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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【5th】the first kiss - Take it easy♪
145/180

(145)パンドラ・ボックス(3)

(3)

 既に、森の動物達は空の異変を感じて遠くへ逃げている。

 無理矢理“霊”によって動かされている木々の幹や、大きく揺れる枝の発するメキメキという音が響く。

 湿った風の音がどこかしらの隙間を抜けてひゅーひゅー不気味な音楽を奏でていた。

 変わらず“霊”達は続々と現れては辺りを満たす。

 先導するステュムの後をユニコーン、ヒポグリフ、空色のペガサスと茶色のペガサス2頭が従う。

 ほんの少し飛んだ先に窪地があり、木が10本程切り倒されて広場が出来ている。切り口は新しい生木の色をしていた。“光盾”の面々が作業を円滑にする為につい最近切ったのだ。

 窪地の土壁──側面には大人の背の半分、横幅が3歩分程の穴が地下へと空いていた。

 “光盾”が分け入った後だからこそ周りの草も刈り取られて見通しやすい。

 本来の生い茂っていたであろう緑の中からよくぞこの入口を見つけたものだと感心するところだ。

 赤い怪鳥ステュムが降り立った時、その洞窟の中から身を屈めつつ松明を片手に持った男が出てきた。

「セイル! 無事だったかい!?」

 ルトゥはステュムから飛び降り、いかつい体躯の男に駆け寄った。セイルは、ルトゥの夫であり“光盾”の副長である。セイルは目を見開いた。

「ルトゥ、なんでここに?」

 セイルは問いながら後ろからついて出てくる男達を誘導した。

 荷物らしいものは松明以外持っていないセイルだが、続々と出てくる男達は違った。

 加工した跡の見える鉄の兜、ヘルメットを被っている。お手製だ。背負ったリュックは体よりも大きく、袋の口からハンマーの柄が見えている。

 鎧ではなく、肘や膝に外から当て布された作業のしやすそうな上下を着ている。長袖長ズボンは元の色がわからないほど土に汚れており、離れて見ていたパールフェリカのところにも汗の臭いが漂って来た。

 男達が歩くたび、リュックに紐で結ばれていたデコボコに凹んだ鉄製のカップが何かに当たってカンカンと小気味よい音をたてている。

 似たような格好をした20代から50代の男達30名がぞろぞろと穴の中から出てきた。

 彼らは腰をとんとん叩いて表に出てくるのだが、すぐに空の異変に気付く。

 一様に空を仰ぎ「何だこりゃ!?」と伸び放題のヒゲに唾を飛ばす。

 周囲の異様な様子もすぐに悟る。

 見渡して“霊”の存在に気付いた者から目をまん丸く見開いて「ひー」だの「お助けー!」だの言って、しかし荷物が重すぎるのかゆっくりとした動きでオロオロと逃げ回っている。

 たっぷり仕事をして地下から這い出て来たのだ。すでに体力は使い果たしてしまっている。

 ソイやオルカなどと違ってモンスターと戦う技能を持つ面子では無く、発掘調査や罠解除から武具や時々に合わせた道具を作ったり──彼らは様々な技で“光盾”を支える縁の下の力持ちだ。だが、体力は平均よりあるものの騎乗して過酷な命の取り合いを常にする面々と比べると少ない。

 ルトゥが簡単に事情を説明し、セイルも「王都から戻ったら空が怪しかった。一旦引き上げるつもりだったんだが。“お宝”はそのまま──手付かずのままにしてある」と言った。

 セイルはすぐに召喚獣ガーゴイルを最大サイズで召喚する。その大きさは“光盾”ではレーニャのカトブレパスに次ぐ。

 岩のように濃淡のある灰色の鱗が全身を覆い、その翼は蝙蝠を思わせる。

 頭は獅子のようで凛々しくも目つきは鋭く禍々しい光を放っている。

 竜種と似た骨格で、基本は二足で立つ。足の爪も手の爪も鋭く尖っており、いきなりこれが目の前に現れたならば、恐怖に身がすくんだ事だろう。だが、このセイルの召喚獣ガーゴイルは従順で、小さな人間を傷つけぬようそろそろと動いた。

 灰色のガーゴイルの尻尾辺りから背に、リュックを背負った男達がえっさほいさと登る。順番待ちしている面々の内若い数人がセイルと簡単に話をした後、先に登った者に荷物を渡している。

 残った者は10名程、すぐに足元に様々な色の魔法陣を浮かび上がらせ、召喚獣を召喚する。

 セイルが言うには彼らも“霊”の返還を手伝ってくれるというのだ。召喚された召喚獣は飛翔系ではあるものの、人が乗るには小さい鳥タイプのものから、人の2、3倍程の大きさの狼のような獣など様々。

 セイルは“光盾”の非戦闘要因を乗せたガーゴイルに騎乗し「王都まで行って、また戻る」と言った。

 飛び上がるガーゴイルの周囲にたかる“霊”をパールフェリカやリディクディ、エステリオは返還しつつ、見送る。

 ネフィリムの指示ではリディクディやエステリオが手伝うところだったが、セイルが居た事から2人は残った。

 “光盾”の面々の召喚獣が、暴れる木々を押しのける。すぐに返還術が飛んで木の動きが次々と止まる。

 パールフェリカらも再び空へ飛び上がり、次々と“霊”の返還を行っていく。

 返還術で周囲の“霊”を返還しながらユニコーンを操るパールフェリカ。後ろにはキョウが乗ってた。

 全力で返還を続けているが、“霊”は次々と集まってくる。術が追いつかず、またしてもパールフェリカは“霊”に絡まれてしまった。

「……もぉおおっ……いやっ!」

 眉をハの字にして、腕を動かして追い払おうとした。大きく上下左右に腕を振り回していたが、パールフェリカはバランスを崩してズルリとユニコーンから落ちかける。

「ぉおお!?」」

 後ろから慌てふためいたキョウがパールフェリカの胴に両腕を伸ばし引っ張り寄せた。

 ──お、お、落ち落ち……落ちるよ!?

 パールフェリカ以上にキョウの心臓の方がばくばくと鳴って、言葉が出ていない。

 どうせ落ちたって何を置いてもリディクディかエステリオが助けにくるとわかっていたパールフェリカは、むしろきょとんとした様子で後ろのキョウの顔を見る。

「ありがとう」

 何とか平静を保ってキョウは、誤魔化すように笑った。

「……は、ははっ、やっ、どういたしまして。パールちゃんは随分好かれてるんだね」

 パールフェリカから離した片手で霊達に向かってぺっぺっとゆるく手を振るキョウ。これが意外に効力があり、パールフェリカに絡みつこうとした“霊”はキョウのこの軽い動作で追い払われた。

「えっ!? 物凄く嫌だわ!」

 パールフェリカは声を上げて両手を振っては寄って来る“霊”の内側に手を素通りさせている。すり抜けてしまって追い払うどころではない。手が“霊”をくぐるたび、気持ち悪くてたまらない。

 よく観察しているとわかるのだが、“霊”は何やらキョウに触れられるのを嫌がる。

 パールフェリカが手を振っても“霊”の中をスカスカとすり抜けるのだが、キョウが手を振れば“霊”は避け、離れていくのだ。その事にキョウも気付いて自分の手を見た。

 ──なんでだ……?

 周囲が非現実的な“霊”に満たされているわけだが、最初こそ驚いたし恐ろしいと思ったものの、心霊現象とか心霊写真とか、テレビの心霊番組なんかを思い出して「これが本物?」とじっくり見て後で友人らに話してやろうなどと考えはじめる。自分には寄って来ないから気楽なものだ。

 次第にキョウは、自分に害の無い“霊”の存在も気にならなくなって──慣れた。

 小豆色のヒポグリフが一気に近づいて来た。騎乗するエステリオが“霊”の周りに小豆色の魔法陣を展開、次々返還していく。

 減らしても減らしても空から降ってくる“霊”の方が多い。

 しばらく延々“霊”をかえしていたパールフェリカは、地上の“光盾”の中に座り込む者がある事に気付いた。“霊”に乗り移られて暴れまわる木々を避けられず、怪我を負ったらしい。

 パールフェリカは地上へユニコーンの首を巡らせ、降りて怪我人の治癒に走る。

 怪我をしてうずくまる人の傍らにユニコーンを連れて立つパールフェリカ。

 ユニコーンの大人の腕1本分の長さがある角に、ほのかな桃色の光が宿り、癒しの力が溢れる。“光盾”の面々の傷を治して回る。

 キョウは後からついて見守るだけ。

 空にリディクディ、地上にはエステリオが降りてきていて、やはり常にパールフェリカの動きを含め、周囲の人間や“霊”、暴れる木々に忙しなく視線を動かしている。

 残った“光盾”の者も皆“霊”の返還に協力している。パールフェリカは汗する彼らの間をユニコーンと共に駆けまわる。

 キョウは腕を組んでパールフェリカを見ていた。

 時々、近寄ってくる“霊”をやはり「しっしっ」と組んでいた腕の、手だけを出して追い払う。蚊や虫なりを追い払うような仕草だ。

 キョウにとって“霊”そのものに害が無い事がわかったから余裕の態度だ。根本的な解決には全く手を貸していないが。

 ふいに前を歩いていたパールフェリカがふらついて、キョウは慌てて腕を解いて後ろから支えた。

「あ、ありがとう! キョウ」

 半身を捻って礼を言い、パールフェリカはそのままキョウをとんと押しやって再び走る。

 自分のはねつけられた腕をキョウは沈黙して眺め、パールフェリカの背中を見る。また、空、大量の黒魔法陣が空を埋め尽くさんばかりに散らばっている様子を見上げる。

 再びパールフェリカの背中を見て、キョウは鼻で溜め息を吐いた。



 開かれた地獄の底、“霊界”からは“霊”が溢れてくる。

 滞空したまま待ち構えるネフィリムやアルフォリス、ブレゼノの横を通り過ぎ、地上へ降りた“霊”は逃げることが出来ない樹木へと憑依して、暴れる。

 木々はやがて空を舞い飛ぶフェニックスやヒポグリフ、マンティコアを襲撃し始めた。

 枝を振り回し叩き落そうとしてくるのを、フェニックスらは高度を上げて逃げる。追いついてじゃれてくる木を鋭い爪で破るように払い、地上へ叩き付けた。

 ネフィリムは時折、フェニックスを巡らせてパールフェリカらが居るところへ近づくと“霊”の数をぐっと減らしては元の場所へ戻った。

 一方、黒い“うさぎのぬいぐるみ”はティアマトに騎乗するシュナヴィッツの前で空に黒魔法陣を飛ばし、返還を続ける。こちらは大量の魔法陣を同時展開するミラノなので霊の減り方が他の何倍も早い。

 しかし、いくらなんでも、この状況を切り抜けるのにどうしたら良いのか、わからないままだ。

 ミラノは目の前に迫る事を順番に対処するしかないと思いながら、心の内の焦りに気付いていた。

 ──体がなくなった。

 信じられないし考えたくない事だが、気が付けばなかったのだ。受け入れるしかない。

 黒い魔法陣を次々と“霊”に向けて飛ばす。飲み込まれていく“霊”と、ふと目があう。一様に感情が見えない。

 ──私みたいね。

 自嘲気味に思ってしまう。

 アルティノルドにこの黒い“うさぎのぬいぐるみ”の体を与えられなければ、自分もああして“霊”の姿で彷徨う事になっていたはずだ。

 ずっと“霊”のままでいたら、あんな風に感情の無い顔で徘徊したのだろうか。

 そこまで考えて、今の“うさぎのぬいぐるみ”でも、“人”の時であっても自分には表情がほとんど無かった事に思い至った。それで自分を笑ってやりたくなった。

 最近は多少なりとも笑うという事が増えたが、我ながら不慣れでちょっと気味が悪いものだと感じている。

 次々に“霊”の姿を確認しながら、目を逸らしたい気分で一杯になる。もちろん、踏ん張ってみてはいるが。

 全身で再会を喜び受け入れてくれたパールフェリカが──。

 まっすぐにこちらを見て、話すことの何一つ疑わず信じてくれたネフィリムが──。

 今こうして背に触れるシュナヴィッツの温かい手が無ければ──……、もう投げ捨てていたかもしれない。

 諦める事は、とても簡単だから。

 どうでもいいと切り捨てる事はとても楽だけど、後できっと後悔する。

 後悔から目を背けようとしたなら、陰鬱とした気持ちに体が動かなくなるだろう。それは、わかりきっている。

 一人では難しい事だ。それでも、一人で何とかしたかった。なのに。

 諦める事も、一人で頑張る事も、放棄した。

 いけないと思いながら心の紐は緩み、ずるいと思いながら3人を頼った。

 もう2度と会わないつもりだったのに……。

 世界が違えば立場も異なる。

 きっと深く付き合えば価値観も大きく違うであろう彼女達とはうまくやっていけないとミラノは思っている。

 執着が続いていたなら、必ずかえると決めているミラノはただ不幸を撒く事になる。

 ずっと一緒になんか居られないのに、また、出会う。

 希望なんてあげられないのに目の前をうろつくなんて、酷すぎる。

 わかっていたのに。

 彼らがもう、見返りなんて必要としていない事だって、わかっていたのに。

 時間があったら、どうしたらいいのかと足を止めてしまいそうだった。

 幸い、と言うべきか事態は全て緊急──……やらなければ。

 どこかになくした体をさがすのに、この世界が滅んでは困る。

 以前のように7日放置したなら、死んでしまうのかもしれない。

 だけど、自分はすでに一度死ぬ覚悟をして、幸運にも生きる事が出来ている。だから、それ以上に、自分の事以上に……。

 ミラノはパールフェリカらの飛ぶ空付近を視界におさめる。ネフィリムを、そして後ろに居るシュナヴィッツを見た。

 シュナヴィッツの晴れ渡る空を思わせる澄んだ蒼い瞳が見下ろしてくる。さらりと、真っ直ぐの亜麻色の髪が風に揺れる。

「なんだ?」

「いえ──」

 朝からずっとばたばたとして、休む間もほとんど無くて、起こる出来事は片っ端からわけがわからない。正直なところとても疲れている。それでも──。

 レイムラースは、この世界に関われるのはアルティノルドを除いてミラノだけだと言った。

 信じるしかない。

 この世界を、彼女たちを──守りたいから。




 なぜ今、最初に使っていた黒い魔法陣で、後に変化した七色の魔法陣じゃないのか気になりはしたが、今ここで聞くような内容でもないのでシュナヴィッツは黙っている。

 目の前の出来事が、思っていた以上にずっと一大事だったから。

 ティアマトを繰りながら、方々へ黄金色の魔法陣を投げては返還術で“霊”を還しているが──。

 黒い魔法陣を見るにつけ、やはり今も、何者だと思わざるを得ない。

 この黒い“うさぎのぬいぐるみ”は深く考えていそうにないが、同時に20枚も30枚も魔法陣をあちこちに放る。

 一体どんな思考をしているのかと不思議でならない。ありえない集中力、その持久力──すべてをさばく精神力……。

 一枚の魔法陣を張るのだってそれなりの集中力がいる。

 離れたところでブレゼノやアルフォリスと共に緋色の魔法陣を広げるネフィリムだって4、5枚を同時に出している程度で、シュナヴィッツも同じ数を生み出しては“霊”に投げている。

 ネフィリムやシュナヴィッツが出せる魔法陣の数だが、これは強力な唯一の召喚獣を召喚する者だからこそ出来ている。

 フェニックスやティアマトを完全に操る為に鍛錬を重ねたからだ。ブレゼノを見れば、2、3枚に留まっている。

 パールフェリカはユニコーンを駆りながらでは1枚が限度。召喚術そのものにまだ不慣れなのだ。

 そして、ミラノだ。

 シュナヴィッツも細かく確認までは出来ていないが30枚以上同時に扱っている。相変わらずの無茶苦茶ぶりに、滅びだなんて言葉がチラついているのに笑いそうになる。

 ──なんだってミラノはこう……生真面目にしているのに、淡々としているのに、デタラメなんだ。

 色々と話をしたいが、状況が許さないので我慢する。

 空の闇の中心へ向け、高度を上げてティアマトを駆る。

 アルティノルドを見つけるのが、シュナヴィッツの今やらなければならない事だ。

 あちこち飛び回って、闇色の空にほんの少し色の異なる点を見つける。そちらへティアマトの首を巡らせて飛ぶ。

「あれか」

 シュナヴィッツはミラノに伝え、空の点へ一気に近寄る。より高いところへ駆け上がるティアマト。

 空の闇がどんどん間近に大きくなっていく。近寄る“霊”の数は増す一方だ。

 黒い“うさぎのぬいぐるみ”はシュナヴィッツと向きあう形に体を動かし、ティアマトの尾を追ってくる“霊”に向け一斉に黒い魔法陣を飛ばして“霊界”へと還していく。

 後ろが終われば右、右が終われば左を向き、丸い手で窓でも拭くかのように手を動かしている。その度、空に浮かぶ“霊”の近くに黒い魔法陣が出現する。

 闇色の空にあった点──大クリスタルの正面まで辿り着いた時には、追ってくる“霊”の姿はほとんど無くなっていた。

 闇の中心に大クリスタル──アルティノルドが原因ならばあって当然だったと帰結する。

 巨大な水晶はゆるゆると回転しながら、どういった作用か、アルティノルドの力か、浮いている。近づいてみれば意外に大きい。

 大クリスタルは建物5階分か6階分の高さと、中央は同じ程の幅がある。上下は尖っている。色は濃紺だが、微かな夕日を受けて随分とどす黒く、以前見た時にはあった内側から漏れ溢れる光も見えない。

 クリスタルと称するには透けたり光を反射する事も無い。

 以前も、2人でこれを見上げた。

 その直後、シュナヴィッツは本来人生で一度しかない“死”を経験したわけで、あまり気分の良いものではない。

 シュナヴィッツが大クリスタルの中央より上にティアマトを横付けする。

 黒い“うさぎのぬいぐるみ”が立ち上がり、とてとてとティアマトの首から頭へ歩いて進む。ティアマトも心得たもので、頭を大クリスタルにさらに寄せた。

「──話が通じるかしら……」

 大クリスタルに体を預け、ミラノの声が風に飲まれる。

 黒い“うさぎのぬいぐるみ”はゆるく首を傾げ、おでこをクリスタルに当て、しばらくして離した。

 小さな声で「……いない」と呟いた後、とてとてとティアマトの頭を戻り、伸ばされたシュナヴィッツの手を取って元居た場所へ座った。

「どこかに行っているようです」

「どこか? この大クリスタルがアルティノルドじゃないのか?」

「クリスタルは、力を封じているのだと聞きました。天使も、これ自体は“封印石”と呼んでいましたし」

 ミラノの言葉にシュナヴィッツはレイムラースが王城エストルクへ飛び込んで来た時に『“封印石”から出ていった』と言っていた事を思い出す。

「ならば……どこに……」

 シュナヴィッツが呟いた時、頭上から光の塊が8つ降りてきた。七大天使と少年天使レイムラースだ。

 ティアマトの斜め前で6枚の翼を揺らして滞空する七大天使長アザゼルが天を指差し、黒い“うさぎのぬいぐるみ”を真っ直ぐ見た。

 誘われるようにミラノとシュナヴィッツが空を見上げ、アザゼル自身も倣う。

 空の闇は、闇そのものが雲のように渦巻いていた。

 巨大な黒い塊が蠢いて、泡状に内側からどろどろと溢れ出て来ているようにも見えた。

 “霊界”が空間を示すものなのか、何かの形を持つものなのか、黒一色でわからない。

 ただ、椀のように円形で空を突き破って飛び出して来ているらしい事が、この距離でわかった。その椀の底、闇の真下……。

 闇に触れ、時に飲み込まれ、あるいはその闇そのものへの侵入を試みているかのように光が揺れている。

 ──神々しく光放つアルティノルドが居た。

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