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gameには『獲物』という意味もあるらしいね













「あぁ、それは別にいいんだ。めぐみはそのままでいればいい」




氷室君が彼氏になった。つまり、私は氷室君の彼女になった、というわけで。当然のことなのに、私の頭からはこのことがさっぱりぽんと抜け落ちていた。

だから、ちょっとどうかとも思ったのだけど、本人に訪ねてみることにした。「彼女って何すればいいの」的なことを。もっと正しく再現するなら、「彼女になったからには好きになる努力をすべきなの?」になる。

聞かれた氷室君は、少しだけキョトン、と目を開かせて、すぐに笑顔になった。その笑顔に背中が冷えたのはどうしてなのか……出来れば追求したくない。




「言ったと思うんだけど、そりゃあさ、好きになってくれるんならそれはそれで嬉しいよ。だって俺はめぐみが好きなんだからさ。両想いって、最高だよ? けれど、俺はめぐみが俺を好きじゃないのを知っているし、それを承知で彼氏にしてくれ、って言ってるんだ。何なら、ゲームだとでも思えばいい」


「ゲーム?」


「遊びじゃないよ。少くとも俺はね」


「……何の話してるのかな」




ニコニコしてる氷室君に、背筋が伸びた。椅子に座っているからこれ以上後ろに下がれないんだけど。




「めぐみはそのまま、『何で好きにならなきゃいけないの』って思ってればいい。俺はめぐみに俺を好きにさせるから。分かる? めぐみは俺に口説き落とされてくれ、ってコト。頭の中でぐるぐる考えてなくていい。好きにならなきゃとか、むしろ考えないでくれ」




私の凡庸な頭じゃ理解できないようだ。何言ってるんだこの人。結果として同じじゃないか。




「……自分になびかない子を落としたいの?」


「……随分俺の性格が悪くなってる気がするのは気のせいかな」




イケメンはため息を付くだけでも絵になるらしい。爆発しろ。いや、してください。ねぇ知ってる? このイケメン、私の彼氏なんだってさ。笑っちゃうだろ? 




「めぐみが好きで、でもめぐみは俺を好きじゃないから。だから好きにさせてみせる。その間、他の誰かに取られたくないし、何より“友達”なんて俺が我慢できない。だから彼氏にしてくれ、って言ったんだ」


「……滅茶苦茶だよ」


「そうでもないと思うけどな。友達なんかで満足されたくないし、理にかなってると思うけど。少くとも彼氏の方が意識するだろ」


「まぁ、それは……そうだろうけど」


「めぐみはめぐみの考えを貫けばいい。ただ、そのいわゆる邪魔を俺はする。だってめぐみと両想いになってずっと一緒にいたい訳だし。そのために俺は全力出すから、覚悟しててくれ、な」




イケメンってのは黒い笑顔をすると迫力が出るらしい。一つ学んだネ。

何よりも恐ろしいのがさ、この会話、昼時の食堂で行われてたってことだよね。途中で私も気付いたよ。失敗した、って。隣の席の人たちなんか聞き耳立ててたよ。めっちゃ視線が痛いもん。刺さる刺さる。

今日は朝からずっと、氷室君の傍から離れられなかった。離れることが許されなかった。なんの恐怖政治だよ、と突っ込みたくもあるが、実はこれってば私の身を守ってもいるのであまり文句言えない。氷室君の傍にいるから怖いお姉様方の殺気こもった視線が刺さるけど、傍にいるから手出しされない。まぁ、守られてるわけで。

私だって、大学生にもなって「体育館裏来いよ」とか冗談じゃない。ていうかむしろ言ってくれよ。そしたら泣いて泣いてそれを利用してすぐさま別れますから。氷室君には「いじめられたくない」的なこと言ってさ(笑)。


……あ、そっちか。氷室君、そっち警戒してるのか。

あのイケメン、中々にいい性格してるらしい。我も強いし、絶対お腹真っ黒くろすけさんだね。氷室くろすけとか名乗ればいい。




「このあとの授業は?」


「今日はもうない」


「じゃあ、昨日言ってたレポートやろう。データが家にあるから、俺の家でいいかな」


「あー、うん。あ、私パソコン持っていきたいから一回家に」


「分かった。寄るよ」


「うん、お願い。あまり待たせないようにするね」




普通に。普通にこうやって課題やるだけならいいのに。友達なら自慢して回ってただろうな。




「めぐみって実際のところ、分かってないだろ」


「は? 何を」


「今の状況を、さ。考えが足りない。いつもこうなの? すごい心配なんだけど」


「意味わかんない。はっきり言ってよ」


「……警戒心が足りない、ってこと。俺にだけなら大歓迎だけど、他の奴にもやってるの」


「ひ……兵助は変なことばかり言う」




レポートやるのに、一体何に警戒しろと。イケメンは言うことが違いますね。

今の状況? レポートの締め切り間際なのに一文字も書いてないっていう、私の馬鹿話ならよく分かってる。


私の頭はもう、レポートで一杯だった。





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