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どうしたらいい……。

「失礼します」

「いらっしゃい、遊くん。ごめんなさい、学校なのに」

「いえ。僕も、自分の能力について色々と知りたいと思っていたところなので」


 能力者になってから早一週間が経っている。ようやく、紗江から連絡があったのだ。学校には、病院に行くため遅くなると連絡を入れておいたため、遅刻にはならない。

 用意された椅子に腰を下ろし、さっそく紗江と話し合うことにした。最初に情報を提供したのは、遊だ。この一週間で、自分が試し、わかったことを話終えると、なるほどねぇと紗江は情報をデータとして残しながら頷く。


「ありがとう、遊くん。じゃあ、次はこちらから情報を提供します。ただ先に謝罪します、ごめんなさい。遊くんほどの情報は提供できません」


 それもそのはずだ。遊の能力について調べたいのであれば、遊の協力の下、調べるべきだったのだ。


「だけど、遊くんが知らない情報は提供できます」

「その情報というのは?」

「はい。能力覚醒の初日に調べたあなたのデータを解析したところ、遊くんの能力は後から与えられたものではなく、元から遊くんが持つはずの能力だったんです」

「じゃ、じゃあ僕は無能力者じゃなかった?」

「いえ、正確には無能力者でした。ただある条件を満たした時に、能力が遊くんの体に戻ってくるようになっていたんです」


 紗江は語った。遊は、本当に無能力者だった。だったら能力はどこに? いくら調べても、遊に能力が覚醒する兆しなどなかった。

 それもそのはずだ。

 遊の能力は今まで別の場所にあったとのこと。遊が生まれた当時の技術では、そこまで調べることができなかったが、今違う。無能力者から能力者へとなる世界初の現象に、世界中が技術力を結集させ、調べ上げたそうなのだ。


「それは、わかりましたけど。どうして、別の場所に?」

「おそらく、その能力が強大がゆえに、器を破壊してしまう恐れがあったから、だと思います」

「なるほど……」

「どうしたの?」


 世界の技術力を結集させ、調べたのは理解できた。しかし、その結果をどうして有名とはいえ、病院の女医が? 遊の担当だから? 謎だが、今あえて触れないでおこう。

 

「いえ、なんでも。それで、この後は? 何も無いようでしたら、学校へ登校したいんですが」

「待ってください。変身時のエネルギーと変身解除時のエネルギーのデータを取りたいので、ご協力できますか?」

「え? で、でも」


 一度変身し、解除してしまえば、しばらくクールタイムのため変身できない。なので、いつもは解除するにしても自宅に帰ってからだった。

 そうでなければ、無能力者当然だからだ。なので、紗江の提案を呑もうかどうか悩んでいると。


「あー、やっぱり無理ですか? 一度変身を解いてしまえば、あなたは無防備ですものね」

「……」

 

 けど、自分のことを、能力のことを知りたい。最近は、誰にも絡まれることも無いし……大丈夫か? と遊は首を横に振った。


「大丈夫です。僕も、自分のことを知りたいので」

「……ありがとうございます。では、さっそくこっちの解剖室に」

「解剖!?」

「冗談です。そんなことはしません。ささ、変身して裸になっちゃいましょう」

「裸になる必要は?」

「もちろんないけど、純粋な興味ですかね? 大丈夫よ、女性の裸は見慣れてるから」


 そういう問題ではない。やはり、承諾したのは失敗だっただろうか……遊は、ため息を漏らしながらも紗江のデータ収集に協力をした。

 もちろん、裸になることはなく、変身し解除する。たったそれだけだったのに、ドッと疲れた気分のまま学校へ遅れて登校して行った。



・・・・・



「へぇ、そんなことがあったんだね」

「うん。でも、これでよりいいデータが取れたと思う。早く、この能力のことを完全に理解して、操れるようにしなくちゃだし」


 病院に行ったその日の放課後。遊は、机に突っ伏し、今日あったことを火美乃に話していた。もはや、変身することができない。

 できたとしても、まだ時間がかかる。そのため、学校へ行く時も気を張っていた。大丈夫だろうと思っていても、能力が使えないというのは不安だ。無能力者だった頃は、いつも気を張っていたのに、能力者になってからは、若干の油断というものができている。そのため久々に気を張ったせいで、疲れが出てしまっている。


「だよねぇ。そういう時は、特訓あるのみ!! 付き合っちゃうぜー! 特訓!! あたし、そういうの大好きだからぁ!!」

「特訓かぁ……」


 今までは、そんなことを考えたことなかった。今は、自分の能力を理解することが先決だと。だが、火美乃の言うように能力者になったということは、特訓も必要だろう。いつまでも、使いこなせないようでは能力強化授業に参加できない。

 篤の考えで、安定しない今は参加しないほうがいいと、ここ一週間は見学ということになっている。だが、いつまでもそうではいられない。学生として、単位に響くから。


「ところで、水華は?」

「なんか、用事があるって言って先に帰ったみたいだけど」


 少しずつだが、遊は水華と会話することができていた。ただ、本当に少しだ。周りから見れば、かなりぎこちないものだが、それでも水華はとても嬉しそうに遊と会話をしているのはわかる。

 今日も、火美乃ではなく遊に用事があるため早めに帰宅すると伝え、放課後になった瞬間、教室から出て行った。


「あー、なるほどね。一番に出て行ったと思ったら、そういうことだったのねー。どんな用事なのかにゃ?」

「わからない。そこまでは聞いてなかったから」

「じゃあさ! これから」


 火美乃が何かを提案しようとしたが、携帯電話の着信音で、言葉が遮られる。どうやら、火美乃の携帯電話のようだ。


「えへへ、ごめんごめん! ちょっと待っててねぇ」


 送られてきたメールを確認した火美乃は、一瞬見た事の無い険しい顔になるが、すぐいつもの表情に戻り、携帯電話をポケットに仕舞った。


「ごめんねー! あたしも用事ができちゃったから、これで!! ちゃんと寄り道せず帰りなさいよ!! 少年!!」

「君は、僕の親か何かか」

「それだけ心配してるってこと! じゃじゃねー!!」


 火美乃が去ったことで、遊もこの教室に残る必要性がなくなった。暗くならないうちに、早めに自宅に帰ろう。今の自分は、能力を使えないのだからとバックを持って、真っ直ぐ玄関へと向かい、学校から出て行く。


「ん」

「え?」


 校門を出たところで、見知らぬ子供が封筒を突き出してきた。


「これ、渡せって」

「誰から?」

「わかんない。顔隠してから」


 遊は、封筒を受け取り、その場で開封する。中に入っていたのは、手紙と一枚の写真だった。


「こ、これって!?」


 写っていたのは、水華だった。しかも、ただの写真じゃない。捕まっているのだ。どこかはわからないが、廃墟のような場所の柱に水華が拘束されている。

 そして、両脇に写っているのは、あの時、遊をサンドバックとして痛めつけた三人組の二人。

 

「じゃあ、こっちの手紙は」

〈よう? 元気にしてるか、元無能力者! てめぇの大事な女は預かった! 返して欲しかったら、一人で地図にある廃墟に、十六時半までに来な!! じゃねぇと、この女がどうなっても知らねぇぜ!!〉

「水華……!」


 だけど、どうする? 今は変身することができない。助けに行っても、能力が使えないのであればやられるだけだ。


(いや! なに弱気になっているんだ! そもそも、よく考えたらあの水華が、そう簡単に捕まるはずがない)


 水華は、あの二天候補に数えられていたほどの実力者。いくら力が上がったとはいえ、水華が捕らえられるはずがない。この写真に写っているのは、偽者の可能性がある。だが、水華の手首に取り付けられているものに、見覚えがある。能力を使えなくする手枷だ。これが、取り付けられているということは……。

 そうだ。水華に連絡をすれば……と、携帯電話を取り出すが、連絡先を交換していなかったことに気づく。


(なんてこった!! こんなことなら、勇気を出して連絡先を交換しておけばよかったぁ!! ハッ!? そ、そうだ! 火美乃! 火美乃だったら!!)


 水華とすぐ友達になった火美乃だったら、連絡先を知っているはずだ。


「火美乃……火美乃……! 出てくれ……!」


 すでに、七回ものコール音が鳴っているのにも関わらず、全然火美乃が出る気配が無い。この一週間で、何度か通話をしたことがあるが、こちらからかければコール音一回鳴るかどうかというところで出てくれる。

 それなのに、今日に限って全然出てくれない。どういうことなんだ? まさか、先ほどの用事とやらで、電話に出ることすら難しい状態なのだろうか? 


「くそ!」


 柄にもなく取り乱す遊。考えろ……水華の家に聞きに行くか? だめだ。十六時半となると、時間がなくなってしまう。この地図の通りだと、ここから走っても十五分はかかる。

 今の時点で、十六時五分だ。

 罠か? それとも真実か? どっちを信じたら良いんだ? こうして、考えている時も、刻々と時間は過ぎていく。


「……」


 遊は、何かを決心したかのように、封筒をぎゅっと握り締め、走り出した。

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