金色の波動
「これは……」
遊自身も、自分がどうしてこうなったのかがすぐ理解できなかった。しかし、体に刻まれている記憶と言うのだろうか。
感覚的に、この力がどんなものなのか理解する。
「てめぇ、そのオーラは」
玖絶が警戒を高め、構えると。
「とっとと……行き過ぎた」
また視界から一瞬にして、姿を消す。今度は、すぐどこに居るのかがわかったが、距離がある。遊の反応からまだ今の力を制御できていない様子。
「新たな力ってところか。だが、計画通りだ! そいつが、開花したてめぇの力だったとしたら!」
今度は、逃がさないと突っ込んでいく。
オーラを操作し、右にも左にも移動させないように膜のようなものを張る。しかも、背後からの攻撃にも対応できるようになっているため、相手は正面から攻めるしかない。
これでどうだ! 玖絶はにやりと笑みを浮かべる。
「この力は……そうか、うん」
だが、遊は焦りを一切見せず、自問自答していた。その余裕な姿を見て、恐怖心を煽られるが、玖絶は構わず攻撃するが、金色のオーラを纏った右手を前に出し、簡単に受け止められてしまう。先ほどまでは、ほぼ互角だった攻撃力が、金色のオーラを纏ったおかげか、圧倒的に遊が上となってしまった。
引き剥がそうとも、がっしりと掴まれており離れない。
こんな小さな手に……と、玖絶は静かに見詰めている遊を睨む。
「玖絶さん」
「ぐっ!」
「勝てさせてもらいます」
いきなりの勝利宣言に、驚く間もなく、玖絶は吹き飛ばされる。一体何をされたのかもわからない。ただ、腹部に走る痛みが、考える必要もないほどに理解させる。
「がはっ!?」
「く、玖絶が膝を突いた!?」
「か、勝ったの? 遊くんが」
最初の戦いから、水華達はこの戦いは長引くと予想していた。それが、金色に輝いてから、こうもあっさり玖絶が膝をつくとは思ってもいなかった。
「わ、わーお……」
仮面エンジェルも同様だった。まだまだ楽しめると踏んでいたようで、膝をつく玖絶の姿に開いた口が塞がらない状態だった。
なんとか立ち上がろうと、痛む腹部を抑えながら足に力を入れている。
「ぐ、あ……まだだ。こんなにも強ぇなら……俺も! もっと、強く……!」
痛みに堪え、立ち上がる玖絶だったが、目に前にいつの間にか移動していた遊に体が硬直する。
オーラが……黒いオーラが、金色のオーラに怯んでいるかのように弱まっていく。
「なんでだ! くそ……! 俺は、まだやれるぞ!! おい!?」
玖絶はまだ屈していない。それなのに、オーラがどんどん小さくなっていく。こんなことは、今までなかった。彼自身も、焦りの色を見せていた。
「もう、終わりです」
「終わりじゃねぇ! 俺はまだ生きてる! 戦える! 例え、オーラがなくとも、体がある限り! 戦う意思が俺にある限り!! 戦い続けるんだ!! それが、俺の……!!」
どこまでも、強くなろうとするその姿。能力が弱まっていても、戦えると叫ぶ玖絶を見て、遊はそっと手をかざす。まさかとどめを? 水華が心配する中、金色のオーラが玖絶を包み込んでいく。まるで、包み込むように彼の黒いオーラごと。
「んだ、これ……体が……くそっ、てめぇ、なにを……」
「くーちゃんの闘争心が……消えていく?」
もっと近くで見てみたいと下りてきた仮面エンジェルは、今まで見た事の無い光景を目の当たりにして、動きが止まってしまう。
先ほどまで、飢えた獣だった玖絶から闘争心がどんどん薄れていき、再び膝を突いている。
「僕の勝ちです」
「認めねぇ、ぞ……俺は、こんな……」
だが、玖絶は遊の力に抗うことができず、そのまま地面に倒れた。もう激しい打撃音も聞こえない、今はただただ心地いい風が吹く静かな空間。
一呼吸し、手を下ろしたところで、火美乃が叫んだ。
「いえーい!! 遊の大勝利だー!!」
喜びのあまり、遊に抱きつこうと跳躍するも。
「あっ」
玖絶を圧倒したあの動きで、避けられてしまう。空を切った火美乃は、そのまま壮大に地面に落下し、再び静寂に包まれた。
「ご、ごめん! なんか、今の状態だと神経が研ぎ澄まされまくってるせいなのかな? 自分に近づくものに反応して、体が勝手に反応しちゃうっていうか……だ、大丈夫? 火美乃?」
「も、もち……と言いたいところだけど、鼻とか色々痛い!!」
あれだけ豪快に地面に落下し、おまけにスライディングしたのだ。鼻が擦り剥けただけで済んで、よかったと遊は安堵するが、火身乃自身はよくないと睨む。
「おぉ……完全にくーちゃん、寝ちゃってるよ」
「闘争心を消したんです。あの時の彼は、闘争心だけで立っていましたから」
動かなくなってしまった玖絶を色々と突いている仮面エンジェルに遊は、軽く説明をする。元々闘争心だけで、動いていたこともあり、それを彼から消せば静かになるということだ。
「それが、さっきの力?」
「そう、ですね。まだ完全に理解したわけじゃありませんが、力の一部ではあります」
すでに、金色のオーラは消えている。意識して、また出そうと試みるも、まったく出てこない。おそらく、変身の時と同じくクールタイムがあるか、回数制限があるかなのだろう。あれだけのことをやってのけた力だ。
いつでも使えるわけではないのだろう。
「……なるほど。まあ、でもやっちゃったね! 君!!」
「え?」
「だって、くーちゃんを倒しちゃったんだよ? これが、世間に広まれば……今までの生活には戻れないぞー?」
どうする? どうする? と子供のように遊の顔を覗いてくる仮面エンジェルに対し、頭を掻く。確かに、二凶である彼に勝った事が世間に広まれば、今まで以上に日常が変わってしまうだろう。しかし、このことを知っているのは、自分と玖絶を含めれば五人。
水華と火美乃は、言い聞かせれば大丈夫だろう。
ただ……。
「あー、大丈夫大丈夫! このことは誰にも言うなってことでしょ?」
「は、はい」
「心配しなくても、私は言わないよ。ただねぇ、問題はくーちゃんなんだよねぇ」
彼の性格から考えると、また勝負を仕掛けてくるはずだ。それが、誰かに見られている時に挑まれでもしたら。
「まあでも、さっきはああ言ってたけど。冷静になれば、色々と違うかもね」
「起きた時の玖絶さん次第ってことですか……」
倒れている玖絶を仮面エンジェルが軽々と持ち上げる。
「じゃ! 起きた時は、私が連絡しちゃうから、これを受け取るといい!!」
「え? あ、あの」
投げつけられた紙に書かれていたのは、仮面エンジェルの連絡先だった。
「私は、君のことが気に入った! 気軽に連絡してきてね! あっ、でも仕事中ってこともあるから。出れない時は出れないので、そこはわかってねぇ!!!」
「……行っちゃった」
「ラッキーじゃん! 仮面エンジェルの連絡先を教えてもらえるなんて!!」
「遊くん、えっと、体大丈夫?」
水華が心配していることは、先ほどの金色のオーラによる反動がないか、ということだろう。遊も、それを考えていたが、特に体に変化はなく、反動のようなものもない。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
「ううん。大丈夫ならいいの」
「ねえ! 二凶に勝ったパーティーやりたいから早く帰ろうよ! 拙者、すでに遊の部屋の飾り付けを終えているでござるよ!!」
「え!? そ、そんなことしてたの!?」
ここに来る前に、忘れ物をしたと一度火美乃だけが戻ったのだ。まさか、そんなことをしていたとは遊はもちろんだが、水華も思うまい。
「で、でもパーティーだったら明日やるんじゃ」
そう、明日は遊のお祝いパーティーの予定がある。ならば、そのパーティーに今日のことを含めればいいのでは?
「のん! のん!! 明日は、明日! 今日は今日だよ!! さあ! 時間は有限! ちゃっちゃと帰るのだー!!」
「ま、待ってよ! 火美乃!!」
「置いていかないでー!?」




