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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【2nd】 ─ RANBU of blood ─
41/180

(041)パール姫の冒険II(1)

(1)

 クライスラーが彼らに近寄り、5歩の距離になった時。

「パール!」

 “うさぎのぬいぐるみ”が声を発し、パールフェリカと、冒険者ら4人が一斉にこちらを振り返った。

「え? 女の声?」

 冒険者の内、男が言った。

 クライスラーが、実にぎこちない動きで“うさぎのぬいぐるみ”を左腕に抱え、口をパクパクさせ、震える高い声で「パ、パール……」と言った。

「……………………」

 誤魔化そうとしてくれたらしいが、結果、全員の時間が少しだけ停止した。先ほどの女の声と、どう考えても違いすぎる。

 ミラノは、声の主さえ居なければ人は案外“聞き間違い”と思い込んだりするので、冒険者らのリアクションはスルーするつもりだった。クライスラーの機転らしきものは想定外だったが。

「なんだ……あんた知ってるぞ。人形師のクライスラーだな。それは腹話術か? うさぎで?? 口ねーだろう?」

「やめなさいよ。クライスラーは払いの良いクライアントなんだから。いつも収集クエストをギルドに提供してくれてありがとう。貴重な現金収入なのよね」

 女冒険者にそう言われて、クライスラーは顔を逸らし、口をもごもごさせ「……え……いえ……その…………はぁ…………まぁ……」とごく小さな声で言うのだった。

 それらの空気を割って、パールフェリカが歩み出た。そっと“うさぎのぬいぐるみ”に手を伸ばし、クライスラーから受け取ると、ぎゅっと抱きしめた。

「“みーちゃん”」

 声はほんの少し、湿っていた。その吐息を受け止めてから、ミラノはごく小さな声で言う。

「少し、二人で話しましょう?」

 パールフェリカは“うさぎのぬいぐるみ”の顔をまじまじと見つめた後、冒険者らにクライスラーは知り合いなので少し話をしてくると言って離れた。必然的にクライスラーも巻き込まれているが、ミラノは特に気にしていない。もちろん、クライスラーが気にしているかどうかさえも。

「クライスラーさん、水と救急キットのようなもの、ありませんか?」

「ん? ギルドの中で水もらえる。救急道具売ってる。ちょっと待ってて」

「入れるのですか? ギルドの建物なのでしょう?」

 ミラノの想像する“ギルド”というものは、閉鎖的だ。会員制という括りを設けている場合が多い。会員以外はお断り、会員になるには試練がありますよ、そういったイメージがある。

「え? だって俺も一応冒険者だから。元、だけど。でもメンドー臭くてギルドまだ抜けてないし。会費安いし……」

 そう言って背を丸めたままクライスラーは奥の建物に歩いて行った。

「え? 冒険者だったんだ、クライスラー」

 パールフェリカも驚いている。クライスラーはどうやらただの変態人形師というだけでなく、まだ謎を持っていそうだ──ミラノには、どうでも良い話だったが。クライスラーの背を目で追うパールフェリカに抱きかかえられているミラノは、ぬいぐるみのフリを続行しているので、声だけ彼女に向ける。

「パール、あなたのわかる範囲でいいから、何があったか教えて頂戴」

「ええっと……ね。ユニコーンが部屋から飛び出して、あわあわ言ってる間にドンドン下に降りて行って……。勢い付きすぎたのか、木にドスーンってユニコーン、角ぶっさして激突して……」

「…………………………」

 俄かには信じがたい、伝説の幻獣のドジ話である。

「それで、私後ろに吹っ飛んで落ちて……。ユニコーンの角を抜こうと頑張ってたら、よくわからない人達が助けてくれて? それで……その…………」

「どうしたの?」

「…………私…………騙されちゃった…………」

「話が見えないわ」

「ユニコーンは気を失ってたんだけど、引っ張り抜いてくれた人達に、その……連れて行かれちゃって…………私、折角とうさまから頂いたユニコーンを、盗られちゃって…………」

 しばらく黙っていたが、意を決したように口を開く。

「それで! 街中で困ったら、冒険者ギルドだ! って思って」

「警察……街の警邏隊とかはないの?」

「そういうの、あるけど……とうさまに伝わってしまうから……」

「そう……」

 そこまで話したところでクライスラーが木製のバケツに水を溜めて持ってきた。ミラノが手を出して受け取ろうとするとクライスラーは制した。代りに左の柵の方を指差した。

 ミラノはパールフェリカをそちらへ促す。

「パール、右手」

 柵の辺りで突き出されたパールフェリカの右手に、そろそろとバケツから水がかけられる。パールフェリカは少し顔をしかめたが、何も言わなかった。

 ポケットから出した手のひらサイズの小箱を開いて、病的にも見える細いクライスラーの手はちゃっちゃとパールフェリカの手当てを進め、ガーゼと包帯で留めてしまった。

 先ほどクライスラーが“うさぎのぬいぐるみ”を制したのは、ぬいぐるみのフリをしている、また濡れてしまったら大変だという意味があったのかもしれない。

「慣れてるのね」

 ミラノがそう言うとクライスラーは珍しく、ハハッと小さな声ではあったが笑った。

「昔、よくやってマシタから」

「助かるわ」

 礼代わりに、しかし淡々と言ったのだが、彼の青白い顔が朱を注いだように染まる。──ミラノは思わずぎょっとしてしまった。

 そういう点を忘れていた事を、今更思い出してしまった。

 可能性はあった“人”の時に。どうやら女性と話すのが苦手と見える彼の、慣れ親しんだ“ぬいぐるみ”の姿を自分はしていて、そのせいで口の利きやすい女性である、という事──。

 ミラノは、あまり口を開かないでおこうと心に決めた。何故こうなるのか全く以って理解し難いが、早め早めの対処が肝心だ。

 結論、ミラノは話を逸らす──戻す事に決めた。

「パール。それで、彼らに依頼を?」

 ミラノが問うと、パールフェリカは小さく首を左右に振った。

「ここに、ギルドに着く前にあの人たちとはたまたま会って、事情を聞いてくれて、助けてくれるって」

「……そう…………それで? ここに着いたのはいつ頃?」

「え? 30分位前? なんかあの人たちの仲間? を待ってるところ」

「仲間? そう……わかったわ」

 ミラノは連中を信用しない事に決めた。

「パール。もしかしたら、“人”にして欲しくなる時が来るかもしれないから、いつでも用意しておいて?」

 こっそりと、パールフェリカが傍に居る状態の“うさぎのぬいぐるみ”で魔法陣を出そうと試したが、出なかった。“人”であれば出せない時は無かったが、今から“人”では警戒もされるだろう。だから“その時”が来てからでいい。

「え? え?? うん」

 困惑しながらも頷くパールフェリカ。かんざし状態の葉っぱの付いた木の枝が揺れた。ぬいぐるみのフリをやめる時には、その髪を整えてあげたいとミラノは思った。

 そして、3人の男と女が1人の冒険者達を赤い目で見た。

 ──何もかもタイミングが良すぎるのって、考えものね。

 それにしても、とミラノはしみじみと思う事がある。

 驚く程あっさりと、簡単にパールフェリカと出会えた。

 空から落下し、子供らに拉致られ、変態人形師の助力を得て──そこですぐに出会えるとは思っていなかったので、さすがに、シュナヴィッツが言っていた“召喚士と召喚獣の絆”とやらを頭に思い浮かべずにはいられなかった。

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