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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【6th】the second love - | ||taboo|| |
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(159)パール姫の冒険VI(2)

(2)

 一方、巨城エストルクへ戻ったネフィリムの護衛騎士アルフォリスは、パールフェリカの部屋へと続く廊下を歩いていた。

 ミラノ本人である黒い“うさぎのぬいぐるみ”と謎の“ミラノの体”が見つかった事を伝える為だ。

 迷いの無い足取りだったが、ふっと止めて眉をひそめる。首を傾げて南を振り返った。

「…………」

 壁しかないが、アルフォリスが見ているのは遙か遠くの魂の友だ。

「ヒポグリフが飛んで動いている?」

 ──危険な感じはしないが……。

 何かあった時には言葉の代わりに頭に金切り声のような警鐘が響いてくる。

 召喚士と召喚獣の間の魂を通した通達だ。

 ネフィリムに何かあったらそれで伝えてくるはずだが、ただ移動しているだけで何も無い。あちらには“神の召喚獣”さえ退けたミラノが居るのだから心配は無いだろうと考え、アルフォリスは再び歩き始めた。

 昨夜、ミラノの弟キョウは城内の近衛騎士の詰所にある寝所で休んだ。

 アルフォリスが客室を用意させると言うのに「開いているベッドが一つあれば十分」と言ってきかない。結局、アルフォリスやリディクディが家に帰らない時に使っている寝所で一夜を過ごした。アルフォリスは特に家──王都内の大邸宅にはあまり帰っていないので、ほとんど城の寝所を使っている。

 今朝のことだ。アルフォリスは大食堂でキョウを見つけた。

 誰に連れて来られたのか、兵士らの輪の中で笑いながら飯を食っていた。

 キョウはアルフォリスに気付くと兵士らに別れを言い、こちらに手を振って近寄って来た。手には飯の乗った盆を持っていて「一緒に食べていいっすか?」と微笑ってきた。

 フルアーマーを着こなすアルフォリスからするとキョウは華奢に見える。もちろん線の細いミラノよりずっと男らしくはあるが、顔がそっくりなのでひどく妙な感じがしたものだ。

 アルフォリスは四肢を分断されて殺された経験があるのだが、蘇生してくれたのはミラノだと知った。

 パールフェリカ姫の召喚獣として現れたミラノという黒髪の美女は、冷たいというわけではないが、表情の変化が乏しい。なのに逐一心遣いが行き届いており、何気ない行動にはっと気付かされる。

 一緒にいるだけでは何を考えているのかさっぱりわからない。その漆黒の瞳は深淵のようでもある。なのに、こちらのことはたいてい筒抜けなのだ。

 アルフォリスのミラノに対する印象は、普段は静かに控えているのにやる時はやる女傑──。王妃に求められる資質と一致した。

 部下の自分ですら理解している事、主のネフィリムが見逃しているはずはないと確信している。だから、決して手放さないだろうと思っていた。

 だが、神の召喚獣騒動後、体調を取り戻したミラノは早々に姿を消した。

 主は想い人とはもう二度と会えないのだろうか、そう考えていたが、この程、再会を果たした。アルフォリスが己の全てを預ける主だ、ひょうひょうとしながらも次はきっと逃さないだろう。

 ミラノに関してはそれで良いのだが、彼女の弟たる人懐こいキョウの扱いだ。

 主の想い人ミラノとそっくりな顔でにこやかにされると、アルフォリスはひどく妙な感じがしてくる。

 キョウは親しげだが、やはり、姉のミラノ同様、考えている事がわかりにくい。表情豊かに惑わせる。あれは、顔を向ける度に態度を変えている。にこやかに会話をしても、立ち去る背中には冷ややかな目がついているのだ。

 後で気付いた事だったが、六枚の翼を持つ少年天使が突然現れた時、キョウは確かに場を制していた。整った顔立ちながら、平気で道化も演じる。

 パールフェリカに優しく微笑みかけるミラノの様子は女神のようだ……。間違いなく、害意は無いだろう。

 だが、キョウに関しては、全幅の信頼を寄せたものか、アルフォリスには酷く怪しく感じられた。

 誰もがミラノの弟という事で採点が甘くなっているせいかもしれない。パールフェリカやシュナヴィッツ、ネフィリムでさえも……驚くほどあっさりと近付くことを許している。

 接点が少なく、キョウに関する情報は限られている。が、ミラノとそっくりな外見の中、確かに同じ黒い瞳だが、宿すものは大きく異なる気がした。

 経験と言う名の直感がすべてを信用するなと呼び掛ける。長年護衛として王族に仕えるアルフォリスの勘が確かに警鐘を鳴らす。害意の有無ではない、こいつは何かやらかしそうだ、と。

 勘違いしてはいけない。

 どれだけ顔が似ていようと、性別も違えば、人格も完全に異なる。

 ミラノははじめ、パールフェリカの魂の友としてこの世界にやってきた。

 自分を選んだ召喚士に害意を抱く召喚獣・召喚霊は存在しない。召喚士はそれを経験として知っている。魂に刻まれている知識だ。

 その上ミラノは人畜無害の“うさぎのぬいぐるみ”などという姿で皆の目の前に現れた。一体誰が彼女を“敵”……またはそれと疑わしき存在と思っただろうか。思うはずがない。

 一方、キョウは人のまま唐突にこの世界にやって来たという。誰に喚ばれたわけもなく、紛れ込んできた。

 足の運びからキョウには武術の心得があると、アルフォリスは初対面で気付いている。

 確かにミラノとよく似ており、ちゃんと弟として紹介を受けた。だが、他に接点を見いだせない男なら、安易に信用してはならないとアルフォリスは肝に銘じたのだ。

 大食堂でキョウと会っても、当然だがアルフォリスはそういう素振りを隠した。

 キョウと一緒に朝食をとり、『ミラノが戻るのだとしたらパールフェリカの元だろう』という話をした。その時に場所を教えて欲しいと言うのでアルフォリスは案内してやってそのままだった。

 案内したのは、食事をしながらキョウに出来る事はたかが知れるだろうと判断したから。また、パールフェリカには護衛騎士──妹のエステリオとリディクディがちゃんと張り付いているからだ。

 妹のエステリオに関しては、誰よりも護衛に徹している。エステリオがキョウに劣るようには見えなかったのもある。

 ミラノの帰りを待つキョウは、きっとまだパールフェリカの私室に居るだろう。彼にもミラノが見つかった事を教えてやらないといけない。

 パールフェリカの私室へ行くと、護衛騎士リディクディが出迎えてくれた。

「パール様は例の如く発作的に席を外されていますよ。すぐ戻られると思いますが」

「エステリオがついているのか?」

「ええ」

「中で待っても?」

「問題ないと思いますよ」

 室内へ進むと、部屋の中央のソファにキョウを見つけた。キョウはこちらを向いており、座面に膝を立てて背もたれに寄りかかっている。背もたれの上で腕を組んでいて、目があうと片手を揚げてきた。

「アルフさん、おつかれさまっす」

「まだまだ仕事は山ほどある」

「それはそれは──この国の人は皆働きすぎなんじゃないです?」

「人手が足りないんだ」

 緩く肩をすくめて言うアルフォリスの後ろから、扉を閉めたリディクディがついて来る。

「それだけじゃないでしょう? アルフさんは仕事が趣味なんだ」

「え? それって息抜き何すんの?」

「もちろん仕事ですよ。アルフさん、ちょっとおかしいですよね?」

 パールフェリカ不在の間、キョウとリディクディの2人は談笑でもしていたのだろう、砕けた雰囲気で笑みを交わしている。

 朝も思った事だが、キョウとミラノ、見れば見る程よく似ている姉弟だ。見た目だけ、だが……。

 アルフォリスは自分が妹とは目の色以外ほとんど似ていないので、これも奇妙に見えて仕方がない。

「キョウ、ミラノ様、見つかったぞ」

「え!? マジで!? え!? うそ! ちょっと早すぎない?? あ、アルフさん、アレ伝えちゃった?」

「“伝えちゃった”ぞ!」

「うーわーー……俺、すぐには見つかんないと思ったんだよ。どこに居るかわかんないだろうし、伝言も忘れちゃう頃に見つかるかなーって」

 アルフォリスはにやりと笑ってキョウの額を人差し指で弾いた。

「俺が忘れるか。ミラノ様、かなり怒ってらしたぞ」

「え? でも伝言は秘密を暴露するってとこまででしょ……もしかして、アルフさん……内容まで」

「──言った」

「ノオオオオオオオ!! ミー姉に殺される!!」

 両手を広げてわきわきさせ絶叫するキョウ。

 派手すぎる反応にリディクディは苦笑した。

「殺されるって……それは無いでしょう、ミラノ様はとってもお優しいじゃないですか。それに10の秘密と言っても結局1つ目以外パール様の質問に答える形でしたし。でもミラノ様の年齢はばらしませんでしたね、キョウ君」

「リディさん! 女の歳は絶っ対駄目だよ、触っちゃいけないの。これはね、即死……あれ? でも、ミー姉帰って来ないな。あのなんか変なテレポートっぽいので俺ぶん殴りに来ても良さそうなのに──というかそれが狙いだったのに」

「狙い? 俺がネフィリム様の傍に居て下さるよう頼んだ。時間さえ経てばお怒りも少しは解けて、お前も殴られずに済むと思った……俺もそんなミラノ様を見なくて済むと思ったってか……」

「おおぅ! アルフさん! ありがとう!! 代わりに素敵画像を見せてあげる」

 言いながらキョウはズボンの後ろポケットからスマホをひっぱり出す。

 アルフォリスの目からも相当怒って見えたのなら、足止めしてくれたのはありがたいとキョウは思った。

「ダウンロードフォルダは……と……アルフさんどんな女好み?」

「女? 好み?」

「えーっと、俺はね、衝撃だったのが初○り○んちゃん! 惜しまれつつたった5か月で引退しちゃったんだけどね、俺はきっと忘れないよ! 体力なくてーってトコがまたもうっ」

 スマホの画面にアイドルの顔アップの写真画像を表示させ、アルフォリスに見せた。横からリディクディが覗き込んだ。

「すごい! これ、絵ですか、すごい綺麗ですね! 本物みたいだ」

「……光ってるな。絵も変わるし……キョウ、これは何だ?」

「え? あー、これ? なんか、うん、絵見れるやつ」

 操作しながら適当すぎる返事をし、二人に見える角度に持っていった。そのまま操作を続ける。

 画面には女子高生のコスプレをした目の大きな美少女アイドルが笑顔で映しだされ、キョウが「この子」とアルフォリスに見せた。

「これは……可愛らしいというか、子供だな……俺にはちょっと幼すぎて無理だな」

「あ、アルフさんて妹さん居るんでしたっけ」

「勝気で、帯刀してる男相手でも素手で余裕の10人抜きするような妹だがな……」

 男3人頭突き合せてキョウのスマホの画面を覗き込んでいる。

「そりゃまた……嫁の貰い手に苦労しそうな……えーっとじゃ~……普通に明歩ちゃんとか……俺の好みで置いてるからなぁ、ちょっと偏ってて──」

 ちょいちょいと操作して、キョウは画面を変えて人気女優を表示させて見せる。

「う~ん、もうちょっと濃い感じの顔がいいな」

「えー!? 注文多いな。濃い目かぁ……うーん……今がんばってる紗○莉ちゃんとか、日本以外の血入ってる方がいいなら、Ri○ちゃんとか小○マ○アちゃんとか……」

 後者のアイドルの顔アップ待ち受け画像を表示してみる。

 鼻筋のはっきりした美人モデルタイプのアイドルだ。アルフォリスがすぐににまっと笑った。

「おおっ、こういう感じ、俺、こういう顔の子がいいな」

「えー……アルフさんが仕事中に私情出してる……珍しい……ネフィリム様がいらっしゃらないからって──」

 仕事真面目なアルフォリスがキョウに乗って話している事にリディクディは内心驚いている。

「それを言い出したらここで私語をしている時点で減給ものだ。リディだってここでキョウとくだらん話をしてたんだろ?」

「──いや……あー……してましたけど」

 にやりと笑うアルフォリスに対し、リディクディは観念したように笑みを返すしかない。

 諸悪の根源はキョウなのだが、こちらは真剣な顔でスマホの操作に一生懸命だ。

「……マ○アちゃんのだったら結構前のだけどyoutubeにあった動画保存してた気が──」

「──どーが? どーがって?」

 問う声はアルフォリスのものでもリディクディのものでもなかった。

「え? あー、絵が動いてるから“どう──」

 操作しながら返事しつつ、やけに高い声だな、と思って振り返れば部屋の主がにっこりと微笑を浮かべていた。

「──ぬぁあっ!?」

 アルフォリスとキョウの真後ろに、パールフェリカが立っていたのだ。

 すぐ後ろには彼女に付いていたアルフォリスの妹エステリオが居る。キョウは慌ててスマホをポケットに戻した。

「何の話をしていたの?」

「あ、ははっ、いや、ははっ」

「…………」

 パールフェリカは半眼でソファに座るキョウを見下ろした後、さっと駆けてソファを回り込む。

「私にも見せなさい!」

 キョウの腰に手を回し、スマホをひっぱり出した。

 画面にはイメージ映像のワンシーン、女の子がくねくねしながら「んしょんしょ」とホットパンツを脱いで、お尻と食い込んだ水着を見せつけているところだった。

 ぎょっとしてキョウはパールフェリカの手からスマホを取り上げた。ロックしきれていなかった──……。

 すぐに全て終了させ、再びポケットに突っ込むキョウ。

「…………なに…………それ……?」

「うはは! はは! あはは!」

 脂汗を浮かし、青い顔をして乾いた笑いで誤魔化すミラノの弟キョウだった。



※初稿・初公開2010年10月06日

※面倒臭いので女優さん名を執筆時のままにしています。最近の方でなくてごめんなさいね。

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