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活動

 結論から言おう。人間、なんとしようと思えば意外と何とかなるものだ。

 俺はペンギンだけど。


 そう、川に落ちて間抜けにも死んじまったかのように思われた俺だが、気が付けば見知らぬ森の中でなぜかペンギンという姿を持って覚醒した。

 そんなペンギンになってかれこれ5日になる。

 ようやく、このペンギンの体ってやつに慣れてきた頃合いだ。初めは歩くのも一苦労だったな。よちよち歩きから派手に須っ転んだりしたもんだ。

 後は手が羽になっちまったから、物が持てなかったり掴めなかったりで大変だった。改めて人間の手の器用さ便利さが分かった気がする。だがまぁ、今では大抵の物はクチバシで運べる様にはなったからよしとしよう。

 そういや、泳ぎに関しては自分でもびっくりするぐらい速く覚えたな。さすがペンギンの体というか、本能レベルでどこをどう動かせばいいかすぐにわかった。

 元々俺は泳げなかったし、この上達っぷりにはさすがに興奮したぜ。なんといってもスイスイ泳げる爽快感が凄い。水中を自由自在に動けるという全能感で脳汁がヤバかった。

 魚も丸のみするのに抵抗があったが、すぐに慣れたしな。今では泳ぎながら食う始末である。

 うーん。初めはどうしたもんかと悩んだが、思いのほかペンギンライフを満喫しているなぁ、俺。 


 どうやったら元の姿に戻れるのか? どうすれば元居た場所、つまり日本に帰れるのか?

 初めてこの森に来た直後、さんざん悩んだ末に、結局なにも考えつかなかった俺は、気が付いたらペンギン特有の「直立」しながら「睡眠」という器用なことをやってのけ、次の日の朝を迎えていた。

 うん、我ながら、今にして思えば不用心極まりなかったぜホント。

 こんな何が潜んでいるかもわからない得体の知れない森の中で、なんの備えもなく呑気に立ち寝してたかと思うと、生きていられたことに感謝しなきゃならん。

 いや、だってもし森の奥からヒョウやオオカミとか、いわゆる猛獣が出てきたら速攻でやられるだろ? 今でも姿こそ見えないが、こんな森の中だ、大型小型問わず肉食獣が潜んでいても不思議じゃない。

 なんたってこっち空は飛べない鳥代表格のペンギンさんだぜ? 飢えた肉食獣からしてみたら、丸々太った肉の塊でしかないだろう。

 いわゆるネギ背負ったカモってやつだ。…いや、肉纏ったペンギンか。

 



 つーわけで、当面は身の安全を確保しつつ、この森で生活する術を身に着けることにした。

 川辺を拠点として、いざという時すぐ対応できるようにペンギンの体の使い方を学習していたのだ。

 人間の手は使えないが、頑丈で取り回しやすいクチバシある。陸上で足は遅いが、水中では魚よりも速い。丸っこいフォルムの中身は脂肪も多いが、体を支える為の筋肉がしっかり身についている。要するに頑丈なのだ。派手に須っ転んでもまったく痛くないくらいには。

 ペンギンなんて水族館のマスコット的な存在としか思ってなかったが、この環境でも問題なく生きていけるあたり、ペンギンの体というのは良くできているのだと実感した。

 悲しいかな、間違いなく俺は人間時より逞しくなっているだろう。

 とはいえ、仮に猛獣に襲われたら勝ち目はないので、全力で川に逃げるルートだけは確保していた。とりあえず水の中ならいくらでも動けるからな。もしワニとかいたらどうなるかわからないが…うん、あまり考えないようにしよう。

 そんなことを考えながら、なんとかかんとか5日ほどのペンギンライフを過ごしてきたというわけだった。

 



 なぜ俺がペンギンなんてものなっちまったのか? 

 なんだってこんな辺鄙な森の中にいるのか? 

 元の姿に戻るためにこれからどうすればいいのか?

 そもそも、ここは一体どこなのか?

 考えることは山ほどある。しかし考えてばかりいても始まらない。

 黙っていても、時間は過ぎていくし、腹も減る。

 大事なのは今この瞬間を生き延びることだろう。死んじまったら元も子もないからな。

 …人間の方の俺はあの時死んじまってるかもしれんが。

 い、いやでも、そういう場合ってアレだろ? 「転生したらチートペンギンになってましたwww」みたいなのだろ? ほら、主人公が死んじまったら異世界の神様かなんかが出てきて、RPG的なステータスを授けて、別の人間または生物になって人生やり直す的な奴だろ? 

 俺神様にも会ってないし、ステータス表示とかスキルとか魔法とか念じてもなんも出ないし、大体モンスターっぽい生き物も出てこなければ、俺自身がペンギンっていう普通の生き物だし。




 ということは、だ。

 要するにこれは普通の世界で俺自身はまだ生きていて、なんやかんやで俺の精神だけがこのペンギンに乗り移っているっていうパターンじゃねコレ? そういうSFじみた設定の漫画も昔からあるしな!

 それか本当の俺はあの時のショックで眠ってしまっていて、今ままだ病院の上で意識不明の状態なんじゃないか? この状況は所詮俺の見ている夢でしかないっていうオチなんじゃねーの?

 つーわけで、誰か早いとこ起こしてくれよ! 大丈夫大丈夫、夢オチぐらいで誰も怒らねーからさ!




 …アホらし。どれも根拠がないうえに現実味がなさすぎる。

 まぁ今この状況が既に現実味がないから何を思っても無駄なんだけどさ。

 とにかく、5日経って今のところわかっているのは俺がペンギンだということと、この場所は割と住みやすいっていうことだ。

 見知らぬ森かと思えば、なぜかむしろ馴染みを覚えるといってもいい。

 最初はアマゾンかと思ったが多分違う。やや単純だが、アマゾンにしては暑くないからな。

 それに水も綺麗だし、スコールとやらもない。植物や魚も標準的なサイズものが多い。要するに熱帯地方の特徴に当てはまらないってことだ。

 専門家じゃないから正確なことは言えないが、とにかく未知の生物が潜んでいるジャングルってほどでもなさそうだ。

 まぁ、結局ここがどこだかなんてのはわからないんだがね。



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