掌ですくいあげた物語⑦ 〜空気圧〜
小学校の父兄参観日
教室の空気はいつもとちがっていた
算数の授業
ぼくは算数がきらいだ
だって答えは
正解かまちがいかのどっちかなんだから
先生が最初の問題を黒板に書いた
「この問題の答えがわかる人は」
みんなはいっせいに勢いよく手をあげた
「はいっ」
「はいっ、はいっ」
ぼくはその空気におされて
わからなかったけど
小さく手をあげた
先生は谷口くんを指した
ほっとした
谷口くんは大きな声で堂々と答えた
「わかりません!」
先生は笑った
手をあげたみんなも笑った
うしろに立っていた
お母さん、お父さんも笑った
あのときの谷口くんはかっこよかったなあ
ぼくはやがて
親になり
部下というものもできたけど
あのときの谷口くんを
超えることができないでいる