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双頭の王子

作者: 紫陽花

ちょっと頭を整理したくて書きました。(笑うところ)

むかしむかしあるところに、双つの頭に一つの体を持った王子がおりました。

しかし、王子の頭の片方は人間でも、もう片方は竜の頭でした。

竜のかんばせは人々に恐れられ、対して、人間の頭の方は大層美しいものでしたので、一層竜の頭を人は罵りました。

けれど、双つの頭はとても仲が良く、人の頭は、竜の頭が揶揄われる度に慰めました。

仲の良い双つの頭は、そのうちに自分たちのことを兄弟だと思うようになりました。竜の頭は、いつも自分の頭を優しく慰めてくれる人の頭を兄と慕い、また、人の頭の方も、虐めらても相手に仕返すことを良しとしない優しい竜の頭を、弟のように慕いました。

兄弟は一つの体を仲良く使い、お互いの苦手なことをお互いに補うことで、優れた王子に育ちました。

それでも、竜の頭は人々に疎まれ続けました。

ある日兄弟は、美しい泉を訪れました。泉には、どんな願いも叶えてくれる女神がおりました。きらきらと輝く水で遊ぶ兄弟に、女神が願いを尋ねました。

弟は考えを巡らせました。この頭を人に変えてもらおうか、それとも、自分用にもう一つ体を貰えば、兄に心配をかけなくて良いだろうか、そうだ、もう一つ体を貰って、なおかつ全身人の身ならば、一番ではないだろうか。そうだそれがいい、それなら兄に心配をかけず、今よりもっと遊べるに違いない、弟の願いは尽きません。

弟が数々の願いを叶えるために、自分を変えてほしいと願おうとしたその時、兄の方が先に口を開きました。

「弟を蔑ろにしようとする、全ての人の頭を滅ぼしたい。」

弟はそれはそれは驚き、目を見開いてすぐ隣の頭を見やりました。

「待って!」

「どうした、弟よ?」

弟が大きな声で制する声を上げるも、兄は心底不思議そうに見返すだけです。

弟は、自分が変わらなければ、自分は虐げられたままだ思っていましたが、兄は周りの環境が変われば、弟は虐げられないと思ったようです。弟にとって、周りの人々を変えるより、自分が変わった方が良いと考えておりましたが、兄の考えは、全くの真逆でした。

弟は、自分とは違う頭の、兄に言いました。

「どうして?にいさんがいつも守ってくれる、いつも慰めてくれる、いつも優しくしてくれる、今のままじゃあ、だめなの?にいさんはぼくの隣は、嫌になってしまった?」

それを聞いて、今度は兄の方が驚いたようでした。

「そんなことはない、これからも変わらない、ぼくはおまえの隣だ。」

兄は弟の目を真っ直ぐに見つめてそう言うと、女神の方へと再び振り返ります。

「ごめんなさい。願い事は保留にしたい、ぼくらはお互い今のままを望むから。」

女神は頷き、家路を辿る兄弟を優しい眼差しで見送りました。

兄弟はそれからもすくすくと育ち、どんどん立派になっていきました。

そうすると、弟は人々にますます疎まれました。

なにより、次の王様になれるのは、一つの頭だけです。そのためには、もう一つの頭は邪魔でした。

家来たちは、なんとかして竜の頭を葬れないかと考えました。けれど、片方の頭を葬れば、もう片方がどうなってしまうかわかりません。

困った家来たちは、泉の女神に頼んで、竜の頭だけを永遠に眠らせるように頼みました。

かくして、竜の頭は目覚ざめず、美しい人の頭だけが朝を迎えました。

人の頭は、弟がずっと目を覚まさないことを大層悲しみ、悲しみのあまり怒りを覚えました。その怒りは、兄の美しいかんばせを恐ろしい龍の顔に変えてしまいそうなほどでしたが、彼の弟が優しさのあまり、兄が人々に怒りを向けることすら嘆くだろうと思い、怒りを鎮めました。

代わりに、ぽろぽろと涙を流し、その美しいかんばせに、美しいせせらぎを作りました。

兄の涙は止まることなく、ひょっとすれば弟の目覚めと共に止まったかもしれませんが、それもありえないことでした。

兄のせせらぎは流れ続け、川となり、やがて泉へと辿り着きました。

その頃には、兄は、悲しみで衰弱し、事切れておりました。

そして弟も眠りについたまま、死の淵から転落し、双頭の王子は、その命を潰えさせたのでした。

辿り着いた涙の水でそれを知った女神は、願いを叶える時が来たと悟りました。




つい最近のことです。

あるところで双つの頭に一つの体を持ったものが生まれたそうです。

しかし、その頭の片方は人間でも、もう片方は竜の頭でした。


ある弟の願いは、叶うことはありませんでした。

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