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これが始まり











とにかく何が何でも理解してほしいのは、これが自慢話なんかじゃない・ってことだ。そこのところ、よろしく頼みます。


物語の始まりは、火曜日の昼休み・大学の食堂である。

いつもは購買でお弁当を買って、委員会室で食べてたのだけど、その日は食堂が空いててたまには食堂で食べようと友人に言われたのだ。講義は休講になって、暇だったのもある。

食堂が空く時間まで適当に駄弁って、出食が始まったらいそいそとお盆を持って並んだ。メニューはあまり覚えていない。確か適当にアラカルトを選んで定食っぽくしたはずだ。

のんびりと食べていたけど、2限目が終わる時間帯にはもう食べ終わっていた。でも食堂にあまり人がいなくて混んでいなかったから、そのまま席に座って話していた。

一番混む時間になっても、やっぱり休講の影響でなのか人はいなくて、ずっと居座っていても問題なかった。ちらほらと席は空いていたし。

友人ととめどない話をしていると、不意に人がやってきた。友人は「え」だか「あ」だかと意味のなさない言葉を零した。




「工藤さん、だよね?」




誰だろう、と思ってその人を確認する前に自分の苗字を確認された。




「えぇ、はい。私は工藤ですが……」




そこでようやく声をかけてきた人を見て、眉間にしわが寄った。一体この人が私に何の用だろう、と。向かいに座っている友人の顔を伺うが、惚けた顔をしていて当てにならなかった。

実は私の通う大学には、大体誰でも知ってるイケメン集団がいる。ファンクラブがあるとかないとか。そんなに広くもない大学なので、毎日真面目に大学に来てれば、何かしらの授業は被るし見かけることもある。4月には騒いでいた人達も、もう6月になれば大人しい。ファンクラブ云々は噂である。

で、だ。

今私に声をかけてきたのはそのイケメン集団の一人・氷室君だった。同じ学年ではあるが、下の名前までは知らない。




「あのさ、突然で悪いんだけど……彼氏とか、好きな人とかいる?」




本当に突然の問いかけに首を傾げる。何でそんなことを聞くんだろう。

怪訝な表情に気づいたのか、氷室君は慌てて取り繕うかのように言った。




「い、いきなりこんなこと聞かれても困るよな。……え、っと。あ、そうだ。俺、氷室兵助。工藤さんと同じ学年で、えっと、結構授業被ってるんだけど」


「え、はい。氷室君、結構有名なんで、まぁ、その、知ってますけど……」


「え、あ、そ、そう? で、えっと……」




一体何なんだろう。とは思ったけど、私だって馬鹿じゃない。いきなりそんな親しいでもない人に好きな人聞かれるなんて、そんな状況、あとの展開が見え見えである。

普段無表情で整った顔を崩さない氷室君|(ちらりと耳にしたのは氷の王子様というあだ名。苗字にかけてるらしい)がわたわたしているのが可哀相になって、とりあえず答えることにした。




「……彼氏も、好きな人もいないです。残念ながら」




残念ながら。彼氏はまぁ、置いといて、好きな人すらいない、可哀想な学生生活を送ってるのだ私は。向かいに座る友人には気になる人がいるとか言ってたけど。おかげで恋バナするときの肩身の狭さといったら……。

しかしこれで求められてた答えは提示したわけだ。一体何でこんなものを答えなくてはいけないのか考えたくもないけど、まぁ、酒の席での罰ゲームか何かだろう、きっと。何で私が槍玉に挙げられたのかは不明だけど。

確かに、まぁ、あまりおおっぴらには出来ない趣味を持ってるし、地味な外見と言われれば、そうだろう。でも罰ゲームの標的になるほどとは思えない。




「そっか……!! じゃあ、あのさ」




私の答えを聞いた氷室君は一気に顔を輝かせ、その整った顔で惜しむことなく微笑んだ。何ていうか、すっごいキラキラしてる。何がそんなに嬉しいのか。




「俺を彼氏にして」




は?




「じゃないと俺……何するか分かんないから」




ちょっと予想外だった。っていうか、え? どうなってるの、一体。

確認したいのだけど、氷室君と私は、せいぜい被ってる講義で見かける程度の仲で、つまり何の繋がりもない他人って訳だけど、それで何、彼氏? そういうのに発展する要素が見つからない。

その上、「断ったら何するか分かんない」って脅迫されてるわけで……。何コレ。私はなんて返すべき? 「ふざけんなこのやろう」? いやいやここ食堂だぜ? 衆人環視だぜ? え、そうだよここ衆人環視だよ。私こんなところで何でこんな状況に陥ってるの。こんな状況ってどんな状況なんだ?! 誰か助けて!




「工藤さん? 大丈夫?」




大丈夫なわけないじゃん。

え、だってこれどうすればいいの? 同じ大学生に何が出来るのか、と思わなくもないけど、不確かな考えで動きたくないし。ていうかもし仮に付き合ったとしても何されるか分かんないことに変わりはないよね。




「え、っと。氷室君? 何でそんなこと言うの?」


「え? それは、もちろん。工藤さんの彼氏にどうしてもなりたいから。そのためには手段を選ばないっていう本気を知ってほしくて」




照れたように笑う氷室君は、それはもう、確かにかっこよくって。流石イケメン、と思う。

すっごく爽やかな雰囲気だけど、言ってることが全然爽やかじゃない。




「いきなり言われても戸惑うよな。それは分かってるんだ。だから今は返事いいよ」




いい返事しか受け付けてないけど、って言って氷室君は笑った。

それって返事を返す必要あるんですかね。




「明日の一限、同じだったよね。その時にでも。じゃあ、待ってるから」




柔かな笑顔をぶつけて、氷室君はいなくなった。私と友人の間に会話は生まれてこない。お互い目で合図を送って、食器を片付けた。




「……私、明日の一限休もうかな……」


「……出席あるよ」




そっか、じゃあ駄目か。






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