お祝いパーティー招待
「ごめんねぇ、遊。いつもの自分の調子で、コーヒー入れちゃって」
「大丈夫大丈夫。昔、母さんに付き合わされて甘いものを食べさせられたおかげで、ちょっとは耐性できてたみたいだから」
「じゃあ、今度激甘ケーキフルコースを」
「それはちょっと……」
休日を終え、次の日の朝。父親である鉄弥はすでに出かけており、陽子と二人だけのリビングで、遊は彼女の提案に苦笑いで拒否する。
「あら、それは残念。あっ、ところで話は変わるけど」
「なに?」
いい塩梅の味噌汁を啜りながら、遊を首を傾げる。
「最近、遊ってば学校でいい成績を残しているみたいね。母さん、それを篤をから聞いてもう大喜びしちゃった」
「そ、そうなんだ。まあ、僕ももう能力者だからね。今までできなかったことをたくさんやらなくちゃならないって」
元々勉学に関しては、能力の授業ができない分、力を入れていた。そのおかげで、勉学に関しては問題はない。だからこそ、今は能力のほうに力を入れている。とはいえ、勉学も疎かにしているわけではない。確かに、今の世の中は、能力が優秀であるならば、勤められる職業が多いが、それでも今までの努力を無駄にするわけにはいかないのだ。
「それに、総合能力検査でも、水華ちゃんと同じぐらい。ううん、以上の成績を取ったんでしょ?」
「それは……どうなのかな? 詳しい成績は、聞かされてないから」
それはあくまで、教師達がつけた成績のことだろう。しかし、総合能力検査は教師達以外にも、チェックしている者達が居る。その者達が、遊達をどうチェックしているのかは不明だ。
「それでもよ。次の休日、お祝いとしてどこかに食べに行きましょう! そうしましょう!!」
「いやいや、そこまですることじゃ」
「いいのいいの。だって、今まではお祝いと言ったら誕生日ぐらいだったでしょ? それに、能力者になったお祝いもやってなかったし。そうだ! どうせなら、水華ちゃんや火美乃ちゃんも呼んでみようかしら? それがいいわ!」
「ちょ、ちょっと母さん。テンション上がり過ぎだよ、嬉しいのはわかったからちょっと落ち着いて」
「きゃー! ようちゃん、テンション上がリング!!」
「母さん!? キャラがおかしくなってるって!?」
いつも以上に騒がしい朝を向かえ、遊は疲れた気分になったが、それだけ喜んでくれている。自分のことを祝福してくれていると思えば、嬉しい気持ちが勝り、少しの疲れなどなんとも無い。とはいえ、子としてはもうちょっと落ち着いてほしいというのはある。
「い、いってきまーす」
「はい、いってらっしゃーい。水華ちゃんや火美乃ちゃんに、あのこと話してみてねぇ!」
「はーい」
結局、今度のお祝いのパーティーは二色家でやることになり、水華や火美乃なども招待するようにと言われた。
(まあ、あの二人なら普通に了承するだろうし……誘うのは簡単だろうな)
「話は聞かせてもらった」
「……盗聴は、犯罪だよ」
と、家の壁に寄りかかっていた火美乃を見て、携帯電話を取り出す遊。
「ま、待って! 通報だけは勘弁!! ほ、本当は何も聞いてないから! 言ってみただけだから!!」
「本当に?」
「本当だよ! さすがのあたしでも、盗聴なんてことしないから!」
「そ、そうだよね。さすがの火美乃ちゃんでも」
「そういう水華は、なんで携帯電話を取り出してるの?」
「な、なんとなく」
火美乃の自宅は、遊と水華の家から遠く離れた場所にあるらしい。それなのにも関わらず、毎日のように一人早く到着して、二人を待っている。
こういうやり取りも、これで何度目になるか。最初は、驚いていただけの遊だったが、次第に慣れてきたのか逆に火美乃を驚かせる側になってきていた。
「こほん……それで、あのことって何のこと?」
朝のやり取りを終えて、三人仲良く並んで歩きながら、火美乃は問いかけてくる。
「ああ、うん。実は、母さんが今度の休日に家で、パーティーをやろうって」
「もしかして、遊くんの?」
「そう。本当はいいって言ったんだけど……ああなると母さん止まらないから」
「そういうことなら、私はいいよー」
「私も。遊くんとパーティーなんてすごい久しぶりだね。私も、お手伝いしなくちゃ」
ご覧の通りである。案の定、二人は、容易に了承してくれた。
「……ん?」
「どったの?」
「いや、また視線を感じたんだけど」
「また新たな盗撮班が!? 動画アップされるかにゃー」
「火美乃ちゃん、欠かさず観てるもんね」
「最近の盗撮班は、動画編集技術も半端ないですからなぁ」
「いや、盗撮したものを観ちゃだめだよ……」
などと言いつつも、遊も観ていた。だが、それは純粋に観たいとかそういうわけではない。いったいどこから撮っているのかを見極めるためだ。撮っている角度から、おおよその位置を把握し、その位置から視線を感じれば、そいつは盗撮をしている輩だ。
そうして、今まで三人のカメラを粉砕してきたのだが……まだ居るようで、動画はアップされ続けている。
(それにしても、なんでこんなことになったのか……俺も、自画自賛になってしまうんだろうけど。変身した姿は可愛いけど……)
「そんなこと言っても、ほら! あの二天の仮面エンジェルの動画だって、明らかに盗撮しているみたいな角度のものも多いよ? まあ、この人はそれをわかっていてファンサービスとばかりに、ポーズを取っている節があるけど」
火美乃が映し出した動画は、仮面エンジェルが犯罪者を捕まえているところだった。角度が明らかに、スカートの下を攻めている。
明らかに、下着を撮ろうとしているのだ。
「すごい人だな、仮面エンジェルって」
「しかも、この見せそうで見えない領域!! 仮面エンジェル殿は、わかってますなぁ」
「なんで、この角度で見えないんだろう……」
「そういう現象なんだよ。どういうわけかはわからないけど」
火美乃が出した動画から目を離し、再び神経を研ぎ澄ますも、先ほどの視線は感じなくなっている。おそらく、盗撮をしている者ではなく、いつものうまく隠れる謎の視線だろう。
いったい何をしたいのかはわからないが、いい気分ではない。
「おーい!! 遊ちゃーん、早く行こうぜー!」
「誰が遊ちゃんか。今は、変身してないでしょ?」
そもそも、今となっては変身してもしてなくとも遊と呼び捨てにされている。尚、水華には変身後は遊ちゃんと呼ばれているが、遊は気にしていない。
それが水華なのだと思っているからだ。女の姿なのに、くんづけでは違和感があるだろうと許しているのだ。
「そ、そんな! 水華はいいのに……火美乃悲しい!!」
「はい、飴」
「わーい、あまーい」
「ふふ、火観乃ちゃんったら子供みたい」
「子供でけっこー。そのほうが、毎日が楽しいからいいもんねー」
生物は成長するもの。いつまでも子供ではいられない。
(火美乃が言いたいのは、いつまでも子供のような純粋な心を忘れずにってことなんだろうな)
とはいえ、火美乃のことだ。もしかしたら、本当に子供のままで居たいと思っているのかもしれない。
「なに?」
「なんでもない。今日もいい天気だなぁって」
「そうだねー」
「え? あ、あの……」
水華が戸惑うのは無理もない。本当はいい天気などではなく、雨が降りそうな雨雲が漂う曇り空なのだから。




