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発見

 ああ、なんてこった。

 

 とんでもないものを二つ見つけた。

 俺は川岸の反対側に向かって、気づかれないようにそれに視線を送る。

 

 一つは…この森のことを知る手がかりになるかもしれん。だが、もう少し近くで見ないとはっきりわからない。できれば近くに行って確かめたい。

 もう一つは単純だ。見ればわかる。というかソイツが近くにいるから、その手がかりを確認できないでいる。…来るんじゃなかったなぁ、こんなとこ。

 

 それは古く錆びついてはいるが、明らかに人の手で作られた、森の全体像的な物が描かれた看板と、体長2メートルはあるじゃないだろうかという獣。いわゆる、巨大な熊だった。




 ペンギン生活も気が付けば2週間になるだろうか。

 この森の生活も大分馴染んできた俺、というかいい加減やることがなくなって暇になってきた俺は、10日目を迎えた朝、この森を抜けるために川を下ってみることにした。

 当たり前だが、この姿になってからというもの、一日の流れと言えば、日中は川に潜って魚を捕り、日が暮れれば木陰に申し訳程度に作った寝床で寝るだけなのだ。

 最初の内は森の奥から猛獣が出てくるんじゃないかと警戒していたから、すぐに逃げられるように川の近くで陣取っていたが、どうやら俺の生活範囲には動物らしい動物はいないようだった。

 なんだろう、小動物の一匹くらい出くわしてもいいはずなんだが、どういうわけか、肉食動物にも草食動物にも出くわさない。不思議なもんだ。


 まぁ、おかげ様で危険な思いをすることなく、ペンギンライフを満喫することはできたが…、ひたすら魚を食って寝るだけの生活ってのは正直苦痛だった。退屈過ぎて逆に死ぬ。

 いや、普通の動物だったら食って寝てりゃあ生きていけるだろうけどさぁ。

 まして天敵がいなくて毎日食料が調達できるなんて贅沢な話なんだろうけどさぁ。

 申し訳ないが、こちとら元は人間だ。毎日代り映えのしない森の中で、一人孤独に魚を食って寝るだけの生活ってのは結構精神にくるもんだぜ。 

 

 と、いうわけでだ。

 住み慣れた場所を離れるのはリスキーだと十分に理解していたが、現状を維持していてもジリ貧になるのも明らかだ。

 このまま黙って時が過ぎればもしかしたら元の姿に戻れるのかもしれないという淡い期待を持っていたが、あいにく世の中そんなに上手くはいかないらしい。

 まぁ、なんの手がかりも掴めてないしな。

 だったらもう新天地を目指すしかないだろ? 贅沢かもしれんがいい加減ここも見飽きたし、魚だって食い飽きた。つまりはこの場所から巣立ちする良い頃合いってやつだ。

 幸いに目の前は川だ。これを下っていけば森自体は抜けれるはずだろ。こんだけデカい川だからきっと海まで繋がってるだろうしな。

 どこまで行けばいいのか見当もつかないが、ここに留まってるよりは何倍もマシだ。

 よっしゃ! こうなったらいっそダンジョンの探検よろしく冒険のつもりで、張り切って行くぜ!




 そんな感じで出発したまでは良かったんだがなぁ。川を下って行くこと自体も間違いではなかったんだろう。こうして、少し開けたところにでて、川から上がって何の気なしに後ろを見たら、手がかりらしいものを見つけたわけだしな。

 でもさぁ…。熊はないでしょ? 

 なんで今まで動物らしい動物も出てこなかったのに、あんな最強クラスの猛獣が出てくるわけ? 

 もうちょい段階踏んでくれよ神様よ。

 

 巨大熊は呑気にあくびをしながら、その森のマップらしき看板にもたれながら居座っていた。描写だけ見れば間抜けだが、あの巨体に鋭い爪を持ちながら岩石のように居座っている姿は遠目に見ても大迫力だ。

 熊って動物は、陸上では時速60キロで走れる上に、一度獲物と決めれば、どこまででもそれを追ってくる執着心を持ってると聞く。

 木登りや泳ぎも上手いから、森の中では逃げ切るのは難しいらしい。

 ネットで得た知識だから確かなことは言えないけど。とにかく、この密林の中では生態系の頂点にいるような動物で間違いないだろう。

 

 しかもめちゃくちゃデケーし。

 アレか、ペンギン目線から見てるからデカく感じるのか? にしたってデカすぎだろ。

 幸いにも今は向こう岸にいるから気づかれちゃいねーけど、あんなのに襲われたらペンギンさんなんか瞬殺されちまうぞ。今晩は鳥肉のどんぐり添えだぁ。みたいな感じで熊の食卓に並べられちまうよ。

 でも、あの看板は確認したいしなぁ。間違いなく人工物だもんなアレ。

 少なくともこの森がどういうところなのかを掴む手がかりにはなりそうだし、ひょっとしたら、人間がいるところがわかるかもしれない。

 

 こうなったら持久戦だ。ハッキリ言ってめちゃくちゃ怖いが、熊だってずっとあの場所に留まっているわけじゃないだろう。いずれは餌を取りに行くなりして、どこかにいなくなるはずだ。

 それまで、こっちの木の陰で息を潜めていようじゃねぇか。奴がいなくなったら速攻で看板を確認して速攻でこの場を立ち去ってやるよ。

 

 …なんか木陰に隠れてばっかだな俺。


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