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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【2nd】 ─ RANBU of blood ─
56/180

(056) ─ RANBU of blood ─ (1)※流血表現

(1)※流血表現があります。

 こちらが一息ついている間に、“飛槍”の男達はごそごそと言葉を交わしている。

 シュナヴィッツもミラノもそれに気付くと、目線だけを動かし、また見交わす。敵は何か企んでいる。

 彼らが使える召喚術は、彼ら自身が初召喚で繋がった召喚獣か召喚霊を呼ぶものだけ。それが何かはわからない。だが何かするつもりらしい。

 その前にこちらからユニコーンを取り戻すのも手だ。

 シュナヴィッツは人間の彼らを容易くモンスター相手のように殺めたいとは思っていない。気絶をさせるかユニコーンだけ取り戻せたら良いと思っている。それ故、先程取り囲まれた時もシュナヴィッツの剣先はやや緩かった。

 シュナヴィッツとミラノの方針が定まる前に、彼らの相談は終わる。

 “飛槍”の男達がばらばらと動き始める。

 半分以上がシュナヴィッツに長剣を抜いてさわさわと駆け寄る。シュナヴィッツも抜いた長刀と、その鞘を革ベルトから外して盾とし戦い始める。

 ──ぬるい……先ほどの召喚術を交えていた時より、ぬるい。

 シュナヴィッツは体術も交え、男達のこめかみや脇など、鎧の継ぎ目を鞘で強く打つ。男達はよろめきはするが、シュナヴィッツへの包囲網を崩さない。そして、男達は呼吸をあわせ、長剣短剣と射程の違う武器で迫る。射程を乱す作戦にきている。

 ユニコーンの傍に残っていたものたちがクロスボウやらを取り出しシュナヴィッツを狙い始める。その矢をミラノが黒い魔法陣を出現させ、盾を召喚してはガードする。

 敵から退きつつ動くシュナヴィッツ、彼の死角をミラノの黒い魔法陣が補い、敵から阻みそれをスムーズにさせる。シュナヴィッツの動きも早く、敵の行動も様々だが、そのどちらをもミラノは先読みしつつシュナヴィッツのフォローをする。この辺はある程度バーチャルリアリティ、インターネットゲームで培った危機予測の応用がきいた。それでも現実は違う、そういう所は、その時々である。この辺の割り切りをミラノは平気でする。シュナヴィッツも、ミラノの魔法陣を確実なものと思い込んで動いてはいない。

 そしてそれは、シュナヴィッツの意識もミラノの意識も敵に集中していた時。

 高い声で馬の断末魔が通路を貫いた。何度かガダンガダンと大地を激しく打つ音。

 ほぼ同時、パールフェリカの悲鳴が重なる。

「いやぁあああああああああああ!!!」

 薄暗い通路の向こう、大八車の上で大量の血を流すユニコーンの姿。車輪を幾筋もの黒いラインが地面に垂れる。鉄に似た血の匂いが通路を塞ぎ、唐突に場の雰囲気が不穏になる。

 ユニコーンは大八車にロープでぐるぐるに束縛されたままだった。

 シュナヴィッツとミラノがはっとして見た時には、もう動かなくなったそれの頭に、男達が剣を何度も付き立てている。真っ赤な血がその度飛び散り、男達に降りかかる。

「いやぁあああ!!! やめて!! やめてぇえええ!!!!」

 パールフェリカは動かない足腰を必死で持ち上げようとしている。立ち上がり、よろよろと駆け出す。

「パール!」

 ミラノの声も届いていない。シュナヴィッツが敵を牽制しつつ後退し、パールフェリカの腕を掴まえる。それにくらいつこうとする男達の前に、ミラノの黒い魔法陣が広がる。

 魔法陣は次から次へと生まれる。そこから数本の剣が生えてくるように出現する。ここの武器庫からミラノが召喚しているのだ。そしてついに、パールフェリカが膝を付く。召喚主パールフェリカの力はミラノが魔法陣を広げる度に消耗し、彼女が再び立ち上がるだけの力を奪ったのだ。これを見越したミラノの魔法陣の大量展開だった。

 ほっと一息ついてシュナヴィッツがミラノを見上げながら言う。

「ミラノ、すま──……」

 だが──。

 目を上げたそこには、密着する程近く、5人の男に囲まれているミラノの姿。

 ミラノの黒い瞳が揺れた。

 ──時間が、ゆるやかに流れる。

 体の正面から3本の長剣とその分の男達の手が見える。根元近くまで刺さっている。後ろからだろうか、胸に剣先が2つ、貫いて来ている。そこまで把握して、ミラノの意識は途絶えた。

 ──鮮血が、蓮華の如く軌跡を描いて、散った。

「ミラノォォォォォオオオオオオオ!!!」

 掠れた声は喉も裂けよとばかりの絶叫。

 パールフェリカの声だ。

 その音が耳を貫き、顔を上げて何が起こったのかを理解した瞬間、声は溢れていた。

 時間は急速に進み始める。

 ミラノの髪留めは飛び、かつっと岩肌の壁に当たって地面に落ちた。黒い髪が広がり、それに弾け飛ぶ持ち主の濃い赤の液体。

 剣を引き抜きもせず、男達は一斉にミラノから離れる。

「おい! 角は抜けたか!?」

「抜けた! 行くぞ!!」

 男達の声を確認するような向きに体が動かない。シュナヴィッツは己の体が、自分のものと思われないような、妙な感覚にとらわれていた。

 視線は縛られたように動かない。口がわななく。歯がきしむ。

 ただ、見ていた。

 力を失ったミラノの体がくの字に折れ、膝を付き、前に倒れ込む。だが、正面から刺さっていた剣が邪魔をした。地面についた柄に重みが乗り、つかえ、体は沈み込む。その剣先は、貫いた背中からぬるりとさらに赤く飛び出した。

 そして──世界の色が、反転した。

 シュナヴィッツの中で、何かがブッツリ切れた。

 吼えて両手に刀を握り、低い姿勢で駆ける。

 今まで聞いた事の無いような大きな音を聞いた気がした。それが自分の声だとは気付かない。

 次の瞬間、どんな音も遠のいて、聞こえなくなっていた。全ての音が消えた。

 体が、動いていた。

 両手に長刀、短刀を握り、腰を落として地を蹴る。

 敵の中心に飛び込み、右の長刀で長剣持つ男の腕を切り上げ、左手の短刀でその胸を突く。次の対象に長刀を振りかざしながら短刀を抜く。血しぶきを避けるように次の対象をすれ違いざまに斬りつけ、軸でない方の足で蹴倒す。転げたそれの首に再度長刀を振るう。

 剣を振り上げて体が開いた背後の敵へ、短刀を逆手に持ち替え振り向き様に下から喉元を掻っ切る。その胴を蹴飛ばし、さらに後ろの敵へ倒す。

 場所を作ってから一度体勢を整える。左手の短刀を順手に持ち直す。

 クロスボウらしきものに手をかけた離れた敵を見つけた。

 正面の敵に長刀を薙ぎ避けさせ、その進路に大きく体を踏み入れると、短刀をそいつの胸に突き立てる。短刀から手を離し、懐に手を突っ込んで削闘剣──いわゆる棒手裏剣──を剣先を互い違いにして3本まとめて投げた。1本がクロスボウをつがえようとしていた男の目に刺さる。

 すぐに正面の男から短刀を引き抜き、痛みに呻きクロスボウを取り落とした男へ駆けた。実力差がはっきりしてきたせいか、男らがさっと道を作った。クロスボウの男を長刀で切り倒す瞬間に、背後左右から同時に斬りかかられるが、シュナヴィッツは瞬速で長刀の持つ肘を引き、軸足で回転してクロスボウの男の裏に回る。2本の長剣がクロスボウの男にトドメを刺した。

 クロスボウの男がゆったりと後ろへ倒れ込んでくる前に、一息すら置かずシュナヴィッツは移動する。シュナヴィッツを後ろから狙った二人は既にターゲットを見失っている。その片方を横から一薙ぎし、短刀で喉を斬る。刺すと引き抜く時間が必要になる。また反りのある刀の最大の攻撃力は“斬り”が持っている。その事を分かった上で立ち回る。短刀は反りがあまり無いものを選んでいる為“突き”にも使う。

 日頃全身を覆う鎧か部分的に覆う鎧を身にまとって戦う。しかし今は、普段着の布で出来た衣服にアクセサリがちょろちょろと付いている程度。体は異様に軽く感じられた。一撃一撃にもその分の筋力を乗せられた。装備分は無いが、十分重く迅い一撃を落とし込む。

 短刀を突き、その男の長剣を奪い、殴りつけるように別の男の喉に突き立てる。また短刀を引き抜いて次の獲物を求める。

 斬撃が音楽だ。

 まるで舞うように刀を振り下ろし、刃を突き立てる。その動きの軌跡を赤い血が広がり斑点を描いて彩る。奏でる断末魔はシュナヴィッツの耳に届かない。

 血に酔い、次第にそれを避けなくなっていた。

 いつも以上に体が軽い。動く。しなやかに。

 するすると肉を斬り裂く事が出来た。骨ごと断つのも容易い。刃こぼれさえ無視だ。

 どこからこの力は湧き出ているのだという疑問が頭を掠め、そして、ようやっとシュナヴィッツの動きは止まった。

 全てを倒して、血の海の中心に一人、シュナヴィッツは立っていた。

 薄暗い通路、血と、5本の剣が貫く──……。

 目が回った。

 下を向く。血にまみれて握る刀が、ばしゃんばしゃんと落ちた。空いた両手を額に当てた。

 ──護りたかったんだ、あの人を。

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