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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【1st】 Dream of seeing @ center of restart
16/180

(016)召喚?ヤマシタミラノ(3)

(3)

 同時にいくつものアクションとリザルト──。

 敵の配置を読み解いて、移動を予測、タイミングを図り、罠を仕掛け、とどめをセッティングする。

 大空という巨大なディスプレイに対して、ミラノの黒の瞳がせわしなく動き回る。

 奥行きに対する計算がずれて敵を逃がしてしまう事がまだあったが、慣れればいいとミラノは軽く考えている。

 次第に、味方であるドラゴンやペガサスらの動きも見えてきはじめた。

 彼らの攻撃方法はドラゴンのブレスやその手に持っている長いランス。あるいは弓やクロスボウ。騎兵は揺れる背に居て、重力の支配下にある。彼らは、体を固定できている時、主に行動する。それらを目で追い、丸太による援護や弾幕、鋼の板によるワイバーンの炎のブレスからの防護にもまわる。ついにはミラノは鉄の釘も召喚して、つぶてという攻撃手段として飛ばし、ワイバーンの行く手にばら撒いていた。シューティングゲームも好きなミラノとしては爽快に避けるのは好みでも、自分で弾幕を作り出すのは正直、早々に面倒になってきていた。それに、自分の手持ちの駒──丸太や鋼の板、敵に対して釘は小さすぎる。攻撃に適していないと悟る。

 丸太の先端が緩くなったものをミラノは捨て──人の居ない地面に落として──再び自身の周囲に資材置き場から“召喚”する。その度、真っ黒の魔法陣がしゅるしゅると浮かび上がる。残っていた釘も下に人が居ないか確認してから落として放置する。効率が悪いので使うのをやめた。

 その頃から味方の援護に徹し、召喚騎兵のランスなどで敵モンスターを落とさせていく。時々、味方騎兵がうまく動いてくれなくて、せっかく敵を押しとどめたのに追い討ちで攻撃を加えてくれなくて何度か逃がしてしまった。それでもミラノは特に苛立つという事も無く、次々とアシストしてトドメを挿すタイミングを用意していった。数打ちゃその内落としてくれるという手数仕事として、また自分の役割さえこなして後は次の人に丸投げするという、ミラノが今まで経験してきた派遣仕事的に、処理していったのだった。何か余計な事──攻撃的な事をしているだとか、命を奪っているだとか、そういった感傷──は当然ながら欠片も無い。

 相変わらず胸を押し出して、その下に左手を這わせ、その甲は右肘に置いて垂直に伸ばし、右手の甲に顎を乗せている。首の向きをその手でもコントロールしながら、大空への注視点を次々と変更し、アシストマーク、ターゲットマークを切り替えていく。

 ふと、あの光るドラゴン──ティアマト──が、目立つせいかワイバーンに囲まれているのに気付いた。

 ティアマトに騎乗するのはシュナヴィッツだ。パールフェリカの大事な兄。周囲の5匹ものワイバーンが、一斉に口を大きく開いた。

 ──ブレス。

 ミラノは大空、比較的ティアマトの近くにあった鋼の板を一斉にそちらへ疾らせた。

 板でティアマトの周囲を囲う寸前、ティアマトの翼がシュナヴィッツを護るように開かれたのが見えた──高度が下がる。

 ワイバーンのブレスは全て鋼の板の上で踊って消えた。驚いたらしいワイバーンがティアマトから距離を取る。ミラノの操る十数本の丸太がそれを逃すわけもない。丸太は大人が両手で抱えられる程の太さ、建物2階分の長さがあり、1本1本の重量は相当なものになるが、ワイバーンに向け雨のように時間差を付けて3次元的に高速で降り注ぐ。角度を付けてワイバーンは逃げていくが、映像の視界演出効果として有名な“板野サーカス(※1)”の如く、ミラノは丸太を次々流し込み、やがてその背に追いつかせ、数本の丸太でどすどすと貫く。

 ほぼ同時進行でミラノはすぐに鋼の板を別のドラゴンや人々の居る方へ動かし、ワイバーンのブレスに備えていく。

 ふと、ティアマトが、こちらを向いた。

 その揺らめくような金色の瞳と、こんなにも遠く離れているというのに、目があった気がした。ティアマトが、礼でも言っているのだろうか、それなら少し嬉しい。味方をちゃんと庇えて、感謝してもらえるというのは気分がいい。ティアマトの周囲に、その美しい姿の横に置くには忍びないが、尖った丸太を何本か配置した。そして向かい合う数匹のワイバーンと対峙する。ティアマトは目立つので常に援護体勢を用意しておく事にしたのだ。

 ──鋼の板は、街の人々に襲いかかってブレスを吐き出そうとするワイバーンに向けて放ちながら──ワイバーンの強力な爪のある脚を避け、ティアマトが飛び、風を生み出す、それらの動きをミラノはしっかりと目で追いかける。ワイバーンの体がぐらりと揺れる所へ丸太を打ち出して隙を作り出すと、ティアマトの上からシュナヴィッツが体を逸らしてジャベリン(投げ槍)を勢いよく投げ、そのワイバーンの額をかち割った。そこへティアマトの炎のブレスが吹きかけられワイバーンはもがく事も無く落下していく。



「ミラノ」

 横から声がかかった。

 一瞬、いくつかの丸太と板の動きが止まってしまう。

「今は、ちょっと……」

 ミラノはそれだけ言って後はシャットアウトした。何か言っているようだが、聞き取らない。脳に入ってきては邪魔だ。



 敵の数が300まで減った頃。

 ミラノは淡々とした眼差しで大空の多くの点へ視線を投げている。

「──それでもキリがないわね」

「だから、私がさっきからそう言っているじゃないか」

 いつ魔法陣がそこに出るかわからない為か、少し距離を開けて、ネフィリムが息を吐き出すように言った。

「………………」

 存在に今気付いたと言わんばかりにミラノはネフィリムを見て、一瞬言葉を詰まらせた。大空の丸太や鋼の板などは、指定位置まで移動したものから順に動きが止まっていく。

「……ごめんなさい。話は何も聞いていなかったわ」

 あっさりすぎるほどあっさりした口調でミラノは言って、すぐに空へ目を移した。再び動き始めるミラノの操る丸太。

「私を無視していたと言うんだね……」

 ネフィリムは眉間に皺を寄せ、いささか怒りを滲ませつつも、にやりと苦笑している。

「一体何をしているか、などは後で詳しく聞くとして。見えるかい? あそこ、赤と黒の“鎧を着ている”ワイバーンがいる」

「…………」

 ネフィリムは指をさしはしないが、その特徴のあるワイバーンならすぐに見つけられた。何度かチラチラと今までも見えていた気がする。すぐに隠れるのでミラノは無視していたのだ。しかし、探してよく見れば、なんだあの派手さは。青空と緑の木々の天辺との間、敵の群れの中央にその特徴があった。他の敵は皆むき出し、いうなれば裸だ、見分けがとてもしやすい。

「モンスターにも知恵のあるヤツは居て、それが組織だって“暴れたいだけ”のモンスターをうまく率いたりする。あの赤と黒の“鎧を着ている”モンスターは度々戦線で見られる、大体あれが、指揮官だ」

 本当に知恵があるのかと疑いたくなる、モンスターはそれほど統制されていない、ただこの場所を襲い暴れている、程度。それであんな目立つ格好だなんて、どれほどの意味があるのやら。

「──わかったわ。あいつを狙ってルートを作ります。動きを止めるので、焼き崩せたり、できますか? より効果的に、派手に倒したいわ……」

 焼き崩す、いい加減な表現を使ったが、あんなに沢山居るワイバーンが炎のブレスを吐くのだ、世に1匹というフェニックスならもっと凄い事も出来るだろう、そういう考えでミラノは言った。

 敵指揮官をネフィリム王子の召喚獣フェニックスが倒すというのも、また良いだろう。被害にあっている民の目にもはっきりとわかる程、敵を討ち滅ぼす。復旧時に良い発破がけとなろう。ミラノは自分にとってはどうでもいい、そんな事まで考えていた。

「……動きが止まるなら。火線は、その丸太3本分だ」

 ネフィリムのその言葉に、ミラノは周囲に今までの倍以上の黒い魔法陣をどろどろと浮かび上がらせる。日本のホラーで言う、人魂が浮かび上がるような、闇色の霞が立ち上り、魔法陣に形が作られる。あちらを見通す事の出来ない濃い闇の魔法陣。特に、どうこうというやり方がわかってやっているのではない、ただ頭の中で「来い、来い、来い、もっと来い」そう念じているにすぎない。

 ──ルートを作る。

 インターネットゲームと違って、前線に居る召喚騎兵へ細かく作戦を、指示を伝えられない。そうである以上、ネフィリムが言ったフェニックスの攻撃、その攻撃の軌跡、火線が走るラインに味方を近づけないようなんとか誘導しなくてはならない。

 ネフィリムも今までタイミングを読んではいたはずだ。その火線を飛ばせず“鎧を着ている”モンスターに攻撃が出来なかったのなら、あちらもその知恵とやらでラインに入らないように動いているのだろう。こちらの味方を必ずフェニックスとのライン上に置くように、動いているのだろう。

 消耗戦になればこちらが不利なのは、この短時間での判断だが、間違いない。敵ワイバーンの動きは、どれ程時間がたっても、スタミナが尽きる様子が無い。それに引き換え、召喚獣を操っている騎兵の力は、動きは次第に“ぬるく”なってきているように感じられる。召喚獣、兵の両方が同時に力を失っている。召喚士である兵が両方の力の源なら、そういうものなのだろう。



 そして、全ての、500以上の丸太を頭上に“召喚”し、ミラノは一斉に空へ放つ。風圧で髪留めがどこかへ飛んでしまい、黒髪がばさりと散らばったが、ミラノは首を少し傾けただけだった。

 敵300の合間を縫って、ミラノの丸太が縦横に走りぬけ、味方を誘導し、ワイバーンを退ける。そして、目的の空隙を作るように丸太の集中砲火が空を駆け巡る。虚を突き、“鎧を着た”敵将らしき飛翔ワイバーンへ、空に穴が開いたように道が作られた。

 その瞬間、フェニックスの咆哮──!

 ミラノの横、前の方にまでオレンジに燃え上がるその首が伸ばされ、嘴が大きく開かれた。

 くおぉぉっと高い音が空に衝き抜け、熱光線が敵将に真っ直ぐ伸び──数秒もない──消し炭……塵へと変えた。それはゆらゆらと風に散り、流れる。

 熱光線は天上高く伸びていき、収束し、消えた。

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