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プレアデスの伝説 姫たちの建国物語  作者: のらしろ
第五章 プレアデス領国

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第109話 獣人国との交流


 夜通しのパーティーが終わり、翌朝――。

 宴の熱気を引きずったまま、俺たちは獣人の使節団を送り返す段取りに入っていた。


「……頭が割れそうだ……」


 ドワーフ技師長ダートンが、見事な二日酔いフェイスで浜辺に座り込み、波打ち際に頭を突っ込んでいる。泡を吹きそうなほどの姿勢に、通りがかったミーシャが「また魚と間違えられますよ!」と尻尾をピンと立てて叱り飛ばす。


「おいおい、技師長が魚介類と間違われて連れていかれたら洒落にならんぞ。港のクレーン建設はどうなる」


「にゃーっ! そうですそうです! あたしたちのご飯の供給ルートが遅れちゃう!」


「……うむ、魚に連れていかれるくらいなら、今のうちに船を造っておこう……」


 ダートン、まだ酔ってるのか、寝言みたいなことを言う。

 その横では、ダーナが腕を組んで使節団のライオン宰相に話しかけていた。


「では我らの帆船で使節団を送り返す。これを最初の定期航路とすることで異存はないな?」


「うむ、異存なし!」


 ライオン宰相は相変わらず声が大きい。酒で喉をやられたのか、ハスキーになっていて妙に迫力がある。


「……でも定期便って、そんなに簡単に決めちゃっていいんですか?」


 恐る恐るエルムが口を挟む。


「船の整備も、航路の安全確認も、まだ終わっていませんし……」


「大丈夫だ! 問題ない!」


 即答する俺。すると後ろからケリーがすかさずツッコミを入れた。


「守様、そういうときに根拠もなく断言されると、私たち護衛部隊の胃が痛くなるんですが」


「はっはっは、胃薬はフェリーの医務室にあるから安心しろ!」


「そういう問題ではありません!」


 おっと、完全に怒らせてしまった。

 結局、出港準備は慌ただしく始まり、沿岸は朝から大騒ぎだった。

 まず問題になったのが荷物。

 獣人たちは、昨夜の宴会で「お土産をたっぷり持ち帰るぞ!」と約束してしまったらしく、ドワーフが作った木樽ビールから、天使族が栽培している謎の光る果実まで、なんでもかんでも詰め込んできた。


「おい! それはまだ研究用の試作品だぞ!」


 ダートンが果実の木箱にしがみつくが、ライオン兵たちは「にゃーん」と鳴き声を真似しながら遊んでいて、完全に聞いていない。


「にゃんこ軍団に奪われたぁあああ!」


「落ち着け技師長、見た目は猫っぽいが中身は百戦錬磨の戦士だぞ」


「余計怖いじゃないかぁ!」


 さらに問題は続く。

 出発の儀式を仕切るフランが、使節団に贈る「記念品の目録」を読み上げ始めたのだが……。


「一、米十俵――」


「……そんなに余裕あったか?」


「二、酒樽五十――」


「おい待て、昨夜の宴会で半分消費したはずだぞ」


「三、最新式建機一台――」


「ちょっと待てええええええええっ!」


 俺が叫ぶ。建機は今後の開発の生命線だぞ! 輸出品リストに混ぜるな!


「守様、ご安心を。昨日の夜、目録を清書するよう指示したのは――」


 フランが意味ありげに視線を向ける。

 そこには、泥酔して顔に落書きをされたまま白目をむいているドワーフ技師長の姿があった。


「……あいつかぁああああ!」


「うひひ……酒の樽のついでにブルドーザーも一緒に……持ってけぇ……」


「寝言でも許されねえぞ!」


 なんだかんだで出港の時刻が迫る。

 港には、見送りに集まった島民たちがずらり。

 サーシャとアリエルの姫コンビは並んで手を振っているのだが――。


「さあ皆さん! この瞬間を歴史に刻むのです!」


 サーシャが堂々と宣言し、観衆がどっと沸く。

 一方アリエルは……。


「出港祝いに歌を歌いましょう! 私の美声で海も割れます!」


 天使族の姫らしい提案だが、横でフランが顔を引きつらせている。


「アリエル様、その……声量が強すぎて船が転覆しませんか……?」


「だ、大丈夫です! 昨日も試しに高音を出したら、窓ガラスが三枚割れただけでした!」


「それは大丈夫とは言わないのですっ!」


 慌てて俺が止めに入る。


「待った待った! 出港祝いで船が沈んだら、歴史に残るどころか黒歴史になるぞ!」


 結局、歌は中止になり、代わりにケリー率いる護衛騎士団が行進を披露することに。

 だがこれもまたハプニング続出だ。


 ドラム役のミーシャが「にゃんにゃんマーチ♪」と謎のリズムで叩き始めたせいで、行進がどんどん猫踊りに変わっていく。


「左っ! 右っ! ……にゃんっ!」


「おいそれ掛け声じゃないだろ!」


 観衆は爆笑し、ライオン宰相までお腹を抱えて笑っている。

 結局、まるで動物園のパレードみたいな見送りになってしまった。


 こうして帆船はなんとか出港した。

 波間に小さくなっていく船影を眺めながら、俺は深いため息をつく。


「……はぁ。やっと静かになるか」


 ところがその直後、ダーナが俺に報告してきた。


「守様、忘れてはなりません。我らにはこれからが本番です」


「……え、なにが?」


「自給自足体制の構築です!」


 その瞬間、背後から大勢の視線が突き刺さる。

 フラン、ダーナ、ケリー、エルム、サーシャ……全員がニコニコ笑っているが、その瞳は「逃げるなよ」という光を宿していた。


「え、えーと……具体的には?」


「漁業! 狩猟! 農業!」


 ダーナが指を三本突き立てて叫ぶ。


「守様、畑仕事を楽しみましょう!」


「俺は海上警備官だぞ!? 農家じゃない!」


「だいじょーぶです! スコップの握り方は機械スキルでわかるでしょう!」


「そういう問題じゃないんだぁあああ!」


 結局その日から、俺の生活は地獄の開墾訓練に突入した。

 森の中で木を倒そうとすれば、サーシャが「女神の加護を!」と張り切って木ごと爆破。


 漁に出れば、アリエルが「魚さん、こちらへー!」と歌って呼び寄せ、数百匹がいっぺんに網に飛び込んで漁船が沈没しかける。

 農作業に至っては、ミーシャが畑でごろごろ転がりながら「土浴び最高!」と泥だらけになり、作物より猫草のほうがよく育ってしまう始末。


「……おい、誰かまともにやれ!」


「まともにやってます!」×5人


 俺の叫びは虚しく海風に消えていった。

 その日の夜。

 ケリーたち護衛隊が巡視艇の訓練をしていた。

 無線機越しに「魔物発見!」の声が飛び込むたびに、俺は頭を抱える。


「もう勘弁してくれ……俺の胃が持たん」

 

しかしフランは楽しげに笑う。


「これが新しい日常なのですわ、守様」


 俺は空を仰いで叫ぶ。


「異世界よ! 平和的発展って言ったよな!? なんで毎日がドタバタ開発バラエティなんだ!」


 星空の下、その嘆き声は誰にも届かず……。

 翌日もまた、笑いと混乱と開発の嵐が俺を待っているのだった。

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