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聖女召喚の儀、巻き込まれたはどちらか 夏の陣

作者: 原田 和

出てくる人達 


 モサ子 ←仮名

 美少女 ←仮名

 愉快な異世界の人々


初見の方の為の前回の話 ↓


 聖女として異世界に召喚された少女達。しかし異世界人の傍若無人により、モサ子怒りの覚醒。責任者をボコして帰った。春の出来事である。


そして、季節は夏。二人は再び、異世界へ…… ↓





聖女召喚。

異世界の住人が、己の世界の危機に立ち向かえる者を、別の世界から呼び出す。

異世界と異世界を無理矢理繋げるのだ、それに必要な魔素、魔力は膨大で計り知れない。一説では、多くの人間の命と引き換えにされるとか。それ程までに難しい、召喚の儀。

だからだろうか。

大きな魔法陣の中に、二人の少女が立ち尽くしているのを確認した異世界人が、説明より先に高笑いを上げてしまったのは。


 「ヲ――ホホホホホホホ!!成功したじゃないの!ほぅら御覧なさい、ワタクシが言った通りじゃない!」


高笑いを続ける、一人のド派手な女性はこの国の女王。玉座にて優雅に足を組み、妖艶な笑みを浮かべるその姿はまさしく美女。光り輝く宝石やゴージャスなドレスにも、全く負けてはいない。見事に着こなし、忖度なく似合っている。趣味がいいか悪いかは別として。

元気に高笑う彼女はともかくだ、魔法陣の周りに居る……恐らく魔導士だろう、彼等は全魔力を持っていかれ、立つ事もできず。中には、白目を剥き倒れている者も。青褪めたまま見守っていた貴族達は、皆顔を伏せ、動けずにいた。勝手な動きは、女王の怒りを買うと同じ。どんな目に遭わされるか、分かったものではない。

不自然なまでに静かな儀式の間に、女王の高笑いだけが木霊する。


 「…どんな状況よ、コレ」


美少女は、思わず呟いた。高笑いがピタリと止まる。

女王の切れ長の目が此方に向き、数秒見つめ合い……本能で分かってしまった。内心で思い切り顔を顰める。女王は、異世界人二人に値踏みするような目を向け、……鼻で笑った。

明らかに人を馬鹿にしたようなそれに、美少女はカチンときたが、分かっていないフリで問いかける。


 「あの、此処はどこですか?あなたは、」


 「ひれ伏しなさい、無礼者。本来ならば、ワタクシの前に立っている時点で斬り捨てられていてよ。でも?あなた達は低俗で無知な異世界人。ワタクシは寛大よ、許して差し上げるわ」


 「アリガトウゴザイマス。……私は何故此処に居るのか、訊いてもよろしいでしょうか」


 「ワタクシが命令したからよ。あそこのおバカさん達は、聖女召喚は危険だとか言っていたけれど、ねぇ?魔力が足りないなら、生命力を使えばいいのよ。それでも足りなくなったら、魔力持ちを幾らでも使えばいい。代わりはたくさん居るわ。そうして、あなた達は此処に居る。ワタクシが正しかった、そうでしょ?」


女王が視線を動かすと、最初はパラパラと、しかしすぐに響き渡る程の拍手が巻き起こった。周りの表情を見るに、強制のようだが。


 「改めて、ようこそワタクシの国へ。異世界の聖女、あなた達はワタクシを救う為に呼ばれたのよ。今からあなた達は、ワタクシの手足となるの。嬉しいでしょう?感謝なさい!!」


ヲ――ホホホホホホ!!!

高笑う女王。ショモついた顔で、しかし爆速で拍手を続ける貴族達。踏ん張っていたが、白目を剥いて倒れていく魔導士達。混沌(カオス)と表現するは、こういう場面なのだろう。きっと。


 ――あなた、達……?


美少女は気付いた。いや、気付きたくなかったからこそ、スルーしていたのかもしれない。動き辛い首を、なんとか動かす。美少女の視界に、彼女が、


 ――モサ子っっっ……!!


居た。

モサ子は左に浮き輪を、右にはビーチボールを抱え、ウェットスーツの上に鮮やかなアロハシャツを羽織り、静かに佇んでいた。無表情で、周りを見渡している。


 ――全力で海に遊びに来た格好してる!?偶然、偶然ねモサ子、私も海に来ていたのよ…!


因みに美少女は、パレオ付き花柄水着。日焼け対策も万全だ。

しかし、二人の格好は更に、場の混沌(カオス)感を上げている。上着羽織っててよかったと、どうでもいい事を思いながら、美少女は元凶を見た。

あの女は、以前の自分だ。春辺りの召喚事件が無ければ、そのまま突っ走り、いずれはああなっていたかもな。…と分かるくらいには、冷静に分析できるようになっている美少女である。

さながら、黒歴史が顕現している状態。

まさか、こんな恥辱を受ける日が来ようとは。なんて恐ろしい異世界。

美少女は、唇を噛んで耐えた。

そしてモサ子だが。彼女は静かに状況を把握し、とりあえず倒れた魔導士を蘇生させている。

胸を殴り、自分の魔力を送り込むという荒業。何気に力を使いこなしている。魔力が戻り助かった魔導士達は、『ゑ?』と首を傾げながら、次々と起き上がっていく。


 「そこのダサ女、ワタクシに目障りなモノを見せないで頂戴」


女王の標的が、モサ子に移った。しかし、モサ子は蘇生を続ける。


 「言葉が分からないのかしら。やめろと言っているのよ、このワタクシが」


しかし、モサ子は蘇生を続ける。振り返りもしない。女王は不愉快そうに眉を吊り上げたが、すぐに鼻で笑う。


 「居るのよねぇ、偶に。こういう生意気な無知。どうせ後からワタクシに縋るしかないと気付いて、床に頭を擦りつけるのがオチなのにねぇ。それともぉ?ワタクシの美貌と力に、嫉妬してるのかしら。女として終わってる、惨めな姿だものね」


…いえ。ただただ、ただただ、興味が無いだけです。

モサ子は、ああいう手合いは相手にせず、基本ガン無視だ。それを実体験で知っている美少女は、更に唇を噛んで耐えた。


 「ふぅん?魔力は、流石は異世界の聖女、かしら。でもあなた達は、傀儡がお似合いよ」


女王はニタリと笑い、扇子をパチンと閉じる。

瞬間、何かが首に巻きつくような感覚に、美少女は思わず手で押さえた。それはモサ子も同じだったようで、ブチリと切れる音と共に、違和感は消える。女王が目を見張った。

何をした、と口を開く前に、荒々しく扉が開けられる。そこには、驚愕した様子の美形騎士が。


 「女王様っっ……!なんて事を、あれ程っっぐ、がぁっっ……?!」


 「…使えてるわよねぇ?隷属魔法。何故、異世界人には効かないのかしら。ねぇどうして?あなた達、一言も言ってなかったわよね?嘘をついたの?このワタクシに嘘の報告をしたの?」


 「隷属魔法……?」


騎士の首には、赤黒い紋様が浮かび、それが蠢くたびに苦痛にのたうち回る。気付けば、周囲に居た全員が似たような状態となっており、悲鳴、悲鳴、悲鳴。

どうやら女王の仕業らしい。彼女は此処に居る人間全てを、隷属魔法で従わせているようだ。


 「嘘つきで悪い子達……オシオキが必要ねぇ。ワタクシにこんな事させるなんて、酷いわぁ。イイコでいれば、苦しまずに済んだのに。こうして見せしめになるのも、あなた達が従順でないからよ。反省なさい」


女王が嗤う。白い指が、つい、と動いた。悲鳴が更に酷くなる。


 「そこからそこまで、全員死にばぶぁっつっっ??!」


女王に、モサ子の容赦無い一撃が叩き込まれた。手の形からして掌底だろう。

あれ、首一周した?と問いたくなる勢いであった。女王は頬をパンパンに腫らし、倒れている。動かない。美少女は静かに息を確認。生きている。

突然痛みが消え、周囲は困惑と動揺が広がっていたが、無様に倒れている女王を見付け、歓喜の雄叫び。

それをやったのが異世界人だと気付き、感謝の雄叫び。


 「聖女様っ……!我々を解放してくださり、誠に、誠にありがとうございます……っ!」


二人の前に膝をついたは、美形騎士である。喜び満面だが、美少女は何もしていない。困惑したままモサ子を見た。


 「隷属魔法……人道に悖る卑劣な行為。私は十八禁展開など許さない」


 「おぉ……!なんと高潔なお言葉か…!!」


騎士は頭を垂れる。モサ子は、隷属魔法というものに偏見があるようだ。一体何を読んだのか。美少女は、哀れな姿の女王に治癒をしかけたが、止めた。この姿は、己を戒める為焼き付けておくのだ。


 「何の目的で誘拐したか、聞かせてもらおうか」


異世界召喚はもう、モサ子の中ではただの誘拐になっている。

答えによっては、相手が何であろうとシバく。目がそう言っていた。楽しい家族旅行を台無しにされたのだ、無理もない。


 「申し訳ございません。私共の力及ばず、傲慢かつ厚顔かつ鬼畜魔女であり、我が国の恥そのものの女王が独断で行い、貴女方を召喚してしまったのです……!」


ボロクソな言われようである。


 「ですが御安心を。我々で秘密裏に動き、帰還準備はできております。無関係な貴女方を、考え無しの大馬鹿女王が起こした戦争に巻き込む訳にはいきませんので。ただ…、」


美形騎士、女王に対し相当な怒りを抱いているようだ。目が仄暗い。

これが、自分勝手を極め、他人を顧みなかった者の末路か。美少女は、伸びたままの女王を眺めた。


 「何分、魔導士が足りず…。不愉快に思われるでしょうが、今しばらくのご猶予を!」


此処でもやはり、行きも帰りも禁忌レベルの魔力が必要だという。

モサ子は、女王を指した。


 「…コレ使ったらいいんじゃないか?」


 「……。…聖女様天才?」


即断即決。

美形騎士はいい笑顔で女王を引き摺り、簀巻きに。いい笑顔の魔導士達と共に、帰還の魔法陣へ投げ込んだ。カラッカラになるまで魔力を吸い取り続け……。

調整に時間が掛かったものの、二人は無事、元の世界に帰れたのである。











……目の前に広がるは、サンセットビーチ。

美少女は、ずぶ濡れになりながらも、なんとか浜へ辿り着いた。着地点がずれたのか、気付けば海にドボンしていたのである。

魔法は不得手でして、と恐縮していた美形騎士と、疲労が残る魔導士達ではこれが精一杯だったのかもしれない。戻れただけ、良しとしよう。

閑散とした砂浜を見渡すが、モサ子の姿は無い。別の場所でドボンしているのか、はたまた彼女だけ濡れずに済んだのか。

朱く染まる海を眺めながら、疲れた体を動かしホテルへと向かう。

いきなり消えたと、騒ぎになっていなければいいが。そういえば今回も、異世界堪能せずに戻ってきたし、特に聖女らしい事もしてなかった気がする。今となってはどうでもいいが…。

そんな事を考えていると、何かが、体に絡みつくような感覚。それは海から伸びていて、美少女は砂浜に思い切り叩きつけられた。


 「っ、な、なにっ……??!」


海からずるりと這い出てきたは、人に見えるが、異様に体が長い。ぐにゃりと動き、長い髪から覗く、ぎょろとした目が、美少女を捉えた。

ソレはにいぃ、と裂けた口を見せつける。


 『許サナイ』


目の当たりにした美少女は固まり、声すら出せない。


 『許サナイ、連レテイク、許サナイ許サナイ』


絡みついた女の髪の毛が、きつく締め付け海へ引き戻す。抵抗できぬまま、美少女は引き摺られていく。


 『オ前ガオ前ラノセイデ、オ前、ガ、オ前ガ、連レテイク連レテイク』


眼前に女の顔。愉悦に満ちた、狂った笑顔。カクカクと動くたびに、濡れ髪が纏わり付く。


 ――怖い、気持ち悪い、いやだ、こんな所で、ひとりで、だれか、だれか、


 『オ前ガ悪イ悪イ悪イ悪イ悪イ悪イ悪イィィぃぃぎ、ギィ、が、アハ、ハハ、ワタクシハ悪クナイ。オ前タチガ悪イノ。オ前タチガワタクシノ犬タチヲ死ナセルノヨ。アハ、アハハハ、ハハハハハ』


女の顔が、あの女王に変わる。怯える美少女を見下ろし、嘲笑う。


 「…自分のやらかしを、」


美少女の視界に、アロハが映る。


 「無関係な人間に」


加減無しの蹴りが、女王にめり込む。


 「責任転嫁するな」


女王の頭部が跡形無く弾け飛び、残った体は錐揉みながら、母なる海の彼方へ。

モサ子の蹴りは、海をも割いた。










 「…残留思念?」


 「多分。女王の魔力を使ったから、彼女の念がこっちまで来たんじゃないか、と思う」


しつこそうな性格してたからな、とモサ子は容赦なく切る。二人はホテルへ向かって歩いていた。


 「なんで、あんな蛇みたいな姿になってたワケ…?ホント嫌だったんだけど」


 「さぁ。……あ、」


美少女は、アロハシャツを羽織っている。全身びしょ濡れで、震えていたのを見兼ねたモサ子が手渡してきたのだ。寒かったのは事実なので、有難く借りている。


 「え、何、そこで途切れないでよっ」


 「もうあそこには近付かない方がいい。本来は立入禁止なんだ。じいちゃんが言ってた」


 「……言われなくても行かないわよ、怖いし」


因みにモサ子は、海にドボンではなく、波打ち際に着地したらしい。

美少女の姿が見えないので、一応探し、あの場面に遭遇したそうな。


 「ああなったのは、私があいつの魔力使おうって提案したせい。だから、ごめん」


さっと頭を下げられ、美少女は驚き固まった。謝られるとは思っていなかったし、まさかこうなるとは、誰も思わないだろう。

それに、過去諸々含め、謝らなければならないのは、美少女の方だ。


 「……っ、べ、別にいいわよっ、そんなのっ。あの、その、助けてくれたしぃ?!」


謎のツンデレ発動。素直になれなかった美少女の顔は赤い。モサ子の眉間の皺は深い。

しかし何を言うでもなく、モサ子はホテルの前で回れ右。


 「え?ちょ、どこ行くのよ?」


 「私は毎年じいちゃんトコで泊ってる。それじゃ」


モサ子は振り返りもせず、さっさと行ってしまった。

同じホテルだから、成り行き上一緒になっただけ。……ではなく、送り届けただけらしい。反対方向に。小さくなっていくモサ子の後姿を、ポカンと見送る美少女であった。



…余談だが。敵を作りまくり、孤立していた女王の国。敵兵に囲まれ、民衆共々あわや……という所で、美形騎士達が簀巻きにした女王と白旗上げて、無血開城。

簀巻きな上、限界まで魔力を搾り取られたその姿を見た敵兵達。女王のアレな話を嫌ほど知る彼らは、そらそうなるわ。となり、無血開城を承知した。

その後の彼らは、自由に過ごせる喜びを噛みしめていたそうだ。











 

 『スンマセーン、今いいっすか?』


 「いいわけねーだろ小僧この野郎。明日早ぇんだよ孫に素潜り教えんだよ。じいちゃんカッコイイって言われる為にベストコンディション作んなきゃなんねーだろ。寝らせろや大馬鹿野郎が。大事な話なんだろーな下らねーんじゃねぇだろうなおぉ?」


 『流れるようなパワハラっすね。いや、今日あったじゃないっすか。岩場の祠破壊事件。あれの犯人捕まえたんすよ。他県の悪ガキでしたわ』


 「なんだとゴルァ。テメェよくやった怪我してんじゃねーだろうな。最近の若者は加減を知らねぇからな。それ踏まえた上でシメなきゃなんねぇぞおぉ?」


 『心配あざっす。逃げようとしたんで、ボコして正座させてるっす。で、確認なんすけど、祠に居るのってあれっすよね?体が蛇の…』


 「おぅ。濡れ女子だ磯女子だ海女房だとか呼ばれてんな。テメェ見たんか」


 『俺は見てねぇっす。いやね、船釣りしてたおっさんがそれ見たらしいんすよ。帰ろうとしたら、なっげぇ女がバタフライしてたって』


 「おん?」


 『なっげぇ女が、バタフライで泳いでったって言ってんすよ。すげぇ金切り声で泣きながら、もうやだアロハコワイとか何とか言ってたそうっす』


 「割とじっくり見てんじゃねぇかそいつよぉ」


 『動画あるそうっす』


 「消せぇ。明日朝一番でお祓い行くぞゴラァ。悪ガキとおっさん纏めとけ」


 『おっさんは酔い潰して転がしてるっす。俺も飲んだんで、明日迎えお願いしまっす』


 「ふざけんなよ小僧。飲んだら乗るなを実行するたぁ良い心掛けだ。朝一で行く。おやすみ」


 『うっす、おやすみなさーい』









こちら、公式企画のホラーで出すつもりでした。

書き終え、読み直し、読み直し、読み直し。これホラーじゃないなと。

これをホラーで出したら、ホラーと本気で向き合って書いている人達に失礼なのではないかと思い至り。

結果、前回と同じくファンタジーに。

この面子でホラーに挑んだ私が悪かったのだろうか……



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モブ子出演でホラーは無理でしょ。 ……いや待て、敵視点で書けばいけるか……?
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