プロローグ
新作でございます。
地球は、いまや能力者達で溢れるとんでもない世界へと変わっている。それは、突然に起こったことだ。地球全てを包み込み光が、全てを変えた。
後に、この異変を【世界改変】と呼ばれるようになった。
人々は、空想だと思っていた特殊能力を発現させた。炎を操る者、水を操る者、風を操る者から重力や、空間を操る者まで。
世界改変から五十年経った今でも、未発見の能力があるんじゃないかというほど、その数は多い。
そのため、情報機関も飛躍的に進歩し、教育施設も世界中で尚数を増え続けている。
そして、生まれてくる子供達は、全員が必ず何かしらの能力を持っている。
それが当たり前となっている世界に……一人だけ、仲間はずれな少年が一人存在した。
「あー……」
ここ五十年、絶対なかった。
「なんで僕だけ……って、これも何回目だろうな、言うの」
能力がない子供など。
「おい、あいつだろ? 仲間はずれの無能力者って」
「ああ、それなのによくこの学校に入学できたよな。能力者しか入れないのに」
陰口を言われている少年は、全然気にしてなさそうにその場から離れていく。二色遊は、無能力者だ。
それは、生まれた時に行われる能力検査で証明された。これは、前代未聞。この五十年の中で、絶対なかったことのため、世界中が彼のことを注目した。
何かの間違いじゃないのか? 誰もがそう考え、遊は世界中の全ての機関で検査を行った。
しかし……それでも、結果は変わらなかった。
彼は、世界改変始まって以来の無能力者。
能力がないゆえに、彼には苦難が纏わりつく。力の差、それが一番の苦難だ。世界改変時代の喧嘩は、もはや普通の喧嘩ではない。
能力を使ったアニメや漫画のような能力バトル。だが、能力のない遊は、抗っても能力者には勝てない……。そのせいもあってか、イジメが堪えなかったが、そのおかげもあってか、遊はそれなりに喧嘩が強くはなかった。
しかし、それは常人でなら強いだろう。しかし、この世の中は、能力者で溢れている。常人より喧嘩が強いだけでは、敵わない相手が多すぎる。まだ能力を使いこなしていない、もしくは弱い能力者だったら、勝つことは可能だろう。
(能力者しか入れない……違うな、今では能力者な子供達が普通だから、そういう学校しかないんだよ、馬鹿)
無能力者だとしたら、世界改変以前の人間達。世界改変以降の人間には、必ず何かしらの能力が与えられる。すでに四十年も経っている今や、学校に通う少年少女は、能力者だけ。
遊のような無能力者はいないのだ。
とはいえ、遊だけのために学校を作るのも違う。そこで、世界が考えた方法は……遊だけ、能力者への特別授業の時間の時、別教室で授業を受けるということだ。
「ゆ、遊くん!」
「……なんだよ、お節介女」
今日が、入学式。憂鬱のまま、遊は一人で桜の花びらが舞う道を歩いていると、一人の少女が駆け寄ってきた。それをめんどくさそうに、睨む遊。
「い、一緒に学校に行こうよ。ね?」
彼女は、遊の幼馴染で、原田水華。多くの水を操る能力者の中でも、ダントツと言ってもいい使い手。
運動神経は悪いが、能力者としては優秀。水色のセミロングヘアーに赤いリボンをつけ、気弱な性格ではあるが、時折呆気に取られる強引さには遊も負けることがある。隣同士ということもあって、昔から遊のことを心配してくれているが。
「やだよ。僕は、一人で行く。僕には、関わるなっていつも言ってるだろ。うざいんだよ、そういうの」
「ゆ、遊くん!」
遊は、その全てを回避している。水華へと乱暴な言葉を投げ捨て、早足でその場から去って行く。追いかけようとする水華だったが、遊の言葉が過ぎったのか足が止まった。
(遊くん……)
水華が追いかけてこないことを確認した遊は、頭を掻き歩き始める。
(……そうだ、それでいいんだ水華。僕なんかに関わるんじゃない、こんな無能力者に)
先ほどの言葉は、本心ではない。水華を遠ざけるためのもの。自分のような無能力者にいつまでも付きまとっていたら、確実に水華ものけ者になる可能性がある。彼女は、それでも一緒に居たいと昔から言っているが……それでも、自分のせいで水華が傷つくのは見たくない。
遊は、心苦しい決断ではあったが、何度もひどい言葉で遠ざけてきたのだ
「それでも、次の日には忘れたかのようにまた来るんだから、本当お節介な奴だよな」
本当は嬉しいんだ。能力者が絶対な中で、自分だけが無能力者。のけ者なのに、水華はそれでも自分のことを見捨てずに居てくれる。
水華だけじゃない。親だって……。
「おい、お前だな? 噂の無能力者ってのは」
「……誰だよ」
水華から大分離れたところで、いかにも不良な三人組が目の前に現れる。一人は、掌で炎の球を出現させ、一人は雷を発現させている。
真ん中に居るリーダーのような角刈りの男は、にやりと笑い遊の胸座を掴む。
「ちょっと面貸せよ? 言っておくが、拒否権なんてねぇぞ?」
すると、両脇に残りの二人が囲むように移動してくる。確かに、逃げられない。
だったら。
「わかったよ」
「いい子だ」
その後、人気の無いところへ連れて行かれ。
「へっへっへ、いやぁすっきりするなぁ」
「ああ。無能力者だから、能力で抵抗されることもないから、サンドバックとして最適だな!」
「そんじゃ、さっさと行こうぜ。またな? ストレスが溜まった時は、よろしく頼むわ」
容赦なくサンドバックにされた。
致命傷にならないように能力をぶつけ、蹴り、殴り、遊は入学初日からボロボロだ。制服は、能力者用なために汚れはするが、破損してはいない。
何度も反撃をしようとはした。だが、今はやる気が出ない。全身が痛む中、遊は口元の血を拭い、青空を見上げた。
「……なんか、もうめんどくさくなったな。今日は、帰るか」