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巡「さあ、ゲームを始めよう」

やっとキャラクター設定に入りました

これから、ゲーム内描写のある話には後書きにて、ステータスを表記致します。

ご興味あれば、目をお通しください。

 あれから、ある程度計画が形になるまでそこそこの時間を要した。

 二月が終わり、暖かさが見え隠れし始めた三月頭。空気はまだ冷たいけど、春彦さんから届いたカプセルハードに注ぐ日差しはぽかぽかしている。

 うん、絶好のログイン日和だ。


 お腹よーし、トイレよーし。

 時期のずれまくった新規プレイヤーとして、衆目に晒される覚悟はよーし。


「早速ログインだ」


 六華ちゃんが始まりの場所に来てくれるらしい。

 ゲームを教えて貰った翌日。私の野望を話したら、少し目を丸くしていたけれど、概ね予想していたみたいで「春彦の言った通りになった」と若干不機嫌になっていた。


 なかなかリハビリ用のゲームが決まらない私に、“神々の箱庭”を勧めてみようと言ったのは春彦さんだったらしい。

 廃棄モンスターのことを当然知っていた六華ちゃんは心配したらしいが、春彦さんは笑って言ったそうだ。


『だからだよ。巡は俺の愛して止まない順さんの娘なんだぞ。

 助けを求める声がすれば、心を奮い立たせて手を差し出さずにいられない。

 そんな、正義のヒーローみたいな奴なんだから』


 ……うん!

 なんか過大評価されている!

 まあ、野望があった方が煩わしいこと考えなくて済むけどさ!

 所詮エゴと自己満足で構成されてるんだよー!


 カプセル型のベッドの中、転げ回りたい衝動に駆られながら、私は“神々の箱庭”を起動させた。






 * * * * *






 目を開くと黒い空間にいた。少し緑がかった黒の世界は天地に格子状の緑光が走っている。

 あれだ。イメージ的には二十世紀に想像されていたサイバー空間に近いかもしれない。

 と言っても、もう四十五世紀だし。今の時代にはナンセンスなサイバー空間なんて、私のような無駄知識好き(トリビアマニア)とかしか知らないだろうけど。


『ようこそ、“神々の箱庭”へ。あなたのデータを作りますので、お名前をどうぞ』


 まだ神経回路()修復()システムはリンクされていないみたいだ。杖なしでも立てている状況を確認していると、無機質な女性の声が空間に響いた。

 久しぶりに右手をグーパーさせながら顔を上げると、白い光が収束し女性の形を作っていく。

 表情がないのが気になるが想像以上に美人だ。シンプルな白のワンピースの上を金色のロングヘアーが揺れる。ゆっくり開かれた瞳は、とろりとした蜂蜜色。

 ワンピースを持ち上げる胸部装甲が立派なのもグッドです。


「メグルで。お姉さんのお名前は?」

『メグル様ですね。登録致します……私の名前はアルファです。以後、お見知り置きを』


 アルファさんは淡々と作業を進めながら質問に答えてくれる。流石、自動車と変わらない値段のゲーム。想像以上にAIの受け答えがスムーズだ。


「よろしく、アルファさん。以後ってことはこれからも会えるのかな」

運営(GM)コールへの回答を一部担当しております。他にも業務はありますが……それはご自分で探して頂いた方がよろしいかと』

「そうだね、ごめん」


 生きていると錯覚させるほど高度なAIに、圧倒的な自由度。それがこのゲーム“神々の箱庭”の醍醐味だけど。

 まだ“箱庭世界”で見つかっていない彼女を探すのもゲームの楽しみの一つ。ゲーム開始前に楽しみをなくすことはないな。


『メグル様。映し身(アバター)の設定はどう致しますか』

「そうだなぁ……髪は思いっ切り伸ばして、上の方で一つに結んで……ああ、そうそう。そんな感じ。

 前髪は……今のまま横に流すのでいいか。あ、色はどうしようかな……留まり紺ってある? あるんだ。じゃあ、それで。

 顔って変えなきゃだめ? やっぱ、だめかー……リハビリテーション用だもんね、身バレ防止は必須か……じゃあ、舐められないように目を鋭めで。

 色かぁ……髪が寒色だから瞳は暖色でいくか。猩々緋(しょうじょうひ)でお願い。

 え? 胸? いやいやいや、盛らなくていいです!」


 淡々と私の指示に従っていたアルファさんが「胸のサイズは大きくしますか」とかいきなりぶっこんできた。

 見るならば大きい方が好きだが、自分のはどうでもいい。楽しくもないし。

 そもそもCなら盛る必要は……え、ないよね? ねぇ?


『こちらでよろしいでしょうか』


 肌色のマネキンのようなアバターが一瞬で私と瓜二つとなり、私の指示でゲーム用の分身へと変化していた。

 出来上がったメグル(わたし)は黒に近い青の髪を侍のように結い上げ、切れ長の目には燃えるような緋色がはめ込まれている。

 うん、これくらいで身バレ防止はいいだろう。アルファさんも何も言わないから大丈夫だろう。


「これでよろしく」

『かしこまりました。今、メグル様の体に同期させます』

「お?」


 結んでも腰辺りまである留まり紺の髪を摘む。さっきまで目の前にあったアバターが私に変わったようだ。

 アルファさんが出してくれた姿見で体を動かしながら再確認。うん、これでいい。


「ありがとう、これでいいよ」

『かしこまりました。では、ジョブとスキルの決定をお願いします』


 目の前に光パネルが現れ、ずらぁっと初期ジョブが並んでいる。

 前情報通り、いくつもある初期ジョブから選べるのは二つ。メインジョブにはスキル枠が十個、サブジョブにはスキル枠が五個あるのでそこを育てていく。

 キャラ作成で選べるのはメインジョブでスキルを三つ、サブジョブでスキルを二つ。ジョブによって選べるスキルや取得の為のポイントは変わる。

 初回は取得ポイントを気にしなくていいから、金策やスキルレベル稼ぎの為のスキルを取って……なんて迂遠なことをするつもりはない。

 女は度胸。目標に向かって全力前進あるのみ。


「メインジョブを“調教師”、サブジョブを“商人”で。

 スキルはメインに“調教”“識別”“意志疎通”、サブに“契約”“道具製作”でお願いします」


 悩むことなく告げた私に、アルファさんは初めて表情を見せた。少し眉を寄せたその表情は、怒っていると言うより理解出来ないものを見たと言ったものだ。


『失礼ですが、攻撃スキルがないようですが』

「あ、うん。やりたいこと決まってるから」


 きっぱりとした私の答えに、アルファさんはますます眉を寄せた。

 表情がないのはAIの簡略化の為かと思っていたが、どうやら彼女の性格のようだ。

 それならもったいない。きっと笑えば可愛いのに。


『……これは私の個人的な興味による質問です。メグル様は“神々の箱庭”で何を成すおつもりですか』


 口元に手を置き、少ししてからアルファさんは聞いてくる。

 へー、ここまでAIに自由度があるんだ。「ゲームだから」なんて考えられないな。データ上の存在だとしても、こんな反応されたら人にしか見えない。


 私の沈黙をネガティブに受け取ったようで、『お答えはなくとも結構です』と後から付け足された。

 アルファさんの目が少し揺れている。答えるつもりだから、焦らなくてもいいのに。

 気になるのも分かるしね。


 攻撃スキルがないから、戦闘がしたいようには見えない。

 道具製作スキルしかないから、生産をメインにしそうには見えない。

 そもそも調教師と商人の組み合わせはナンセンスなんだろう。

 成人してるから(二十歳以上だから)エッチなことも出来る。だけどこのジョブとスキルの組み合わせはヤリ目的には到底見えない、何か明確な意志があることを感じさせるだろう。

 私だって何も知らずに見せられたら「何で」って聞きたくなる、絶対。


「言いたくないわけじゃないんで。言うよ。

 目的は二つ。一つは分かるだろうけど、事故でだめになった右手と右足の神経回路の修復。

 それで、もう一つが……」


 少しだけ深く、息を吸う。アルファさんは先を促さず、蜂蜜色の瞳にほんのり熱を宿す。




「廃棄モンスターを、救いたい」




 私の答えに、アルファさんは大きなリアクションを見せた。目を大きく見張り、口を薄く開けている。人形のようだった顔が、一気に人間らしくなる。

 口元エロいなぁ、眼福眼福。


『そう、ですか……私達も、あの状況は胸を痛めています……そうですか……あなたは、あれを救おうと……』


 アルファさんはぎゅっと胸の前で手を握る。ほんの少し寄せられた眉が人形じみた表情を苦しそうな、泣きそうなものに見せる。

 うつむいて何度も「そうですか」と繰り返し、アルファさんは私の言葉をゆっくり噛み砕く。

 顔を上げた彼女の目は、さっきよりも温度を上げていた。


『出来るのですか?』


 アメリカ人みたいに、手を開いて上にあげてみせる。


「こうすればいいんじゃないかって閃きはあります。でも実現可能かなんて分かりません。私はまだゲームを始めてもいないんだから。

 だから試してみようと思ったんです。どうせゲームなんだから好きにしていいでしょう?

 ここは現実じゃないんだから、夢くらい見たって、理想に生きたっていいでしょう?」


 ルールなんて生優しいものじゃない、しがらみだらけの現実にだって電話一本で助けに飛んでくるヒーローはいたんだ。

 魔法が使えたり、自分で羽根を生やして空だって飛べるようになるゲームの中で、理想が叶えられないなんてあるわけがない。


 アルファさんは私の言葉を目を瞑って聞いていた。最後の一音がサイバー空間に溶けると、少し深い息を吐く。

 問いかけに答えるように、目を開く。ふわり、と浮かんだ柔らかい微笑みは薄紅色の椿が咲いたようで、思った通り可愛かった。


『……分かりました。それでは私はあなたの夢の実現を祈りましょう。

 本当は一人の夢人に肩入れするのは誉められた行動ではないのですが……あなたの行動を見守らせてください。

 あなたは諦めていた私達の、希望の光ですから』


 五歩、近付いたアルファさんが私の頬を両手で包む。目の前に現れた無粋なステータスパネルは一律10。

 そこに、ピコンと音をさせて称号が追加された。


《称号『αの祈り』を入手しました。

 αの祈り:あなたの進む道に、光が照るように。

 幸運値(Luk)に+5補正》


 とてもありがたい称号が貰えた。ポイント制ではなく、行動でステータスの変化するこのゲームではLukを上げるのがなかなか難しいらしい。

 右手足のハンデで他のステータスの上がりは悪い。高いLukは、計画の成功へプラスに働いてくれるだろう。


「ありがとう。有効に使わせて貰うよ」


 頬に触れていたアルファさんの手を握る。

 温かいそれに、彼女はこの世界で生きているのだと再認識する。


『いえ、これは私の勝手な行動ですので。

 ……長々拘束してしまい、申し訳ありませんでした。

 そろそろ、メグル様を“箱庭世界”へとお送りしたいと思います。

 このゲームにチュートリアルはありませんので、どう行動するかは各自のご判断にお任せします。

 始まりの土地は“ホワイト”と言います。

 それでは、メグル様。これから“神々の箱庭”をご自由にお楽しみください』


 手が離れ、アルファさんは深くお辞儀をする。顔を上げた彼女にもう笑みはなく、先程の無表情に戻ってしまっている。


「じゃあ、行ってくるね。あ、そうそう」

『はい』


 転移の光に包まれた私を、アルファさんは無表情に見つめ返す。


「今も綺麗だけどさ、笑うと可愛いから。笑った方がいいよ?」


 指で自分の口角を上げ、にぃっと笑顔を作ってみせる。

 アルファさんは白い頬を少しだけ赤く染めて、目を伏せてしまった。


『可愛いだなんて。そんなことを仰ったのは一万五千人の中でメグル様だけですよ。

 お戯れはお止めください』

「見る目ないなぁ、みんな」


 本心なのにおふざけと思われてしまった。

 まあ、いい。ゲームで出会ったらもう一度ちゃんと「可愛い」って言おう。


 白い光に包まれて、私は“神々の箱庭”の世界へと降り立った。

 プレイヤーネーム《メグル》

《NRシステム利用中》


 種族:夢人・無

 所持金:1000ルピス

 SP:0



 ジョブ1《調教師》

 所持スキル一覧

《調教Lv.1》《識別Lv.1》《意志疎通Lv.1》

 空枠:7



 ジョブ2《商人》

 所持スキル

《契約Lv.1》《道具製作Lv.1》

 空枠:3




《ステータス》

 Str:10

 Vit:13(10+3)

 Agi:11(10+1)

 Int:10

 Min:10

 Dex:10

 Luk:15(10+5)


 称号一覧

《αの祈り》



 装備品一覧


 頭《》

 上体《夢人のシャツ・白》

 下肢《夢人のズボン・白》

 靴《夢人の靴・白》


 装飾品一覧

《補助装具・NRS腕用・白》

《補助装具・NRS足用・白》

《杖・前腕固定型・白》

《痛覚50%減少のチョーカー・白》

 空枠:6






※NRシステム利用者様へ

 神経回路修復の為、利用者様の身体感覚は現実と同程度、補助装具着用部位については120%となっています。

 その為、痛覚耐性の設定がご利用になれませんので《痛覚耐性のチョーカー》は戦闘時には外さないようにしてください。

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