち」
「キックに峰とかないよね!」
壁の染みになりかけたシグルスさんは、名前不明のカフェオレ美女に介抱されている。ぽわっとした光を当てているのは、治癒魔法だろうか。
「大丈夫ですか、お嬢様。不用意な発言や行動はもう少し自重しないといけませんよ」
「すまない、ブリュンヒルデ。今度から気をつける。ボクなら大丈夫だ、ありがとう」
「顔しか取り柄がないのですから、そこだけはしっかり守るようになさってください。顔くらいしかよいところがないのですから」
「え? ん? ……うん? ありがとう?」
あ、カフェオレ美女もだめな人だ。
夢人にまともな人はいないのだろうか。
プレイヤーネーム《メグル》
《NRシステム利用中》
種族:夢人・無
所持金:450ルピス
SP:0
ジョブ1《調教師》
所持スキル一覧
《調教Lv.1》《識別Lv.1》《意志疎通Lv.1》
空枠:7
ジョブ2《商人》
所持スキル
《契約Lv.1》《道具製作Lv.1》
空枠:3
《ステータス》
Str:1[3]
Vit:1[10](7+3)
Agi:1[2](1+1)
Int:1[10]
Min:1[10]
Dex:1[3]
Luk:2[15](10+5)
※デスペナルティ発生中
称号一覧
《αの祈り》
装備品一覧
頭《》
上体《夢人のシャツ・白》
下肢《夢人のズボン・白》
靴《夢人の靴・白》
装飾品一覧
《補助装具・NRS腕用・白》
《補助装具・NRS足用・白》
《杖・前腕固定型・白》
《痛覚50%減少のチョーカー・白》
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