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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【2nd】 ─ RANBU of blood ─
49/180

(049)はんずおぶぐろーりー(3)

(3)

 “モンスター”は、“人”に対して“獣”というものである。

 “人”が呼び分けた。

 “人”にとってはっきりとした害意のあるものを“モンスター”と。それは時と場合によって呼び分けられる。日頃は“獣”と呼ばれていても、空腹からでも“人”を襲い始めたなら、それは“モンスター”だ。

 “人”は“モンスター”を“闇の勢力”“闇の軍団”と呼ぶ事がある。これは単に、“人”を“光の勢力”“光の軍団”と呼んだ場合だ。



 ガミカやプロフェイブなど“人”の住む大陸を“光の大地”アーティアという。ガミカ国が面する“モンスター”達の住む大陸を“闇の大地”モルラシアという。光だの闇だのと言っているが、別に明るさに違いがあるわけではない。全て、“人”がそう呼んでいるだけである。

 世界はこの大きな大陸2つによって分けられている。

 “神”は非力な“人”に召喚術を、“モンスター”に様々な特殊能力を与えた。

 “モンスター”も、どれほど強かろうが寿命は必ずある。死んだ“モンスター”の一部が“霊”の存在で浮遊し、それが“召喚獣”となって“人”に与する。

 “人”に与してでも、それまでと同じ存在でありたいと思ったものが“召喚獣”になる。それが、シュナヴィッツらの召喚するティアマトであり、フェニックスであり、ヒポグリフであったりする。

 “モンスター”が強くなろうが、いつかはそれも“人”の元へ流れる仕組みがこの世界にはある。強大すぎる“リヴァイアサン”などは“神”のものになる。その均衡によって、“人”が駆逐される事は無かった。

 “人”はせいぜい肌や髪の色が違い程度、言語が異なっても生物としては同じである為、意思疎通が可能だ。

 だが“モンスター”はそうもいかなかった。

 空を飛ぶもの、海底深く棲むもの、地中を這うもの……もちろん地上を蠢くもの。それぞれが、それぞれの場所で覇を競う。

 “人”も国家という形をもって争っている側面があるので似たりよったりではあるが、“モンスター”は基本的に“食”のテリトリー争いであるので、苛烈だ。生き延びる為に食う、数を増やす為に食う、食う為に戦え。敵を食らえ、と。弱肉強食の図がはっきりと描かれている。

 ある時、“人”の社会で生きられなくなったり、あるいはその性たる好奇心で“モンスター”の大地モルラシアへ“人”が乗り込んだ。

 歴史上、脆く柔らかい“人”の肉の味を、“モンスター”が覚えた瞬間でもあった。



 薄暗い通路の地面は土でややゴツゴツしている。この洞穴には灯りを放つ石は点々としか配置されておらず、松明が必要だ。広さはそこそこあり、大人5,6人が横に並んで歩いても肩はぶつからない程度。

 男が一人、出口へとゆっくり歩んでいると、後ろから灯りが近付いて来た。ガラガラと1台の大八車を引く集団がやって来たのだ。

 男は一度足を止め、彼らを待った。

 集団は15人程度で、大八車を隠すように進んでいる。集団は男の前で止まる。集団の全員が、両膝をついて頭を垂れた。

 松明を持った男は、彼らの態度に一度頷くと、ゆっくりと大八車に近付いた。

 男の声はやや掠れてはいるものの真っ直ぐと発声され、知性を感じさせるものだった。

「ほう……ユニコーンか。こんなもの、どこで見つけた?」

 全身を、靴さえ隠れるほどの黒の外套ローブで包み、目深にフードを被っている。フードが少し歪んでいる。その下に兜でも被っているのだろう。

 外套から伸びた手の爪はやや長く、先が獣のように少し丸い。紫に近い青の塗料が塗ってあるようだ。その皮膚は血色が悪いのか青白い。だが、その甲にもはっきりとわかる筋肉が乗っており、ごつい男の手だ。剣か、何か武器を振るう手だ。そのいかつい手でユニコーンのたてがみを撫でた。本来なら“純潔の乙女”にしか触れる事は出来ない。

 大八車に未だ気を失ったまま横たわり、縄でグルグルに縛り付けられたうす桃色の馬。その眉間の少し上に、男の腕程の角が生えている。

 ユニコーンは、生存しているものならば癒しの力を備えているという。そのような生き物は他に居ない。

 死して“召喚獣”となってもその能力は継承される為、ユニコーンを召喚出来る者はどこの国に行こうが重宝される。現在、ユニコーンを召喚出来る者は確認されておらず、召喚獣としてのユニコーンは史実か物語の上にしかいない。

 またユニコーンの角は、惚れ薬の材料などという都心伝説もある。あまりにも貴重で確認はされていないが。

「城から飛び出してきた所を“岩剣”の連中が捕らえていたようです。せいぜい中上位程度のクラウド……我ら“飛槍”の敵ではありません」

 膝を折っていた一人が頭を下げたまま答えた。

「なるほど」

 黒の外套の男がフードを揺らして頷いた。

 ギルドは一元的に運営団体が存在する。その一方でただ“仲間”として集っている集団をクラウドと、この世界では呼んでいる。“飛槍”もクラウド名である。

「ユニコーンには、ガミカの王女が騎乗しておりました。その王女を探しに来たと思われる下の王子共々捕らえております」

「ほぉ」

 外套の男の声が俄かに色づく。喜んでいる。

 男は爪の長い手を地面にゆるくかざすと、ぶつぶつと唱え始める。その足元には青紫の魔法陣が浮かび上がり、ぎゅるっと回転する。

 そして現れたのは、2本の角のある牡鹿の頭と脚をして、その背に鳥の翼持つ召喚獣である。高さもそれなりにある通路なので、翼さえ畳んでおけば問題無く駆ける事が可能だ。

 黒の外套を器用にさばいて、男はこの召喚獣に騎乗した。

「私は先に戻り、“あの方々”へ報告をして来よう」

 男は集団を見下ろし告げ、召喚獣の首を撫でた。

「さあ、行こう、ペリュトン」

 その言葉の次の瞬間には召喚獣ペリュトンは駆け出し、黒の外套が大きく揺れて、フードがはらりと落ちた。

 兜を被ってはいたが、顔は顕になった。肌は手と同じくやや青白いのだが、精悍な顔立ちの二十代後半と見られる男のものだった。兜からはみ出た髪は肩程の長さ。全体的にウェーブのかかった黒い髪が、風に流れた。



 廊下の床は、牢屋のあった辺りは鉄だったが、すぐにある程度均した土や岩肌に変わる。木製の扉をくぐった辺り、入り口からずっと明るい。ここも同様だ。

 腰に刀を佩いたシュナヴィッツはさっと廊下の奥を見る。牢屋に放り込んだ見張り以外は、この階には誰も居ないようだ。

 シュナヴィッツはホルトスを見た。

 セイレーンの“声封じ”をここで解けないか、という意味だったのだが、ホルトスは首を捻るだけだ。喉をとんとんとんと指で示してみたが彼の頭の上にはハテナマークがいくつか浮かんだだけだ。

「ホルトスさん、“声封じ”を解けると言っていましたね。今出来ませんか?」

 横から声が飛んだ。シュナヴィッツは横にいたパールフェリカの腕の中の“うさぎのぬいぐるみ”を見た。こちらはあっさり察してくれたようだ。

「えっと……ここ、どの位地下ですか? 結構階段下りた気がするんですけど」

「地下7階です」

「ん~っと……もう少し、上に行きたいです。ジメっとした雰囲気が嫌いらしいので、ここだと来てくれないかもしれません」

 ホルトスがそう言い、今度は“うさぎのぬいぐるみ”の頭の上にハテナマークが浮かぶ。少しだけ首を傾げたのだ。

 シュナヴィッツが仕方ないという風に息を吐いた。

 召喚獣も召喚霊も“意思”を持っている。

 ホルトスの“セイレーンの声封じ”を破る為に使おうとしている召喚術の、召喚する獣か霊か、それはこのジメッとした雰囲気の地下がお気に召さないらしい。

 もう少し上でなんとかなるなら、さっさとそこに行くまで。

 シュナヴィッツは先頭を歩いた。

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