どこまでも自業自得
クタクタだ。何かもう、本当に疲れた。
「好きじゃねーのに付き合えるかっ!! ってなんで言えないんだ私……」
これじゃあ本当に言いたいことも言えない人間じゃないか。そうじゃないって思ってるのに。むしろ言いたいこと言いすぎて「一言多い」って言われることもあるくらいだというのに。
ボフン、と腹いせ混じりにポーズで投げつけたクッションを拾い上げ、元の位置に戻した。大学生にもなってクッション叩きつけるとか……自分でやっといて恥ずかしいな。
全然全く思い通りにいかなかった。数時間前の私は、今頃しめしめと笑っていると、そう思っていたのに。オタクだってこと言えば氷室君も考え直すに違いない、って思っていたのに。
完全に私のミスだ。考えだけじゃなく世界も浅く狭かった。私の中の常識っていうのがこんなにも通用しないなんて。甘かった。栗きんとんよりも甘かった。
どうしようどうしようどうするべき?
パソコンに開いた画面はそのままにスマホを手にとって電話帳を呼び出した。
大体、普通はイケメンがオタクと付き合いたいと思うなんて考えないじゃないか。イケメンは可愛い子や美人さんと付き合ってればいいんだ。
いや、何度も弁解するけど、イケメンがオタクと付き合っちゃいけないとかそういうことは思ってない。全く思ってない。いや、本当ですこれは本当。そんな風に聞こえないかもしれないけど。
何でもそうだけど、好きにやってくれて構わないと思う。イケメンがオタクだろうがなんだろうが好きになったんなら付き合えばいい。ただし。そう、ただし、私の知らないところで、だ!
「と、いうわけなんですよー」
《うるせぇリア充爆発しろ》
「いやいや、私リア充じゃないから」
《イケメン彼氏がいるなんて超リア充じゃない。何、当てつけ? 自慢? 羨ましいわチクショウ!》
「は、話を聞いてくだサイ……」
私だけの常識で失敗したのだから、じゃあ他の人の意見も聞こう。うん、ひねりもないけど結構確実な策であると自負してる。
「どう思います?」
《とりあえず死ね》
「いやだから、人の話よく聞いて」
《だって結局彼氏ってことになったんでしょ? いいじゃんもう。イケメン彼氏。文句言ったらバチ当たるレベル》
「アンタ好きじゃなくてもイケメンならオーケーなわけ?」
《はんっ! いつまでもゆめみがちな少女みたいなこと言ってんの。マジウケる。どうせ態度も曖昧なの取ってたんでしょ。それで向こうが拒否られてない、って思って「押せばいける!」と思ったんでしょ。目に見えるわ馬鹿》
「辛辣。でも好きじゃないんだよ……」
《嫌いってわけでもないけど、でしょ。さっきも聞いた。今のご時世「嫌いじゃない=好き」くらい成り立つわよ》
「えー? そんなの聞いたことないし」
《もっと周りを見るべき。いいじゃん別に。生理的に無理とか拒絶反応出るわけじゃなし》
「……拒絶反応とか何その大げさな……」
電話の相手は、中学来のオタ友である。
オタクのことはオタクに聞かなくては。本当はイケメンの話も聞きたいんだけど、私にイケメンの友人なんていない。イケメンがそうゴロゴロ転がってて堪るか。
「……そんなに私子供っぽいこと言ってる?」
《悪いとは言わないけどね。そりゃあ好きな人と付き合いたいだろうけどさぁ。これでめぐに好きな人がいるって言うんだったら言う事も違くなるよ?》
「好きな人いません……」
《ね? だからもうさっさと諦めてその、ひむろ君? だっけ? 好きになっちゃえばー?》
だからそれができたら苦労しないんだって。
ふー諦めるかー⇒氷室君好きっ! ……キモいわ。マジふざけんな。こんな子いたら殴り飛ばしてやりたくなるっての。
こんな苦行、私には無理。
《めぐの彼氏だって、気持ちは知ってるんだし、それなりの行動取ってくるでしょ。ゆっくり好きになればいい、って言ってくれてることだし、甘えればいいしょ》
それも気に入らない、って言ったら怒られるんだろうなと思ったから黙って素直に「頑張る」と言って電話を切る。
私って、氷室君を好きにならなくちゃいけないの? 氷室君と付き合って、氷室君を知って……好きになって? 何だそれ。それって私がしなくちゃいけないことなの? 求められてるんだろうね、氷室君には。正直、氷室君しか喜ばないだろう。
いや、万人に喜ばれることをしたいとかじゃない。
自分でやっておいてなんだけど、友人に相談はダメだった。所詮他人事、「付き合えば」しか言わない。私だってその立場になれば同じこと言うさ。そりゃあね。だってイケメンに告白されたんだぜ? そんなの迷う余地なく頷いとけ、って言うに決まってる。だって世間一般的な共通認識としては「イケメンと付き合う」っていうのは幸せなことなんだから。
えぇ、分かってる。私相当ひねくれたこと言ってる。しかもものすごく自分勝手で我侭なこと。だって私、性格あまりよろしくない子だし。
さっき、電話を切る直前に、友人から確認されたことがある。
その言葉に、私は何も返せなかったけど。そこまで考えてなかったっていうのもある。
でも言われてみればそうだった。一方通行の関係じゃなかった。
《まぁいいけど。ね、分かってる? めぐみは氷室君の彼女ってことになるんだ、って》
考えてもいなかったよ。




