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メグル「地理が苦手だから方向が分からないだけ。決して方向音痴なわけじゃない!」

やっとログインしました。

でも全然お話は進みません。

 白い光が収まると、私の右半身が鉛のように重くなった。


「おっとと」


 正確には右上腕から指先、右大腿部から足先までが現実と変わらない重さになった。

 NRシステムが適用されるとこうなるのか。私はバランスを崩して倒れそうになる体の重心を左に傾ける。いつの間にやら私の手にあった杖が体重を支えてくれた。


「あっぶなー……」


 ここで倒れたらめちゃくちゃ恥ずかしい。現に街中を歩く人達から、少なくない注目を浴びている。

 まあ、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。


 初ログインで転移される時計台の下に夢人が現れるのは約半年振りだろうし、出てきた奴は全体の数パーセントに満たないNRシステム使用者だし。

 目立つのは覚悟してますよ。


「えーと……まだ来てないのか」


 きょろきょろと辺りを見回す。ヘルプによればこの時計台は『はじまりの街・ホワイト』の中心らしい。

 だからここにいれば、すぐに六華ちゃんは見つけてくれるだろう。

 待ってる間にシステム周りの確認でもしてますかね。


 まずはさっきからチラチラ目の端に映っている四本のバーだな。

 左側の緑と青が体力(HP)魔力(MP)ね。数値は表示されなくてバーの減りで状態を判断、と。HP全損で死亡。MP全損は気絶ね。両方共時間経過で回復するのか。

 で、右側の黄色と赤が空腹度(FP)渇水度(WP)……FとWって何の略だ? ああ、食べ物(フード)(ウォーター)か。

 そういえば、何でFPとWPは八割の所に区切りがついてるんだ? ヘルプヘルプ……八割越えるとバッドステータスつくのね……んー、腹八分目は医者いらずって言うしな。リアル準拠ってことか。


 それと着てるのは……うん、驚きの白さ。

 武器スキルを選ばなかったからか、量販店の長袖ティーシャツにスラックスのようなズボンと運動靴のみ。右手と右足をがっつり覆っている補助装具がものすごーく浮いている。

 えーと、補助装具も、真っ白か……右手は固定と掴む動作が補助出来るタイプね。足は固定だけだけど、神経回路が修復されてくれば可動出来るようにアップデートされるのか。杖はT字やL字じゃなくて前腕固定の奴で良かった。


 それと首のチョーカー……怖いな、おい。

 痛覚は50%まで減らせるのか、50%しか減らせないのか判断に苦しむな。

 まあ、安全検査はしてるみたいだし、まずいことにはならないでしょ。

 その分、リアルと同じだけこの世界を感じられるしね。日差しの暖かさとか街の匂いとか再現度がハンパないなぁ。


 ん? ふむふむ。この四つは攻撃力も防御力もない代わりに壊れない盗まれない、と。そんでもって装飾品の枠を食うのね。

 装飾品枠は武器とかも入れなきゃいけないみたいだけど……まあ、私は戦闘しないから問題ないか。


「うわー……何だこれ」


 ステータスを見て、思わず声が漏れた。あのサイバー空間では一律10だったそれが変化している。

 ゲーム内時間で一時間ごとに更新されていくステータスがひどいことになっていた。筋力値(Str)体力値(Vit)敏捷値(Agi)知力値(Int)精神値(Min)器用値(Dex)幸運値(Luk)の内、Int・Min・Luk以外が下がっている。Str・Dexが3。Vitが装備の補正込みで10。

 Agiなんて補正ありで2だよ。いやー、Lukさんの突出具合が異様だ。


「アルファさん、《αの祈り》ありがとうございます」


 とりあえず空へ向かって瞑目のちにお礼。《αの祈り》にはこれからお世話になりっぱなしな気がするぞ。


「アルファが、どうしたの?」

「ぬぉおっ!?」


 突然、声をかけられ飛び上がるほど驚いた。

 急に地獄の底のように低く、液体窒素くらい冷たい声が聞こえれば、知り合いのものとはいえ肩がびくついたとて仕方ないと思う。

 うん、私絶対悪くない。


「あー、心臓が口から出るかと思った。りっ」

「ここではキーユ」

「……ごめん、キーユちゃん」

「ん。で、アルファって案内人(ナビ)でしょ。何したの」


 危なっ。思わずリアルの名前で呼びそうになってしまった。六華ちゃんが遮ってくれて良かった。


 でも何でこんなに不機嫌そうなんだろう。現実とは違う、ライトブルーの大きな目が半眼になっている。

 六華ちゃん……じゃない、キーユちゃんはログイン前に聞いていた通り、髪色は鮮やかな緑色で現実と違うけれど、ぱっつんな前髪とかサラサラの質感とかは変わらなかった。不機嫌そうに眉を寄せている顔も……変えてないな。肌の色が透けるような白になってるくらいか。

 それで、相変わらずお人形さんのように可愛いキーユちゃんは私の呟きにお気に召さない何かがあったらしくご機嫌が斜めになってしまっている。うん、私が何かした前提で疑ってかかってますね。


「どうせ無自覚にたらしこんだんでしょ。メグルちゃん、アルファに何を貰ったの」

「事実無根です。《αの祈り》っての貰いました」


 予想はしてたけど本当にそうだとは思わなかったみたいで、キーユちゃんの眉が左側だけぴくりと上がった。


「もしやと思ったけど、本当だとは思わなかった。そんなこと、今まで聞いたことない」

「うん、多分滅多にしないんだと思う。そんなこと言ってたし」

「……ここだと聞かれたらまずい。案内ついでにどこかお店でじっくり聞く」

「あ、うん。ありがとう」


 自然な動きでキーユちゃんは私の右側に立つ。リアルと同じように私の右手を取って、私が歩くのを待つ。リアルよりもキーユちゃんの温かさを感じられた。NRシステムはきちんと働いているみたいだ。


「メグルちゃん?」

「ううん、まずはどこに行くの?」


 ゆっくり進みながら尋ねる。近くに石切場でもあるんだろうか。ホワイトの名前の通り、この街は白っぽい石で作られた家が多い。屋根だけがカラフルで、そこで個性を出しているようだ。

 道も石畳になっていて白くて、朝らしい日差しの照り返しが若干目に刺さる。


「“ハコニワ”は食べ過ぎでも《鈍重》のバッドステータスがあるから、食べる前にまずは西区にある冒険者ギルドに行く。職業ギルドに入るのも良いけど、複数のギルド登録も可能だし冒険者ギルドの身分証が一番使いやすいからまずはそれ。

 冒険者ギルドは他のギルドより年会費が安い割にサービスがいい」

「え、年会費なんてあるの?」

「うん、冒険者ギルドは年間100ルピス。リアルで大体1000円くらい?

 ちなみに調教師ギルドは年間500ルピス。商人ギルドは1000ルピス」

「うん、とりあえず冒険者ギルドだけでいいね」


 私の所持金が1000ルピスだってのに。モンスターのテイムはいつ出来るか分からないし、商人はそもそも使う機会がなさそうだ。

 とりあえずは冒険者ギルドへの登録だけで充分だな。


「これから向かう西区は商業区とも呼ばれてる。ギルドだけじゃなくてお店や宿泊施設もあるから、一番利用すると思う。

 南区は職人区。生産するならそこで弟子入り先を見つけてもいい。

 東区と北区は住宅区。東区は教会があるから使うだろうけど、北区は用事(クエスト)がなければ入らない方がいい」

「え、何かあるの」

「北区は領主とかが住む高級住宅区」

「あー、了解」


 それから長くお世話になるだろう『ホワイト』の地理を教えて貰う。お偉いさんばかりの北区は要注意だな。


「えっと、北ってどっち?」

「あの山が見える方……何で中央から西区に向かってるのに方角が分からないの?」


 心底不思議そうに聞かれてしまう。

 うぅ、どうせ地図の読めない女だよ。地理だけはどうしても苦手なんだい。

 若干へこみながら、キーユちゃんのいる右手を仰ぐ。雪ではない灰白色に着色された山が見えた。


「おおー、でっかい」

白霊峰(はくれいほう)。麓は迷いの森があるから、まだ誰もたどり着いてない」

「えっ、もう随分経つのに」


 確か“神々の箱庭”、通称ハコニワは現実の四倍の早さで進んでるんだよね。

 ハコニワで四年も経ってるのに行けてないの? 迷いの森って言っても初心者エリアのでしょ?


「ここの運営は自由に歩き回れと言っているけど、進ませたいルートがあるみたい。

 南西の“農業の街・ピンク”以外のルートは攻略不可能レベルで難易度が高い」


 顔に疑問が出ていたのかキーユちゃんが緑の髪をいじりながら説明してくれる。

 北は未だ誰も踏み行ったことのない霊峰の麓・迷いの森があり、南は底なしになっている沼地が広がっている。東には大河が渡っていて、一見進めそうだがエンカウントするモンスターがはじまりの街にふさわしくない強さらしい。

 そして真西は白霊峰に向かってバックリと大地が裂けているので、街道に沿って“第二の街・ピンク”に向かうしかないそうだ。“ピンク”からは南西に進むと“第三の街・レッド”があり、“レッド”からは逆時計回りに攻略していってるそうだ。

“ホワイト”“ピンク”“レッド”“コーラル”“オレンジ”と攻略し、今は六番目の街“ゴールド”に行こうとエリアボスに向かっているらしい。


「“ホワイト”が中心でそれを囲むように街があるのかぁ。“ピンク”は“ホワイト”と“レッド”の間ね……それじゃあ、七番目は“イエロー”かな」


 私が呟くとキーユちゃんの足がぴたりと止まる。大きい目が更に大きくなっている。

 もしかして、当てちゃった?


「何でわかったの。その情報は攻略組しか……攻略スレッドにも載ってない極秘事項なのに」

「え、キーユちゃん攻略組なの? まあ、一陣だから自然とそうなるのかな?」

「不本意ながら誘ってくるのがいるから付き合いで。トップの人外共には及ばない」

「人外なんだ」


 笑うとじっとり睨まれる。うわぁ、「誤魔化されない」って顔に書いてある。

 別にそんなに大したことじゃないんだけど。このご時世に書籍媒体か、圧縮された電子データにしかないから掘り起こすのが大変なだけで。


「おとうさんの書斎にあったんだけど、オーラソーマとかいうカラーセラピー? の基本色がその並びだから」


 私もおとうさんの書斎にあったから知ってるだけで内容はちんぷんかんぷんだし、街の特徴とか聞いてると名前だけ借りてる感じだけど。

 おとうさんは気になると満足するまで調べるから、マニアックな古い資料が書斎に多いんだよねぇ。


「なんか“ホワイト”の作りとか見てると表面をさらっと取っただけの元ネタ多そうなんだよね」

「何で?」

「だってこの街も平安京のパロっぽいし」


 南が池じゃなくて沼になってるけど。と、私が続けるとキーユちゃんは眉を寄せてなんだか呆れた顔をした。


「メグルちゃん」

「ん?」

「四国全部言える?」

「えぇっと、みかん、すだち、うどん……愛媛、徳島、香川……あと一個……瀬戸内海? 鳴門の渦潮? 阿波踊り? 鯛? あ、なんか近付いた気がする」


 むむぅ、あと一個が思い出せない。魚が関係してた気がするんだけどなぁ。

 うんうん唸って考えていると、大きなため息を吐かれた。


「高知。瀬戸内海は徳島、愛媛、香川。鳴門の渦潮、阿波踊り、鯛は全部徳島」

「あ、鰹か! ……あれ? 高知って九州じゃ……」

「メグルちゃん」

「はい?」


 あ、キーユちゃんの顔がかわいそうなものを見る目になっている。


「知識偏りすぎ。せめて都道府県は言えるようになろう?」

「……はぃ」


 だから地理は苦手なんだってば!

 プレイヤーネーム《メグル》

《NRシステム利用中》


 種族:夢人・無

 所持金:1000ルピス

 SP:0



 ジョブ1《調教師》

 所持スキル一覧

《調教Lv.1》《識別Lv.1》《意志疎通Lv.1》

 空枠:7



 ジョブ2《商人》

 所持スキル

《契約Lv.1》《道具製作Lv.1》

 空枠:3




《ステータス》

 Str:3 7down

 Vit:10(7+3) 3down

 Agi:2(1+1) 9down

 Int:10

 Min:10

 Dex:3 7down

 Luk:15(10+5)


 称号一覧

《αの祈り》



 装備品一覧


 頭《》

 上体《夢人のシャツ・白》

 下肢《夢人のズボン・白》

 靴《夢人の靴・白》


 装飾品一覧

《補助装具・NRS腕用・白》

《補助装具・NRS足用・白》

《杖・前腕固定型・白》

《痛覚50%減少のチョーカー・白》

 空枠:6

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