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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【6th】the second love - | ||taboo|| |
169/180

(169)空中追捕(3)

※ この回はちょっと意味不明かと思いますが、適当に読み流して頂ければ幸いです。

あるいは飛ばすか、深読みして遊んでみてください。

あとで符合します。

(3)

 空を滑るように飛びながら、ミラノの体を乗っ取った“はじめの人”ソウェイラは逃げ先を思案する。

 スカートがばさばさと暴れた。

 木々の上を飛んでいるが、地上に人が居たらきっとスカートの中は、一瞬だが丸見えだろう。お行儀の良い未来希に見つかったら怒られるかもしれない。ソウェイラはバレなきゃいいかと思い直して、体に負担がかからない程度に速度を上げた。

 未来希の体に入り込んだのは“秩序”の目を逸らす為、これに尽きる。だが肝心の未来希自身への“秩序”の介入も始まっている。目立つことは出来ない。

 今回、この世界を産みだして数十億年のところへ侵入した。

 平穏無事に「終わる」はずだった世界だが、自分と同程度の存在が入り込んだ事で時間と歴史が修正された。そもそも最初から“爆弾”を残してしまっていた自分の過ちだ。

 この世界には特に名前が無い。

 世界に住む者にとっては唯一無二で“世界”と言えばその世界しかない、名称など不要だ。

 ただ、ソウェイラはそういう“世界”を他にもいくつか創ってきた。区別するために名称はあっても良かったが、ソウェイラはこの世界に名前を付けていない。

 他と区別する時は“はじめてつくった世界”、あるいは“アルティノルド”と呼んだ。

 初めて創った世界だけあってそれだけたくさんの失敗もしている。が、その分愛着は他よりも深く、簡単には亡くしたくない。

 ──やらなければならない事。

 ソウェイラは背後から追ってくるパビルサグの気配に気付きつつも、あまり上げられない速度に歯噛みした。

 急がなければならない。

 己が残してしまった“爆弾”を──滅びの源を絶ち、“秩序”に完全に捕捉される前に“霊界”へ戻らなければ……。

 誰も彼も助けたいだなんて、都合の良い事かもしれない。

 最悪、自分が“秩序”に見つかるのだとしても、滅びだけは排除しなくては。

 切羽詰っている事は嫌という程自覚している。もう、なりふり構っていられなくなる。

 なのにパビルサグときたら、“秩序”に『ソウェイラははここに居るぞ』とラッパでも吹き鳴らさんばかりに追ってくる。

 本当にこちらの事を心配してくれているのか酷く疑わしい。それとも、既にパビルサグの無意識への“秩序”の働きかけがあるのか。付き合いが長い分、腹も立つ。

 パビルサグは自分よりは格下で負ける気はしないのだが、それは『本来の状態ならば』での話。今は未来希の体という著しい制約を持っている。

 本来の状態なら、パビルサグ同様この次元の世界で死ぬなんて事もない。出来ない。だが、頭を吹っ飛ばされたら自分は無事でも、“未来希の体”が即死する。

 パビルサグのように数秒で再生回復なんてマネは出来ない。

 もし死に、蘇らせたければアルティノルドに創造の力の応用、再生の力を使わせなければならない。だが、“はじめの人”たる自分にはもうそれをさせる資格がない。

 今それを命じられるのは未来希だけ……。

 ソウェイラは考えを消し去ろうと小さく頭を振った。

 すべての存在には禁忌タブーがある。

 滅びの源を排除する前にアルティノルドと未来希を接触させる事は、自分が来た以上、最小限に抑えたい。出来れば避けたい。

 結局、こそこそと亡びの源を探し出し、やはりこっそりと再び封じ込めるしかない。

 落ち着いてそれを成し遂げる為にも、一度、パビルサグをしっかりと振り切る必要がある。

 今、“未来希の体”という人のなりをしているのだから、人の中に隠れてしまった方が良いと考え、ソウェイラの知る人の集落──王都へまっすぐ戻っていた。

 逃げ切れますように、なんて誰にやら祈っているそばから、左脇で火線が閃き、熱風に体ごと髪も服も大きく右へ押しやられる。

『逃がすか!』

 両手を顔の前で交差させ、熱から顔を守っているところへパビルサグの声が後方から届く。

 わずかに吸い込んでしまった熱い空気に喉が一気に乾燥してしまい軽く咳き込んでいたが、瞬間で頭に血が登った。

「ふざけんじゃないわよ!」

 ソウェイラは叫び、空の上、ぐっと足を踏ん張って熱風に流されるのをこらえた。

 大気を焼いて辺りにふりまかれる煙が臭い。

 熱で揺れる視界の隙間からこちらへ迫る半人半馬をぎろりと睨みつつも、挑発されるわけにはいかないと背を見せてでも王都へかっ飛ぶ。

 パビルサグ相手では魔法陣で“霊界”への扉を開いて逃げるのは無意味だ。むしろ彼はそちらの領域──“霊界”の方が得意なのだから。

 もう1点、“霊界”だが、先程黒い“うさぎのぬいぐるみ”とネフィリムの前から姿を消す際にも潜ったが、問題があった。その時既にパビルサグの言うように“霊界”そのものが渦を巻いていた。“霊界”よりも下の階層に位置する世界の住人である未来希の体では、あっさり砕けてしまう。結局、この世界の内側で逃げるしかない。

 さらに2発目、3発目と背後から火線が飛んでくる。

「ちょっと! この体借り物なんだから!」

 パビルサグへ体を向け、後ろ向きのまま空を逃げつつ、非難の声を上げた。

『だったら止まれ! 俺の話を聞け!!』

 さらに1発打ち込まれ、慌てて避けたソウェイラだが、すぅっと目を細めた。

今のは避けなければ当たっていた。

 一気に目を見開き、パビルサグを睨みつける。

「──傷つけたらお前! 消すわよ!!」

 同時に大気がうねり、パビルサグを真正面から重い気配の塊が襲う。

 足を緩めたわけでもないのに、パビルサグの進行速度は半分以下になった。

 吹きつけてくる気配にパビルサグのくるくる巻きの髪もまっすぐ後ろへ流されている。顔をしかめていた。

 この世界の力が働いたのではない。風でもない。

 層の違う、ソウェイラやパビルサグの本来居るべき別次元からの攻撃に、パビルサグは呻いた。

『脅す気か!?』

 パビルサグは追うのを一端やめ、気配に押し流されつつ横に逃げる。この次元世界では視覚化されない、目には見えない広範な衝撃波を避けつつ、言葉を叩きつけた。

『俺を消滅させてみろよ、すぐ“秩序”に見つかるぞ! そうなったらあんたの方が──』

「うるさい! そんなのは覚悟の上よ!」

 再び追ってき始めたパビルサグの言葉を、ソウェイラは遮って声を被せた。

 パビルサグは目を細めて彼女の背中を睨む。

『──……そうかよ……!』

 距離を大きく開けられ、眉をひそめてパビルサグは再び“未来希の体”を追う。

 元の次元のソウェイラならいざ知らず、この世界ならば借り物だという体は弱点だ。パビルサグは追いかけながら手の平に光を集めては逃げていく“未来希の体”ソウェイラへ何度も火線を撃ち出す。

 先程の衝撃波はソウェイラの怒声だけで生み出されていた。

 追いかけつつのこの攻撃は確かに足止めの為の脅しだが、本気で当てたらパビルサグなど間違いなく彼女の言葉通り消されてしまうだろう。

 怒声だけでパビルサグを吹き飛ばせるソウェイラにとって、消滅までさせるという事もたいして難しくないのだ。

 苦し紛れのパビルサグの威嚇攻撃は、狙いも酷く甘い。威嚇の意味を成していない。

 パビルサグの消滅は、もちろん本人にとっても、ソウェイラにとっても良くない事だ。

 ソウェイラはそれを覚悟した上だというのだから、対処のしようがない。“霊界の門番”でしかない立場を嘆きたくなるが、パビルサグとしては“秩序”の介入の前に何としても連れてかえりたい。

 世界の1つや2つ滅んだところで“霊界”には痛手にならないが、ソウェイラが“霊界”に居ない事はとても大きな意味を持っているのだ。

『……説得しかないなんて、馬鹿げてるぜ……!』

 パビルサグは苦々しく呟き、当てる気も無い攻撃を続け、ソウェイラを追った。

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