地図
どうせだったらもう少し背の高い鳥か空飛べる鳥にして欲しかったぜ、と看板を眺めながら首を伸ばしていた俺だったが、そもそも鳥になる必要などまったくなく、「というか元々人間のままでよかったので他の動物になる必要も全くないんだよな」と気が付いた頃には、ある程度看板の内容を頭に入れることが出来ていた。
実はこの看板を目にした時、真っ先に気づく点…いや、気が付くべき点があったんだが、なんというか、それよりも先に看板の内容…つまり看板に書かれている情報の方が重要だと思い込んでいたんで、その辺に関して気が付いたのは大分後になってからだった。
とりあえずその看板に描かれていたことで、わかったことだけ整理することにする。
一つ、この看板に描かれている内容は非常に簡略化された地図のようなものであった。例えば、よく旅行なんかに行ったとき、旅先で渡されるイラスト観光マップみたいなのがあるだろ? ああいう大まかな現在地と道筋が描かれた地図みたいなものが正にこの看板なのだ。
この手の地図は道筋の距離感が掴めないから、個人的にはあまり利用したいと思わなかったりするんだが、自分がどういう場所にいるかもわからない今この状況では、たとえ大まかなものでも大体の位置を確認できる非常に頼りになる存在だ。
二つ、どうやらこの看板は相当古いものらしい。その証拠に所々塗装が剥げたり錆びついていたりしている。看板自体に大きな損傷が見られない所をみると、恐らく長い年月をかけて雨風に晒された結果と言えるだろう。おかげ様で、これが地図であるということは辛うじて認識できるが、そこに書かれている文字らしい文字は殆ど読めなかった。まぁ、地図だからそれほど、大した文字数も書かれていないのだろうが。
虫食いのようになっている文字をなんとか読んでみると「き…岳の…」とは辛うじて読める。
うん、なんのことかさっぱりだな。
地図があったということは非常に重要な情報と言える。なにせ人工物だから、この世界にはこれを作った人間がいるっていうことだ。
なんとなくだが、まだ頭の片隅に、俺は異世界チックな冒険譚に巻き込まれてしまって、ペンギンというモンスターとなって、この世界で第二の人生、いや鳥生を歩まねばならないのかという思いがあったので、この地図のおかげで多少は現実感を思い出せたというものだ。
しかし、肝心の地図の内容っていうのはちっともわからない。長い間放置されていた様子で擦れ具合がひどく、地図のイラスト自体が不明瞭だ。せめて文字が読めれば違ったんだが、そもそもの文字数が少なそうだし、読めるのが「き…岳の…」ではなぁ。
と、ここまででようやく俺ははたと気が付いた。
そう、この看板が地図であること、とても古いものであることも、もちろん大事だ。
これは人工物であってこの世界に人がいるっていうのも間違いないだろう。
文字が読めたのだって奇跡的に幸運と呼べるんじゃないか。
…そうだよ。なんで文字が読めるんだよ。これって日本語じゃねぇか?
ペンギンの、俺の小さい目が大きく開いていた。
かすれている文字をよくよく読んでみると「きぼうヶ岳の地図」と書いてあるようだった。
それは紛れもなく、俺が人間であるときに住んでいた所在地。「きぼうヶ丘」の地名であった。
前投稿から5ヵ月も空いてました…。
精進します。