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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【5th】the first kiss - Take it easy♪
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(148)Take it easy♪(3)

(3)

 ネフィリムは現状打破の為の策を考える。

 ミラノの黒の魔法陣が食い止めてはいるが、“霊界”への扉──空の闇は広がる一方だ。

 今は辺りの木々が蠢くような事はないものの、黒い魔法陣の大規模“返還”術が停止すれば、すぐさま動き始めるだろう。クーニッドの森は広い。あっという間に動く樹木(トレント)もどき軍団が出来上がる。それらに

目的が無いことも、暴れられれば人など呆気なく殺されてしまうこともわかっている。

 一人一人の命も、またガミカが国力を削られることも避けねばならない。

 人の時であっても表情から何を考えているのかわかりにくいミラノだが、疲労を隠している事は想像に難くない。痛みもあると言っていた。

 ミラノはもう“召喚獣”ではないのだから……。

 とはいえ、神や天使とも対話を許されるミラノの力を頼らないわけにはいかない。もどかしく、情けない。

「なんです?」

 黒地に赤の目をしたミラノが視線に気付いたらしい。ネフィリムは曖昧に肩をすくめる。

「……」

 黒い“うさぎのぬいぐるみ”は何も言わず再び空を見上げた。

 既に日も暮れかかり、“炎帝”フェニックスの熱を持たずに燃えさかる炎が無ければ辺りは真っ暗闇に包まれていただろう。

 空の一点、微かに大クリスタルの煌めきが見えるものの、空と闇の境は星が完全に消えているかどうかでしか判断できなくなってきている。

「しばらく耐えろ、だったか。ならば耐えてみせるしかないな。シュナ、負担は大きいが出来る限り私達で処理するつもりでかかろう」

 こくりとシュナヴィッツが頷き、それを確認してネフィリムは続ける。

「私達は──“唯一の召喚獣”を召喚する者」

 改められたネフィリムの言葉には、特別な意味がある。

 “唯一の召喚獣”を召喚する者だけが知り、一生背負わなければならない事がある。その代わり、他の召喚士達とは比べ物にならない強力な召喚獣を召喚する事が出来るのだが。

「その“召喚士の力”、見せてやろうじゃないか」

「はい」

 2人の決意を含んだ声が耳に聞こえてきて、ミラノも気を張った。

 太陽の消えた空を、いっそう“霊界”の闇が浸食していく。

 ──はじめから詰んでいた。

 なのにやり方を変えなかった。

 はじめから答えは出ていたのに……“霊”が出てきたのなら還せば良いと思っていた。

 アイデアというものは、情報の寄せ集めを独自に精査選定したもの。より良いアイデアをひねり出すのに必要な事は、沢山の情報をただ整理する事じゃない。単に組み合わせる事じゃない。

 最も適したアイデアを得るためには、最もふさわしい“問いかけ”をする事が必要だ。

 彼らを護りたい、だから世界を護りたい。かと言って、世界を護る為にはどうしたら良いのか、という質問は正しくなかった。

 護りたい護りたいと念じたところで、それでがむしゃらに行動したって無駄だらけだ。

 キョウの言った“気楽”という単語が頭に浮かんだ。

 凝り固まった考えのままではいけなかった。

 護りたいと一念貫こうとする事は大事でも、それでは何もできやしない。

 本当に護りたいなら、惑わされず、どうすべきか。

 レイムラースは言ったはずだ「アルティノルドを除いたら、この世界そのものに関われるのはあなただけなんだ」と。

 成すべき事のため、望みは護りたいではなく滅びを防ぐ方法だった。“霊界”の穴を閉じたい、である必要があった。

 最適な問いは、いかにして“霊界”の穴を閉じるか、であったはず。

 目の前の事を一つ一つ処理していく事にとらわれて、全体を見れていなかった。

 黒い“うさぎのぬいぐるみ”は空、光を放つようになった大クリスタルを見上げてから、ふいとネフィリムの方を向いた。

「ネフィリムさん、連れて行って頂けますか?」

 ──いくら執着を持ってしまったからって、見失ってはいけないわね。

 始まりかけた反省は一旦横に置いた。

 ミラノは考えを簡単に説明した。

 ネフィリムは一つ頷くと仕切る。 

 先ほどまで一人用として召喚していたフェニックスをさらにその5倍の大きさに変えた。フェニックスの姿は燃え盛るが人に熱を与えず、空気を奪わず、無臭。その背にネフィリムとパールフェリカを抱えたキョウ、黒い“うさぎのぬいぐるみ”が登る。

 同じく、先ほどより3から4倍の大きさで召喚されたティアマトにシュナヴィッツが騎乗して先導する。

 いつしか集まってきていた“光盾”らも大きく召喚された怪鳥ステュムの背に全員乗り、空へ退避した。ソイとオルカはそれぞれのペガサスに騎乗している。護衛騎士らの操る召喚獣がそれらを囲み、一行は空高く駆け上がる。

 シュナヴィッツと護衛騎士らが大クリスタルより高いところで“霊”を還していく。

 真っ暗闇の大空を舞台に、最も光り輝くフェニックスが中央で羽ばたき、ティアマトが一番“霊界”──天に近い場所で、護衛騎士らも散らばって“霊”の多い場所を集中的に還していった。

 さらに、先ほどまで“霊界”やアルティノルドの傍に居た天使らも今回は加わっている。彼らは魔法陣を必要とせず、錫杖など各々を象徴する神器をふるって多数の“霊”を返還していた。

 特に最も霊界と縁深い闇のシェムナイルは他の天使らの倍以上の数を同時に返還している。

 ゆっくりと大クリスタルに近づいたフェニックスの背の上を黒い“うさぎのぬいぐるみ”は歩き、頭に登る。

 そこからそっと大クリスタルに触れる。縦方向の中程、大クリスタルの最も横にせり出した突端へ器用に登るとするりと移動した。

 フェニックスは黒い“うさぎのぬいぐるみ”を大クリスタルに残して離れ、護衛騎士らに混じってネフィリムの魔法陣を飛ばす砲台になった。

 ミラノは広がった“霊界”の底を見上げる。

 出来ると言われた。

 信じるしかない。

 アルティノルドに出来るならば、きっと自分にだって出来ると信じるしかない。

 深く考えてみたらとんでもない事だ。神と扱われている存在と同じ事をしようとしているわけなのだから。それでも、思い込まなければならない。出来る事だと。

 根拠にしたのは、以前多くの死んだ人の魂を“霊界”から召喚し、再生した体へ移す事で蘇生を成功させた事例。

 ありえないと思える事でも、その先入観を自分の中から追い出して、やるしかない。

 アルティノルドが“霊界”に穴を開けたのなら、自分がきっと閉じられる。

 黒い“うさぎのぬいぐるみ”は長い耳を風にあおられてバランスを崩しかけながらも、大クリスタルをよじ登る。

 パビルサグとか言う半人半馬は自らを門番と名乗った。ならばこの大穴は門なのだろう。閉じるべき扉が失せているのだろう。

 大クリスタルの天辺で、闇を睨み、頭の中でイメージする。

 黒い“うさぎのぬいぐるみ”は輝きを取り戻しながらも沈黙したままの大クリスタルの頂点に立つ。

 足下でキラキラとした輝きを撒いている青く美しいクリスタルに思いを寄せ、願う。

 ──アルティノルド……あなたの世界でしょう? 力をかして。

 顎を持ち上げ、赤い刺繍の瞳で闇色の“霊界”を睨む。

 イメージが固まると、すぐに空へと投げた。

 今までに無い巨大な、闇よりも濃いミラノの一枚モノの黒い魔法陣が穴を埋めるように展開する。

 召喚するものはどこにあるのか知らない。

 目指したのはアルティノルドが取っ払ってしまったもの──おそらく神の内側にあるであろう“扉”。

 アルティノルドが開けてしまった穴を、繕い、蓋をするイメージを夜空に展開する。

 まるでネジを一気に締め上げるように、巨大な黒い魔法陣が勢い良く回転して“霊界”へ食い込んでいく。

 空の端を、穴の円周を引っ張り上げるようにして魔法陣は天を目指す。穴の中心へとぐいぐいと回転して、魔法陣は“霊界”の奥へ消えていった。

 ぽっかりと空にあった闇、この世界に片鱗を見せていた“霊界”は、端から先に消えた魔法陣に引き絞られるように中央へじわじわと収束し、縮み始めた。

「──何とか、出来たかしら……?」

 自分でもよくわからないところが難点だ。

 一息つくと視界がかげり、疲れを感じてすとんとしゃがみ込んだ。その黒い“うさぎのぬいぎるみ”に伸ばされたのは、ネフィリムの手。

 いつの間にかフェニックスを近くに寄せ、本人が大クリスタルの上まで来てくれていた。ねぎらいの笑みがそこにはあって、ミラノもほっと息を吐くように、彼の手を取った。




 ここが折り返しになる。

 とっくに陽は完全に暮れていたが霊界の闇がほぼ閉じられた今、月明かりとぷかぷか浮かび続ける大クリスタル、そして、あちらこちらを飛ぶ少年天使と七大天使の放つ光が光源となった。

 明るいとは言い難いが、暗いとも言えない。が、おかげで飛翔召喚獣同士がぶつかる事はなく、“霊”も視認出来た。

 戦場は空──。

 閉じていく穴へ自ら還る“霊”もあったが、大半がふらふらと彷徨うまま。それらを「あとは私達の仕事だ」と言ってミラノを休ませ、ネフィリムが指示を出しながら返還していく。天高いところではシュナヴィッツが、あちこちを飛び回っているのは護衛騎士達。森すれすれを飛ぶ怪鳥ステュムの上からは“光盾”達が返還していく。

 黒い“うさぎのぬいぐるみ”はフェニックスの上でパールフェリカとまとめてキョウに抱えられていた。

 ミラノ自身、どこのどういった“召喚士の力”とかいうものを使ったのかわからない。それでも、長年事務仕事ばかりしてきた運動不足の体に鞭打って200メートルを全力で10本走らされた──程度には疲労していると自覚した。

 体は“うさぎのぬいぐるみ”なのに、あちこち重く痛む。わけのわからない事にも慣れるべきなのかもしれないとミラノは諦めた。

 ネフィリムの言葉に甘えざるを得なかった事は申し訳なく思ったが、休ませてもらえている事にはほっとしていた。

 ネフィリムはフェニックスの頭に近いところで正面を見据え、あちらこちらの“霊”を次々と還している。その背中を薄ぼんやりと眺めた。

 空の闇は、王都を覆うほどの大きさからさらに巨大になっていたが、今では王城エストルクの敷地面積よりも小さくなっている。

 闇の中央、真下には巨大なティアマトの上に立つシュナヴィッツの姿。常に最前線に居ることを望み、力を尽くしている。

 パールフェリカが自慢の兄達だと胸を張るのもよくわかる。

 闇が減るにつれ、本来の夜空が戻りはじめる。

 月や星の灯りが増えて、どこからか梟の声も聞こえた。

 地上の怪異は収まったらしい。

 空の穴はまだ閉じきっていないが静かになり、事態はようやっと、収束に向けて動き始めた。

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