第三節 人生いろいろ パート2
旧校舎裏の中庭の「ような」場所。三バカと裕美が集合したその空間は、要するに中庭そのものであった。
ただしそれは、裕美が三バカ並みの頭脳に堕ちたことを意味するわけではない。ここを集合場所にしたいと言い出したのは光安である。さらに言えば、おかしな表現には違いないが、「ような」と言いたくなるだけの条件をそなえているのだ。
立ち並ぶ校舎との位置関係や、花壇の残骸みたいな囲いの存在から、設計上の中庭であったことは推定される。しかし目の前に広がっているのは、ただ雑草が生い茂るだけの廃墟のような空き地だ。いや、眼前の景色を正確に説明すれば、雑草もぽつぽつとしか生えていない。日当たりが悪すぎて、育った雑草すら腐って枯れてしまうのである。設計上のミスというやつだった。
「……光安」
「素晴らしい空き地だな、はっはっは」
古来、学校内での密会といえば、旧校舎とか裏庭とか大きな木の下が定番と伝えられている。そこで光安が思いつきで勧めた場所だったが、これは失敗以外の何者でもない。二人だけだったら、裕美のおしおきが炸裂する状況である。
「すまん。もうちょっとマシな場所にしよう」
「裕美ちゃんが選んだ場所だ! ここでいいじゃないか」
「あの…、私はここにこだわってるわけじゃないから、ね?」
未だに操られているような曽根に苦笑しながら、頼りにならない光安に代わって、彼女が先頭に立って移動した。
もちろん、自らここを選んだ挙げ句に「マシな場所に」とほざく光安を、裕美が許すかどうかは分からない。三バカそろい踏みという現在は大人しくしていても、後日それなりの報復が待っているのではなかろうか。よい子のみんなは、もちろん期待しているよね。
「ま、ここでいいかな」
「けっこうオープンな場所だなぁ、裕美ちゃん」
旧校舎の周囲を歩いて、比較的明るくて広い場所を見つけた裕美。そこは広場というよりも、校舎からグラウンドへ向かう通路というべき場所である。
従って、当然ここは他の生徒が通りがかる可能性がある。いや、現時点でも彼らの背後には人の姿が複数確認されるほど、人通りは多かった。
それでも全員が、裕美の判断を黙って受け入れた。曽根と荒瀬は、裕美至上主義という理由で。光安は……、どうせ見つからないようにどうにかするのだろうという推測で。
そもそも曽根と荒瀬を誘って「遊ぶ」と決めた時点で、彼ら二人には既に幾つかの魔法がかけられているらしい。これから四人で「遊ぶ」その記憶は、魔法を介在しない形に再構成されるよう、例によって裕美が宇宙に命じてある。宇宙というか、二人の脳に直接命令されている。
もちろん重ねて言うが、別に魔法を使わなければ済む話だ。ただし、そういう小道具なしで四人が集まって、いったい何ができるだろうか? せいぜい将棋ぐらいだろう。
「えーと、じゃあ始めていい?」
「はい! 裕美ちゃん、お願いします!」
「……何も直立不動で叫ばなくたっていいだろうに」
ちなみに、裕美は将棋部の部活動でも良かったようだが、光安が強硬に反対したために取りやめとなった。
反対の理由は、曽根については未確認だが、荒瀬は将棋のルールを知らない、というものだった。知らないなら、部活の場で先輩から教えてもらえば良いのだ。先輩なんていないが、それは些細な問題である。要するに、自分がまた負けるのを恐れたに過ぎない。小さい男である。
「じゃじゃーん。人生サーチ!」
「おおっ!」
「………そこまで真似すんなよ」
猫型ロボットが取り出す未来の道具のように、裕美はカバンの中から金属製のビデオデッキのようなものを取り出してみせた。
……というか、さっきの「ような」と同様に、それはビデオデッキそのものだ。旧校舎の物置の「ような」部室の「ような」教室に捨てられていた壊れたデッキを、ただ単に拾って来ただけであった。
もっとも、カバンに入るサイズではないので、地味ながら四次元ポケットはちゃんと再現されている。意外に芸が細かい。このメンバーでは、誰もそこに気付かない可能性があるのも、これまた言うまでもない。
「このリモコンでサーチしたい人の情報を入れて、あとは再生するだけ」
「すげー簡単だ」
簡単というか、デタラメだ。一般的にデタラメは単純なものである。
「最初は誰にする?」
「オレオレ、オレから頼むぜ!」
そこで振り込め詐欺の古典的手法を口ずさんだのは、曽根だった。
身を乗り出して主張するほどのことかと、光安は呆れている。ただし、光安のような慣れがないのだから、この反応は織り込み済みである。それに、イベントを行う側からすれば、それがたとえバカであっても、呼びかけに反応する声がないと困るのである。
「十年後の俺を見たいんだ」
「なんだよ、曽根の十年後に何かあるのか?」
「家を継いでるかどうか……、見れるもんなら見たいんだ」
しかし、それはいきなり重いテーマだった。
このような子供だましの機械を前によく言えたものだと、読者は呆れることだろう。
「曽根くんの家って…」
「悪徳業者だ」
「み、つ、や、す~」
「く、首しめるな!」
話が進まないので説明してやろう。曽根家の家業はクリーニング店だ。お前の頭をクリーニングしろ、と思うだろう? 私もそう思う。
「……………」
「そうだよな。裕美ちゃんも思うよな。俺には似合わないって」
「何も言ってないけど…」
複雑な表情をしているのは裕美だけで、三バカの残り二人は会話に興味がなさそうだ。おそらくは、曽根の身の上話なんてもう何度も聞かされているに違いない。
だいたい、彼自身に将来のヴィジョンがないのだから、聞かされても何も答えようがない話である。高校生らしいといえばそうなのだが。
「まぁいいわ。じゃあ曽根くんから始めます」
「オッシャアッ!」
「何の気合いだよ…」
まぁどちらにせよ、ノリノリで参加する人材は貴重である。というか、曽根の勢いに残り三人はちょっと引き気味だ。
改めて言っておくが、曽根と荒瀬には、裕美の能力に対して違和感をもたないような暗示はかけられている。せっかく「裕美と遊ぶ」のに、ただびっくりして騒ぎ出されたのでは意味がない。それが光安と二人で考えた策だった。
光安としては、曽根と荒瀬の記憶を必要以上にいじらせたくはなかった。しかし裕美の存在そのものが記憶操作を伴っていた以上、そこは避けようがない。避けようがないならば、二人が不快にならない形を選択するのが一番良いという結論なのだった……が、まさかここまで順応性が高いとは思わなかっただろう。
しかし、彼らをなめてはいけない。二人は光安と並び立つバカの三大巨頭である。光安が順応した世界に、彼らがはじき出されるはずはなかった。
「曽根くんは…、それでどちらかの未来が見えたらどうするの?」
「決まってるだろ裕美ちゃん。迷いが晴れるんだぜ!」
「そう……」
本当の意味で迷いが晴れるためには、親の仕事を継がない方の選択肢も、明確なものでなければならない。彼の場合は、何となく「もっといい仕事があるんじゃないか」だから、今から見える未来がどうであっても、必ず迷い続けることが約束されている。
少なくとも裕美はそこまで分かっているようだが、特に止めはしなかった。どちらにしても迷いが継続するだけなら、見せても大した影響はないと考えたのだろう。
なお、よい子のみんなも分かっている通り、壊れたビデオデッキで未来を知ることはできない。できないが、機械がインチキであることと、これから行われる「人生サーチ」の信頼性は関係がない。
これもお分かりのことと思うが、このサーチは機械にやらせるふりをしつつ、裕美の魔法で将来を覗くものだ。その点では、この宇宙で最も信頼性の高いサーチなのだ。
「そこに立って」
「は、はい!」
「緊張しなくていいからね~」
曽根の緊張度合いはすさまじいものだ。右腕と右足が同時に動くお約束の歩き方で、地面に置かれたビデオデッキの横に移動した。
裕美はまるで記念写真のカメラマンのように立ち位置を指示する。しかし準備はそれだけだった。
肩の力を抜いて、にっこりと笑う男の横には、モニターのないビデオデッキ。いったいこれで、どこに何をサーチするのだろうか。
「ククク、貴様の死を見届けてやるぜ!」
「そこまで見ないでしょ」
曽根に向き合いながら、裕美は数歩後ろに下がった。光安と荒瀬も、よく分からないままその左右に立つ。
そんな奇妙な光景の背後では、野球部のユニフォーム姿が何人か歩いていたが、彼らは全く気にする気配がない。そして曽根や荒瀬も、見られているという意識はないようだ。その辺は裕美がどうにかしているのだろう。
「よし、じゃあサーチ開始~」
裕美はビデオデッキのリモコンを手にして、早送りボタンを押した。
コンセントにつながってすらいない状態で、役に立つはずはなかった……が、押した途端に三人の目の前で、激しく揺れ始めたのだ。
それはビデオデッキではない。
曽根の身体そのものが、ガタガタと動き出した。
「おお!」
「……そうきたか」
それはまさしく「サーチ」だった。
曽根の身長がじわじわと伸び、数センチ上昇して止まる。一方でヒゲは、濃くなったり薄くなったりを繰り返している。髪の毛はどんどん伸びて、ある瞬間に突然短くなって、まだニョロニョロと伸びていく。どうやら定期的に髪を切ることすらサーチしているようだ。無駄に高性能である。きっと手足のツメも同じ経過を辿っているだろう。
「面白いなぁ、服装がぱらぱらマンガみたいに替わっていくぜ」
「曽根はけっこうできるヤツっぽいぞ」
しばらくは高校の制服と私服とパジャマらしきものが順番に登場していたが、やがて私服だけになり、それから今度はスーツ姿が混じるようになった。
こうしてめまぐるしく変化する曽根のなかで、表情だけはあまり変化していない。いや、だんだん不安げな顔に変わってはいたが、服や髪の毛に連動してはいないので、そこだけサーチの対象から外れているようだ。
不安げな表情になったということは、おそらく自分で自分の変化が分かるのだろう。
「お、見ろ見ろ光安!」
「おお、頭が、頭がぁ~」
髪の毛の上下運動は、ある時期を境にだんだん目立たなくなっていった。それは要するに……、禿げていったのだ。
この眼前の光景は、光安と荒瀬にとっては面白すぎるものだった。
…だから光安が、曽根の希望が何だったのかを思い出すには、少々時間がかかった。荒瀬に至っては、全く思い出そうともしなかった。
「いつになっても私服は安っぽいのばかりねー」
「そうだなぁ……って、裕美、ストップストップ!」
「え?」
ようやく気付いた光安が大声をあげる。そして慌てて裕美がリモコンの停止ボタンを押した時、曽根は既に白髪の老人、というよりも髪の毛が耳の上部にわずかに存在するだけの禿頭老人になっていた。既にお迎えも間近な情勢だった。
「十年後の曽根はどんなだって話だったろ?、裕美よぉ」
「アンタが髪の毛とか服ばっかり見てるからでしょ!?」
「服見てたのは裕美だろ!」
「どうすんだよ光安! もうこいつの人生が終わりそうだよ~」
光安が役に立たないのは予想通りだが、荒瀬も彼以上にどうしようもなかった。曽根の変化をゲラゲラ笑いながら眺めて、今になって泣きそうな面だ。類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。
「じゃあ巻き戻す」
「できるのか?」
「リモコンにちゃんとボタンがあるからね」
そりゃビデオのリモコンだろ…と光安がツッコむ間もなく、リモコンを爺さんに向けてボタンを押す裕美。
すると今度は髪の毛がじわじわと増えていく。さらにだんだん色が黒くなり、ウェーブも高くなっていく。短くなっては突然のびて、また短くなり、歩く頭蓋骨のような老け顔が若くなっていく……と、光安と荒瀬はまた髪しか見ていなかった。実は私も似たようなものだが。
一人だけ冷静な裕美が、やがてリモコンのボタンを押すと、髪の毛はぴたっと止まった。そこには高校生の彼よりも少しだけ男前の曽根がいた。曽根は………、なぜか女装していた。
「……なんだよこれ」
「そ、曽根はこんな趣味があったのか!」
「たぶん宴会芸よ」
「はぁ?」
「立派な会社員にはね、こういう才能も要求されるのよ」
さりげなくトンデモな知識を披露しつつ、裕美がちょっとだけリモコンを操作する。わずかに巻き戻された曽根は、スーツを着こなして大きなカバンを持っていた。
「こ、これは……、何だ?」
「普通の会社員じゃねーのか?」
「たぶんそう。どんな会社かは分からないけど」
裕美のその声が終わった瞬間、光安の頭に続きが飛び込んでくる。「東京の大手商社に勤めてるわ。今の曽根くんからは想像つかないけど」と、彼女はこっそり伝えていた。
光安はそれを聞いて、再びまじまじと曽根の姿を眺めた。彼にとっても、それは意外な未来だった。
「………ふぁぁ」
「そ、曽根!」
「お、何だ? いつ始まるんだ?」
そして「巻き戻し」が無事に終わり、曽根は元の曽根になった。
「十年後の曽根」にとって、思い出したくない暗黒時代の可能性が高い「高校生の曽根」は、ぽかんとした表情で立ち尽くしている。
「もう終わった! お前の髪も人生も終わった!」
「あ、荒瀬!?」
「まぁ落ち着け荒瀬。でなぁ、曽根」
「なんだよ光安、偉そうに」
「お前の未来、この光安が見届けた」
「……本当かよ」
どうやら曽根には、サーチ中の記憶がないらしい。いや、実際に変化している時には表情も変わっていたのだから、その時は分かっていたはずだが、巻き戻された時点で消されたらしい。もちろん消したのは裕美である。
もっとも、光安と荒瀬の記憶は残っているのだから、消してもあまり意味はなさそうに思える。曽根の記憶がないことすら気付いていない、荒瀬のバカな頭をいじった方が良いのではなかろうか。
「え? 俺は会社員なのか!?」
「だよな、光安!」
「おう。ビシッとスーツを着こなしてたぞ」
「…………」
曽根は放心していた。
とりあえず、未来を知ったらびっくりはするだろう…と、二人はそんな彼を見つめている。裕美はといえば、何となく三バカの会話に置いてけぼりを食った感じで、リモコンを持ったままだ。
やがて曽根は、肩を震わせ始めた。シルエットだけなら、感涙にむせぶシーンのようでもあった。
「お、お、お、俺はマンガ家になるか、それともラーメン屋に弟子入りするかで悩んでたんだ!」
「はぁ!?」
「なんだよ会社員って! 関係ねぇじゃん! 俺は、俺はそんなに意志の弱いヤツだったのか!!!」
「お、落ち着け曽根!」
しかし曽根は泣いていたのではなく、血走った眼で取り乱し始めたのだ。予想外の展開に驚く残り二バカは、とりあえずバタバタしている彼の両腕をおさえる。まるで宇宙人が捕まった写真のようである。
…それにしても、マンガ家とラーメン屋というどっちつかずの二択で、大学卒業まで七年近くも悩み続ける方がよほど困難である。そもそもクリーニング屋はどうなったのだ。最初から候補ですらない家業なのか。いくら高校生のいい加減な将来像とはいえ、ツッコミ所が多すぎる。立派なサラリーマンなら何も問題ないではないか。
「ねぇ、曽根くん」
「………はい」
そこに、相変わらず冷静な裕美が口を挟んだ。
裕美の穏やかな声は、ただそれだけで、騒ぎ立てる曽根を鎮めるだけの力があった。取り乱していても、曽根はまだ裕美のファンではあるようだ。これを「理性が残っている」と表現して良いかどうかは微妙である。
「マンガ家になりたいの?」
「……ああ」
裕美の質問に対して、曽根は真剣な表情で答えている。それが分かるだけに、両腕を持ったまま光安と荒瀬は首をかしげていた。
「ラーメン屋は?」
「……やってみたい」
「それじゃあダメだわ」
しかし、裕美の一言は彼に対するいたわりではなかった。それどころか、楽しい「遊び」の場を凍りつかせるに十分な威力があった。
曽根はさっきまでとは違う意味で放心状態となり、他の二人は何も声に出ない。
「漠然とした憧れはね、いずれどこかで捨てられるものよ」
「……裕美、さん?」
相変わらずその手にはリモコンを持ちながら、それでも裕美には、冗談を口にするような雰囲気などみじんもなかった。
最も役に立たないバカの荒瀬は、すっかり気押されしている。光安は……、さすがに荒瀬よりは慣れているものの、曽根の行動が読めないので、うかつに物はしゃべれない状況だ。
「曽根くん」
「は、はいっ!」
曽根はまるで先生にイタズラが見つかったみたいな直立不動である。
「あなたは…、小学生の頃からの他愛のない憧れを、ただずるずる引きずってきたんでしょ? もうそろそろ、そんなものとは決別しなきゃいけないの」
「ゆ、夢を捨てるんですか!?」
「違う」
というか、冷静に考えてみればこれは、つい数日前に高校生と身分を名乗りだした女の台詞である。本当は自称1300歳女なのである。
1300年の年の功なんて想像のしようもないが、少なくとも決して高校生の頭脳ではない。裕美は、偏屈な老人を赤子扱いするほどの大老人であるはずだ。
「あなたはこの学校に何をしに来ているの?」
「え? そ、それは……、大人になるのに勉強が必要だから」
「違うわ。あなたは自分で物を考えるために勉強するのよ」
裕美はそう言いながら、荒瀬を見た。突然見つめられた荒瀬は、激しく頭を上下に振った。彼女の言い分に同意するというポーズだった。
次に彼女は光安も見た。その顔は別に賛同を求めるようなものではなかったが、光安が今までに見たことがないぐらいに穏やかだった。
うがった見方をすれば、曽根や荒瀬は友だちで、おもちゃにするのはお前だけ、という意味でもとれそうだ。しかし光安に、そこまで深くは考える頭はない。彼にできるのは、ただ困惑するだけである。
「そして、本当に希望する未来が何かを知るために、ね」
「あ……」
裕美の指先が、曽根の額に触れた。その瞬間、曽根は何かを感じたようだ。光安たちにも、淡い光のようなものが見えた気がした。
「荒瀬くん」
「は、はい!」
荒瀬はいつの間にか、ものすごく緊張していた。
おそらくそれは、裕美の正体にかすかに触れたからなのだろう。記憶のほとんどを書き換えられてもこれなのだから、まともに裕美の力を見たらどうなるか分からない。三バカの順応性の高さも、さすがにもう手に負えない状況のようだ。
「曽根くんのサーチは、うまく働かなかったよね」
「そ、そうですね。断片的にしか見えなかった」
荒瀬の発言を聞いて、ギョッとした顔で裕美を見たのは、光安だった。
裕美はどうやら、曽根が会社員になった辺りの記憶を消したようだ。
「じゃあ荒瀬、何が見えたんだよ」
「えーとなぁ……、そうだ、お前はハゲになった!」
「なにぃ!」
「どんどん髪の毛が抜けて、テカテカの禿頭になったぞ!」
「ぐぉー荒瀬、それは嘘だ、嘘だと言ってくれーー!」
そんなやりとりを眺める裕美の表情は、少し疲れているようにもみえた。
光安は光安で、曽根の様子をじっと眺めていた。
曽根の記憶はどこまで消されているのだろう。ついさっき、裕美がまるで人生の教師のように諭した辺りも、忘れていなければならないはずだが、それでは説教した意味がない。
「まぁそれでも、この機械は本物だって分かったでしょ?」
「すげぇよ! 本当に未来が分かるんだぜ!」
「荒瀬がそこまで言うなら、次はお前の未来を見たい」
「曽根に言われなくても俺しかいないぜ!」
「オッケー、じゃあ次は荒瀬くん」
そんな状況でも、裕美はまだ続けるつもりのようだ。
事情を把握できる光安にとっては、どんどん胃が痛くなる展開だが、傍観者の私としてはどんどんエスカレートすることを期待したい。そうだ。裕美は常に魔法を使い続けなければならないのだ。