客観的イケメン性
人間の美醜っていうのは、結局その人の感じ方・主観によるものであって、たとえ私がどんなに一生懸命「氷室君はガチでイケメン」と言ったところで、写真があるわけでもないからどの程度信じられるものなのか、と疑問に思うだろう。
いや絶対思うよね。
だって例えば貴方の友人が「ウチの中学にいたサッカー部の丸井君、ちょーイケメンでぇ、モテてたんだよねー」と言ってきたとする。これ信じられます? いや、まるっきり信用しないわけじゃないけど、本当にイケメンかどうかなんて判断できないじゃないですか。だって顔見たことないんだもの。それは仕方ないことだと思う。
けど、「向井理かっこいいよねー」は同意できるでしょう。まぁ、大体の人は。中には「えーそうでもなくない?」って人もいるかもしれないけど。結局やっぱり個人の趣味に依存しているのだ。そんなもん。
しかし、今私は氷室君がどれほどイケメンなのかを理解してもらわなければいけない。いくら今ここで「イケメン」を連呼したところで、一体どれほどの人が信じてくれるというのか。
他人に手っ取り早く信じてもらうには、まぁデータを提示するのが効果的だと思う。よく言うでしょ。数字は嘘を言わない、とか。他には、わかりやすい例を出すとかもあるかもしれない。けど後者は私には荷が重いので、パス。言葉で形容するのって難しいから……。
さて、それでは。
まず私は、テストが終わったあとの暇な時間に大学構内を一人ぶらぶらすることにしたのだ。そして、出くわした友人に、「氷室君ってどうよ?」的な質問をした。その結果、90分の内に友人17人に会って(男女合わせて)、何と17人全員が「イケメンだよね~」と答えた。驚いていいよ。十割の確率で氷室君はイケメンなのだ。流石に私も引いた。数人は「フツメンじゃね」とか言うと思ってたのだ。
これだけでも結構分かってもらえるのではないかと思うけど、まぁでもデータ一つじゃあ話にならない。そこで、もう一つ。これは去年の話なのだけど、大学祭の企画に、まぁ、イケメンコンテストみたいなのがあった。参加資格は立候補制だったのだけど、集まった参加者6人の中からではなく、立候補もしていない氷室君に票が集まった、ということがあった。総票数約480の内、426票は氷室君だったとか。投票数は実は少ないんだけど、ね。うちの大学の学生数は、一学年大体300人程度と考えてくれればいい。それでいくと、そもそもコンテストに参加した人数が少ないのだ。
どうだろう。少しは分かってもらえただろうか。
私はそんな人と付き合わなくてはいけないのだ。これを恐怖と言わずして何と言うのか。私の容姿? 何度も言うけど、そんな大したもんじゃない。まぁ、10人に3人くらいは褒めてくれるんじゃないの? お世辞で、ってレベル。褒められるとしても、どっか一部分。
「工藤さん、おまたせ」
スマホを弄りながら図書室の机に座っていた。氷室くんは18時まで講義があって、終わるまで待っていてとのことだったので、待ち合わせ場所に図書室を指定した。結局、氷室君のイケメン度について話して終わって、読もうと思って持ってきた本は手付かずになってしまった。
「お疲れ様。ちょっと待ってて、これ、戻してくる」
「借りてかないの?」
「うん。借りたところでどうせ読む暇ないし」
それより優先して読まなければいけない本あるしね。レポート用のとか。今日はたまたまそれを家に置いてきたから別の本を手にとったけど。
「その作家好きなの?」
「ううん。知らない人。何となく表紙とタイトルに惹かれただけ」
「あぁ、タイトルおもしろいと気になるよね」
「ね。これアオリも中々エッジが効いてて、こう、ビビッときたんだよねぇ……」
「やっぱり借りたら?」
「本は逃げないから。先にやることやんないと。来週の月曜提出だから……まだ本読んでもいないし」
氷室君がくすりと笑った。
「島田先生のだよね? 3200字、手書きだけど、間に合うの?」
「8枚かぁ……まぁ何とかする。大丈夫。私、7000字を二日で書いたことあるから!」
「それは凄いな。あぁ、そうだ。俺もまだ終わってはいないし、一緒にやろう。もう本は読んだからアドバイスするし」
「えっ、いや……」
それってつまり……そういうことですか? 氷室君ほんとおそろしいな。何かぐいぐい来るね。私ってば押され気味ですよ。
「……嫌だった?」
「そんなことないよ! でも、氷室君の迷惑になるんじゃない?」
「それこそ、ありえないよ。俺は少しでも工藤さんと一緒にいたいんだけどな」
あーあざとい。っていうか狡猾というか狡いというか。あ、同じ意味か。
流石の私でもそんな言い方されて断るとか、そんなスキルはお持ちじゃございません。
何かもう、上手いこと氷室君に転がされてる気がする。この人私のこと好きらしいんだよね? 普通惚れた弱み云々でこう……さぁ! いや、それを全面に出されても反応に困るんだけども!!
「さて、と。まだここにいてもいいんだけど、そろそろ工藤さんの声をちゃんと聞きたいからご飯に行こうか」
まぁ、一応図書室にいたので今まで小声で話してましたけどね。
何なんだ氷室君って。それって同じ大学生が言うことなのどうなの? 私どんな反応すればいいの? 「馬鹿なの死ぬの?」あ、これまんま照れ隠しのセリフだ却下。
結局は黙って本を戻しに行きましたけど。だいぶ顔は赤くなってたみたいだけど。だって目の下がちょっとジンジンしてたし。
「行こっか」
さりげなく手を取って繋いでくるあたり、私に出来ることは少ないようである。抵抗? そんな疲れることはしません。別に上機嫌の人を不機嫌にしたいわけじゃないし。
いやホント、氷室君ってばご機嫌だねぇ。
何がそんなに嬉しいんだか。
誤字脱字・その他間違いは仕様ではありません。完全なる碓氷の間違いです。
が、読むのに支障がない限りそのままほっといてます。別に直すのが面倒とかそういうことじゃあありません。ありませんよ。