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2.バーサーカーだけど女神に会いました

 ――真っ暗な視界、そして意識が一気に覚醒していくのを感じ取れる。


 ……あれ? 体が……軽い。さっきまであんなに痛かったのに? 助かった?

 ……いや、違う。


 頭に過ぎった希望的観測はすぐさま打ち消した。というか、打ち消された。目を開け、視界に入って来た景色によって。


 ――隼人は全く知らない真っ白な場所にいた。一切変わりのない、純白な空間に囲まれていたのだ。


「どこだ……ここ…………」


 ここがどこなのか、何でここにいるのか、さっぱり分からない。記憶が無い。……ここに来た時の記憶が無いのだ。

 とにかく、寝転がったままなのも何なので、起き上がり、辺りを見回してみる。しかし、視界に映るのは真っ白な景色。三百六十度。真っ白な景色だった。

 どこからどこまで続いているのか分からない。いや、そもそも続いているのか? 続いているとしても、『何』が続いている? ……分からない。


 分かることがあるとすれば、自分がここを知らない事。さっきまで――というか、意識を失う前までは見慣れた街にいた事。そして、


「あそこに誰かいる……って事だけか」


 少し離れた場所には、一人の女性がいた。こちらに背を向けていて、その顔はよく見えない。身長は隼人とあまり変わらない。百七十センチ前後だ。髪は腰まで伸ばされ、キラキラとブロンドに輝いている。誰だろう。あの人。

 そんな疑問がわいたその時、


「ようやく目覚めましたね?」


 そんな言葉と共に、『彼女』はこちらに振り向いた。初めて顔を合わせたその素顔は、とてつもない程の美女だった。顔立ちはどちらかというと西洋人風で、その整いすぎているほどに整っている顔には微笑を湛えている。


「めざ……めた? ようやく?」


 どういうことだ……と、隼人は頭を捻る。つまり、この美女の話を鵜呑みにするのであれば、少なくともある程度の時間をこの場所で隼人が過していたという事になる。

 それが一時間なのか一日なのか、はたまた一週間なのか一か月なのか――あるいはもっとか。そういった記憶も……というより、ここに関する情報さえも何一つ隼人の中には残っちゃいなかった。空っぽだった。

 ここが分からないという恐怖――が無いわけでは無い。少しはある。それでも、ここで狼狽えても良い事なんて一つも無いという事だけは確かだった。それが分かっているからこそ、こうして隼人は取り乱さずに済んでいる。


「安心してください」


 ――そんな隼人の状態を見透かしていたのか。


『彼女』は思わず見とれてしまうような笑みを隼人に向けた。


 ――あぁ、大丈夫なのか。

 彼女の言葉を、そして笑みを向けられた隼人は、無条件にそう思えた。少しばかり強張っていた体の筋肉が弛緩し、自然、リラックスしたような状態となる。

 そんな中で、隼人が落ち着いた事を確認した『彼女』は――


「あなたは――――――死にました」


 ――突然の宣告を隼人に突きつけた。全くリラックスできる要素なんて無かった。


「……………え?」


 何と言ったんだろう。この人は。何を言ってるんだろう。この人は。

 そんな目で隼人は目の前の『彼女』を見つめる。

 理解できなかったのだ。彼女が言った事を。


(……死ん、だ? 誰が? ……俺か、俺が死んだのか?)


「い……いやいやいやいやいや。待って下さ――」


「待ちません。あなたは死にました……本当はあなたも分かっているのでしょう?」


「……………」


 『彼女』の言葉を隼人は否定することは出来ない。

 隼人はちらりと自分の手を見る。そこにあるのは、まるで実体が無いように――それこそ、幽霊みたいに透けて見えてしまっている自分の手のひらだった。それに、体が無性に軽いのだ。何も質量が無いと言わんばかりに軽すぎた。

 そのくせして、その手を握り丸めた拳で頬を殴ってみると……普通に痛い。

 指で頬をつねっても……普通に痛い。

 感覚は妙にリアルだった。


 ……けれど、『彼女』の言う通り、分かってはいた。どこか、心の奥底で悟っていた。おおよそ、自分は無事に済んでいないんだろうな、と。それが分かっていたからこそ認めたくなかったし、現実を直視できなかった。しかし、もうそんな事はできそうにも無い。現実はこれとない形で隼人に突きつけられている。


「……やっぱ、そうだったんですね」


「はい」


「……俺、何で死んだんですか? 何で、あの時、俺はあんな強烈な痛みを感じたんでしょうか?」


「……それを説明するには、いろいろと話さなければあります。少し、聞いてもらえますか?」


「えぇ」


 どちらにせよ、隼人が今出来る事は少ない。というか、何にもない。それに、今、隼人は死んでいるらしい。なら、ここでいくら自分が時間を使ってもあまり変わらないだろう。そんな気持ちで隼人は『彼女』に頷いた。

 『彼女』もまた首肯し、話を始める。


「さて……どこから話せばいいでしょうか――」


「まず、あなたが何者なのか聞きたいんですけど」


「そう……ですね。まずは自己紹介から始めましょうか。私は――ミュレス。あなたがいた世界とはまた違う世界を統治する女神です」


「女神様……?」


「はい。あなたのいた世界から遥か遠くの『異世界』。そこで、生と死を司る役目を果たしています」


 少し……いや、かなり疑わしい情報ではある。そもそも、自分の事を神の一柱だと言い張る人物に不信感を抱くなと言う方が土台無理な話だと隼人は思う。

 しかし、今更そこに突っ込んで場をかき乱すのも腰が引けた。なので、隼人はこの件はとりあえず保留として話の続きを促す事にした。


「じゃあ、その異世界の生と死を司っている女神さまのミュレス様が俺に如何用で?」


「はい、実は……」


 ミュレスは粛々と語り始める。

 これが全ての始まりで、全ての終わりで――その転機とも言える話はこう始められた。


「私の管理する世界で一つの英雄譚が終わりを告げたのです――」と。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 生命神ミュレス――彼女が神の一柱として管理している世界には、強大な力を持つ二つの存在があった。その二つは対を成す存在としてその世界の誰もが知っている。


 それが『魔王』と『勇者』。

 人々の生活を脅かす『魔物』の頂点であり、世界で突発的に発生する天災の類とされている魔王と、その魔王を討伐するために世界でやはり突発的に誕生する勇者――数日前、そんな二つの存在が激突し、勇者は魔王を討伐する事に成功したらしい。

 魔王は滅び、結果、世界に平和が戻った。

 当時魔王と相対した八人の勇者の中には別世界から召喚された少年少女もいたそうなのだが……まぁ、それはどうでもいい話である。少なくとも今は。


 何故なら、問題は別にあったからだ。

 それが――魔王にはそれぞれ特殊な能力が備わっているという事。

 今回討伐された魔王にも勿論、その特殊な能力が備わっており、魔王が討伐されたその瞬間、何の因果か、その特殊な能力が魔王の元を離れ次元の狭間へと紛れてしまった。

 そして、その紛れ込んだ特異な能力は地球と言う星の一人の青年に定着してしまう。

 魔王の能力を奇しくも継承してしまった別次元の一般人。それが――隼人だったのだ。

 そしてその結果……隼人は――





「――魔王の能力を継承してしまった結果、あなたは爆死してしまったのです」


「何でだよっ!?」


 衝撃の真実に、隼人の鋭いツッコミが炸裂する。

 実際、訳が分からなかった。無茶苦茶過ぎた。

 そもそも、何故自分にそんな物騒な存在である魔王の能力が引き継がれたのか、とか、そういう根本的な部分から謎が多すぎる。しかしそれ以上に、魔王の能力が定着しただけで、何故爆死せねばならんのかという至極真っ当なぶつけようも無い怒りが、こう、メラメラと燃え滾ってくる。


 だが――と、そこで隼人は自分を落ち着ける。

 ここで叫ぶことはいくらでも出来る。

 ここで己の身に降りかかった不幸を嘆くことはいくらでも出来る。

 だから、それをするのは後回しで良い。せめて、理由くらいはしっかりと聞き遂げてからでも遅くはないだろうと。


「てか……いや、本当にマジで、何で爆死なんです?」


「そうですね……まずはあなたが現在、どういった状況にあるのかを自分で確認してもらいましょう。話はそこからです」


「は、はぁ……」


「では、『ステータスオープン』と心の中で念じてください。そうすればあなたの余命がはっきりしますので」


「一回死んで尚も俺殺されちゃうのかよっ!」


「……おっと、ついポロリとネタバレを」


「いや、なんのフォローにもなってないからね、それ」


 それどころか、隼人の心の中に言いようのない恐怖を植え付けただけである。


「はぁ……ともかく、念じればいいんですよね?」


「えぇ」


 ミュレスの返事を受け、隼人は目を瞑った。そして、念じる。もう、ここまで来ればやけくそだ。これで何かが分かるのかとか、そういうのは実際にやってみて判断すればいい。


(ステータスオープン)


 次の瞬間、隼人の視界に次のような文字の羅列が現れた。

 そして―――


=====

NAME : ?

HP   : 300.000/891

MP   : 0/0

POW  : 12


SKILL

「暗算」

「格闘術:Lv2」

「リジェネレイト(破)〈固有〉」

=====


「――――――――――――――――は?」


 摩訶不思議なその数値を見て――


「はあああああああああああああああああああああああああ?!」


 隼人は、絶叫した。








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