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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【Last】Summoner’s Taste
118/180

(118)Summoner’s Taste(3)

(3)

 ミラノが“ここで失われたもの全ての再生”を願ってイメージする。

 重要なのは“できっこない”という発想を持たない事。やれば出来ると思う事。

 空一面に巨大な魔法陣が広がった。今まで作り上げてきた、いずれの魔法陣よりも大きい。

 同時に、暗雲は魔法陣を避けるようにガミカ上空から流れ去り、消えていく。

 昼と夕方の間、斜めから太陽の光が降り注ぐ。魔法陣の七色の光と、太陽の光が混じる。回転する魔法陣からは虹色の光の霧雨が、王都のみならず周囲の山々にまでさらさらと降り始める。

 魔法陣の中央、少し上辺りにミラノ姿がある。

 グレーのスーツ姿、いつものきりりとしたモデル立ちで崩壊した城下町を見下ろしていた。

 今までと違うのは、体が透けている事。飛べる事。これが“霊”らしいが、その辺はもう、どうでもいい。

 相変わらず森や城下町、その周囲の木々からはもくもくと煙が立ち上っている。

 ──人なんて、自分勝手だ。

 好きだ嫌いだ、愛しいだ憎らしいだ、相手の感情を無視して声高に叫ぶ。だが、ほとんどの人がそうなのだから、結局お互い様だ。

 そんな中でも、救いは、あって──。

 脳裏にシュナヴィッツの照れた笑みが、ネフィリムの包み込むような瞳が浮かんできた。だが、ミラノは首を少し傾げるのみで、すぐ戻した。

 頑なに拒んだ、けれど、その想いは、本当の“片想い”だった。

 人を思う気持ち。見返りを求めない、純粋な気持ち。

 片想いは、相手を思う自分に酔う事じゃ、ない。

 自分の為に、相手を思い通りにしようとする事じゃない。

 自分の為に、ただ傍に置こうとする事じゃない。

 自分の幸せの為じゃない。

 素直にただ相手の幸せを、思う事。祈る事。願う事。

 そういう“片想い”であれば、ミラノも毎度毎度ひどい目にはあわなかっただろう。だが実際は、いつの間にか、“己の為”に相手を想う者が多い。

 アルティノルドの長い長い想いはいつの間にか歪んで、ただ“はじめの人”という存在を求めた。ミラノという人格を、無視して。

 元の世界に居た頃と同じ結末がここにあって、“はじめの人”だと言われたミラノはまた、その想いに応える。

 アルティノルドの片想いは、本当に、好き、か。

 好きだ好きだと言い寄られたところで、本当の片想いは少なく、多数に紛れて惑わした。

 幸せを願われる事は無く、依存、自己愛、憧憬、自慢、利己的な慕情の末に、振り回されるばかりだった。相手の想いに付き合った結果はもう、嫌という程知っている。自分も相手も幸せになれないと、ミラノは知っている。

 三兄弟もまた、自分の為に傍におきたいと言い始めて──。

 それでも、ネフィリムはミラノがかえれる事を願ってくれた。シュナヴィッツは身さえ投じた。

 ただ、ミラノの望むままを願い、幸せを祈ってくれた。

 救いは、間近にあったのに──。

 でも、だから、ミラノはアルティノルドに応える。

 自分に、本当の“想い”を寄せてくれた者の為──。

 召喚術の、源。

 願う。祈る。

 ミラノは“やる”と、決意する。

 そのイメージが完成する。

 プリズムの魔法陣の上、一人、風に揺らぎ、透ける体は既に“霊”のそれであっても。

 前髪の一房、黒い髪がなびく。

 ゆっくりと瞬いて地上を見下ろすミラノの背後には、地表を覆いつくさんばかりの白い光が、アルティノルドの力が溢れる。

 それが、ミラノの“召喚術”。言うなれば、“召喚神”。

 ミラノは“召喚神”に命じる。

 人々に、この世界すべての存在へ、心を傾ける。

 ────幸、多からんことを。

 一方的に願い、想う。片想い。



 ミラノの、相変わらずの淡々とした──だが染み渡る温かい声は、“神様”の声として、光の中へと飲み込まれていく。

 魔法陣の中から次々と現れる“霊”は、惑いながら、大気に溶けた天使らの導きによって本来の肉体へとかえっていく。その肉体は既に、アルティノルドによって“再生”をされて、既に鼓動が始っている。

 濃い光が王都を包み込んでいる。

 王都を埋めていた火炎も全て消え、崩れていた街並みさえ修復している。アルティノルドの再生の力が、器物にも及んでいた。

 一人、また一人と、立ち上がる。

 人々は降り注ぐ虹色の霧雨に手を伸ばす。空を見上げて、そこを埋めるように、視界から溢れる程巨大な、七色の魔法陣に溜め息をこぼす。

「奇跡……」

 誰言うとなく呟かれる言葉は、連鎖のように広まり、薄らぐ光の中で彼らの視界も蘇る。周囲に次々と立ち上がる同胞の姿を見て、さらに同じ言葉を声高に叫ぶ。


 王城3階の回廊で上半身を起こして、シュナヴィッツは周囲を見回した。自分の胸に手を当てて擦ってみた。鎧には傷もない。慌てて脱ぎ捨てて、やはり穴も無い服の上から触れるが、傷など無い。襟ぐりを押しやって直接肌を見て、どんな傷跡も無いのを確認して、息を飲んだ。

 ようやっと、はらりはらりと降る光の粒に気付き、立ち上ると、空に回転する巨大な魔法陣を見上げた。

「──ミラノ」


 聖火台のある屋上で、体を起こし片膝を引き寄せて、そこに肘を置いた。手を顎に当てて、思案する。

「ネフィリム様!」

 後ろから聞こえた声に振り返れば、アルフォリスが元気一杯で駆けて来る。手も足も全部ちゃんと繋がっている。鎧さえも。

「あの──俺、生きてます?」

 ネフィリムはぷっと吹くように笑った。

「生きているみたいだな、私も」

 二人ほぼ同時に、王都上空の七色の魔法陣を見る。

「ミラノ様……ですかね」

「そうなのだろうな。──本当に、何者なのだか」

 言ってネフィリムは呆れたように笑った。


 王都のあちこちで首をひねりながら、エステリオが、スティラードが、リディクディが、レザードが立ち上がり、そしてやはり七色の光を降らせる魔法陣を見上げる。


 王都を包む光が少しずつおさまっていくと、遠くまで見通せるようになる。禿げていた山々の木々さえ蘇り、破壊された城下町も今朝までの姿を取り戻している。燃えて倒れていた巨大な木々も、その上にあった街も皆、元の姿に戻っている。そこかしこで人々が手を叩き、または抱き合っている。

「奇跡だ! 生き返った!」

 口々にそう言い、空に輝く魔法陣を仰いだ。

 わけ隔てなく聞こえた声を、アルティノルドの声と騒ぎ、そしてまた“神に守護されし国・ガミカ!”と声を響かせた。




 ──音もなく、静か。

 闇の扉に飛び込むと、そこは真っ暗で前も後ろも、上も下も右も左もわからない世界だった。ただ一点を除いて。

 ミラノの姿のある場所までユニコーンを走らせた。そこがどこだとか考えず、パールフェリカは“今、やってやる”と、心の内でひたすら念じている。

 闇の扉をくぐり、“霊界”を渡って辿り着いたのは、ミラノの居た世界。

 日本某所の、郊外にあるアパートの一室。

 狭すぎるのでユニコーンは前足と頭だけを突っ込んだ形で止まった。押しやられて、さらさらと薄青色の目隠しカーテンが揺れた。

 パールフェリカはユニコーンに頭を下げさせ、闇に落ちないようその首に沿うようにして部屋の中へ降りる。ユニコーンはすぐに頭を上げて左右にぶるっと振った。

 うつ伏せに倒れた、グレーのスーツを着た女性の姿を見下ろして、パールフェリカはごくりと唾を飲む。だがすぐにユニコーンを見る。

 意思ある瞳に応え、ユニコーンは再び頭を垂れて、その角を倒れた女性に差し向ける。ぱっと角に光が灯ると部屋は白く輝き始める。

 光の粒子が吸い込まれるようにグレーのスーツに張り付き、その下へ飲まれて消えていく。

 パールフェリカはすぐ横に両膝をついて正座の形で座り、彼女の細い手を握る。今日、手を握ってもらった時よりも少し、冷たい。

 腰を折り曲げ、彼女の手に自分の額をこすりつける。

 ──……おねがい!

 その手が、じわじわと温かく、熱を持ち始めると、パールフェリカはぺたんとお尻をついて座り込んだ。

「……ミラノ──」

 ほんの少しだけほっとして、彼女の名を呟いた。

 横から、低く短いユニコーンの声があがり、ふと顔を上げると、ユニコーンの角が、消えた。当然その癒しの力も無くなり、部屋の中から白い光も消えた。

「──え?」

 パールフェリカは手を離して慌てて立ち上がり、ユニコーンの鼻先に触れた。間近で見ても角が無い。

 アルティノルドの力は、“霊界”を超える事が出来ない。ユニコーンの身の内にあった、パールフェリカがあちらの世界で集めたアルティノルドの力は、ミラノを癒して使った分、消えたのだ。この世界では、アルティノルドの力を集めようとしても当然集める事が出来ない。このままではユニコーンに力を供給出来ないのだ。

 彼女の鼓動はとても緩やかに始ったが、すぐにでもまた止まってしまいそうだ。パールフェリカは彼女を仰向けに返し、片腕を自分の首の後ろに回して絡めた。肩でかつぐと、膝に力を込める。闇の扉から少し離れるように、引きずるように移動すると、ユニコーンがさらに体を突っ込んで来て、前足を曲げて屈んだ。

 パールフェリカは彼女の体を、温もりを取り戻した“本体”を全身の力を振り絞って抱え、ユニコーンの背へうつ伏せに乗せた。すぐに自分も後ろに飛び乗り跨ると、ユニコーンが頭を左右に揺らしながら立ち上がる。

 闇の世界へと後退すると、頭を翻し、元来た方向へと駆け出す。

 パールフェリカは上下する馬上で、やはり同じように揺れるグレーのスーツ姿の彼女の体を見下ろす。

 良かったと思うと、自然と笑みが浮かんだ。体を屈めて、抱きついた。

 とくんとくんと、命の音が聞こえてくる。頬を寄せ、眠ったままだがその耳に届くように、小さな声で呟く。

「……ミラノ、笑おう? やる事やって、何の迷いも、心にひっかかるものも何もなく、底抜けに、笑おうよ、ミラノ。きっと、ありえないくらい、楽しいんだから!」

 顔を上げると、王城屋上の闇の扉の向こう、こちらを覗き込んでいる兄の、ネフィリムの驚いた顔が目に入った。

「あはっ!」

 パールフェリカは、声を上げて笑った。






 ミラノが、目を覚ましたのは、パールフェリカの寝室だった。

 薄暗いがわかる。見覚えがある。横っ面すぐに、白く光る何かをぼんやりと認めて、視線をあげ、小さく声を漏らした。横になったまま“それ”から離れ、慌てて上半身を起こした。

 寝台の横に居たのは、大きな角から白い光が漏れる、薄ピンク色の馬。これも、見覚えがある。

「──ユニコーン?」

 呟いたつもりがほとんど声にならない程掠れてしまって、ミラノは小さく2度咳き込んだ。

 ふと気付いた。両手もあるし、髪も短くない。

 半透明だった体も“元に”、と言うのが正しいのかわからないが、戻っている。

 着ている服はどうやらこちらのもののようで、首の付け根ぎりぎりまである襟ぐりの、シンプルな寝間着のようだ。色は濃紺で肌触りがさらさらとシルクのように細かい。当然アクセサリの類も身につけてはいない。

「……どうして……?」

 ユニコーンは頭を上げて姿勢を正す。その頭は寝台の天蓋に届きそうだ。通常の馬より大きいらしい。

 ユニコーンが、ふいと扉の方を向いた。

 次の瞬間、ばたんと大きな音を立てて扉は開かれ、光が差し込んでくる。ミラノは眩しさに目を細めた。

「ミラノォ!」

 聞き慣れてしまったパールフェリカの大声と共に、その逆光のシルエットは勢い良く駆けて来た。

 “うさぎのぬいぐるみ”の時はあまり気にしなかったが、タックルをかまされて起こしていた上半身は、そのまま押し倒された。案外痛い。

「パール、ミラノは病み上がりなんだから、ムチャをしてはいけないな」

「ミラノ、平気か?」

 すぐに、扉の向こうから二つのシルエットが寝台脇にやって来る。

 パールフェリカはミラノの腿辺りに跨ってた形で上半身を起こし、兄らを振り返った。

「ネフィにいさまも、シュナにいさまも、私は非道じゃないわよ。ねぇ? ミラノ」

 パールフェリカはそう言い、頭突きをされて痛むのか、右肩をさするミラノを見下ろす。

「非道? ……そうね、非道ではないわね。それより、私、なぜここに居るんです?」

「私が連れてきたからよ!」

「……いえ……待って」

 ミラノは両肘を後ろについて上半身を起こそうとする。パールフェリカが手を伸ばしてきて、手伝って起こしてくれた。パールフェリカ自身はミラノの横にぺたんと座った。ミラノはパールフェリカをゆっくりと見た。

「どういう意味?」

 記憶が曖昧だ。アルティノルドと共に、王都再生の魔法陣を広げて、陽が沈んだ頃までの記憶はある。その後──。

 問いながら自分の記憶を探るミラノに、ネフィリムが「とても驚いたのだが」と前置きしてから説明してくれた。

 闇の扉の向こうから、ユニコーンに騎乗したパールフェリカがミラノの実体を連れて戻ったのだという。

 パールフェリカは再びユニコーンに力を与え、その角に再び光が灯ると、ミラノの体を癒した。

 ユニコーンは、この世界で唯一、癒しの力を……神アルティノルドに“再生”の力を分け与えられた種なのだ。

 そうこうしている間にシュナヴィッツやエステリオ、リディクディらが次々と集まって来た。

 最後に、“アルティノルド”と名乗る奇妙な男がやって来て、眠ったままのミラノの額にそっと触れると、何も言わず大気に溶けるように消えた。その後、王城にあったクーニッドの大岩もどこぞへと飛び去った。

「あれは兄上、本物の“アルティノルド”です」

「いや、“神”が降臨するだなんて聞いた事が無い。アルティノルド叙事詩にも、その姿を顕したらしい記述は無い」

 それから5日経っていると、教えてくれた。

「──つまり、私は……召喚獣ではない?」

 この肉体が、本当のものなのならば。

「そうよ、ミラノ」

 パールフェリカの手がミラノの腕に触れ、2人は目を合わせる。

「“みーちゃん”になってもらえないのは残念だけど。召喚獣じゃない、本当の“人”のミラノの方が、ずっといいわ」

 そう言ってパールフェリカはゆっくりと倒れ掛かるように、ミラノの胴辺りに抱きついた。

「これが本当のミラノなんだって思ったら、ずっと」

 静かに目を閉じるパールフェリカを、ミラノは瞬いて見てから、そっとその頭を撫でた。

 ネフィリムは腕を組み、シュナヴィッツと視線を交わして、2人で小さく笑った。

 しばらくパールフェリカの頭を撫でていたミラノは、ふと呟く。

「ですが、そろそろかえらなくては。……私、既婚者ですし、しんぱ──」

「っえ!!??」

 心配されてしまうという言葉を最後まで言う前に、ネフィリムとシュナヴィッツが同時に声を上げた。

「──?」

 パールフェリカは驚きつつもミラノの目を見て、ニヤ~と笑った。

「…………」

 ミラノはそんなパールフェリカに薄っすらとした微笑みをくれ、目を逸らすと、前のめりにして驚いている2人へ淡々とした視線を向けた。

 すぐにパールフェリカがネフィリムとシュナヴィッツを振り返った。

「ちょっと……にいさまたち? どうしたの? ミラノがこんだけ魅力的なら、ありえるでしょ? 子供居てもおかしくないし、ねぇ!」

 そう言ってパールフェリカはミラノのお腹をぺしぺしと叩く。そこまで話を膨らませるの? とミラノはパールフェリカを見るが、何も言わなかった。

「え、いや……聞いてな……」

「その……」

 動揺を隠せない2人の方を向きなおして、ミラノはぷっと笑う。

「──言ってません。冗談ですから」

 そして「ふふふっ」と声を出してミラノは笑った。目を丸くする王子二人を前に、ミラノは口角をきゅうっと上げて、片目を細め、悪戯っぽい魅惑的な笑みを浮かべている。

 パールフェリカもニカーっと浮かべた笑顔をミラノと見交わして、声を出して笑い、さらに抱きついて頬をすり寄せた。

 呆気に取られたままのネフィリムとシュナヴィッツは、首を左右に振った後、溜め息を吐き出して曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。今まで嘘や冗談なんて言った事の無いミラノだから、信じてしまった。

 しばらくして笑いをおさめ、ミラノはほんの少し寂しそうな微笑を浮かべる。

「でも、かえらなくてはならないのは本当。体までここにあるのなら、もう死んでしまうという心配はいらないでしょうけれど、あちらで私は行方不明になっているでしょうし」

 一人暮らしなので気付かれる事も無いだろうが。

「かえり方なんてわからないだろう」

 むすっとしてシュナヴィッツは言った。が、ミラノは口角を少しだけ上げる。

「あれだけの事をしでかす私が、出来ないとは思わないわ。やれば、出来ると思うの」

「かえっちゃうの!?」

 オクターブあがったパールフェリカの声だが、ミラノは淡々としている。

「ここでやらなきゃならなかった事は、きっと果たしたんだもの。もう、いいでしょう?」

 アルティノルドも、何を考えたのかわからないが、“はじめの人”と呼んでいたにも関わらず自分を手放してくれたらしい。かえってもいいはずだ。

「よくなーーーい!! 私は、ミラノが好きよ! もっといっぱい色んなお話がしたいわ! 教えてほしい事もたっくさんあるわ! もっと、ずっと、一緒に居たいの!! いつかかえるのだとしても、そんなすぐにかえらなくても……」

 大声にミラノが驚きつつ、体を後ろへ引いた。パールフェリカはミラノの両腕を掴んで、蒼い瞳で真っ直ぐ見てくる。

「…………」

 反応の無いミラノに、パールフェリカははっきりした声で言う。

「大好きよ!!」

「……ま、まって……すぐにかえるとは言ってな──」

 ミラノの言葉の途中でパールフェリカは勢い良くその首に抱きつき、また押し倒してしまう。ミラノの頭の横で枕が跳ねた。

 まさかパールフェリカから告白が来るとは思っていなかったミラノは、顔を少し逸らした。その視線の先に、逸らしても逸らしても蒼い瞳はやって来る。男は何人も振ってきたが、女の子相手にどう対応したらいいのか、ミラノは戸惑った。

 その様子を見て、ネフィリムがぷっと笑う。

「ライバルが増えてしまったな」

 シュナヴィッツも困ったように笑う。

 ミラノはきゅーっと目を細めた。

「……勘弁、してください」




 ──山下未来希の通帳の残高が無くなるまで、あと73日──

 生活維持の為に戻らなくてはならない日まで、あと33日──

 ──未練が、無ければ……?

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