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婚約者の浮気相手は何と…


「誰かいる?」

 屋敷の廊下をあるく女性、この屋敷の持ち主であるケルビン・ジョークス公爵の娘ジェシカ・ジョークス18歳である。


 声のする方に近く。ドアの向こうから聞こえるのは男女の……男女の睦み合う声……そして音だ。

「ひっ……誰?使用人?」

 こっそりドアを開け隙間から覗く。


「スーザン気持ちいいよ」

「マイク、私も……」


 そこには裸の男女がいる。

「…………スーザン?マイク?まさか……だ、誰か呼ばないと」 

 急ぎ後ろを振り返り、向かう先は……。

「ねぇ……サイラス……。あのね」

「ん?お嬢様どうしたのですか?」


 声をかけたのはジェシカ専属執事のサイラス23歳である。


「サイラス……あのね。私の義母の名前は?」

「え?あの女の名前なんて言いたくない」

「……サイラス」

「はぁ……スーザンだろ」

 ため息混じりで嫌そうな顔で答えるサイラス。


「そうよ。私の婚約者の名前は?」

「言いたくない」

「………………」

「マイクだろ。一体何?」

「あのね、1番奥の客室でね。2人がねセッ………」


 サイラスはジェシカの口を塞ぐ。

「お嬢様……いやジェシカ、お前何を言うつもりだ」

「いや、だから……セッんんっ」


 口を押さえるサイラス。


「言わなくていいから。奥の客室であの女とジェシカの婚約者がヤッてるんだろ」

「サイラス……知ってたの?」

「……知らないのはジェシカとバカ2人だ」


「あの2人はいつからなの?」

「そうだな……1年位なるな」

「パパは?って言うか私と婚約したのは2ヶ月前よね。会ったのは一度だけど……え?私って何?」

「まあ、一応婚約者だな。公爵様はあえての放置だ。おっ、時間だな」

「何の時間?」

「一緒に見に行くか?真実の愛とやらを」

「ん?真実の愛?」



 サイラスと廊下を歩く、向かうのは。

「きゃー、違うのよ。あなた……違うの」

「裸で2人がいる事の何が違うのだ?」


 場所は先程の客室である。

「違うのよ、あなた……」

「そもそもマイク君はスーザンの婚約者のはずだが」

「違うんです。お義父さん」

「君のお義父さんではないし、今後もなることはない」


「あなた、私はあなたの事を愛しているのよ」

「ほう、愛しているのに1年も関係を続けているようだな」

「え……」

 言葉を失うスーザン。

「知らないとでも?たしか、婚姻時に私が浮気をしたら離縁だと喚いて離縁届けを書いたのを覚えているかい?」

「まさか……あの時の離縁届けを?」

「あぁ、提出させてもらった」

「嘘……うそ……ウソよ」

「いや、本当だ……ほんとうだ。ん〜と確か……マジだと言えば信じるのかな」


「ぶぶっ……あ……ごめんなさい。パパ」

「ん?ジェシカか。お前も知ってのか?」


「いや……先程見たのよ。2人がセッんんっ」

 サイラスに口を押さえられるジェシカ。

「お嬢様は、言わなくていい。誰から教わったんだよ」

 

 下半身をシーツで隠しながらヨロヨロとジェシカの元に近づくマイク。

「あの……ジェシカ?俺は出来心でな……ジェシカの事が1番……」


「ひっ、マイク来ないでよ」

「そんなだらしない身体をお嬢様に見せるな」

 ジェシカの目を手で隠しズルズルと引きずりマイクから距離を取るサイラス。


「ジェシカ、聞いて……勘違いしてるんだよ」

 マイクの話を遮るのは使用人の男女である。昔からジェシカの兄と姉の様に過ごしていた2人は夫婦である。




 クルクルと回りながらジェシカとマイクの間に入り込む。そして2人の使用人は話始める。


「スーザン愛している。何故、私はジェシカの婚約者なのだ。もっと早くに出会っていたら君といれたのに」

「私もよ。マイク、あんな愛想もない男と結婚してしまって。抱いてもくれないのよ」

 

 使用人夫婦は抱き合う。


「スーザン……愛している」

「私もよマイク、私達はきっと『真実の愛』で結ばれているのよね」

「あぁ、でも君は公爵の妻で私はその娘の婚約者だ。来年、私はジェシカと結婚するしかない」


「あぁ、マイク……私はこんなにも貴方を愛しているのに」


 ヘナヘナと床に座り込み泣く使用人妻。

「マイク……ジェシカと結婚しても私達は」

「あぁ、離れる事はない。この家に住む事になるのだ。もっと一緒に過ごす事ができる。義母と婿としてな」


 床に座る使用人妻を抱きしめる使用人夫。

「あぁ、マイク」

「スーザン」


「マイク、私以外を抱かないで」

「あぁ、勿論だよ。ジェシカとは白い結婚にする。私がジェシカを抱く事はない。そして君が私の子を産めばいい。この家で秘密の家族として暮らそう。ふふっ、その為にジェシカと婚約したのだからね」

「もうすぐ1年ね。何処かに旅行に行きたいわ」

「そうだね。ジェシカには友人と行くと言えば信じるだろうからな。今までもそうだしな」

「嬉しいわ。私も夫に友人と行くと言うわ。いつもみたいに。ねぇ、もう一度して」

「あぁ。何度抱いても君は素晴らしい身体だ」




「その後2人は再度睦み合うのでした。以上でございます。ご主人様。ご鑑賞ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げるジェシカの父の後ろに下がる使用人夫婦であった。



「ジェシカ……こいつらの話を信じるのか?私は婚約者だぞ」

「そうね。あなたは婚約者だけど……まだ婚約して2ヶ月よ。会ったのは一度ね。使用人の2人は私が物心ついた頃からの付き合いよ。そもそも1年続いてるだなんて……浮気する為に私の婚約者になったなんて」


「違う……そんな事は」

「あの人を愛しているのでしょう?夫がいる人と不貞を重ね。その義娘に婚約を申し込むだなんて……私をなんだと思って?小説ならば2人の愛を盛り上げるスパイスだったのかしら?そもそも私が浮気相手なのかしら……ねぇ、サイラス。私の立場は何?」


「お嬢様は……そうですね。当て馬ですかね」

「そう……教えてくれてありがとうサイラス」


 そこに突然現れたのは。

「おい、マイク……どういう事だ。お前はジェシカ嬢に惚れたと……だから私は頭を下げて公爵に頼んだのだぞ。それなのに、義母にあたる女と不貞?しかもジェシカ嬢と婚約する前からの付き合いだと……お前は私達を何だと思っている」

「父上……これには訳が……スーザンとは『真実の愛』の相手で」


「不貞相手ではあるが公爵殿の奥様だぞ。呼び捨てで呼ぶとは……お前は私の家から勘当だ。2度と我が家に足を踏み入れるな」

「父上……そんな」

「まあ、マイク君の父上……うちの元妻が迷惑をかけたな。この様な状況だ、ジェシカとの婚約は解消してもらえるだろうか?」

「勿論です。破棄でいいのですよ。こちらの不貞ですし……マイクに慰謝料を払わせますのでこの度は本当にすいませんでした。しかし元妻なのですか」

「あぁ、元妻の相手がマイク君と知ったのは最近でして、彼女を自由にしてあげたくてね。元妻の言いぶんを聞くまでもない。そもそも私は元妻とは身体の関係はない。私が愛するのはただ1人だけだからな。仕方なく親戚の紹介で再婚したのだ。多少の浮気は目を瞑る覚悟だった。ですから互いに今回の婚約はなかった事にしてほしい。マイク殿はスーザンと言う女と恋人である。ただそれだけ」


 何度も頭を下げるマイクの両親。


「マイク君のご両親、今は他人とは言え元妻だ。こちらも申し訳なかった。これからマイク君と私の元妻は大変だろうから解消でいいだろうか。ジェシカもいいかい?」

「えぇ、パパ、おじ様……私は大丈夫だから、まだ好きとかそう言うのはないし。パパも早く教えてくれたらいいのに」

「すまないな、話そうとは思っていたんだがな」

「ジェシカ嬢……すいません。年頃の女性を何だと思っているのかバカ息子は」


 恐る恐る話かけるスーザン。

「あの……私は本当に元妻……なの?マイクと一緒になれるの?」

 

 先程まで違うのと喚くスーザンはもういない。マイクとの未来に瞳を輝かせる1人の女だった。

「そうだ。しかし相手がマイク殿と知ったのは最近だから急ぎ離縁をした。使用人にも奥様とは呼ばれていなかったと思うが気付かなかったか?まあ今更どうでもいいか。マイク君と2人で幸せになるといい。ひとつ情報として、マイク君の恋人は今年で35歳だから子を持つには身体に負担がかかるだろうから、よく話し合うといい」


「え……35歳?スーザン?君は28歳では?」

「え……あの……その」

「スーザン……話が違う」

「マイク……私はあなたを愛しているのよ。真実の愛でしょ。年齢なんて些細な事よ。ね……マイク?」

「…………」

 何も言えないマイクだった。


 そうして、ジェシカはマイクと婚約を解消し、スーザンもまた公爵家を追い出されたのでした。



 3年後ジェシカは、

「ジェシカ、俺と結婚してほい」

「私もサイラスと結婚したい。一緒に幸せになろうね」

「あぁ、大切にするよ」

 ジェシカを抱きしめるサイラス。ジェシカの婚約解消後に色々とあったが2人は恋人となったのである。

「パパに教えてくるわ。サイラスにプロポーズされたって」

「ジェシカ、俺も一緒に行く」



「パパ〜あのねサイラスからプロポーズされた」

「やっとか、サイラス随分と時間がかかったな」

「公爵様……」


「あら〜キャシー。お姉ちゃんよ」

「あう、あうあ〜」

「まさかパパが再々婚するとはね〜」

「お前達が仕向けたんだろ」


 可愛い女の子を抱っこするジェシカの父。

「ん?そう?恋に落ちたのは2人よ。ね、サイラス」

「はい。その通りです。身分も年齢も些細な事です。私もジェシカと結婚できるのですから」

「くっ……まぁ、良いか」


 ジェシカの父は2年前に再々婚した。相手はこの屋敷で使用人として長く働く女性でジェシカの母が生前の時から妹の様に可愛がっていた女性だった。そして昨年女の子が誕生したのだ。

「パパ……大好きよ」

「私もジェシカが大好きだ。私の可愛い娘」


 

 翌年の公爵家は可愛い子供の声が2つ屋敷に響き渡るのだった。


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