影の野望
「おらぁ!!」
「死ねやぁ!!」
世界改変の後、世界の治安は悪化している。それもそのはずだ。能力という異質な力が人々に発生しているのだから。
銀行強盗から殺人。何もかもが今では、能力が使われている。政府もなんとか対処をして、犯罪者達を捕らえているが、全員を捕まえることができず、人気がないところへ逃げ込まれている。一度、逃げた犯罪者達は、より警戒心が高くなり、凶暴になる。
現に、たった一人の犯罪者に何十人もの警察が殺されている。そのため、一度取り逃がした犯罪者達は、いつも以上に作戦を練り、捕縛者の選抜を入念に。
ゆえに、選ばれた能力者は。
「うぜぇ」
「ぐあ!?」
「ぎゃあっ!?」
世界中に存在する多く存在する能力者の中から、政府が選び抜いた精鋭達。四方八方から攻められても、一払いで倒せるほどの強さを持っている。
その中でも、もっとも強い四人のことが存在し、陰と陽で分け【二天】と【二凶】と称されていた。二天は、ただただ正義のために犯罪者達を捕縛する光の使者。対して、二凶は悪を持って悪を征すの理念の下、選ばれた闇の使者だ。
「あーあ、つまんねぇなぁ。こいつらもはずれかよ」
そんな二凶が一人、悪崎玖絶。白銀の長い髪の毛を、尻尾のように束ねており、その鋭い獣の瞳で、床に倒れている犯罪者達を退屈そうに見詰めている。
根っからの戦闘狂で、誰よりも強い者を求めており、その強さを求めるためにどれだけの能力者をその手にかけてきた。その強さを買って、政府は彼に条件つきで雇ったのだ。今までの殺しをなかったことにするから、犯罪者達の捕縛をしろと。
(あーあ、殺さずにってのはめんどくせぇな。いつまで経っても、強ぇ奴に出会えねぇし、二天の奴らと戦って……ん?)
倒した犯罪者達は、他の者達に任せて廃ビルから出たところ、仮面で素顔を隠している女性が近づいてきた。素顔を隠しているとはいえ、その豊満な胸と女性特有の体つきは隠せていない。
「んだよ、またてめぇか。今度はなんだ? つまんねぇことだったら」
《まあまあ、そう殺気立たずに。いつもあなたには、いい情報を与えてあげてるじゃない》
「なにがいい情報だ。てめぇの情報はいっつも空振りじゃねぇか。どいつもこいつも、雑魚ばかりでよぉ。なんなら、てめぇが相手するか? ええ? ディスタさんよぉ」
変声機を使っているため本当の声もわからない仮面の女性の名はディスタ。ディスタというは、本名ではない。
彼女は、政府の人間であり、玖絶に犯罪者達の情報を伝える役割を持っている。二凶は、二天のように利口者ではないため、こうして実力がある伝達役を付けているのだ。
《それは遠慮するわ。それに、今度のはいつものよりもいい情報よ?》
「へえ、言ってみろ」
《この子よ》
と、一枚の写真を玖絶に投げる。
「……おい、マジで俺を舐めてんのか?」
《舐めてないわ》
受け取った写真を見詰め、玖絶は明らかに頭に血が上っている。眉をひくひくとさせ、写真をディスタに突きつけた。
「ふざけんな! こいつが強者だと? どう見ても、世界を騒がせたあの無能力者じゃねぇかよ!!」
写真に写っていたのは、平凡な少年。もはや知る人がいないんじゃないかと思うほど、有名な無能力者である二色遊だった。
玖絶は、強者を求めている。そして、何度も何度もディスタの情報で強者であろう犯罪者達と戦っていた。だが、誰もが玖絶よりも弱く、玖絶本人もかなりイライラしていた。そこへ、自信満々に紹介された相手が無能力者。これが、叫ばずに居られるか。
《ふふ、確かに彼は無能力者。でも、それはもう過去の話なのよ》
「あぁん? どういうことだそりゃあ?」
《もう、相変わらず疎いんだから……いい? 彼は、つい数日前に、能力者として覚醒したのよ》
「けっ! だとしても、元は無能力者だろ? いくら能力を得たとしても俺の敵じゃねぇよ」
つまらない。玖絶は、写真をディスタへと投げ返し、その場から去ろうとする。
《待ちなさい》
「……退けよ、邪魔だ」
《まずは、これを見なさい》
一瞬のうちに、玖絶の目の前に移動し、タブレットを見せ付ける。そこには、何かの情報が表示されているらしく、それを見た玖絶の表情は一変した。
「おい、こいつぁマジなのか?」
《ええ、マジマジ》
「で? いいのかよ。こいつは、犯罪者でもなんでもねぇんだぜ? それに、俺は楽しみてぇんだ。能力者に成り立てってことは、まだまだ発展途上だろ?」
明らかに、タブレットを見てからの玖絶はやる気に満ちている。そんな玖絶を見て、ディスタは説明を続けた。
《そこの関しては、抜かりないわ。すでに、花を開花させるための栄養分は用意してあるわ。それに、政府のほうは任せて》
「てめぇ……何を考えてやがる?」
《さあ? 何を考えているのでしょうね。ただ、楽しいことなのは確かね。あなたにとっても》
「違いねぇ。そんじゃ、花が育った時は、すぐ俺に伝えてくれや。それまで、俺はお堅い仕事でもやってるからよ」
《ええ、任せて頂戴》
・・・・・
とある小さな廃墟にて、男の三人組は円状に座り込んでいる。一人は、大柄の男で、残りは細身の男達。なにやら神妙な表情で話し合っている。
「な、なあまっさん。マジで、あいつの言うこと信用するのか?」
「どう見ても怪しい女だったぜ? 貰ったそれもどう考えたって怪しい薬だぞ」
「うるせぇな、やるつったらやるんだよ! あの無能力者にこけにされっぱなしじゃ、俺の気が治まらねぇんだ!」
まっさんと呼ばれた大男本名昌樹は、掌に小さなカプセル状の薬を手に持ち、ごくりと喉を鳴らす。
《あなた達、やり返したいでしょ? 復讐したいでしょ? なら、これを飲みなさい。私が、チャンスを与えてあげる》
(何がチャンスだよ! こんなものがなくたって、あんな奴なんか!!)
首を思いっきり振り、一度は薬を投げ捨てようとするが、すぐに振りかぶった手を止める。
(くそ! くそ!! くそおおお!!!)
「まっさん!?」
「の、飲んだ?」
一度は捨てようとした薬だったが、ついに胃の中に入れる。いったい何が起こるんだ? 二人の視線が集まる中、昌樹の体が光り出した。
「ぐああ!?」
「だ、大丈夫か!? まっさん!?」
「ああああああっ!!」
このまま爆発するんじゃないか? と二人は心配したが、光はすぐに収まる。呼吸を乱した昌樹は、膝をつき呼吸を整えながら、自分の体を確認する。
「な、なにか変化があるか?」
「いや、見た感じは」
「や、やっぱり騙されたんだよ! あんな薬ひとつで、一気に能力が向上するなんて!!」
「……」
騙されたことに怒りを露にする二人を傍に、昌樹は静かに立ち上がり、コンクリートの塊に向けて手をかざす。
すると、いつもよりも大きな炎の球が一瞬にして発現する。それを解き放つと、容易にコンクリートの塊は粉砕されてしまった。二人は、昌樹の能力の威力を知っているため、これだけの破壊力に開いた口が塞がらない状態になっている。
「す、すげぇ……マジで、強くなってやがる!!」
「マジかよ……」
「な、なら俺らも!!」
昌樹の能力向上に成功したのを確認し、他の二人も薬を飲む。同じく光に包まれ、それが収まると、すぐ能力を発動させた。
「すげぇ!! すげぇよ!!」
「まっさん!! 後は、あいつの言う通りにすれば!!」
「あぁ……! 結構は、明日だ!! あいつをここに誘い出す!! あの薬が本物だったとしたら、こいつも!! くっくっく!! 待ってやがれよ、二色遊!!!」
昌樹は、叫ぶ。遊に復讐することを誓って。