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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【3rd】BECOME HAPPY!
88/180

(088)BECOME HAPPY!(3)

(3)

 ミラノが追いついた時、ネフィリムの手から小鳥サイズのフェニックスが飛び立った。

 しばらく歩いて、見通しのマシな、木々が薙ぎ倒され視界の開けた場所で、魔法陣が夜空で花火のように輝き照らす中、無言で待った。

 すぐに、フェニックスが先導して、レッドヒポグリフと、ほんの少し遅れて、馬サイズのコカトリスが降りて来る。どちらもネフィリムの護衛、アルフォリスとレザードの召喚獣だ。

 ヒポグリフが着地する前に、がっしゃんと鎧の重い音をさせてアルフォリスが飛び降り、両手両足を地に付いて衝撃に耐え、その姿勢からネフィリムの足元に猛ダッシュをする。顔を上げず、そのままネフィリムのブーツに額をこすりつけるようにしながら、叫んだ。

「あ、あなたが死んだら、私は生きてなんかいられないんですからね! わ、私の命はあなたの為にあるのです、あなたが先に……っぬなんて、絶対にあってはならないんですからね!! い、命を粗末になさらないでください! もう! もうっ使いっ走りなんてご免です! 絶対にお傍を離れませんからね! ご自分は何者かもっとよくお考えになってください!」

 ネフィリムの足にしがみ付いて泣きながら、アルフォリスは“お小言”を叫び続けていた。

 死んでいておかしくない状況を、アルフォリスは間近で見ていたから。絶望を見たから。せめて遺体だけでもと、魔法陣の傍を探して飛んでいる時、光の欠片の中に“炎帝”の炎を見つけたのだ。

 アルフォリスが言いたい事を全部言い切った頃、レザードが小走りでやって来る。レザードはミラノを見つけ、敬礼する。ミラノはそれに気付いても、対応の仕方がわからず、瞼を一度落として緩く首を傾げるような、頷くような素振りだけをした。

 ネフィリムは半歩さがってしゃがむと、滑稽とも言える程の男泣きを続けるアルフォリスの肩にぽんと手を置いて、その顔を上げさせた。涙でどろどろの顔のアルフォリスにネフィリムは目を細め、至極真剣な声で、言う。

「すまなかった。以後、気を付ける」

「ごぶ……ご無事で…………なに……より…………」

 アルフォリスは地に伏して一層咽び泣いた。

 こんなにも慕われて、こんなにも無事を祈られて、それ程の人物たりえていたのなら、アルフォリスには申し訳ないが、ネフィリムはこれまでの自分を褒めてやれると、思えた。そして、少し後ろに居たミラノを見上げる。

 彼女は、『ほら』と言わんばかりに、微笑んでいた。




 巨城エストルクの夜は更けていく。

 快晴の空を月と星々と、巨大ゆえに時間をかけて消えていく七色に煌く魔法陣が彩る。

 その夜空を“うさぎのぬいぐるみ”は窓から見上げている。

 “神の召喚獣”ジズが消えてから、避難していた人々は街へ戻った。

 王都警備隊は不眠不休の仕事を要求された。被害状況の確認と、急ぎ復旧が必要な通路、水路などの修復や瓦礫の撤去作業に追われている。街中のあちこちに松明の火がちらちらと動いているのがわかる。夜空がいかに明るくとも、足元を照らす程では無いからだ。魔法陣が全開の輝きを放っていた時ならいざ知らず、薄らいだ光ほのかに落ちて広がり、夕闇迫る頃の明るさしかない。

 それでも、空の魔法陣はくっきりと見える。

 ミラノは、魔法陣の向こうが“霊界”であるらしい話を聞かされた事から、その“霊界”へ敵の攻撃を一度収納し、そのままどこぞへと向けて放出してやれと思って“やってみた”のだった。その魔法陣を使い回して、でっかい怪鳥も“霊界”へ押し込んでやれと。

 結果、前代未聞の召喚術が、王都上空で展開した。

 ──“返還”する事から始めて、どこかへ“召喚”する。その流れでいけるはずだと考えたミラノの案は成功し、敵の攻撃は封殺、ジズの強制退去もうまくいった。

 また、エルトアニティ王子にバレないようにする為に、魔法陣の色を変えたが、この世界の魔法陣の色は1人1色という常識を知らないままやった事。何色出せても自分は虹色の魔法陣を出す事は出来ないと、言い張ってやれば良いと考えていた。単色の魔法陣はいくつも見たが、グラデーションで七色に変化する魔法陣なんてそうそう無いだろうと思っての選択──その色は、誰も見た事の無い魔法陣になったが。すべて、出来たらいいなという適当な考えからきている。

 いつもの“やれば出来た”が、ちゃんと出来て、ミラノはほっとしていた。だがもちろん、出来てしまった理由などは“考えたってわかる事ではない”とヤケクソ気味に放棄しているし、知る由もない。いつかは知りたいが、今すぐ知る事が出来なくても良いと、思っているのだ。

 ──それが“逆召喚”と呼ばれるものと、ミラノは知らない。

 いままでミラノがやってきた事の多くは、“逆召喚”というものだった。建築資材をどこぞから“霊界”へ返還し適当な“霊”を憑依させ、自分の周囲に召喚して操った。“飛槍”の武器や盾も同じだ。

 “逆召喚”と言うが、結局は“霊界“を介して、瞬間移動をさせているのだ。ミラノ自身が、落下したものの逆召喚で地上に移したネフィリムの元へ飛んだのも、この瞬間移動になる。

 今回は衆目の集まる空、巨大な魔法陣で近い場所に出した為、わかりやすく発覚したと言っていい。

 パールフェリカの部屋で1人、ミラノは起きている。

 この部屋の主は、ミラノが戻った時すでに青白い顔をしてベッドに沈み、深い寝息をたてていた。室内には誰もおらず、エステリオも扉の向こうに控えているだろう。

 ミラノはこの部屋へ戻って真っ先に“うさぎのぬいぐるみ”へ移った。その時、“人”だった場所には、衣服とアクセサリがどさどさと落ちた。

 それを赤い刺繍の目で見下ろして、ミラノは感じた。

 “人間”ではないのだな、と。

 思い返せば、こちらに来て一切飲食をしていない。欲しいと思わない。自分から眠いと感じて寝た事は無い。意識は何度か失せたが、いつも時間が飛ぶだけだった。

 ──なぜ、おなかがすかない。

 ──なぜ、ねむくならない。

 召喚霊にしろ召喚獣にしろ、“霊界”にいるという“霊”をよんだりかえしたりすると聞いた。

 結局、“霊”だとかいうものなのだな、と。

 だが、自分のすべてが“霊”だとかいうものになってしまったというわけでは、ないはずだ。きっと自宅の玄関には体は転がっているだろう。

 “霊”になってしまうような原因──つまり“死因”──は想像が付かない。玄関で倒れたのだとしても、打ち所が悪くなるような物体は部屋に入って早々には置いていない。

 それでも、自分は“霊”としてこの世界に召喚されている存在らしい。つまり、“異界の霊”で召喚霊に相当するのだろう。だが、何故か延々戻る事も無い上、“実体”とやらを与えられて存在している。そのせいで召喚獣と呼ばれている。

 だが、召喚霊だとか召喚獣だとか抜きにして、召喚されていない状態にあった時、本当はただの“霊”なのだとしたら、“霊界”とやらから、自分の世界にある本当の体へ戻ることはできないか、と考える。

 それが“かえりかた”なのではないか、と。

 逆召喚という、方法。

 自分を“霊界”へ“返還”し、自宅のアパートに“召喚”する。それで、かえれないだろうか。“霊界”が、自分の世界と繋がっている可能性は高い、何せ自分はあちらから来た。

 ほのかに、ミラノの胸に希望が宿り始める。

 今夜は皆忙しいだろうし、疲れているだろうから、明日、相談しようと決める。



 やはり眠れぬまま、快晴の朝を迎える。

 その頃にはもう、空の魔法陣は消え失せていた。

 一部は失われたが、新緑の山々に真横から朝日が差し込む。大自然の美しい様を“うさぎのぬいぐるみ”の体で、ミラノは見ていた。やっとかえれるかもしれない、そんな希望を抱いて。




 ──山下未来希の通帳の残高が無くなるまで、あと……………




 ──山下未来希が“霊”とやらになっていたならば、それからこの日で7日目──

 ──人が飲まず食わずで生きていられるとされる最大日数、およそ7日──

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