気分は孔明? とか言ってみる
日本人らしい黒目黒髪。もちろん髪は染めていない。髪の長さは腰に届くか微妙なライン。間違いなく長い方に入るだろう。髪型は日によってまちまちで、一つにくくったり、ハーフアップにしてみたり、何もしないでいたり。バイトがある日はポニーテールにしてる。
めったにスカートは履かず、ズボンやショートパンツ愛用。腕を出すのが好きではないので、大体パーカーを羽織っている。ポケットにはmp3と携帯。空いた時間は耳にイヤホンを入れて音楽を聴いている。モノがたくさん入るトートバックを使用。本当はリュックが好きなんだけど、あまりにも教科書が重くて布が悲鳴を上げたので断念。
大体ブーツを愛用。夏でも冬でも。ヒールが少しあるのが好み。少しでも160cmの世界を味わいたい。
実は化粧はあまりしていない。ノーメイクの日もあるくらい。何というか、そんな時間あるなら寝ていたいっていうのが本音。それに、やっぱり何か慣れてないからなのか、違和感がある。
おしゃれとかそんな訳はない。本当に無頓着。流行りとか全然わかんない。女子としてダメなタイプ。
以上が私の装備、と言える。
「でー、ここでrの式が二つ出来るから、イコールにして計算すればYが出てくるから、そしたらこっちの①の式に代入すればrが出てくる、と。私はこのやり方だけどね」
「……解説と違うよ?」
「先生はYで式作ってるもん。結局答えは同じになるんだし、いいんでないの?」
「まぁ途中式書かされないし。いいのかぁ……」
これで小テストは何とかなるかな、と一息ついた。大体数学は苦手なのだ。この大学だって数学受験しなくても入れるから選んだのに。
広げてたプリントを集め、ファイルにしまう。
「今日バイト?」
「いいや。お休みー。今日から3連休なのです!」
「おぉそれはよかった! あ、じゃーテスト終わったらどっか行く?」
「いいねぇ。……でも今日は無理です……」
「え? あ、そっか。氷室君?」
「……うん、まあね」
思い出したくないから回想はしないけど、簡単に言えば、氷室君と付き合うことになりました。まる。ってことである。ホントマジで何やってんの一限の自分!
あの後あっという間に連絡先の交換がなされ、気がついたら今日の講義が終わったらお出掛けすることになってた。まぁお出掛けと言ってもご飯食べに行くだけだけど。
「やー、めぐめぐにも彼氏出来たかー。しかも相手は氷室君! 凄いよね、どうやったの?」
「何もしてない。むしろ私が聞きたい。私何かしましたか?」
「本人に聞いてよ」
「実はですね。あまりやりたくないけど、氷室くんには是非とも目を覚ましていいただかないといけないから、今日ご飯食べながら私の趣味についてお話しようかと……」
「いいじゃん黙っとけば? せっかくイケメン彼氏出来たんだし」
「誰もイケメン彼氏が欲しいとか言いましたか?! あ、いや、思ったことがないとは言わないけど。でも本当に出来るとか……! それにそもそも私ってば学校にバイトに委員会で彼氏いたとしても一緒にいられない、って前々から」
「はいはい。案外、彼氏できたから考えも180°変わるかもよ?」
「……嫌いとかそういうんじゃないんだよ?」
「大丈夫。分かってるって」
嫌いではないのだ。別にイケメン滅べとか思ってるわけでもない。氷室君が嫌なわけでもない。3割くらいは「付き合えるとかラッキー」って思ってるんじゃないだろうか。残りの割合で氷室君の真意を探ってる。
氷室君が私を騙そうとしてる、とか考えるのもやめた。相手がよくわからないのに、悪いことばかり考えるのは嫌だし。
「外見はさぁ、この通りだし。朝もこれだったから、通用しないかもしれないでしょ? だから内面で攻めていこうと思って。……あまり話したいことじゃないけどさ」
「悪くはないと思うよ? そりゃあ、華やかではないけど。内面っていうか趣味も……今だったらそんなに受け入れられないって人少ないんじゃないの?」
「でもなぁ。それで引いてくれたらいいなぁ、と。もうここまで来たら最低ラインまで精神力削ろうかな、って。はは」
「やけになっちゃダメだって」
どうだろうか。
最初に挙げたような、服装に気を使ってるわけでもない女の子は。これだけでも結構マイナスポイントかなーって思うんだけど。それプラス、私の趣味だ。おおっぴらに宣言できない様なヤツ。
正直見た目から連想できなくはない。別に隠してないし。ストラップとか色んなところで主張してる。
自分の趣味が後ろめたいとかは決してないし、それを否定されようが、それは個々人の好みの問題なわけで。これを言って思惑通りに氷室君が引いなら「価値観の違い」とか最もらしいことを言って解放願う。そもそも私に言わせれば「価値観の違い」ってのは当たり前のことなんだけど。同じ価値観を持つ人っていないと思う。これ私の持論。
何であろうが、使えるものは何でも使う。今更趣味を否定されたところで大して傷つかないし。
これはいい案じゃないかなーと思ってる。つまり、私はオタクなんです、っていうことなんだけど。
「やけになってるわけじゃなくてさ」
「そんなに付き合いたくないの? いいじゃん氷室君」
「付き合いたくない、以前の問題かなぁ。何だろう。確認したいのかも。『本当に私でいいの? 間違ってない?』みたいな。現実味がないよね」
正直言ってしまえば、そういう事なんだろうと思う。
信じられないのだ。どんなに氷室君が顔を赤くして「好きだ」と言おうとも。だってイケメンだよ? 私もイケメンにこだわって氷室君の内面なんかほぼ知らないけど、それは向こうだって同じはず。あ、私はイケメンじゃないけど。いや美人じゃないけど、か。
氷室君が、通行人Cみたいな私に告白してくるということが何かもう受け入れられてない。完全に私の処理能力を上回ってる。
そこで「私オタクだよー」とでも言って、氷室君が考え直してくれるなら。私も時間稼げるし。
「気持ちは分からなくもないけど。でもさ、素直に受け取ればいいのに」
「そんなん怖くて出来ん。裏を考えたくなるよ。っていうかそれで『わーいラッキー!』って飛びつくのはどうかと思う」
「例が極端すぎだって。大学生なんだし、もっと気楽に行こうよ、ってこと」
そんなに私は疑い深いことしてるだろうか。
だって相手はほぼ初対面なんだよ。色々考えるのは当たり前でしょ。もし氷室君が真剣だとしても、そんな軽い気持ちで返事するのって失礼だと思うし。
「私には気楽なんて無理だよ……特にこういうのなんて」
変に生真面目なのだし。
何かもう、氷室くんの事ばかりに悩まされて、もう嫌だ。