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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【Last】Summoner’s Taste
93/180

(093)召喚“士”ヤマシタミラノ(2)

(2)

「──……フィリムの方でどうにかなるか? …………ネフィリム?」

「は、はい」

「聞いていたか?」

「申し訳ありません、エルトアニティ王子の件でしたら、私の方で帰って頂くよう促します」

 謁見の間に移動したネフィリムは、父王ラナマルカの仕事──謁見の合間を縫って簡単に打ち合わせをしていた。話し始めて数分で、物思いが一瞬、胸を占めてしまったのだ。

「…………うむ。任せる。──大丈夫か? つい先日と、昨日フェニックスをそれぞれ強制解除されているだろう? 疲れているのではないか」

 王は眉尻を下げた。心配をさせてしまったと、ネフィリムは自省する。

「いえ。問題ありません」

 ぼんやりと聞き逃したのは、そういう理由ではない。自分ですらこうなのだからと、ネフィリムはこっそりと弟の心配をした。

「……そうか。なら良いが……無理を強いてすまないな。シュナのワイバーンの毒の時もそうだったが、今回ジズへと向かったお前を助けてくれたのも、ミラノだったそうだな……」

 一つ、ラナマルカ王は息を吐き出した後、続ける。

「例の」

「はい」

「クーニッドからの報告だが、昨夜から光ったまま、消えないらしい。会議の後さらに報告もある……本来“人”のいない場所に竜種の影が、最低でも100目撃された、クーニッド付近だ。これも“そう”ではないかと、マルーディッチェ長老は言っている」

 光ったままというのは、クーニッドの大岩、巨大水晶の事だろう。これが光ると“神の召喚獣”が現れると言われる。実際これが光った後に“リヴァイアサン”、“ジズ”が顕現した。また竜種とは、ドラゴン種の事である。

「……また、来ますか」

「来るとしたならば、最後の“神の召喚獣”か」

「最後……“神”のみが傷を付ける事の出来る──“ベヒモス”」

「ベヒモスはいまだかつて、地上に召喚をされた事は無いと聞いたが?」

 王の問いにネフィリムは口を開く。

「はい。“神の召喚獣”と言われていますが、実際に召喚されたという記録はありません。伝承では、ベヒモスが生きて地上を支配していた頃は、後に神の判断で殲滅された竜種ですら、繁殖が難しく数も非常に少なかったとあります。さらに100の竜種ですか……竜は絶滅しましたからね、必ず“召喚獣”。ガミカ内で竜種を召喚出来る者は、召喚院で把握しています。彼らは全員サルア・ウェティスか王都に居ますし、元から100人も居ませんよ、28名です。近隣諸国の竜種召喚獣に至っては合わせて10も居ません。そうですね……“神の召喚獣”……なのでしょうね」

「……ネフィリム」

「はい」

「パールには負担が大きいだろうが、ミラノを“人”にしておくように伝えておいてほしい」

 ネフィリムは一瞬動きを止め、父王を見る。

「は……いえ、なぜ」

「ミラノを、召喚士として皆に示す。リヴァイアサンを、ジズを退け、七大天使を召喚した、類まれな召喚士として」

「ち、父上! ミラノはパールの“召喚獣”です! その事が知れた時、一番危ないのはパールです!」

 ミラノを得ようとするならば、また殺そうとするならば、彼女が“召喚獣”であるとつき止めた時、その首根っこたる“召喚士”を押さえれば事足りる。13歳のパールフェリカに危害が及んでしまう。

 ミラノの召喚術が凄まじければ凄まじい程、パールフェリカが狙われるのだ。

 だが、ネフィリムの主張を、ガミカ国王は声を大きくして潰す。

「それ以上に! 危険が迫っている。『本当は“召喚獣”だ』などと、どうでもいい事。民が、国が助かれば、良いのだ、それが私達の何よりも成さねばならない事だろう、ネフィリム。用が済めば召喚士としてのミラノは死んだ事にしたとて問題がない。パールには可哀想だが、以後は“うさぎのぬいぐるみ”に放り込ませておけばいい。今、目の前にある事態を回避するには──召喚“士”としてのミラノの力が、その“存在”が必要なのだ。度重なる“神の召喚獣”の襲撃に、対抗手段がちゃんとある事を示さねば“人の心”は耐えられない。それはもう、誰の目にも明らかだ。そうだろう? ネフィリム。判断を、誤ってはならない時なのだ」

 正論を強く言われては、ネフィリムに何か言えるはずもない。

「……はい」


 王の前を下がり、廊下に出たネフィリムは、眉間の皺を中指で解くようにさすった。

「ネフィリム殿下」

 声にちらりと目線を動かせば、アルフォリスとレザードがいつものように帯刀して、鎧ではなく近衛騎士の装束で立っていた。エステリオやリディクディの着ていたような服で、この2人は薄紫が基調の色彩、刺繍などの装飾の類はほとんど無い。

 ネフィリムは手を下ろしながら、部下の名を呼ぶ。

「……レザード」

「はい」

「パールの元へ行き、ミラノを“人”にするよう伝えよ。ミラノが嫌がるようなら父上の命だとパールに伝え、必ず“人”にさせておいてくれ。そのままレザードはミラノの護衛に。決して傍を離れず、必ず護れ。行け」

「はい」

 レザードは鞘を鳴らして向きを変え、駆けていった。

「ネフィリム殿下?」

 アルフォリスの声に、ネフィリムはそちらを見る。

「なんだ?」

「お疲れのようですが……」

 ネフィリムにも機嫌の良くない時というのは間間あるが、今日はいつにも増して酷いように、アルフォリスには感じられたのだ。

「体の方は何とも無い。──エルトアニティ王子に会う」

「はい、お供致します」

 いつものようにキビキビとした様子で歩き始めたネフィリムの後をアルフォリスは従った。



 王城内、とある廊下にて──。

「ちょっとー、シュナヴィッツ殿下ー?」

「あ……すまん、カーディリュクス。何の話を──」

「ですからー、飛翔召喚獣の配置で……って、一体何回説明させるんです? 起きてらっしゃいますか??」

「す……すまない、本当に」

 シュナヴィッツは恥じ入って下を向き、まっすぐの髪をゆるく混ぜるように頭を掻いた。



 “うさぎのぬいぐるみ”はパールフェリカの部屋の中央でうつぶせに倒れていた。

「ミ、ミラノ様?」

「ごめんなさい、自力で立てないようなの」

 レザードは“うさぎのぬいぐるみ”の肩辺りを両手で挟むように掴むと、目があう高さまで持ち上げた。

「パールフェリカ様はいらっしゃらないのですね」

 衛兵から、パールフェリカはどこかへ行ったが、ミラノなら中に居ると聞かされて、部屋に入って来たのだ。

「パールを、追おうとしたのだけれど……」

「ミラノ様はパールフェリカ様の“召喚獣”なのですから、何処にいらっしゃるかわかりませんか?」

「……そう言われても……」

 それは、以前パールフェリカが城下町へ飛び出してしまってシュナヴィッツと探しに出た時にも言われた言葉だ。

 だが、ミラノはそう呟きながらも、五指に分かれた人形の右手を胸に当てた。その手を見下ろし、数秒で顔を上げた。

 人形の指は人差し指で東を示す。

「あちらに、居るような気がしてしまうのだけど、なぜかしら?」

 そう言うミラノに、レザードはにこりと微笑んだ。

「それが“召喚士”と“召喚獣”の間にある、“絆”の導きです」

 今まで感じた事の無いような感覚で、パールフェリカを心に描くと、今指差した方向から熱が押し寄せて来るような気がするのだ。これが“絆”だというのだろうか。

 ますます、“召喚獣”らしくなったとでも、いうのだろうか。

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