第117話 侍祭達との会食
俺は現在少し遅めの朝食をあのだだっ広いフェリーの食堂で食べている。
食堂には俺のほかには……ボッチだよ俺は……でも、俺の世話を焼いてくれるミーシャがいる。
でも、そのミーシャも今は厨房の奥にいるので、やはり一人だ。
まあ、朝はいつも簡単に済ませているので、さっさと済ませて仕事に戻るか。
昨日助けた侍祭たちとも話ができたので、今日本格的な捜索はしなくてよくなった。
今までの疲れが出たとは言わないが、昨日の緊張が緩んだのか、今日は少し寝坊した。
昨日に侍祭から聞いた話では、政争のために逃げている時に色々とあったようで、遭難したとか。
どうもややこしい話になりそうなので、詳しくは聞いていないが、政争にいちいち首を突っ込みたくはないので、俺はその後は侍祭たちとは会っていない……というか、あれからフランたちに丸投げしていた。
まあ、確かに他に要救助者がいればここまでゆっくりとはしていないが、昨日の話を聞いた段階ではいそうもない。
他に助ける人がいようものならば侍祭たちもあの時点で要請がありそうなものだが、そんな素振りは一切なかった。
それに何より、本来は俺たちに彼女らの仲間を助ける義理も必要性もない。
必要がないどころか、彼女らはフランの祖国を襲った黒幕だというらしいから、ある意味敵側ですらあるが……政争があったらしいからそう簡単な話ではないのだろうな。
もし、他にも救助しなければならない人がいたとしても、あの時点でそれらしい形跡すら見なかったこともあるので、救助は俺達ではなくそれなりの公的機関が担当すれば良い。
そんな機関があればの話になるが。
そんなことを考えながらパンをほおばっていると食堂の外のほうからにぎやかな音が聞こえる。
フランを先頭に、昨日助けた女性たちが皆ジャージ姿で食堂に入ってきた。
あのジャージは、多分巡視艇から持ってきたのだろうな。
いや、このフェリーにも防衛隊たちの服もたくさんあったはずだから、それか。
しかし、他にも服はあったはずなのだが、よりにもよってジャージか。
まあ、フランたちは普段はきちんとした服を着て入るが、ジャージのあのゆるい感じを嫌ってはいないようだ。
嫌っているよりも、かなり好んでいそうだな。
それに何より、着慣れない服を着せるにはあれは便利だ。
あの様子からは、侍祭の服は洗濯機の中に有るのかな。
フェリーの洗濯機はかなり良いものだし、何より洗剤も高級な品なので、臭いはもしかしたらどうにかなる……のかな?
結局、フランたちを助けたときにも着ていたものは、焚付となり、処分されたし、あそこまで匂いがつくとなかなか消せなかったんだよな、現代日本の技術では。
侍祭たちもかなり臭ってはいたから、どうだろうか。
だからといって臭いが消せなくとも、捨てる訳にも行かないだろうし、かと言ってフェリーの中を探しても神職の服などないしな。
まあ、そのあたりも含め全部フランに任せよう。
「おはようございます、守様」
フランが俺を見つけ朝の挨拶をしてきたので、俺も返した。
「おはよ……なんだか一仕事を終えたようだな、フラン」
「ええ、昨日命じられました通り、彼女らを風呂に入れてきましたので、遅くなりました」
「というと、これから食事かな」
「ええ、そのつもりですが」
「私は途中まで済ませているが、ご一緒にどうですか、侍祭殿」
「……は、はい。ご一緒させていただいてもよろしいのでしょうか? 使徒様」
「使徒様は勘弁してほしいが……」
「いえ、フラン様よりお話を聞きました。使徒様以外の呼びようは私どもには許されません」
やたらと強く反対される。
「守様。あきらめたほうがいいですよ。
彼女たちは敬虔な信者ですから」
フランが俺の横で、解説をしてくれる。
それによると、彼女らが信じているのが、よりにもよってあのカミサマだというのだ。
女神様ならば、まだ救いはあるだろうが、あのカミサマだものな~……。
それも敬虔な信者だというから、もう手遅れな気はするが。
まあ、侍祭になるくらいだから、信仰心はそこらの人の比ではないだろうが、運がないといえば言えなくもないが、あのカミサマを信仰しているのを見るとやたらと気の毒にも思えてきた。
まあ、この世界の人には実害はないのだろうが、その被害者である俺からしたら、思うところもなくはない。
話が進まないので、俺はミーシャに彼女らの食事の手助けを頼んだ。
「ミーシャ、聞こえたらこちらを頼む」
俺の呼びかけにミーシャはすぐに答えて厨房の奥から出てきた。
「なんでしょうか、守様」
「ああ、彼女らの食事の世話を頼む。
ここは、他と比べるとやたらと変わっているので」
「ええ、私も最初は戸惑いましたが……わかりました。
侍祭様。こちらにお越しくださいませ」
ミーシャはジャージ姿の侍祭たちを連れて料理が並ぶカウンターに連れていく。
カウンターの前まで着いた彼女らは、みなの想像通りそこで固まり動かなくなる。
そこをミーシャが丁寧に声をかけながら料理をお盆に乗せていく。
そんな様子を眺めていると、フランが俺に謝罪してきた。
「守様。
私は守様にお詫びしないといけません」
話を聞くと、彼女らの入浴には相当苦労したようで、浴槽内のお湯を汚してしまったとのこと。
「なんだ~、それくらい」
「ですが……」
「大丈夫だよ、フラン。
風呂のお湯は循環しているから、常にきれいになるようになっているし、放っておけばそのうちきれいになるよ。
もし、それ以上に汚れていれば、それこそ水を抜いて、掃除すればいいだけだ。
気にするまでのことではないが、大変だったようだね」
そこから侍祭たちの入浴時の様子を聞いたが、妙齢の女性の入浴シーンなんて色っぽい話ではなかった。
侍祭一人に二人かかりとなって、それこそ力技で体を洗っていったらしく、2時間近くかかったようだ。
今朝早くから作業にかかっても今まで時間を使っていたらしい。
「話を聞けば聞くほど大変だったようだね。
ご苦労様でした」
俺とフランが話していると侍祭たちがお盆をもってやってきた。
「ああ、こちらにどうぞ」
俺は向かい側に彼女らを招いた。
ミーシャが椅子を引いていたが、主任侍祭以外は自分で椅子を引いて座っていった。
「フラン、君の食事は?」
「私は先に済ませましたので」
「では、お茶くらい付き合ってもらおうか」
俺はそう言って、隣の席の椅子を引いた。
「では、お邪魔させていただきます」
フランだけがお茶になるが、さっきまでボッチだった俺の食事が、とたんに賑やかになった。
と言っても侍祭たちは珍しい、しかも、多分今まで食べたこともないような美味しさで驚いているので、食事に夢中で、話ができない。
まあ、この風景は俺が初めてフランたちに食事を提供したときにもあったので、慣れているが、あの時よりもこっちのフェリーの食事のほうが遥かに味はいいはずだ……あ、最近の冷食は侮れないか。




