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覚醒の誕生日

「……なるほど、わかった。そういうことなら、仕方ないな」

「すみません。初日から休んでしまって……」


 私立神山高校の職員室内で、遊はめがねをかけた若き教師に頭を下げている。その理由は、昨日の出来事のことだ。結局登校初日から休んでしまった。

 連絡もせずに居たが、遊の母親が気を利かせて体調が悪く、休むと伝えてくれたようだ。しかし、それでも初日からは休んだことを、気にした遊の担任が呼び出したということだ。


「気にするな。理由が本当だったら、こちらも色々と対処しなくちゃいけないからな。それに、お前の母親から俺はお前を頼まれたからな」

「ありがとう、ございます山岡先生」


 彼の名は、山岡篤。遊の母親である二色陽子の実の弟だ。昔からの馴染みで、ここに入学するのを決めたのも、陽子と篤の二人なのだ。

 知り合いが居れば、少しは気が楽になるだろうと。


「お前の担任は、俺だ。何かあったら、俺を頼ってくれ」

「はい、それじゃ俺は先に教室に向かいます」

「ああ」


 全然元気のない遊の後姿を見て、篤は眉を顰めた。


「山岡先生、彼ですか? 噂の」

「日野先生。……ええ、そうです」


 遊が去った後、篤に近づいてきたのは、栗色のサイドテールが良く似合う女性、日野奈々。この学校では、数学を教えている。

 篤の次の若い教師で、その容姿から生徒からも教師からも人気を集めている。篤が学生時代先輩だったため、何かあれば頼ることが多い。


「大変、でしょうね。やっぱり、能力がないっていうのは。私ですら、能力があるのに大変だったのに」

「それでも、彼は必死にこの世界で生きている。嫌なことがたくさんあったはずなのに、命を絶つことも無く……」


 自殺の多くは、ストレスによるものとイジメだ。特に、遊は能力者が当たり前になっているこの世界で、唯一無能力者として生まれてきた。

 嫌なことも、イジメも多かっただろう。いや、事実イジメは多かった。その度に、何度も彼が自殺しないかと心配していた。だが、彼は生き続けている。


「俺は、あいつの味方であり続ける。何があっても」



・・・・・



「……」


 教室の前まで来た遊は、中に入ることなくその場で立ち往生している。すでに、朝のホームルームが始まる時間が近づいているため、ほとんどの生徒は教室へと入っていた。

 入りづらい。

 初日から休んだため、絶対変な目で見られるだろう。


「……なんて、今更だな」


 今までだって、変な目で見られていた。無能力者であるがゆえに、自分へ向けられる視線は……変わらない。

 決心がついた遊は、何食わぬ顔でドアをスライドさせる。


「……おはよう」


 遊が入って来たことで、教室は静寂に包まれる。だが、遊はそんなの関係ないとばかりに、普通に朝の挨拶をして、自分の席へと歩いていく。


「ゆ、遊くん。お、おはよう」

「……」


 どうやら同じクラスだったようで、水華が挨拶をするが、遊はそれを無視する。

 本来、席順は定められた順番があるが、遊は特別だった。無能力者がゆえに、遊はいつも一番後ろで、一番端、窓側になっている。

 高校でも、それは変わらないようだ。


「ねえ、水華。あの人がそうなの?」

「え? あ、うん」

「あたし始めてみたよぉ! 本物! それで、水華は幼馴染なんだっけ?」

「そうだけど、あの火美乃ひみのちゃん。遊くんはね」


 どうやら、水華はさっそく友達ができたらしい。水華の成績ならば、もっと上の高校も目指せたはずだ。にもかかわらず、その全てを捨てて遊が通う高校を受験した。

 中学までの友達も少ないが、水華なら心配いらないと思っていた。見た目は、赤い髪の毛を下結びツインテールにしている元気な少女。気弱な水華とは対照的だと言えるだろう。


「ちょっと話しかけてみようかにゃあ」

「ひ、火美乃ちゃん!?」

「こらっ、国枝くにえだ。もうホームルームの時間だぞ。原田もだ」

「ありゃ?」

「す、すみません! 今、席に戻ります!」


 火美香が遊に話しかけようとしたところで、篤がそれを止める。二人が、自分の席に戻ったのを見て、篤は嬉しそうに遊の近くへと移動し。


「よかったな。水華以外にも仲良くできそうな奴が居たみたいで」

「……」


 確かに、彼女ならば仲良くできそうだ。彼女からは、邪気を感じられない。ただ純粋に遊に興味があるようだ。しかし、ただ無能力者だから、というだけかもしれない。

 聞くだけ聞いて、すぐ興味を失うかもしれない。

 そこから仲良くできるかは……わからない。


(そういえば、明日は僕の誕生日だったな……)



・・・・・



 今日で、遊は十六歳となる。しかし、素直に喜ぶことができない。能力者達は、歳を重ねる毎に成長することが多い。

 しかし、遊は無能力者。誕生日を迎えても、ただ歳を重ねるだけ。世界改変前となんら変わらないんだ。だからこそ、毎年の誕生日は、憂鬱な気分になる。


 ただ、昔は希望を持っていたんだ。

 もしかすれば、歳を重ねれば、自分に能力が発現するんじゃないのか? と。十歳まで、ずっとそんな希望を持ち続けていたが、今ではもう希望などない。


(はあ……今日も憂鬱だな)


 誕生日なのに、いつもと変わらない朝だ。


(母さんや父さんは、いつもと変わらず僕のことを祝福してくれるんだろうけど……)


 どんなことがあろうとも、父と母、そして篤や水華は遊を見捨てなかった。だからこそ、今もこうして自分は生きていられるのかもしれない。

 誰の助けも無かった場合は、早い段階で自殺していたかもしれない。世界から見放された自分の人生など……早く終わらせたほうがいいと。


(今日は、どんな料理が出てくるんだろうなぁ……ん? なんだ、体に違和感が)


 ベッドから起き上がり、背を伸ばしたところで、体の違和感に気づく。なんだかいつもより体が軽い。それに肌がすべすべしている。

 なによりも……胸部と股間部分に極度の違和感が。


 むにゅん。


 むにゅん? 震える手で違和感のある胸部を触ると、とても柔らかい感触があった。明らかに、膨らんでいる。それもかなりの大きさだ。

 D? Eはあるか? ありえない。男でこんなことは……と、最後に股間部分を触ろうとした刹那。


「遊。朝食ができたわよ、今日はね、あなたの誕生日だから、いいお味噌を……つか、って」


 遊の部屋に入って来た女性、母親である陽子は、時間が停止したんじゃないのかと言うほど硬直してしまった。

 ……当然といえば当然であろう。なにせ、今の遊は。


「か、母さん? 僕は」


 体が、金髪ロリ巨乳な美少女へとなってしまっているからだ。

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