表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/32

友達ができました

「……結局いつもと変わらないなぁ」


 学校に来たのはいいが、無能力者の時と変わらない。ただ普通に授業を受け、時間が過ぎ、昼時になれば一人で弁当を広げて、静かな時を過ごしている。

 今回は、教室ではなく、屋上で食べている。それも、貯水タンクがある場所で。所謂、学校で一番高い場所だ。ちなみに、この学校には食堂もあるため、ほとんどの生徒達は食堂で食事をしている。外や教室で食べているのは、少数なため静かなものだ。


「色んな視線は感じるようになったけど、それ以外はいつも通り。やっぱり、自分から話しかけないと変わらないのかな……」


 今までは、無能力者ゆえに、異質な存在だと思われていたため、友達ができなかった。だが、今は皆と同じ能力者だ。昔とは違う。

 とはいえ、そううまくいくわけもなく。話しかけようにも、どうやって、何を話せばいいのかわからない。これが、長年一人で過ごしてきた弊害だとでもいうのか……。


「あむ」


 ため息を漏らし、遊は玉子焼きを食べる。っと、誰かが屋上へとやってきた。いったい誰だろう? 


「こっちかにゃ!」

「わっ!?」


 梯子を使わず、ジャンプで遊のところへとやってきたのは、赤髪の少女。見覚えがある。彼女は、自分と同じクラスで、水華の友達。

 名前は……。


「やほー、火美乃ちゃんだよ! よろしくなのだー」

「えっと」


 突然、正面に座り、自己紹介を始める火美乃に呆気にとられる遊だったが、一度、弁当箱と箸を置いた。


「く、国枝さん。何をしに?」

「のん! のん! 国枝さんなんて、かたいよー。火美乃って呼んで!! あたしも、遊くんって……あっ、今は遊ちゃんか。まあ、名前で呼ぶから!! あっ! 玉子焼きおいしそう! あたしのタコさんウィンナーと交換しようぜ!!」

「い、いいけど」

「わーい!! はむはむ!!」


 何なのだろうか? 遊は、いきなり現れ、弁当を広げ、おかずを交換する押し押しな少女に呆気にとられてばかりだ。

 そういえば、彼女は二日前に遊に話しかけようとしていた。しかし、それは敵わず、昨日も話しかけてくることはなかった。もしかしたら、昨日は変わってしまった遊を改めて観察していた? そして、その観察が終わり、今日行動に入った。

 

「ねえねえ、遊ちゃんはさ。どうして、女の子になっちゃったの?」

「し、知らないよ。ただ、能力だからとしか答えられないかな」

「へぇ、男の子から女の子になるのって大変だよねぇ。色々と勝手が違うでしょ? あっ、飲み物忘れちゃった!?」

「……はい、二本あるから」


 と、自動販売機で買っていたパックの牛乳を一つ渡す。


「ありがとうー!!」


 自由気ままで、天真爛漫。まるで、恐れを知らないかのような振る舞いだ。それが彼女の持ち味なのだろうが、まさかこうもぐいぐい来るとは思ってもいなかった。

 

「んぐ! んぐ!! ぷはー!! やっぱりお乳牛だね!!」

「それだと、牛本体になっちゃうんだけど」

「おー、そういえばそうだったねー。ところでさ!!」

「わっ!?」


 この子は、本当に唐突だ。まるで、何かに弾かれたかのように、首をこちらへと向けてくる。


「遊ちゃんって」


 なんだ? いったい何を聞かれるんだ? と身構える。

 むにゅん。

 突然、胸を鷲掴みにされてしまった。


「何カップなの?」

「……知らないよ」

「わはー! お、大きい……ぐぬぬ、同い年で、同じ女の子なのに、負けた気分……あたしも、大きいほうだと思うんだけどなぁ」


 自分の胸を揉みながら眉を顰める。とても悔しそうにしているが、すぐに手を離してまあいいか! と気持ちを切り替えた。

 

「いやぁ、ずっと気になっててさぁ」

「そ、そんなことを?」

「そんなことじゃないよ! 女の子にとっては、重要なこと! なのだよ、遊ちゃん様!」

「遊ちゃん、様?」


 やばい。このテンションは、初めてだ。母親の陽子や父親の鉄弥もかなりテンションが高いほうだが、彼女は別格だ。ただテンションが高いだけならば、まだ対処のしようがあるが、切り替えの早さ、言葉に変則性があって、どんなものが来るのかと構えてしまう遊。

 水華は、こんな少女と仲良くなったのか? もしかしすると、水華は思っていたよりかなりすごいのかもしれない。能力的な意味ではなく、人間性という意味で。


「そうだ!!」

「こ、今度はなに?」

「遊ちゃんは、水華とちっちゃな頃からの付き合いなんだよね?」

「まあ……そうだね」

「あたしは、高校からの付き合いなんだけど、まだどんな子なのかわからないんだよねぇ。何度も話しても、遊くんがー、遊くんがーって。なんて愛されキャラなんだ!!」


 やはり水華は、あれだけ貶されて、突き放されても、遊の心配をしている。なんで、そこまで心配してくれるのか。

 幼馴染だから? 隣同士だから? それとももっと別の……。


「別に、僕は愛されていいキャラじゃないよ。あの時の僕は、無能力者だったから」

「だから、突き放してたの?」

「知ってたんだ」


 水華から直接聞いたのだろうか。


「うん、実はね。君が、水華を突き放す現場を偶然見ちゃってさ」


 空を見上げながら、火美乃は呟く。あの時のことだ。入学式の日に、一緒に学校へ行こうと誘った水華を乱暴な言葉で突き放した。

 あそこに、火美乃が居たようだ。

 見られちゃっていたか……と、頬を掻きながら遊は一度牛乳で喉を潤す。


「ああやって、水華が皆から避けられないように悪役に徹してたんでしょ?」

「別にそういうわけじゃ」

「下手な嘘は効かないし、聞かないよー。水華だって、気づいてたよ? 遊ちゃんが、無理に悪ぶって自分を遠ざけようにしてるーって」


 わかっていたことだ。あんな下手な悪さで、水華が遠ざかるわけがないと。その証拠に次の日になったら、すぐまたお節介を焼きにきたのだから。

 わかっていて、知らないようなふりをしていた。

 わかっていても、自分にはどうしようもない。変えることが無いことだったから……。


「水華は」

「んー?」

「水華は、なんであそこまで僕のことを心配してくれるんだろう……」

「そりゃー、遊ちゃんのことが純粋に心配だからじゃないのかにゃ? あたしが、遊ちゃんの幼馴染だったら、そうしてたよ?」

「火美乃も? ど、どうして」


 未だに、どうしてなのか理解していない遊に、火美乃は笑顔で答える。


「当然じゃん。困っている人が居たら、悲しそうにしている人が居たら……助けるのは当たり前なのだー!!」


 ぴょんっと立ち上がり、元気に叫ぶ火美乃の姿に、遊は自然を笑みが零れた。


「ねえ、遊くん!!」

「今度はなに?」


 満面の笑顔のまま、火美乃は遊の両手をぎゅっと握り締める。


「友達になろうぞ!! あたし達!!」

「友達に?」

「そうそう!! だって、遊くんってぶっちゃけ、友達いないでしょ?」

「うぐっ!? け、結構ぐさっと来ること面と向かって言うね、君」


 気が利く子だと思っていたが、案外抜けていることがあるようだ。これは、付き合っていくのは大変そうだ。

 そう、付き合っていくのは……遊は、火美乃が伸ばした手を見詰め、ゆっくりと握り締める。


「えっと、改めてよろしく。ぼっちだから色々と迷惑かけるかもだけど」

「なんくるないさー」

「なんで沖縄弁?」

「それに、あたしだけじゃなくて水華も居るでしょ? 友達いないって言ったけどさ」


 今後は、彼女ともちゃんと向き合わなければならない。今までの非礼をなかったことにはできないが、ちゃんと謝って、仲直りをしなければならない。


(できるかな? 仲良く)

「できるともさー、水華だって君のことを嫌いじゃないんだから」

「え!? 心読んだ!?」

「別に? ただなんとなく、そう思ってるだろうなーってね。ほらほら! そうと決まれば、急げ急げー!!」

「わわっ!? ちょっと!?」


 まだ決心が固まっていない。しかし、火美乃は遊をぐいぐいと引っ張り、屋上から去って行く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ