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簡易肝試し













連れてきてもらったのは、昨日も来たばかりのハンバーグ店だった。もちろん文句はない。

移動は氷室君所有の車で、氷室君が車持ちであることに内心テンション上がって、「このまま予定を変更しちゃおうかな……」と考えてしまったことは秘密である。危なかった。

いや、車持ちであるってめちゃくちゃ点高いよ? 特に一人暮らしすると車の有り難さが身に染みる。ちょっと買い物行こうかな、って思うのさえ車無いと考えるもん。私が面倒くさがりなだけかもしれないけど。いやー、私ってばお家大好きだからさ……イ、インドア派なんだ!

ちょうど夕食時でもあるのにあまり混んでいないのは平日だからなのか。待つこともなくすぐに禁煙席に案内された。




「工藤さん何にする?」


「うーん、そうだなぁ」




昨日も来てるからね。流石に同じものは食べたくない。でも私は偏食が過ぎて、いっつも同じものしか頼まないから他のメニューをあまり積極的に頼めない。




「氷室君どうするの?」


「俺? 俺いつもここにきたら同じのしか食べないから。これなんだけど」




そういって氷室君が指差したものは、ハンバーグの中にチーズが入ってるものだった。

うん、もう面倒だから同じのでいいかな。




「じゃあ私もそれにする」


「……ここ、あまり好きなとこじゃなかった?」


「そんなことないよ! よく来るくらいだし」




ただ昨日も来たばかりなだけなんだ。言わないけど。きっと「昨日も来たんだよね」とか言ったら氷室君が落ち込んでしまいそうで。

注文を終えると、沈黙が流れる。いや、話すことは主に私の方にあるんだけど、やっぱりちょっとこう、切り出し方がね……。

向かいに座っている氷室君を伺うと、何故かニコニコ笑って私を見ている。そんなに見ても穴は開かないですよ。……あぁいや、氷室君なら出来るかもしれないな。さっき気付いたけど、この人眼力あるから。きつい目してるわけじゃなくて。ただ前を見てるだけでも、何か目に力強さがあるというか。

見られてると思うと、ついつい髪を直してみたりと必要のない行動に出てしまう。いや、どこの乙女ですかって話なんだけど。あ、女捨てたわけじゃないからいいのか? 正しい行動でいいのかな?




「あ、あのですね! 話したいことがあるんだけども……!」


「どうしたの? そんなに改まって……」


「いや、その、ですね。氷室君に置きましては、その、もしかしたら勘違いか何かしてるんじゃないかな、と思って」


「勘違い?」




さっきまで笑顔だった顔が通常の無表情に戻った。あからさまな変わり方に驚いたけど、私としては笑顔より見慣れているから話しやすい。




「その、私、世間一般に言うところの……アニオタっていうか腐女子っていうか……っ!」


「知ってるけど」


「そう、知らないと思っ……は?」


「工藤さんがオタクなのは知ってるけど、それがどうかしたの?」




はくはく、と口が空気を求める金魚のように動く。「それがどうしたの?」? い、いや今の世の中そこそこオタクというものに生存権が認められかけているからな……氷室君は寛容なんだろう。きっと私のレベルを分かっていないだけなんだ。そうに違いない。




「そ、そう私はオタクでね? 知ってたみたいだけど、その、氷室君の想像以上をいくっていうか」




ギリギリ現実との区別がついてるような、ってレベル。頭の中は常に妄想。日常の一コマは全てキャラに変換。授業中に妄想してニヤけるなんて当たり前。パソコンのデスクトップは間違っても見せられないし、ブログやツイッターはバレたら瀕死すること間違いなし。HPを持っているのは親しい友人にも言っていない。つーか言えない。見られたら行方くらます自信ある。

大体そんな感じのことを言って反応を伺う。




「それ、俺に言っちゃっていいの? 友達にも言ってないんでしょ?」


「……必要に駆られているので……」


「彼氏特権?」


「は?」


「彼氏だから言ってくれてるの? ……何か凄い嬉しいんだけど」


「へ?」




何だって? え、嬉しい? 何で? 何、氷室君の頭の中ではどんな理解のされ方なの? どこに喜べる要素のある話なの? いつそんな話を私がしたんですか。ここは普通引くところじゃないの? え、私が間違っているの?




「でもいいの? ホームページ持ってるとかそういうのって、結構デリケートな話じゃないの?」




デリケートですよ? いや、氷室君の言うとおりですけどね。ただそれを聞いた反応が「俺にだけ秘密を教えてくれて嬉しい」っていうのはおかしいと思うんだけど!!




「あ、あの、私普段から雲雀さんかっこいいとか、白石愛してるとか、鬼灯様まじ鬼www、とかその、漫画のキャラに恋してるっていうか……!!」




声が震えていた。でも何で震えているのか……泣きそうなのか怒りそうなのか……嬉しいからなのか……どうなのか分からないけど。何だか目に熱が集まってきたし。




「うん。好きなんだし、いいんじゃない? 誰をどれだけ好きになってもそれは自由だろ。……あぁ、でもこっち(・・・)では俺だけにして?」


「あ、あの……」


「次元が違うし、勝負する気ないんだ。うん、負ける気もないんだけど。だって俺リアルだし。工藤さんの名前を呼べるし、工藤さんに触れるし、触ってもらえるし。だから工藤さんは気にすることないよ。あ、そうだ。名前で呼んでいい? 彼氏になれたのに苗字で呼ぶのもさ。俺のことも名前で呼んで」


「おまたせしましたーこちらチーズハンバーグセットお二つになりまーす」




え。

氷室君に「じゃあ食べようか」と言われるまでほうけてた。

どうしよう。私の計画では最終的に「私と氷室君は生息してる次元が違うから共存できないの」的なことを言おうと思ってたのに。まさかの攻撃。カウンターできなかった。

あ、これ私の負けだわ。だって私の貧相な語彙じゃあ氷室君の言葉に反論できないもん。

せいぜい、




「……私、氷室君が好きって思ってないんだけど」




と負け惜しみを言うくらい。しかし氷室君は私がそう言っても、特に堪えた様子もなく。




「もちろん。分かってるよ」




そう言って微笑んで




「今は、ね」




と言って目を細めた。その視線をモロに食らって背中に冷たいものが滑り落ちた。

氷室君が怖い。













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