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序章

世にはびこる携帯小説への反骨精神で書きました。

とりあえず携帯小説っぽいワードを散りばめて、序盤だけはよくある携帯小説っぽい文体にしてます。


ちなみに僕は携帯小説はあまり合わないので、そういう方に読んで頂けたらなと思います。

「死んだら許さないよ」

 思春期の私を貫いたその言葉を、きっと生涯忘れる事はないだろう。

 そしてアイツも、私にそう言った事を生涯忘れる事はない。

 はずだ。

 だって、そうじゃなきゃ釣り合いがとれない。

 そうでしょ?

 世の中は平等だって、あらゆる神様が言ってるんだからさ。


          *


 待った。

 今の気持ちを一言で表すなら、そう。

 待ちに待った。

 今朝起きてから歯を磨いて家を出て、通っている高校に着くと、ひたすら黒板の上に設置された時計の針を睨んでいた。

 動け動け動け動け。

 念仏に近い私の情念も虚しく、長針と短信は一定のリズムで抜きつ抜かれつ。

 そんなわけで、

「やっと終わった!」

 五限目終了のチャイムと同時。

 私は椅子を倒す程の勢いで立ち上がっていた。

 小学校からの親友の友紀恵に『行ってきます』とメールして、すぐさま隣の教室へ。

 急いでいたせいか、廊下で一度女の子とぶつかった。

 大人しそうで、地味目な女の子だ。

「ごめんね。急いでて。大丈夫?」

 私が聞くと、彼女はこくりと頷いて歩き去っていった。

 ぶつかったのは二人のせいなのに、私だけ謝るというのは納得のいかない図式だ。でも、今日の私は機嫌がいいからそんな事は気にしない。

 目的の教室の前で、私はドア越しに中の様子を窺った。窓際の席で頬杖を付いている新川一樹と目が合う。

 その瞬間、自分の鼓動が一気に高まるのが分かった。

 今日この後、私は彼とデートする約束になっている。しかも彼からのお誘いだ。数回話した程度の面識だったから驚いたけど、そのお誘いは諸手を振って大歓迎だ。

 彼、新川一樹は完璧だった。

 モデル並みに整った顔立ちに加えて、高身長で成績優秀、よせばいいのに運動神経まで良いときている。普通はそこまでいったら僻みの的だけど、人当りの良さと、何よりも彼独特の雰囲気を持っていて、男女共に人気がある。

 それに、名前が新川と言うのも運命を感じさせるポイントだった。

 私の名前が新山千春。お揃いの新という字に山と川というのも合言葉みたいでいい感じ。

 それに、自分で言うのも何だけど、私もそこそこモテる。

 胸の辺りまで伸ばした栗色の髪はさらさらだし、目もくりっとしいると評判で、多少猫を被っている事もあるけど、男子からの人気は高い。

 だから、今日二人がデートするのはきっと運命だ。



 映画館までの道すがら、舞い上がって会話が上の空になってしまい、何を話したかほとんど覚えていなかった。

 一樹の口から出る一言一言が新鮮で、ただ話しているだけで幸せだった。

 映画館に着いてからは好きな映画の話を少ししたと思う。

 それから、不意に一樹がこう言った。

「新山さん、よく可愛いって言われない?」

 照明を落とした映画館の中、その一言に胸が高鳴った。目の前のスクリーンでは本命の映画の前に黙々とCMが流されている。

 ちらりと横目で一樹の顔を窺うと、彼は真っ直ぐに画面を見つめていた。その横顔に、どきりとする。

 陳腐な言葉だけど、格好良い。そう思った。

 今、私はこの人の隣に座っているんだ。そう自覚して余計に心臓が鳴り続けた。

「そ、そんな事ないよ。私なんか全然。もっと綺麗な子いっぱいいるし」

「でも男子からは人気みたいだよ」

「そんな。私なんて地味だし、全然」

「そう? 可愛い顔してると思うけどね」

 さらりと口にされ、思わず顔が真っ赤になる。辺りが暗くて本当に助かった。

 一緒にいるだけで、どんどん惹かれていくのが分かる。

 なんと言うか、一樹には余裕がある。

 そんな訳で、肝心の映画に関しては、他愛のないアクション物だったにも関わらず、内容は終始頭に入ってこなかった。

 ただ、病気を隠していた主人公の男に、ヒロインが「死なないで!」と叫ぶシーンだけはやけに頭に残っていた。

 一樹はエンドロールが終わるまでじっと画面を見つめていた。

 盗み見たその表情に、一瞬どきりとする。

 一樹はどこか寂しげな瞳で、今まで見た事もないような複雑な表情を浮かべていた。

 やがてスタッフの名前が出尽くして映画館に明かりが戻ると、ゆっくりと私の方を向く。

「行こうか」

 そう言った一樹の顔は普段のものに戻っていて、さっきの表情は見間違いだったんじゃないかと思うくらいに落ち着いた声だった。

「何か食べていかない?」

 一樹の問いかけに私は無言で頷いた。

 さっきの表情が頭に張り付いて言葉が出てこない。

 変な話だけど、あの表情が止めだった。

 私は、新川一樹に完全に惹かれていた。

「左手、出してくれる?」

 言われるがまま、私はそっと手を差し出した。

 ああ、彼と手をつなぐんだなって、そう思うと手が小さく震えた。一樹は自分の手は出さずに私の震える手をちらりと見て、こう言った。

「緊張してる?」

「うん。こんなに緊張するの初めてかも」

「それじゃあ、いい情報あげようか?」

 優しい声で、一樹が聞く。

 いい情報って何だろう?

 一瞬で色々な妄想が膨らみ、私は一も二もなく頷いた。

「お願い。言って」

 今一番欲しい言葉を期待する。

 そして、一樹は変わらない優しい声のまま、静かに答えた。

「僕はお前が嫌いだ」

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