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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【2nd】 ─ RANBU of blood ─
43/180

(043)パール姫の冒険II(3)

(3)

 空からはわかりにくかったが歩いているとわかる。建物を修復している風景が頻繁にある。

 大型の熊のような生物──おそらく召喚獣──が足場を組むのに丸太を押さえていたりする。丸太と言えば、時々屋根にぶっ刺さっていたり、上方斜めから下方へ向けて横建物自体を貫いていたりする。また、唐突に鉄の壁が路地を塞いでいたりするが、ミラノは“ぬいぐるみ”のフリをしているので、例え視界の端を掠めようとも見ない。

 ミラノがティアマトから落下して見かけたような一般庶民や、同系統の服を着ている商人ら、ややめかしこんでいるのは観光か祭り目的で訪れていた者か。大通りに出るまであと少しという通りを、人々とすれ違いながら歩いていた。

 唐突に、後ろでガシャパシン! と、篭手の擦れる音と手を打つ音が響いた。やたらでかい。

「あーっ!」

 案の定ヤヴァンの声がして、パールフェリカは振り返る。ヤヴァンの顔へ視線を向けるまで、彼はそのままのポーズでじっと待ってパールフェリカを見下ろしていたのである。

 そして、ニコーっと笑う。

 パールフェリカの腕の中にあるミラノの赤い目にもそれは見えた。

 ヤヴァンはやおら、確かめながら首を明後日の方向へ向けた──既に“くさい”。こちらをちらちらと見ながら、である。

「もしかしたらあっちのフラエノの丘の方かもしんねぇ!」

 ミラノは正直頭を抱えたい思いがした──棒読みは酷い。

「フラエノの丘?」

 律儀に問い返すパールフェリカ。

「いやいや、俺も失念してたぜ! 通称“闇市”だ! ワイバーンの尾の猛毒はもう軍が接収しただろうが、兵士が横流しする事がある。それに群がる裏商人やら義賊やらがきっと集まってるはずだ! レアモノは大体この辺で取引されるんだ。 転売ヤローもいるかもしれない!」

 そこでヤヴァンは一度腰を曲げてパールフェリカに顔を近付け、人差し指をふりふりする。

「で、だ! そこならユニコーンの目撃情報が出てるかもしれねぇぞ?」

 ──……はい、黒……──

 パールフェリカの腕の中から小さな、ゆったりとした艶のある声が聞こえた──彼らは大通りに出る前に動いた。パールフェリカがあれやこれや聞いてボロを出させるまでも無かった。

 パールフェリカはヤヴァンの『ん? どうだ?』という得意気な顔と、“うさぎのぬいぐるみ”を見比べた。

 ヤヴァンはさっと姿勢を戻した。

「さっ、行こう! 行こうぜ! フラエノの丘だ! あー? フラエノ公園?」

「ああ……フラエノ公園の事」

 とパールフェリカ。城下町の中でも南の方にある、やや治安のよろしくない、建物が密集し整理されていない地区。そこにある遊具もなにもない公園だ。ただ、城下町の中では割と高い丘にあるのは事実だ。

 ヤヴァンは“ほら、おまえもっ”とカーラの腕を肘で突付いている。カーラは整えた形の眉をしかめつつ、視線を動かしながら笑顔を作った。そしてパールフェリカに大げさに言う。

「そ、そうね! あっちの方が確実に情報が得られるはずよ! さ! 行きましょう?」

 彼らをただ見比べるパールフェリカの耳に小さな囁きが聞こえる。

 ──パール……──

 声に『ん?』と“うさぎのぬいぐるみ”を見下ろした。

 ──いえ……なんでもないわ──

 パールフェリカは顔をあげて彼らに着いて行こうか逡巡した。その気配を察したのか、ミラノの声が聞こえる。

 ──あなたの好きにしたらいいわ。大丈夫よ──

 これだけこちらを舐めてかかってくれているんだから──と、ミラノは後半を飲み込んだ。

 パールフェリカは小さく頷くと、彼らの後を着いて歩き始めた。



 大通りは人で溢れ返っているが、1本通りをずらせばそれほどではない。とはいえ、常に誰かしらとすれ違う程度には混雑している。その道を歩いた。

 30分余り経過して、ミラノは訝る。

 ──ちょっと、時間がかかり過ぎている気がするわ。何かあるわね……──

 予定調和とでも言うのであろうか、ミラノの感覚は、これだけ時間がかかると、別の事態イベントが発生しかねないという結論を導く。実際の経験や仮想的に──小説やヴァーチャルリアリティ、つまりゲームなどから──得た感覚の積み重ねが、違和感を訴えている。

 パールフェリカからすると、先ほどからミラノの発言には『?』マークが脳裏に浮かんで仕方が無い。パールフェリカはちゃんとミラノが“異界から呼ばれた霊”である事を頭に置いている。それなのに、初めて来たはずの街だろうに、簡単に“心配いらない”とか“大丈夫”と言ってのける。

 歩いていると、次第に敷石に乱れが出始める。

 妙に浮いている間から草が生えていたりする。

 整備が行き届いていない区域に入ったのだ。この辺まで来ると、王都の民はあまり来ない。いつの間にやら余所者が集まり、余所者同士が集う場所になった。そして、吸い寄せられるように得体の知れない商人や、元から胡散臭い冒険者達が密談をする。

 城下町は山を降るようにある。ここに来るまでほんの少しつま先に力が入るような坂だったのだが、逆になる。上り坂だ。道は少しずつ狭くなり、建物の大きさも3階建てをMAXに小さく半分崩れかかったようなものがびっちりと建っているのが見え始める。区画が綺麗ではない為、路地どころか今歩いているような道さえ、唐突に行き止まりになっていたりする。

 人が3人並べば狭くなる道を何度かクネクネと曲がり、しばらくしてやや広い場所に出た。田舎の窓だけ開けたタバコ屋のような店が──これはミラノの感覚だが──何軒か見えた。ここら辺からまた上り坂がきつくなる。上へ上へ小汚い建物が建ち、その真ん中を5人程度が並べば通れなくなるような、ややいびつな階段が伸びている。

 昇りきった所で、小学校の運動場程度のだだっぴろいスペースが現れる。その周囲には先ほどのような建物が密集して建っている。その建物に沿うようにテントのようなものが並んでいる。露店でもあるようだ。よれよれの服を何枚も重ね着したような連中が浅黒い顔で座っている。

 丘の頂点に広場のようなこの公園があって、降る斜面に建物が建っているようだ。広場の中心には水の無い、ひび割れた噴水の成れの果てがぽつんとある。

 パールフェリカは瞬きを繰り返して見回す。本来、彼女が訪れるような場所ではない。

「ええっと、ここら辺に──」

「おい! ヤヴァンか!?」

「え?」

 ヤヴァンを少し小型にしたような男が路地から姿を見せた。

「おおーい! お前! 俺ギルドに呼んだのに何で……」

「いや! それよりマジィんだよ! 獲物、“飛槍”の連中に盗まれたんだ! 皆そっちを追ってる」

「はぁあ!?」

「なんですって!?」

 カーラが男の襟を掴み上げた。女のするリアクションではない。

 3人の声のトーンが一つ二つ上がる。

「つか、なんで“飛槍”が来てんだよ!? ウェティスに流れたって話じゃ……!?」

「あっちにゃ“炎帝”が飛んだんだ、“飛槍”も避けるだろ、そりゃ」

「くっそー……!」

「で、俺はまだここに残って“飛槍”の尻尾を──って居やがった!」

 言って男は横を通り抜け、こちらの背後へ走り出す。

「おい、待て!」

 ヤヴァンも追いかける。

「ちょっとぉ!」

 カーラが、一瞬迷った末、パールフェリカの腕を無理矢理ひっつかみ、男二人を追いかけた。

「え? ちょ!?」

 パールフェリカは背が低い分足の長さも足りないので、半ば引きずられながら、転んでしまわないようにと必死で走る。最早なりゆきだ。

「えーーー!!?? な、な、なにごとなんですかぁ~!?」

 最後に、空気と化していた新参者、ホルトスが衣をばたばたと鳴らして追いかけて来た。

 2人がギリギリすれ違える程度の、細く暗い路地へヤヴァンの小型が飛び込んだ。それを追うヤヴァン、カーラ、引っ張られるパールフェリカと“うさぎのぬいぐるみ”に、ホルトス。

 上方から漏れる昼の光は足元まではほとんど届かず、しかし大きめの敷石が時折めくれてるような路地を転ばぬように走るのは大変だった。

「カーラ!」

「なによ!」

 前方からヤヴァンとカーラの声がする。

「50歩先だ! 頼む」

「──っもぉ!」

 すぐにカーラはキュキュッと足を止めた。勢いでパールフェリカは前につんのめって転びそうになるが、ぐぐっと堪えた。

 カーラはローブをひらめかせ、肌にぴったりと張り付いた、タイツのようなズボンを露にする。“うさぎのぬいぐるみ”の耳が路地にへたりと付いてしまった、パールフェリカの上半身が前かがみになっていたせいだ。その横で、女の声が通る。

「きたれ」

 カーラの口から言葉が紡がれる。

 その瞬間、彼女の足元にきゅわっと濃紺の魔法陣が広がった。

「地下深く棲む者、“7番目”に跪く者よ。 

 汝、心優しき者、全てを識り磨く者よ」

 はっきりとした声で詠唱する。その声にあわせて魔法陣がぎゅるっと回転する。

「幾千幾万の時、大地に眠るあらゆる礎を守護する者よ。

 神の盾にして監視者たるミカルの契約に基づき、

 出でよ、ピグミー!」

 そして、魔法陣が輝きを放つ。

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